『エニグマより強襲揚陸艦トールへ。横浜基地へのBETAの侵入を確認した。予定通り機動歩兵部隊とゴリアテを降下させる。準備はいいか?』
『トールよりエニグマへ。いつでもいける。機動歩兵は汎用工作機『タクシー』に全員搭乗済み。準備は万全だ。一足先に降下したモールはどうなっている?』
『エニグマよりトールへ。奴は予定通り町田市の地下で、BETAを運んできたバイド化した大型BETAと交戦中だ。既に3体片付けたが、まだ増援が来るようで手間取っている。モールは恐らく横浜基地戦には間に合わないだろう』
『了解した。トールよりサンピラーへ。降下地点のBETAをそちらの持続式圧縮波動砲で片付けてくれ。その後は作戦終了まで直接支援砲撃を続行。間違っても横浜基地を撃つんじゃないぞ』
『サンピラーよりトールへ。そこまでヘボな腕はしていない。目標の選定と発射のタイミングはそちらに任せるぞ』
『……ではエニグマより今作戦に参加する全てのユニットへ。行動を開始する』
◆ ◆
「ちっくしょう! 叩いても叩いてもキリがない! HQ! メインゲートの充填封鎖はまだなのか!」
横浜基地内部は既に戦術機部隊と内部に侵入したBETAとの戦闘が開始されていた。
重光線級の集中射撃によって薙ぎ払われた防衛部隊は最早、地上の防衛線を捨てて、大半が基地内に撤退し、BETAの侵入を防ぐためありったけの隔壁を下し、メインゲートの充填封鎖まで開始した。しかし、完全に封鎖が完了する前に、BETAの一部が横浜基地内に侵入。
かくして横浜基地内部での迎撃戦が開始された。
『HQよりホーク1へ。メインゲートは現在工兵部隊が硬化剤充填中。手こずっているが、そちらからのBETAの侵入はまだない』
「だったらこの小型種の群れはどこから湧いて出てくるんだ! もう入ったBETAは全部倒したはずなのにまだ出てくるぞ!?」
「ホーク1! 右手の外壁を見ろ! BETAの死体に隠されてるがデカイ亀裂が入ってる! あそこから戦車級がワラワラ入ってきてるぞ!」
「クソっ! 全機、120mm! 弾種は榴弾! あの穴にぶち込んでやれ!」
その言葉と共に基地の壁に開いた数メートルの亀裂に向けて、戦術機部隊の120mm砲弾が叩き込まれる。
次々と炸裂する120mmの砲弾は這い出てくる戦車級を吹き飛ばし、戦車級が出てくる亀裂を崩落させて埋めてしまった。
「よし、これで暫くは時間が稼げる。 ホーク2、センサーを設置して、監視! またあの穴を掘り返して出て来るようなら蜂の巣にしてやれ!」
「了解……、おい、待て。ホーク1、崩落した外壁を見ろ! 色が真っ赤に染まって……いや、熱せられて溶けてるのか!? やばい、離れ―――」
ホーク2の言葉は途中で途切れた。
真っ赤に熔解した外壁を吹き散らし、壁の向こうから無数の光線が放たれ、彼の機体を捉えたからだ。
凄まじい轟音が横浜基地全体を揺るがす。
『ホーク1!? どうした! 応答せよ! 何があった!?』
状況を把握できないヘッドクォーターが慌てて、現場の部隊に声をかける。その呼びかけに答えたのは引きつった声のホーク1の声だった。
「くそ……! 外の重光線級が今度は地下から侵攻してきた! 崩落させた壁を消し飛ばしてBETAも通れるでかい穴を開けた! ホーク2が巻き添えを食らって消滅!」
『そちらから重光線級を排除することはできないのか!?」
「無理だ! 奴ら壁に穴を開けたらまた奥に引っ込んでいった! 今は穴からはBETAが続々と出ている! あいつらを皆殺しにして重光線級を追いかけるなんて真似が出来るわけがない!」
『……今そちらに遊撃部隊が援軍に向かう! そちらで穴を監視しつつ、出てきたBETAを徹底的に叩け!』
ヘッドクォーターのその返答に、ホーク1はなんとか罵声を飲み込んだ。
遊撃部隊だと? この横浜基地は文字通り、穴だらけになり浸水した船と化している。
そして水の代わりに無数のBETAがそこら中から入ってきているのだ。
そんな状況下で遊撃部隊なんて一体何の役に立つのだ。
もう、さっさとこの基地を放棄するべきではないのか―――と思ったが、それを判断するのは自分ではない。
そもそもメインゲートも封鎖した状態では逃げることも叶わない。
半ば諦観と共に大穴から溢れ出てきたBETAを迎え撃とうとしたその時、ホーク1は高速で近づいてくる友軍のIFFに気がついた。
この識別信号は―――。
「ヴァルキリー1、フォックス3!」
「ヴァルキリー2、フォックス3!」
その言葉と共に凄まじい火線が降り注ぎ、視界内のBETAが全て水風船のように弾け飛んだ。
頑丈な筈の突撃級も、数だけは多い小型種も、一切合切の区別なく正面から粉々に吹き飛ばされたのだ。砲撃でもない、唯の機関砲らしき火器の掃射で。
反射的に火線が来た方に視線を向けると、二機の不知火がまるでバッタのように跳躍ユニットも使わず、脚部の跳躍力のみでBETAの死骸を飛び越えながらこちらに向かってきていた。
「そこの戦術機! 穴の前から離れなさい! 死にたいの!?」
「っ! わかった! 全機一旦後退しろ!」
本能的に不味いことが起きると理解したホーク1は、生き残った部下にも指示を出しつつ、自らも後方へと下がった。
そして入れ替わるように、新たにやってきた二機の不知火、その内の一機が更に前進。手にした見慣れぬ突撃銃を乱射して、大型小型問わず、湧き出るBETAを一瞬で蹴散らして着地点を確保すると穴の前に降り立つ。
「よっしゃ! いっくわよー! ヴァルキリー1! フォックス1!」
そのフォネティックコードは、不知火改においては搭載された特殊爆弾の使用を意味する。
「え。ちょっと速瀬中尉それって……!」
その事が意味することに気がついたヴァルキリー2―――白銀少尉が止めるまもなく、ヴァルキリー1こと速瀬中尉は、目の前の穴に腰から下げた投擲爆弾を複数投擲した。
大穴の中に緑色の燐光を放つ投擲爆弾が弧を描いて消えていき、そして炸裂。
闇に包まれていた大穴の中が濃緑色の光に照らされた。火薬の爆発とも違う、重低音の炸裂音が次々と連続的に響き渡る。
その時、ホーク1は光に照らされた大穴の内部の惨劇を見た。
緑色のプラズマの洪水がBETAが数体通れる程度の広さしかない地下トンネルに流し込まれ、そこに詰まっていた無数のBETAが、エネルギーの渦に飲まれて消滅していく有り様を。
そしてそのプラズマに飲まれて消えたBETA達の中には、あの憎き重光線級の姿もあったのだ。
狭い地下空間で炸裂したエネルギー爆発に耐えられなかったのか、今度こそBETAが掘り進んできた地下トンネルが大規模な崩落を起こす。
先ほどの戦術機の120mmでは精々入り口を崩すのが精一杯だったが、今の爆発は、間違いなく数十メートル、いや下手すれば数百メートルに渡って崩壊させたはずだ。
しかも重光線級も巻き込まれたとなれば、またこのトンネルを掘り返すのは如何にBETAと言えどそう簡単にはいかないだろう。
「んー! スカッとするわね! さっすがシューティングスター製の誘爆爆弾だわ! この調子で奴らが出てきた穴をどんどん埋め立てて行くわよ!」
「ちょっ、ちょっと速瀬中尉! あんなもん使うなら先に言ってくださいよ!? 下手したらこの基地まで崩落してたかもしれないんですよ!?」
「大丈夫よ。ちゃんと事前に計算はしてたから。指向性のある爆弾ってこういう時、ほんと便利よね。S-11も一応指向性は与えられるけど、重いし、そう幾つも装備できないし、衝撃波ばっかりはどうにもならないもの。……じゃあホーク1! 私達は別の穴を塞ぎに行くわ! 残敵掃討よろしく! 行くわよ白銀!」
そう一方的に通告すると、その不知火は僚機を伴って、再び例のバッタのような独特の機動でその場を離れていった。
半ば呆然としているホーク1に部下のホーク3が、恐る恐る訊ねる。
「隊長。あいつらヴァルキリーズの連中ですよね? いつの間にあんなイカれた武装した機体に乗るようになってたんですか?」
「……そんなものこっちが知りたい。とにかく! まだ生き残りのBETAはいるんだ! 油断するな! この状況で死んだらただの馬鹿だぞ」
ホーク1は半ば八つ当たり気味に部下を叱り飛ばすと、まだ僅かに生き残ったBETAの掃討を開始した。
◆ ◆
『シューティングスター』からA-01に貸与された武装は、確かに従来のBETAを物ともしない性能だった。
小口径の電磁投射砲は頑丈な突撃級の甲殻も一撃で撃ち抜き、弾体が至近で掠めた余波だけで小型種を戦闘不能にする。
密集した場所に撃ちこめば大型種だろうと数体まとめて貫通するため、あれだけ脅威だったBETAが最早射的の的に見えてきたほどだ。
とは言え、広大な横浜基地を中隊規模の不知火改でカバーするというのも限界がある。
僅かな数の自分たちがいくら敵を倒しても、司令部、XG-70d、反応炉……これらを落とされればこちらの負けなのだ。
しかも部隊の内半数は、XG-70dの守りの為に動かせない。
今の状況は穴の空いた船に入ってくる水をバケツで外に捨てているようなものだった。もっとも他の部隊はバケツどころか素手で水を掬って捨てているようなものなので、彼らに比べればまだ恵まれている。
「ヴァルキリー1へ! 今度はB11フロアとB22フロアにBETAが侵入しました! B11フロアにはヴァルキリー6と7が急行しています。そちらはB22フロアに行って穴を塞いでください!」
部隊のCPを務める涼宮遙中尉から新たな指示が出る。もうこのやりとりも既に4回を超えていた。
最初にBETAが開けた穴を塞ぐには、速瀬中尉がやったように誘爆爆弾を穴に放り込み崩落させるのがベストだとわかってからは、A-01の遊撃部隊はBETAが横浜基地の壁を食い破って出現する度に、穴の空いた場所へ急行し、BETAを排除しながら爆弾を放り込むという作業を繰り返している。
だがそろそろ携行した誘爆爆弾の数も尽きかけてきた。そうなったらS-11でも放り込むしかないが、下手ををすれば横浜基地にも重大なダメージが発生する可能性も大きい。
「了解! 行くわよ白銀! ……あんた例の爆弾はあと幾つある!?」
「残り3発です!」
「こっちは残り2発……。あと5回でこのやり方も打ち止めね。一旦凄乃皇を守ってる部隊と合流して誘爆爆弾だけでも分けてもらおうかしら」
「やっぱ最初に景気良く投げすぎたんじゃ……?」
「うるさいわね。私は未来を見据える女なのよ。デブリーフィングと反省会は作戦後にすればいいの! 取り敢えずB22まではメインシャフトを通って行くわよ。隔壁を破壊しないように武装は電磁投射砲から予備兵装の突撃銃に切り替え! あと推進剤は残ってるわね!?」
「後10回は補充なしで今までのルートを往復できますよ! メインシャフトの移動以外は跳躍ユニットはほとんど使用してませんからね!」
「じゃあ遙! ルートまでの隔壁を一時的に開放して!」
「了解! ……あっ!」
「ちょっと遥!? 『あっ!』って何よ!? そういうの怖いんだけど何かあったの!?」
「……90番格納庫の床を破壊してBETAが侵入しました! 現在宗像中尉の指揮下の元、A-01及び第19独立警備小隊が応戦中!」
ついに凄乃皇が格納されているブロックまで攻撃を受けたようだ。その事に慌てたのはこの世界での実戦経験の浅い白銀武だ。
「速瀬中尉! 俺達も行ったほうがいいんじゃ……!」
「いいえ! 私達はこのままB22へと急行するわ! あそこには宗像が指揮をとってるし、斯衛の小隊もいるのよ! 仲間を少しは信じなさい!」
そう言い切った彼女の顔を見て白銀は動揺しかけた自分を恥じた。
(クソっ、確かに速瀬中尉の言うとおりだ! 皆だって俺達と同じ装備をしてるんだ……! 今更多少のBETAなんて敵じゃない。俺もいちいち動揺してないで皆を信じて自分の務めを果たさねえと!)
そう考えなおすと、彼は自分に喝を入れるべく叫んだ。
「了解しました! じゃあさっさと穴埋めを済ませましょう!」
「ええ! 10分以内に済ませるわよ! 10分超えたら腕立て200回だからね!」
「もうそういうのはいいですって!」
そんなやり取りをしながら、ヴァルキリーズの二人のエースは進行方向にいたBETAを蹴散らしつつ、横浜基地を上下に貫通する広大なメインシャフトへと飛び込んだ。
メインシャフトの内部にもやはり多数のBETAが存在した。
二人は開きつつある隔壁に飛び込みながら、ついでとばかりに突撃銃で、隔壁に群がるBETAの群れを蹴散らしていく。その中には光線級の姿もあった。
基地の外壁は重光線級に任せ、内部の隔壁は光線級が破壊するという完全な役割分担が出来ている。これも今までのBETAには見られない行為だった。
というよりは光線級属の数が多すぎる。
いや、光線級属が無駄弾を撃たず、味方のBETAを使って隠れることを覚えた為、なかなか撃墜できず、そう錯覚しているのかもしれないがそれにしてもやはり多い。
とにかくBETAの戦術が今までとは全く変わっていることは間違いない。
そこに例えようもない不安感を抱きながら、白銀はBETAに向かって突撃銃を撃ち続ける。
電磁投射砲に比べると物足りない威力だが、隔壁に無駄なダメージを与えないようにするにはこれしかないのだ。
隔壁に取り付いたBETAを排除するこの作業を電磁投射砲で行えば、光線級の代わりに自分たちが隔壁に穴を開けていたことになる。そういった意味でも速瀬中尉の判断は正しかった。
特に光線級は最優先で潰さねばならない。
落下しながら2機は突撃銃で道中にいた隔壁を攻撃中の光線級を撃ち抜きながら、目標のフロアに到達した。
数度に渡って壁を蹴って三角飛びを何度も繰り返してスピードを殺していく。最後に大幅な減速のために跳躍ユニットを一度だけ大きく吹かして、着地した。
通常の衛士と機体ならこの5倍の量の推進剤を使用していたはずだ。
代わりに1回でも三角飛びをしくじれば無残にも激突死の運命が待っていただろうが。
「よし、行くわよ! とろとろしてると穴を開けた重光線級が逃げちゃうからね!」
「了解!」
基地の壁に穴を開けるのは重光線級の仕事だが、これらは自分の役目を終えると、またトンネルの奥へと引っ込んでしまう。その為、穴の空いた直後に、例のプラズマグレネードを放り込むのがベストなのだが、到着に時間がかかると逃げられて、また別のところに穴を開けれれてしまう。
そして代わりに浸透してくるのが小型の光線級だ。
これは他の大型種のBETAに紛れて、レーザーを撃ってくるのだが、そもそも小型の光線級では重光線級のように盾になったBETAごと全てを薙ぎ払うような出力は持っていない。
更に閉鎖空間ということもあり、近距離で照準用レーザーからの照射を開始するため、通常の部隊でも辛うじて対応は出来ていたが、人類に占拠されたとはいえ仮にも元ハイヴでしかも友軍への誤射も躊躇うこともなく、レーザーを発射してくる光線級に対する現場の衛士達の心理的プレッシャーはかなりのものだ。
いずれこのままではこの基地が瓦解することは誰の目にも明らかだった。
◆ ◆
XG-70d 凄乃皇四型が格納された90番格納庫でも激戦が繰り広げられていた。
突如して格納庫中央の床が崩壊したかと思うと、そこから無数のBETAの群れが溢れだしてきたのだ。
まだ幸運だったのは重光線級による攻撃ではなかったため、初撃でレーザーで消し飛ばされた機体が出なかったことだ。
しかし床という場所に穴が空いた為、他の遊撃部隊のように爆弾を放り込んで、穴を塞ぐことができないという大きな問題があった。下手に例の誘爆爆弾を放り込むとそのまま90番格納庫全体の床が抜ける恐れがあるからだ。
今はまだ不知火改の圧倒的な火力で、穴を包囲し、這い出てくるBETAを片っ端から挽き肉にしているが、いつまで持つかはわからない。
そして通常の武装をしている斯衛の小隊である第19独立警備小隊は、火力がありすぎる不知火改に代わって小型種が弾幕を抜けてきた際、格納庫や凄乃皇四型を傷つけないように浸透したBETAを倒し、ヴァルキリーズの補助に務めている。
最新鋭の戦術機である武御雷を駆る彼女達はこの役割を当てられた時、当初は眉を潜めていたが、不知火改の圧倒的な火力を見てからは特に何も言わず、只々無言で己の役割に徹している。
この不知火改の異常な火力を始めとして疑問などいくらでもあるだろうに、それを口に出さずひたすら与えられた役目を果たすのは流石は精鋭たる斯衛と言ったところか。
「御剣! 戦車級が抜けたわ!」
「構わぬ! 後ろには月詠中尉がいる! とにかく射線を絶やすでない!」
御剣少尉は格納庫の大穴から間欠泉の様に吹き出てくるBETAの群れを、ひたすら薙ぎ払っていた。
電磁投射砲の火力は凄まじく、普段なら絶望しか感じないであろうBETAでできた山をまるで、砂山のように吹き散らしていく。
しかし時間が経つにつれて、格納庫内は粉砕された無数のBETAの肉片で溢れかえり、生きているBETAとそうでないBETAの区別が付きにくくなり、取りこぼしが出始めてきたのだ。
電磁投射砲の残弾はまだまだあるが、このままでは比喩抜きで格納庫がBETAの死体で埋め尽くされてしまう。
果たしていつまで自分たちは時間を稼ぐことができるのか―――そう思った瞬間、一際大きな振動が走る。
そして同時に聞き慣れない甲高い警告音がコクピットへと響き渡った。
その警告音を発しているのはあの『γ』で不知火に取り付けられた特殊センサー、バイド係数探知機である。
それが何を意味することを理解するよりも早く、この場の指揮官である宗像中尉が珍しく焦ったように叫ぶ。
「格納庫の中央の床下からバイド係数の増大を確認! 全機、穴から離れて凄乃皇まで下がれ!」
訓練された衛士達は、何が起こるかわからずとも反射的に命令に従って、大穴から後退する。
次の瞬間、穴の中から湧き出るBETAを消し飛ばしながら凄まじい光が放たれ、格納庫のみならず横浜基地そのものを揺るがした。
◆ ◆
当然その振動と轟音は横浜基地司令部でも感知していた。
「一体何が起こったの!?」
転びそうになって咄嗟に机ににしがみついた香月副司令が叫ぶ。
それに対して涼宮遥中尉が、素早く基地のセンサーを確認して返答する。
「地下より、高出力のレーザーが放たれた模様です! 被害は……っ! レーザーの直径200メートル! 最深部の更に地下から放たれ、メインシャフトを拡大するようにしてそのまま地上まで貫通した模様! 被害状況は現在確認中ですが、90番格納庫を始めとしていくつかのブロックが巻き込まれて熔解しました!」
その答えは信じがたいものだった。
同時にまだ生きている監視カメラの画像がモニターに出力される。そこには横浜基地を地下から撃ちぬかれ、溶け落ちた各所の画像が鮮明に映し出されていた。
表層部のカメラの画像は天井に空いた大穴から日の光まで差し込んでいるのが確認でき、彼女の言葉に嘘がないことが証明されることになった。
「反応炉は無事!?」
「レーザーの射線に入ってない為、恐らくは……」
その言葉にほっとしながらも、改めて香月夕呼は基地の被害を見て呻いた。
「それにしても地下から地上へ? 一体どういう出力してるのよ。そんなものR戦闘機でもないかぎり不可能……」
そこまで言いかけた所で、彼女は気がついた。この地球にはR戦闘機以外にもそれをやってのける存在がいることを。
その彼女の推測を裏付けるようにA-01の戦術機と情報共有していた涼宮中尉が叫んだ。
「XG-70d及びA-01の機体は全機無事です! 90番格納庫を掠めただけで直撃はしていなかった模様! それと90番格納庫の不知火改に装着された新型センサーが地下よりバイド係数を探知しました!」
それはつまり。
ついにバイドが『来た』ということを意味する。
「とうとうおいでなすったって訳ね……。A-01全機に通達! 全兵装の無制限使用を許可! 基地への被害は度外視していいわ! ここで負けたら全部おしまいよ!」
「了解!……きゃあ!?」
涼宮注意が命令を通達しようとした所に、再び横浜基地に激震が走る。
座っていたオペレーター達はともかく、立っていた香月夕呼は今度こそ耐え切れずに転んでしまった。
「あー! もう今度は何よ!?」
やけくそ気味に叫ぶ彼女に対して別のオペレーター達が答える。
「横浜基地周辺に衛星軌道上からの高出力光学兵器の着弾を確認! 基地を包囲していたBETAの4割が消滅!」
「司令! シューティングスターから通信が入ってきています!」
そのオペレーターの問いかけに対して、この横浜基地の司令官であるパウル・ラダビノッドは副司令である香月夕呼と一瞬だけ目を合わせた。
彼女は尻もちをついた姿勢のままで無言で頷いてくる。
「……繋げ!」
その言葉に即座にシューティングスターからの通信が繋がった。マルトーだ。相変わらず音声のみで映像は出ない。
『待たせたな香月博士。ようやくそちらに向かわせる援軍の準備ができた。現在大気圏内を降下中。後300秒で横浜基地へ到着する。
それと降下に先立って着地ポイントを確保するために衛星軌道上からの支援砲撃を実行中だ。
そちらに向かった援軍はRが二機。
閉鎖空間での戦闘に特化したRが一機。もう一機は輸送機型のRだ。輸送機型に戦闘力はさほどないが、基地内部に浸透しているであろう小型BETAを片付ける為の機動歩兵中隊を搭載している。ついては横浜基地内部での戦闘の許可を頂きたい』
「ええ、お好きなように。でも早い内にバイドの殲滅をお願いしますわ。私達が全滅する前に」
『先のレーザーはこちらでも観測している。バイド係数もな。折角突入口を開けてもらったことだし、そこから突入させてもらう。それと機動歩兵の一部は司令部への防衛に回そう。そんな訳で横浜基地の詳細なマップデータを頂きたいがいいかね?』
「……涼宮中尉!」
「了解! マップデータ転送しました!」
『確認した。援軍のコールサインは戦闘用Rがゴリアテ、輸送型Rがタクシーだ。機動歩兵部隊とRへの通信権と指揮権を限定的だがそちらに渡す。うまく使ってくれ』
マルトーの言葉と共に、突入部隊のRの詳細なデータがこちらへと転送された。
モニターに出されたその二つのRを見た香月夕呼は、その形状に形のいい眉を怪訝そうに顰める。
「……随分とまあ、愛嬌のある形状してるのね」
モニターには機首の下部に作業用と思わしき大型のロボットアームを付け、背部に輸送用コンテナを背負ったRと、戦闘機というよりは球体に歩行用の足をつけた作業ロボットのような形状をし、装甲を真っ黒く染めたRが映し出されている。どちらも今まで見たR戦闘機のような兵器としての力強さは感じられない。
特に球状の機体の方は、機体正面の大半を眼球を思わせる真っ赤なキャノピーに覆われていて、力強さよりも可愛らしさを感じるユーモラスな形をしている。
それでもこの機体の上部及び側面は重装甲に覆われており、股間に当たる部分には電磁投射砲らしき砲もついている為、これが戦闘兵器であることに疑いようはない。
加えて他のR戦闘機と同じく機体の前面にはやはり、フォースを装備している。
全方向に無数の棘のようなパーツを付けたそのフォースは、まるでウニを連想させた。
逆にもう一機の輸送型のRにはフォースはない。あくまでこちらは輸送機ということなのだろう。
球状のR戦闘機の機体側面にはパイロットの趣味なのか、力強い字体で『改』という漢字が書かれていた。
それを見た香月は未来の日本ってどうなっているのだろうと今更ながらに思いつつ、彼らに現在の基地の状態とバイドの位置を伝える為に通信を繋げた。
パウアーマーたんの出番がなかなかこねえ!
それにしてもハイヴの中はゲームにすると縦ステージになるのだろうか
もうデルタのアイギスステージはこりごりだよぉ~