R-TYPE M-Alternative   作:DAY

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九話 殲滅

 無数の手裏剣を重ねたような巨大な塔。モニュメントと人類が呼称したその塔の下には蟻の巣を思わせる(ハイヴ)が広がり、その中にはやはり昆虫を思わせる無数の生体(BETA)がひしめいていた。

 しかしその異星からやってきたBETAという名前の昆虫は地球の昆虫とは違い、小さな個体でも数メートル。大きな個体は数十メートルというサイズがあり、人体を醜悪にこねくりまわしたような造形をしていた。

 人類にマシュハドハイヴと呼称されたその場所は、BETAがこの星に築きあげた2つ目の橋頭堡であった。

 今日この日までは。

 

 

 

 

 軍隊蟻の群れのように地面を埋め尽くすBETAの絨毯に向けて、遥か天空から噴進炎の尾を引いて無数のミサイルが降り注ぐ。

 そのミサイルの総数は数百にも及び、個々の弾速は秒速30kmを超えていた。

 無論BETAもそのミサイルの雨を黙って見ているはずもない。

 如何に高速であろうと彼我との距離が数十km以上あり、動きが直線的ならば、『見る』という行為がそのまま照準となる光線級属ならば充分に捕捉可能だ。

 モニュメントの内部から、或いはモニュメントの麓から、或いは地上のBETAの群れの中から、無数の光が天に向かって解き放たれて、ミサイルを迎撃する。

 槍衾の如き光の群れに串刺され、天と地の狭間でミサイルの大半が火球へと変わった。

 だがそれらの動きはミサイルを発射した者達にとっては予定通りの動きだった。

 

『ビーハイヴよりエニグマへ。サーチミサイルの87%が迎撃された。予想以上の精度だ。反撃を回避するため、これより衛星軌道上から離脱する』

 

『エニグマ了解。これで光線級の位置を全て確認できた。サンピラーへデータを回す』

 

『サンピラー了解。データを受け取った。波動砲の照射を開始する』

 

 その言葉と共に遥か上空―――大気圏を超えた更なる高み、重光線級のレーザーでも届かない地上から20000km程離れた宇宙空間に待機していたR戦闘機が行動を開始した。

 R戦闘機というのは個性的な外見を持つ機体が多いが、この機体ほどわかりやすいRはそうはいないだろう。

 機体の上部には機体の全長の2倍近い巨大な砲塔を背負い、更に機体の下部には機体と同じ全長の長砲身の電磁投射砲を装備している。そして機体の後部は砲塔用の冷却システムとジェネレーターで埋め尽くされていた。

 最早このR戦闘機は、この巨大な波動砲システムを運搬し、発射するためだけにあると言っても過言ではない。

 

 R-9DH3"CONCERTMASTER(コンサートマスター)"。

 

 波動砲の照射持続時間と照射範囲を徹底的に上げ、点ではなく、面での制圧を目的としたR戦闘機。

 瞬間的な破壊力と射程距離においては他の長距離特化型Rに譲る部分もあるが、数万kmから十数万kmという中距離及び長距離からの制圧射撃に特化した機動砲台とも称するべきR。

 

 その性質上、接近戦は不得意だがグリトニル付近のバイドを殲滅し、グリトニル内部へと突入するR戦闘機の露払いという役割を担う為に、この機体もまた『サンピラー』というコールサインを与えられ、突入部隊へと編入されていた。

 サンピラーは突入部隊が内部に侵入した後は、グリトニルの軍港の出入口付近へと陣取り、港にバイドの増援が姿を表す度にその波動砲を撃ちこみ、徹底的に消し飛ばしていたのだが、今回はそれが仇となってグリトニルの転移へと巻き込まれた。

 だがそれが皮肉なことに中近距離での戦闘力に特化したグリトニル突入部隊における、数少ない長距離攻撃能力を持つRとして活躍することになったのだ。

 

『波動砲、発射』

 

 サンピラーの言葉と共に、R-9DH3に搭載されたフルチャージの持続式波動砲Ⅲが発射される。

 機体の上部に搭載された大型の砲塔が圧縮した波動粒子を放ち、巨大な円柱状の光となって亜光速で地球に向かって突き進んでいく。

 ミサイルの大半を撃ち落とした光線級の群れは、射程距離外へと離脱しようとしている自分達の巣を攻撃してきたミサイル群の母機に報復を与えるべく、発射中のレーザーの軌道を向けようとして―――自ら放った光線ごと、遥か宙天から降り注いできた極光に押し潰された。

 

 直径100メートルはあろうかというその光の柱は、地面に着弾すると同時に光に飲み込んだBETAを原子の塵に還していく。着弾地点で大規模なプラズマ爆発が発生し、直撃を受けていないBETAですら、着弾の衝撃波と輻射熱で燃え上がり吹き飛んでいった。

 そして光の柱は着弾と同時に軌道を変えて、複数のレーザーの発射地点を次々と飲み込んでいく。最終的に光の柱は6秒間に渡ってモニュメントとその付近を徹底的に焼き払い、モニュメントの3分の2を熔解させてそこでようやく収まった。

 その光景は衛星軌道上から見れば、まるで地上というキャンパスに光の筆で落書きしたかのように見えるだろう。

 

 この攻撃でハイヴに所属する光線級属の8割が消え去った。例外はミサイルが発射された時点でハイヴの奥深くにいて、迎撃に加われなかった個体のみ。

 その例外を念入りにすり潰す為に、先ほどレーザーを回避する為に大気圏外へと離脱したR戦闘機が再び衛星軌道上に舞い戻り、再度のミサイル掃射を開始した。そして今度のミサイルの弾速は先のそれを遥かに上回っている。最初の攻撃は光線級の迎撃を促す為にあえて弾速を落としていたのだ。

 

 その赤い塗装が施されたR戦闘機は、通常のR戦闘機とは少々異なるデザインラインをしていた。

 機首の大半を占めるラウンドキャノピーこそ同じだが、キャノピーの形状がより流線的であること、そして通常のR戦闘機の推進ユニットは単発か双発が大半なのだが、この機体は四つの大型推進ユニットを装備している為、機体のシルエットが肥大化し、従来のR戦闘機とは違うマッシブな印象を見るものに与えていた。

 

 そして何よりの違いはフォースだ。通常のフォースはエネルギーの球体にコントロールロッドという機械部品を取り付けたような形状だが、この機体のフォースは分離式の連装砲塔のような形状をしていた。

 そうと知らなければ、これがフォースだと気づくことすらないだろう。

 だが、このフォースもまた紛れも無く数多くあるフォースのバリエーションの一つであり、このR戦闘機―――OFX-4"SONGOKUU(ソンゴクウ)"の為に開発された専用のフォースなのだ。

 

 この機体の原型はR戦闘機ではなく、R戦闘機よりも先に実用化された人類初の大気圏突入、離脱能力をもった軌道戦闘機、OFシリーズである。

 対バイド戦においては汎用性を重視され、汎用作業艇であるRシリーズが地球連合軍の主力兵器となったが、R以上の歴史と実績を有し、OrbitFighter(オービットファイター)の異名を持つ軌道戦闘機群にもR戦闘機によって得られた技術をフィードバックし、改良が施された。

 その結果、OFシリーズもまたR戦闘機と遜色ない戦闘力を獲得し、Rシリーズのバリエーションとして扱われることになり、最前線で運用されることになったのだ。

 

 OFシリーズは総合性能ではRシリーズと大差ないが、その運用思想については全く異なる機体だ。

 元々が軌道戦闘機ということもあり、OFシリーズは高重力下や衛星軌道上での戦闘を考慮して大推力の大型エンジンを搭載し、その機動力は並みのRを遥かに上回る。その反面、波動砲は従来のスタンダードタイプで統一されており瞬間的な火力はやや落ちる。それを補うために独自開発されたOFシリーズ専用のOFフォースは、レーザー以外にもフォースが生成する攻撃性バイド粒子によって成形された実体弾を発射することも可能となっている。

 更に状況によっては同じく専用開発された特殊ビット、ポットシリーズを装備することで、総合的な戦闘力は更に高まる。

 

 特にこのOFX-4 SONGOKUU(ソンゴクウ)が装備する『OFフォースⅣ』はそれらの技術の結晶ともいうべき代物で、R戦闘機が運用するホーミングミサイルとほぼ同性能の誘導噴進弾をバイド粒子によって成形し、発射することができる。しかもこれらはフォースレーザーと同じ仕組みで成り立っているためフォースが破壊されない限り、弾数は無尽蔵と言ってもいい。

 

 事実先ほどマシュハドハイヴに向かって撃ち込まれた数百のミサイルは、このSONGOKUU(ソンゴクウ)ただ一機が張った弾幕だ。

 このフォース製のミサイルは単純な破壊力、弾速ではフォースレーザーに劣るが、それでも戦車程度なら一撃で撃破出来るほどの火力を持つ。それに加えてフォースによるミサイルの成形速度と連射速度は凄まじく、機関砲の弾幕に匹敵する速度で連射可能な上に、ミサイルであるが故に個別に軌道や炸裂するタイミングをレーザー以上に自由に設定することが可能な為、戦術の幅を広げる事もできる。

 

 西遊記にその活躍を描かれた石から生まれた猿の英雄、斉天大聖孫悟空はちぎった体毛から無数の分身を作り上げて、敵を圧倒したという。

 そして22世紀の技術が鉄と火から産みだした機械仕掛けのSONGOKUU(ソンゴクウ)は、空域そのものを埋め尽くす圧倒的な数の誘導噴進弾を生み出して、敵を制圧するのだ。

 最も衛星軌道上に陣取り、装備した連装砲塔のような形状したフォースから、ミサイルを尽きることなく吐き出し続けるその姿は、分身の術というよりはこの機体に与えられたコールサイン『ビーハイヴ(蜂の巣)』という名前のほうがぴったりくる。放たれるミサイルは巣箱から放たれる獰猛な雀蜂の群れといったところか。

 

 放たれたミサイルは扇状に大きく広がった上に、更にそれぞれが高速かつ複雑な動きをするために密度が薄れたレーザーでは追い切れず全て撃墜できない。

 かといってミサイルを発射し続ける母機を撃墜しようにも、ミサイルの弾体とミサイルを撃墜した際に起きる爆発がレーザーを減衰させて照準を防いでしまう。爆発の隙間から僅かに姿を見せた一瞬を狙っても秒速数百kmという速度での鋭角的な乱数回避を行われ、まともに照準を向けることすらできない。

 それどころか光線級がレーザーを発射することで火点が特定され、波動砲が撃ち込まれて消し飛ぶことになる始末だ。

 

 それでも極稀に光線級のレーザーがビーハイヴを掠めるが、全てフォースに防がれてしまう。

 砲塔のような形状をしているとはいえ、OFフォースの防御力もまた通常のフォースと遜色ないのだ。重光線級のレーザーなら或いはフォースを貫通する可能性もあったが、それらは最優先目標として真っ先に潰されていた。

 

 空を埋め尽くす勢いで発射されつづけるミサイルの数は既に数千にも達し、僅かに生き残った光線級では迎撃しきれなくなるのは誰の目にも明らかである。

 もはやマシュハドハイヴの光線級、いやBETAそのものの全滅は時間の問題だった。

 

 そのBETAにとっても、そしてこの時代の人類にとっても、常識外なその殲滅戦を目撃していたのは当事者達だけではない。

 この時代の地球人達もまた衛星軌道上に配備された偵察衛星によって、彼らの戦いを観察していた

 そして衛星の目の届かぬ地の底でも人類とBETA、立場を変えた虐殺劇が行われていた。

 

 

◆  ◆

 

 

 目的の場所に到達すると、彼は自機の異層次元航行システムを解除して、亜空間から通常空間へと復帰した。

 青く歪んだ視界が元に戻る。

 しかし元に戻った景色は、亜空間のほうがまだマシだったと思わせるほどの醜悪な光景だった。

 深度数kmはある地下深くに掘りぬかれた仄かに光るその広大な空間は、無数のBETAが文字通り埋め尽くしている。

 そして広間の中心には彼の目的とするものが鎮座していた。

 それがこのハイヴ―――ヴェリスクハイヴの心臓部である反応炉だ。

 標的を確認すると彼は自機の可変機構を作動させ、機体の形状を戦闘機形態から人型形態へと変形させた。

 

 彼―――コールサイン『トマホーク』の愛機であるTL-2A2 "NEOPTOLEMOS(ネオプトレモス)"はR戦闘機でも一際珍しい、白兵戦を意識したRである。

 R戦闘機はその汎用性の高さ故に、大型構造物の攻略作戦に駆り出されたり、閉所での戦闘を強いられる場合も多々ある。

 例え閉鎖空間での戦闘でもR戦闘機はザイオング慣性制御システムの恩恵によって、あらゆる方向に即座に移動が可能で、極めて高い運動性を確保しているのだが、それにしても限度というものがある。

 

 その為、R戦闘機に陸戦部隊などで使用している機動歩兵のノウハウを取り入れ、白兵戦用の人型機動兵器として運用できないかというのが、これら可変型R戦闘機のコンセプトだった。

 当初は可変機構とそれに連動した複数の波動砲を運用するための試作機に過ぎなかったこのシリーズだが、度々高レベルのジャミングでレーダーが封じられた閉鎖空間でバイドとの接近戦を強いられるR戦闘機のパイロット達から高い評価を受けた結果、本格的な改良と量産を視野に入れられることになったのだ。

 

 そして彼の乗機たるであるTL-2A2 "NEOPTOLEMOS(ネオプトレモス)"はこれら白兵戦用可変型R戦闘機の集大成の一つとも評される機体である。

 全身をモズグリーンに塗装された重装甲と無数の武装を持つこのR戦闘機は、戦闘機形態でも通常型の波動砲の強化版である『スタンダード波動砲Ⅱ』を使用可能で、R-9Aを凌駕する性能を持っているが、その真価は閉鎖空間において発揮される。

 

 可変機構を作動させるとこのRは文字通り人型機動兵器へと変形し、格闘戦に特化した専用のビームサーベルフォースに加え、大口径電磁投射砲を組み込んだ携行ライフル式の複合武装型の波動砲を運用することが可能になる。

 この携行ライフルに搭載されている波動砲は衝撃波動砲と呼ばれるタイプの強化型で、R戦闘機の異層次元航行システムを利用して、集束させた波動粒子を敵性体の内部に転送し炸裂させるという、異色の波動砲である。

 これは炸裂時に広域に波動粒子の連鎖爆発を起こすため、面制圧兵器としての側面も持っており、閉鎖空間の制圧にうってつけの兵器だった。

 

 宙間戦闘では通常のRとして運用し、敵要塞などの閉鎖空間に突入した後は人型形態へと移行、そしてこの波動砲―――『衝撃波動砲Ⅱ』で制圧し、取りこぼした敵を全身に装備した無数の兵装で叩き潰すのがこの機体のコンセプトだ。

 NEOPTOLEMOS(ネオプトレモス)が装備したビームサーベルフォースは、フォースに取り付けたロボットアームから生やしたビームサーベルで格闘戦を行うことができるだけでなく、ビーム刃を高速射出しての射撃戦にも対応しており、機体後部には四連装ミサイルハッチを装備して全周囲への攻撃を可能としている。

 更にフォースを失った時に備えて白兵戦用斧状光学兵器まで装備している上に、全身の重装甲を利用しての『体当たり』すら武器となるこの機体の在り方は、戦闘機でありながら戦車でもあった。

 

 もっとも今回の戦闘ではこの機体の真価を見せる必要はなかった。

 彼がやるべきことは実にシンプルだったからだ。

 衛星軌道上から亜空間航法を使い、BETAの対空レーザー網やモニュメントを文字通り『すり抜け』て、メインホールまで降下。

 そしてメインホールで通常空間に復帰すると同時に、BETAの動力源でもありメインコンピュータも兼ねていると思わしきハイヴの最重要施設である反応炉に波動砲を叩き込む。

 ただそれだけの仕事だった。

 彼の感覚からすればこれは最早戦いですらなく、屠殺に近い。

  

 無感動に波動砲のトリガーを引く。

 圧縮された波動粒子の砲撃が大広間の中心に位置する青く発光する反応炉内部へと転送され、炸裂しそれを付近のBETA諸共粉々に打ち砕いた。

 ハイヴの全機能が停止し―――それに伴って侵入者を排除しようとしていたBETAが一時的に動きを止めた後、即座に再起動してメインホールの外に出ていこうとする。

 守るべき物が無くなったため、別のハイヴに向かうつもりなのだ。

 だがトマホークとしてはそれを許すわけにもいかない。

 余り時間はかけられないが、それでもできうる限りBETAの数を減らせというのもまた司令部からのオーダーなのだ。

 

 機体の左手に装備したビームサーベルフォースのアームから光剣を展開させ、天井から落下して襲い掛かってくる戦車級を切り飛ばしつつ、彼は右手に構えた衝撃波動砲Ⅱの照準をメインホールからの出口に殺到しつつあるBETAの群れへと向ける。

 かくして機械的な虐殺が始まった。

 

 

◆  ◆

 

 

 衛星軌道上でエニグマは指揮下にある複数のR戦闘機に指示を出しながら、その動きを確認していた。

 グリトニルから脱落したブロックは日本に落下したものを除き、全てが火炎武装型R "DOMINIONS(ドミニオンズ)"を駆るフレイムタンによって全て焼き払われている。

 如何に波動砲といえど一部分とは言え、頑丈なグリトニルのブロックを木っ端微塵に破壊するのは難しい。

 多少時間をかければできなくもないが、そんな時間はないし最大出力の波動砲を何度も撃ちこむ事になるので、地球環境にも多大な被害が出てしまう。

 その点、火炎放射器で焼き払えば、グリトニルのブロックの原型は残るがブロック自体に残されたあらゆる物資と情報は焼き払う事ができるので都合がいい。

 

 とは言え既にBETAに荒らされたブロックもいくつか存在するため、現在彼の指揮下にあるRはBETAのネットワークに対する自軍の技術流出を防ぐため、グリトニルのブロックの付近に存在するハイヴの反応炉への攻撃に当っており、その任務を終えつつあった。

 反応炉をピンポイントで攻撃しているのは、恐らくはこれがBETAの動力源兼頭脳であると推測されたからだ。

 BETAは思念波とでも言うべき一種の量子通信による情報伝達を行っているようだが、流石にそんなものを解析している程、人手も時間もない。おまけにBETAのネットワークがバイドに汚染されている可能性も考えると、手間暇かけて解析するぐらいなら、さっさと破壊したほうが手っ取り早いという結論になったのだ。

 

 今の所、バイドに比べると数以外は取り立てて見ることのないBETAだが、スペックを改めて検証するとこれが予想より油断ならないものだという事が判明した。

 特に警戒するべきは光線級種だ。とりわけ重光線級のレーザー照射は多数同時に受ければ、フォースをもってしても防ぎきれない程の火力になることが判明している。元々高出力光学兵器はR戦闘機の苦手とする物の一つだ。

 

 光速で迫り来るレーザーは出力によってはフォースが攻撃を『喰う』速度を上回り、フォースを破壊できずとも貫通してくる場合もあるし、フォースのエネルギー吸収許容量を越えた攻撃―――例えばリミッターをカットした波動砲や戦艦の艦首砲レベルのエネルギーを一度に叩きつけられれば破壊される場合もある。如何にフォースが人類最高の防御兵装であるとは言え、元はバイドであり、絶対の存在ではない。それはフォースのオリジナルであるバイドそのものを、R戦闘機が過去に何度も破壊していることが証明している。

 

 この為、ハイヴ攻撃をする時は最優先目標として光線級属を徹底的に叩くように指示しており、彼の指揮下にあるRは確認した光線級属のほぼ全てを殲滅しつつあった。

 とはいえ一機辺りが制圧する範囲が広すぎる為に、一定数の取りこぼしは存在するだろう。こればかりはどうしようもない。

 

 一応R戦闘機もフォースに頼らない防御システムとして、かつてサタニックラプソティにおいて活躍した試作R戦闘機RX-10"ALBATROSS(アルバトロス)"に実験的に搭載された光学ミラーコーティングを実用化し、全R戦闘機に装備させているが、それもフォースに比べれば気休めのようなもので、光線級ならともかく、重光線級のレーザーの直撃には3秒も耐えられば上出来といった結論を技術チームは出した。

 まあ、3秒も猶予があれば例え不意打ちで直撃を食らっても、R戦闘機の機動力と反応速度なら即座に反撃か回避が可能な為、R戦闘機パイロット達はむしろこれを朗報と捉えたが。

 

 ともあれ次々とハイヴの反応炉を破壊している現状、Rの敵ではないことは証明されているわけだが、それもいつまで続くかわからない。

 BETAの最大の脅威は適応能力の高さである。この世界で一週間で航空機に対抗する為の光線級を繰り出してきたことを考えると、余り侮ってかかって良い相手ではない。

 G元素というG弾の元になる物質を自力で精製できることを考えると、空間干渉兵器の類を短時間で開発してこちらにぶつけてくる恐れもある。

 

 いや、そういった新兵器や新種を繰り出してくるまでもない。BETAというものは元々大した戦術を持たず、物量に任せた非効率的な戦いばかりしている。

 それを修正して、高度な戦術的な動きをするようになれば、自分達にとっても厄介な上、この世界の人類は王手をかけられてしまうだろう。

 そしてこの地には今その非効率な動きしかできないBETAに、効率的な戦術を与えることができる存在がいる。

 

 バイド。

 

 彼らは個体によって余りにも性質が違うせいか、BETAとさして変わらないレベルの戦い方をする個体もいれば、人間以上に高度な戦術を取ってくる個体もいる。

 今回グリトニルを乗っ取ったザブトムなどは後者の筆頭だ。

 グリトニルの下敷きになったオリジナルハイヴにいる無数のBETAがバイドに汚染されて、バイドと連携して戦術的な動きを取るようになれば、如何にR戦闘機といえど厄介な事になる。

 しかもオリジナルハイヴの反応炉がバイドに汚染されているせいか、それともBETAがハイヴを奪還しようとしているのか、付近のハイヴから無数のBETAがオリジナルハイヴへと集結しつつある。

 その総数は数十万にも及んでいる。

 その為、グリトニル突入部隊はグリトニル再突入前の下準備として脱落したグリトニルのブロック周辺のハイヴのみならず、オリジナルハイヴ周辺のハイヴにも攻撃を仕掛けて、徹底した間引きを行っていた。

 

 グリトニル再突入への下準備として、現在オリジナルハイヴ周辺にあるマシュハドハイヴ、エキバストゥズハイヴ、ボパールハイヴ、敦煌ハイヴの四つのハイヴに複数のRが攻撃を仕掛けている。

 こちらへの攻撃は反応炉の攻撃のみならず、ハイヴに所属するBETAへの徹底した攻撃も行われていた。

 この攻撃は数を減らすことも主眼に置かれている為、R-9DH3やR-9Sk2を始めとする突入部隊に所属するRの中でも特に殲滅戦に優れたRが担当していた。

 だがそれでもオリジナルハイヴに向かうBETAの全てを殲滅することは不可能だろう。

 弾薬や推進剤、機体やパイロットの消耗を度外視すれば地球上の全てのハイヴを破壊することも容易いことだが、BETA殲滅に全力を尽くしバイドの殲滅が難しくなるというのは本末転倒だ。

 

 現在グリトニルとその内部にいるバイドは沈黙を保っているが、これはバイドの群れの中枢であるザブトムがミーティアとの交戦で、大きなダメージを負ったからだと推測される。

 だがバイドの修復能力を考えると、最低でも10日後には再び動き出すと司令部は予測していた。

 今回の作戦で破壊するハイヴの数は8つ。オリジナルハイヴ付近にある4つのハイヴと、グリトニルから剥離したブロック付近に存在するハイヴの4つだ。機体やパイロットの消耗、この後行われるグリトニルへの再突入作戦へのタイムリミットを考えるとこれが限度だった。

 

 そしてグリトニルへの再突入作戦が開始されたら、オリジナルハイヴに殺到してくるであろう、残りのBETAは現地の部隊に任せるしかない。

 オリジナルハイヴ周辺の汚染されているであろうBETAは、衛星軌道上に位置するミサイル駆逐艦とその護衛のR、そして支援用の長距離攻撃型Rが相手をすることになるため、現地勢力が相手にするのは基本従来のBETAになる。

 その為、なんとかなるだろうとは思っていたが―――。

 

(少々楽観視しすぎていたかもしれんな)

 

 エニグマは指揮と平行しながらも、21世紀の地球のネットワーク・システムにハッキングを仕掛け、横浜基地と各国の上層部のやりとりを盗み聞きしていた。

 その結果わかったことは、香月夕呼女史は各国政府への説得と説明に予想以上に苦労しているということだった。

 だがそれも当然だ。別の世界からやってきたという自称未来の地球人達は、各国政府に対して何の説明もなく好き勝手に動き回り、人類が総力をあげてようやく一つ潰せる存在であるハイヴを既に複数陥落させている。

 

 抗議しようにも彼らへの交渉窓口は香月夕呼一人のみ。

 となれば、彼女に全ての疑問と質問とクレームが殺到するのは必然と言えた。

 これに加えて各国政府の利益追求と腹の探り合いまで加わって、客観的に見ている筈のエニグマですらうんざりするようなやり取りが行われていた。

 だがそれも予想の範囲内ではある。

 というよりはグリトニル突入部隊司令部は、こうなることを見越して彼女一人に窓口を絞って交渉をしたのだ。

 

 はっきり言って今の自分達には国連という組織や各国政府と個別に長々と交渉できる程、人員も時間の余裕もない。何しろ予測では凡そ10日以内に、ほぼ全ての決着が付く予定になっている。

 その為、香月夕呼にはその高い政治力に加え、この時代に並行世界の存在を認識し因果律量子論として論文という形で発表して学会に認めさせられる程の見識、そしてオルタネイティヴ4の責任者として各国政府への太いパイプがあることから、現地との面倒な交渉事を自分達に変わって引き受ける事ができるマネージャーとしての役割を期待して接触したのだ。多少の武装の提供は言わば、その報酬だ。

 接触する対象を彼女一人に絞った事により、彼女のみを警戒すればいいという利点もある。

 それ以外の勢力はそもそも物理的に自分達に接触することすら出来ないのだから。

 

 彼らの会議を聞く限りこちらに対して良からぬことも企んでいるようだが、元より内容が筒抜けな上、こちらがその程度の事は出来ると香月夕呼なら薄々気がついている筈だ。

 それを分かった上でそう振る舞うのは、そうでもしないとスポンサーである国連やそこに所属する国家の援助を引き出す事が出来ないのかもしれない。

 

 何しろこの世界はバイドの脅威を直接目撃していないのだ。

 バイドをBETAの延長線上の存在として考え、グリトニル突入部隊を同じ人間であるが故に、この世界のやり方が通じると考えるのも致し方ない事かもしれない。

 いずれにしても作戦前にこの七面倒臭いやり取りを自分達がやるのは是が非でもお断りしたいというのが、エニグマの感想だ。

 

 だが交渉窓口を彼女一人に絞るのもこの作戦が終わるまでの話であって、万が一バイド殲滅に成功したが帰還には失敗した、と言った状況になったら改めて自分達も直接国連や各国との交渉に乗り出さなければならないだろう。気は乗らないが。

 

 そういった経緯もあって、諸々の面倒事を彼女に押しつけた形になったわけだが、この調子で話が長引くと再突入作戦の際に、現地勢力の協力が得られないかもしれない。

 と言っても現地勢力は囮か陽動になればいい程度の考えなので、現地勢力と決裂しても作戦は決行されるし、後々それで損をするのは現地勢力であるのだが。

 

(ま、精々頑張ってくれ)

 

 今は作戦失敗後の事まで考えても仕方がない。どの道バイドに負ければ次はない。

 他人事のエニグマは胸中で無責任に彼女にエールを送ったのだった。

 

 

 

 




 
 ソンゴクウのあの画面を埋め尽くす勢いで出てくるミサイル大好きです。
 威力がしょっぱくて敵がなかなか死なない?
 そんな奴はフル装備コマンド入力してイエローポッドで殴りつけて殺すので問題無いです。

 後、誤字報告助かっております。ありがとうございます。
 ※R-9DH3の波動砲が二連装になっていたのでちょっと修正。
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