R-TYPE M-Alternative   作:DAY

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十四話 母艦

「現状、反応炉、XG-70dは奇跡的に被害を免れています。ですが、地下からバイドが出てきた以上、もう持ちこたえるのは不可能でしょう。現在A-01が交戦していますが、倒せるかどうかは不明です。それでなくとも各所に空いた穴からBETAの侵入が始まっていますので……。

 できうる限り迅速にバイド及びBETAの殲滅をお願いします」

 

 香月副司令はシューティングスターの援軍であるゴリアテと通信を繋ぎ、現状を報告していた。ある程度の指揮権も譲渡されたとのことだが、敵味方の正確なスペックがわからない以上、状況を伝えてここにいる敵を倒してくれという大雑把な指示しか出せない。

 もっとも相手もそれも織り込み済みのようで、気にした様子もなく答えてくる。

 

『ゴリアテより横浜基地へ。そちらの状況は把握している。先行してタクシーを降下させ、機動歩兵部隊を展開、司令部を始めとした非戦闘員の防衛と基地内に侵入した小型種の掃討を開始させる。バイド及びBETAの主力はこちらで叩こう。ただ……』

 

 そこで、一旦通信の向こうにいる相手は口ごもった。

 それに疑問を抱いた香月は聞き返す。

 

「ただ……なんです?」

 

『それほど悲観する必要はない。貴女の部下は、我々の予想以上にバイド相手にも健闘しているようだ』

 

 その言葉には心からの感嘆が含まれていた。

 

 

◆   ◆

 

 

「バイド係数上昇中! 奴が登ってくるぞ!」

 

 宗像中尉の警告と共に、なんとか特大のレーザーから生き残ったヴァルキリーズの隊員達が戦闘準備を取る。

 90番格納庫の景色は一変していた。

 あれだけ散らかっていたBETAの死骸は殆ど無い。

 レーザーの余波で発生したプラズマ爆発による衝撃波によって吹き飛んで、格納庫の隅に追いやられているのだ。お陰で視界は良好になったが、良好になりすぎた。

 なぜなら格納庫の前半分が消えてなくなっていたのだから。

 それどころか格納庫に続く通路なども消し飛び、格納庫の向こう側にあったメインシャフトを大幅に拡張していた。

 穴の向こう側には90番格納庫のように壁が熔解し、丸見えになった別の通路やブロックが幾つもあり、表層部で戦っていたであろう別の戦術機部隊が、溶け落ちた通路の端から唖然とした様子でこちらを見下ろしているのが確認できる。どうやらあのレーザーの一撃はこの格納庫を狙ったものではなく、横浜基地を下から撃ちぬく際、たまたま格納庫を掠めただけのようだった。

 逆に言えば掠めただけでこれだ。

 

 あの時、バイド係数を探知した宗像中尉が咄嗟に全機を下がらせたのは正しい判断だった。

 あのまま穴の付近で待機していたら、今頃あの特大のレーザーに巻き込まれてヴァルキリーズの大半が消滅していた筈だ。

 そして不知火改に取り付けられたセンサーがそれを成した存在が遥か深深度の地下から浮上してくるのを正確に捉えていた。

 

「バイド係数、11.56……! 分類……C級バイド! シューティングスターからのデータにも適合なし。完全な新種か……! 全機、投擲誘爆爆弾の準備をしろ! 斯衛小隊はXG-70dの護衛を!」

 

「了解!」

 

「承知!」

 

 彼女が指示を飛ばす間に、横浜基地全体を揺るがすような振動が始まった。

 それがレーザーによって開けられた地下の大穴から、巨大な何かが登ってくる予兆なのは明らかだった。

 よって宗像中尉は、相手が姿を見せると同時にありったけの火力―――即ち例の誘爆爆弾を叩き込むつもりだった。

 幸いなことに、今までの戦闘では使う機会がなかったので、残弾はたっぷりはある。

 その半分の火力を一斉に叩き込めば、余程の相手だろうと始末できる―――出来る筈だ。

 頬を流れる汗を無視し、宗像美冴はこみ上げてくる恐怖を抑える。

 

 ここで現場指揮官である自分が取り乱せば、部下達に示しがつかない。ましてこの格納庫にいるヴァルキリーズは全て先日入隊したばかりの新入り達なのだ。

 彼女以外の先任達は隊長である速瀬中尉を始めとして、遊撃部隊として基地の各所から出現するBETAを個別に叩き穴を塞ぐ為に別行動を取っていた。

 彼女達は無事だろうか? 速瀬中尉と白銀少尉辺りは殺しても死にそうにないが、自分の相棒である風間祷子や彼女のエレメントである涼宮茜は、あの新旧突撃前衛コンビほど危険回避能力に優れているわけではない。あのレーザーに巻き込まれていなければいいが―――。

 

 そこまで考えた所で、バイド係数探知機が今までで最大の警告音を出した。

 もうこの縦穴を上がってきて姿を見せる寸前だ。……今だ。

 

「全機、爆弾を投擲! ありったけの波動粒子をご馳走してやれ!」

 

 その言葉と共に、ヴァルキリーズは一斉に、眼前の大穴に向けて誘爆爆弾を放り込んだ。

 戦術機の手から投げられた爆弾が次々と弧を描いて穴の中へ消え、そして立て続けに爆発した。

 その爆発音は、先ほどのレーザー攻撃にも勝るとも劣らない。先の一撃でダメージを負った構造体から無数の瓦礫や鉄骨が大穴に落下して闇に消える。そして耳に突き刺さる高音の悲鳴が横浜基地に響き渡った。

 たった一発で触れるもの全てを焼き払う、高エネルギー連鎖爆発を起こす爆雷を、同時に6発以上放り込んだのだ。

 どんな相手であれ―――例えあのR戦闘機といえどこれだけの火力を喰らえばひとたまりもあるまい。

 これで倒せなかったら後は核かG弾でも撃ちこむしかない。

 

 だが、そんな宗像の願いむなしく事態は更に悪化の一途をたどった。振動は一端は収まったものの更に大きくなったのだ。

 バイド体の上昇速度が更に上がった証拠だ。

 

 そしてついに『それ』は自らのレーザーで開けた巨大な大穴からその姿を表した。

 余りの大きさに遠近感がおかしくなりかけるほどの巨体。

 それは一言で言うなら幅150mを越える、巨大なミミズだった。地下に潜っている部分の長さなど考えたくもないが、間違いなく1kmを越えるはずだ。そしてそれにはミミズにはない巨大な器官が先端部にあった。

 それは巨大な口。

 自分の全幅とほぼ同じだけの口がそいつの頭部にはあったのだ。隔壁じみた無数の歯がガチガチと音を鳴らしている。あの歯を使って地下深くを掘り進んできたのだろう。

 ただ、先の爆弾の投擲のせいで巨大な歯には無数の亀裂が入り、欠けている箇所もある。それでもまだ致命傷には程遠いといった程度のダメージのようだ。

 その造形からみてこれは純粋なバイドではなく、現地のBETAをベースに改造したものだろう。

 

 これを目撃したヴァルキリーズのメンバー達、それ以外にもカメラ越しに確認した司令部、別の場所からこの巨大な怪物を目撃した部隊全てが本能的に理解した。

 今までの世界中で度々起きたBETAの深深度地下侵攻は、間違いなくこいつの仕業だ。

 いくらBETAの身体能力が高いとはいえ、時折戦場ではそれだけでは説明がつかない速度で、BETAが地下を掘り進んで奇襲をかけてくることが今までの戦場では度々あった。

 恐らくはこの未確認のBETAにして、現在はバイドに汚染された怪物が地下を掘り進み、後から続くBETA達の道を作っていたのだろう。場合によってはこいつそのものがBETAを格納し、長距離移動していた可能性もある。

 それらをいち早く見抜いた香月夕呼が、この目標に対して指示を飛ばす。

 

「このバイドを汚染母艦級と命名するわ! 絶対にここで仕留めなさい!」

 

 その言葉を合図にしてA-01が攻撃態勢を取り、電磁投射砲の一斉射撃を開始する。

 先の爆撃は無駄ではなかったようで、汚染された母艦級の表皮は焼けただれ、焦げている。そこに秒速20kmの弾幕が秒間100発を越える勢いで突き刺さり、焼けた皮膚を耕し、隔壁のような歯にさらなる亀裂を入れていく。

 ダメージは確かに通っている。殺せない相手ではない。

 もう一度残った誘爆爆弾をぶつけ、最終的にはあの口腔内部に誘爆爆弾を放り込む。それでも駄目ならS-11だ。

 宗像中尉がそう思った次の瞬間、目を疑うことが起きた。

 汚染母艦級の焼けただれた巨大な口の周りが再生を始め、そこから無数の触手が生えてきたのだ。

 そしてその触手の形状は彼女は―――というよりは衛士であるならば、誰もが知っているものだった。

 

「……気をつけろ! あれは要塞級の触手だ!」

 

 瞬く間に数十本の触手が生み出されると、それらは高速で手近にいたA-01が駆る不知火改と斯衛小隊の武御雷へと襲っていく。

 だが、幸いなことにバイド化していても触手の性能自体は、射程距離が異様に長いこと以外は従来の要塞級のそれと大差なく、通常の部隊でも対応可能な速度だった。

 電磁投射砲の弾幕が無数の触手を撃ち抜き、それでも弾幕を掻い潜ってきた触手は斯衛小隊の武御雷の見事な太刀捌きによって、切り落とされて地面を転がることになる。

 

「月詠中尉! 奴らの体液に注意を! 返り血を浴びると汚染される恐れがあります!」

 

「……承知した」

 

 バイド体に近接攻撃を挑むという、危険な行為に宗像注意は咄嗟に警告を出した。

 だが、武御雷の衛士である月詠中尉は涼しげな表情だ。

 

「だが、安心めされよ。陛下から賜ったこの機体。下賎の血で汚すのは我らとしても不本意なのでな」

 

 そこでようやく、宗像中尉は斯衛小隊が触手を切り落とした際、返り血を一切浴びないように立ちまわっていたのだと気がついた。

 確かにバイドと思わしき敵と遭遇した場合、体液や物理接触から汚染されるかもしれないという情報は、戦闘前のブリーフィングで彼女達にも伝えた。

 

 しかしだからといって、返り血を浴びないような機動をしつつ、敵を長刀で切り裂くという馬鹿げた解決法を出されるとは思っても見なかった。

 これが幼いころから鍛錬に鍛錬を繰り返して練り上げた武家の技量というものなのか。

 

 宗像中尉は苦笑しながら、撃ち落とされ、切り落とされ、地面に横たわり自らの消化液で溶け始めている触手のバイド係数をサーチしたがバイド係数は極めて微弱なものだった。

 シューティングスターからの説明によるとこの数値なら汚染の心配はほぼないはずだ。要塞級の触手の特徴である消化液を仕込んでいる関係で、汚染レベルが低いのだろうか? これならば触手の迎撃は彼女達に任せてもいい。

 ただし触手の本体である汚染母艦級のバイド係数は10を超えている。

 こちらは自分たちが倒すしかない。自分たちしかこの怪物に挑める装備を持ってないのだ。

 

「全機、電磁投射砲斉射!」

 

 その言葉と共に再度凄まじい勢いで、この場のヴァルキリーズの電磁投射砲が一斉に火を吹いた。

 秒速20kmを越える30mm弾が機関銃に匹敵する連射速度で、汚染母艦級に次々と突き刺さり、辺り一体に血の雨を降らす。やはり電磁投射砲は効いている。

 だが、倒せない。余りにも敵が大きすぎるのだ。電磁投射砲は間違いなく汚染母艦級の巨大なミミズのような胴体を貫通しているが、それでも殺しきれない。

 それどころか―――

 

「全機射撃やめ!」

 

 宗像中尉のその一言で射撃がピタリと止まる。

 

「宗像中尉、どうして!?」

 

「まだ、やれる」

 

 不満気な榊少尉と彩峰少尉が疑問の声を上げる。

 それに対して宗像中尉は簡潔に答えた。

 

「奴の垂れ流した血を見ろ! あれには触手と違ってバイド係数が確認されている!」

 

「……つっ!」

 

 その言葉に二人は言葉に詰まった。仮にも味方の基地で汚染された血液をばら撒くのは控えめに行って自殺行為だ。

 

「一度爆弾で焼き払うしかないようだな。各機、もう一度誘爆爆弾の用意。まず波動粒子のシャワーを浴びせて、奴を身奇麗にしてやろう。 その後、なんとか口をもう一度開かせてその中にありったけの誘爆爆弾を放り込む!」

 

「了解!」

 

 隊員達が返事をした時だった。再び汚染母艦級の口の周りのヒゲならぬ触手が再生し、攻撃準備を取る。

 いやそれだけではない。汚染母艦級が開けた大穴を登って、次々と穴の底から湧き出た小型種が横浜基地へと侵入してきたのだ。これらにはバイド係数探知機は反応してないので従来のBETAのようだが、タイミングが悪い。

 彼らは散兵として基地内部に浸透することを選んだようで、こちらには見向きもせず横浜基地に開けられた縦穴から這い上がると、次々と別の通路へと消えていく。

 

(不味い! この状況で通常型のBETAに内部で暴れられたら手が付けられなくなる……! 下手したら司令部まで……! ここは部隊の一部を司令部に向かわせるか!?)

 

 そう思ったのは彼女だけではなかったようで、大穴に開いた通路等から今までの戦闘を見物していた横浜基地の戦術機部隊が動き始めた。

 

「ヴァルキリーズ! 中に入った奴や、今基地に入ろうとしてる奴らはこちらで叩く! お前たちはそのデカブツを殺すことに専念しろ!」

 

「折角ふざけた性能の不知火に乗ってるんだ。ここでヘマしやがったらたたじゃおかねえぞ!」

 

 そう言うと、彼らはある者は壁が熔解して、吹きさらしになっている通路に侵入したBETAを追いかけて飛び込み、またある者は穴の淵から縦穴を登ってくるBETAの鼻先に劣化ウラン弾を叩き込んで奈落の底へと叩き込んでいく。

 

 だが、その行動が汚染母艦級の注意を引いた。

 それは大きく身をくねられるとその身を縦穴の外側へと叩きつける。

 再度、大地震にも匹敵する衝撃が基地を揺らし、穴の淵に陣取り登ってくる小型種に対して射撃を続けていた戦術機が一機転落した。

 更に間の悪いことに落下した戦術機を汚染母艦級から放たれた触手が絡め取る。

 そして『食う』つもりなのか、捕獲した戦術機をゆっくりと口を開いてその中へと近づけていく。

 

「ジョーカー4!? 不味い、あの触手を撃て!」

 

 そう叫ぶ宗像だったが、それを制したのは当の捕まった戦術機、ジョーカー4だった。

 

「へへへ……待てよ、これがいいんじゃねえか。折角食おうってんなら……飛び切りのご馳走を用意しないとな!」

 

 その言葉と共にその場にいた全ての戦術機に警報が流れた。S-11警報。今回のそれは友軍が―――正確に言うなら触手に捉えられた戦術機が発動されたものだ。

 汚染母艦級もS-11の効果を知っているのか、反射的に開けかけていた口を閉じた。

 

「全機、耐ショック姿勢!!」

 

 次の瞬間、もう何度目になるかわからない大爆発が横浜基地を揺るがした。

 轟音と振動が収まった時、90番格納庫で立っていたのは、体勢を低くして機体の制御に成功した宗像中尉と、長刀を床に突き立て踏みとどまった斯衛小隊の武御雷と御剣機だけだった。

 なるほど、長刀というのはああいう使い方もあるのか、と場違いな感心をしつつ彼女は自分の部下たちの状態を確認する。

 

 皆、バイタルに異常なし。長刀を突き立てて踏みとどまった御剣冥夜も含めて全員が衝撃のせいで一時的なショック状態になりかけているものの、数秒で意識がはっきりするだろう。機体にもダメージは受けていないが、A-01の隊員達は皆、即座に動ける状態ではなく今この時、即応できるのは自分だけだ。斯衛小隊の方も動けるかもしれないが、彼女たちには有効な武装を所持していない。

 

 やはり指向性を与えられるとはいえ、S-11の衝撃波は効果範囲外にいても強烈だ。

 そういう意味でもシューティングスターの誘爆爆弾は実に使いやすかった。

 しかし自爆した戦術機、ジョーカー4の犠牲は無駄ではなかった。

 例の汚染母艦級は鼻面に強烈な一撃を食らったせいで、ただでさえひび割れていた巨大な歯の大半がへし折られ、その巨体を縦穴にぶつけてのたうち回ってる。

 

 歯の大半がない今ならば、口腔内部に誘爆爆弾を放り込める。

 そう判断した宗像中尉は、誘爆爆弾を片手に一気に助走をかける。

 それに反応したのか、汚染母艦級の頭部がこちらへと向き直り、その口腔を大きく開く。

 そこにあったものを見て宗像は、一瞬思考が止まりかけた。

 

 汚染母艦級の口腔の奥にあったもの―――それは舌のように取り付けられた光り輝く巨大な眼球だった。よく見るとそれは一つの眼球からできたものではなく、ハニカム構造のように無数の眼球を組み合わせて作った複眼だった。

 そして複眼の一つ一つが重光線級の眼球によって構成されていたのだ。

 これを作るのに一体どれだけの数の重光線級の眼球が必要になるのか。少なくとも百やそこらでは足りないだろう。

 

(これがあの異常な出力のレーザーの正体か!?)

 

 同時に機体にレーザー警報が鳴り響く。

 眼球からの初期照準用レーザーを機体のセンサーが探知したのだ。

 あれを再び撃たれれば今度こそ自分たちは凄乃皇と共に消滅する。

 それを防ぐにはそれよりも先に爆弾を投擲するしかない。

 咄嗟に斯衛小隊の武御雷が120mmを連射して、複眼の幾つかを潰してくれているが、眼球の数が多すぎて、決定打にはならない。

 

「喰らえっ!」

 

 叫びながらメインアームを使って誘爆爆弾を投擲する。

 弧を描いたそれが汚染母艦級の口内に飛び込むと同時に、レーザー警報が更に大きく鳴り響き、宗像中尉の視界を光が塗りつぶして、轟音が鼓膜を麻痺させた。

 

 前後不覚になっていた時間は、ほんの数秒にも満たなかっただろう。

 その数秒で汚染母艦級は致命的なまでのダメージを負っていた。

 高熱のエネルギーが焼き払ったことにより、汚染母艦級の口腔内部は焼けただれ、巨大眼球は跡形もなく消し飛んでいる。

 だがまだ汚染母艦級は辛うじて生きていた。

 最早、触手を再生させる力も残っていないのか、汚染母艦級は大きく身をくねらすと一旦その体を仰け反らせた。

 

(不味いっ!)

 

 それを見た宗像中尉の胸に焦燥が湧き上がる。

 敵は仰け反った後、その反動を利用してこの90番格納庫に突っ込んでくる気だと理解してしまったからである。

 この圧倒的な質量の塊をそのまま叩きつけられたら、自分たちも凄乃皇四型もまとめて潰される。

 間に合わぬと感じながらも、彼女は部下達に対して、即刻格納庫から退去を命じようとしたその時、

 

「あら、まだ食べ足りないの? これは私の奢りよ、しっかり味わいなさい!」

 

 そんな聞き覚えのある声が、通信機から聞こえてきた。

 それと同時に仰け反り、頭部を上へと向けていた汚染母艦級の開きっぱなしの口に何かが放り込まれる。

 

 爆発。

 

 もはや見慣れた濃緑色の光が、再び汚染母艦級の中で炸裂する。

 放り込まれた爆弾は一つではなかったようで、数度に渡って汚染母艦級は文字通り口から緑色の火を吹いた後、そのまま崩れ落ち、自ら掘り進んできた底の見えぬ穴へと落下していった。

 

 そして縦穴の上方から2機の不知火改が現れる。

 遊撃部隊として別行動していた速瀬中尉と白銀少尉だ。

 彼らが汚染母艦級の口に止めの誘爆爆弾を放り込んだのだろう。

 

「ごめんね~。宗像。デートの邪魔しちゃったかしら?」

 

 楽しげに速瀬中尉が軽口を叩いてくる。

 このような異常な戦場にあっても、自らのスタンスを崩さない速瀬水月に宗像美冴は感心したが彼女もそれを一切顔に出さず、いつも通りの態度をあえてとる。

 

「構いませんよ。どうにも女性の事を考えない自分本位な輩だったので、どうやってお断りしようか考えていたのです。それにしてもあのようなケダモノすら守備範囲とは……。まだまだ自分も速瀬中尉には敵いませんね」

 

「む~な~か~た~? それってどういう意味なの~?」

 

 ジト目になった速瀬がモニター越しに睨みつけてくる。それに対して彼女は素知らぬ顔して付け加えた。

 

「と、白銀少尉が言ってました」

 

「しろがねぇ!?」

 

「いや、言ってませんよ!? どう見てもこれ冤罪じゃないですか俺!」

 

 突然矛先を向けられた白銀少尉が思わず言い訳をする。

 いつものヴァルキリーズの空気になったことによって、気を張り詰めていた新人達もリラックスできたようだ。

 それが宗像中尉だけでなく、隊長である速瀬中尉の狙いでもあったのだろう。スケープゴートになってもらった白銀には悪いが、部隊唯一の男性隊員なのだから、これぐらいの割を食うのは我慢してもらうしかない。

 新人達の緊張がほぐれたことを確認した速瀬中尉と宗像中尉は、現在の状況の共有を始める。

 

「しかし隊長、よく無事でしたね。……風間と茜のほうは?」

 

「レーザーが撃ち込まれた時、あたし達がいたのはちょうど基地の端っこのほうだったから命拾いしたのよ。風間と茜のエレメントもあたし達とは反対方向で穴埋めしてたから多分無事だと思うわ。ところで、こっちの無線の調子悪いんだけど、そっちは司令部と連絡取れる?」

 

「いえ、格納庫のシステム経由で司令部と連絡を取り合ってたのですが、レーザーとS-11の爆発で基地のシステムが不調になったようで……とは言え、完全に通じてない訳でもないようで、そのうち回復するかと……」

 

 その時、部隊の通信システムに雑音混じりの香月夕呼の声が入る。

 

『聞こえてる?……こっちからじゃそっちの状況がわからないんだけど、バイド体はどうなったの? 報告を……』

 

「香月先生? 大丈夫ですよ。例のバイドは俺達だけで倒せました。ありったけの誘爆爆弾を口の中に放り込んでやりましたから……先生?」

 

 どうも向こうからの通信は届いているのだが、こちらの通信は届いていないらしい。

 いっその事、こちらから司令部の方に出向いて直接報告するべきかと考えた時、向こう側の無線が聞き捨てならない情報を出した。

 

『……それよりも現在横浜基地の真下から、新しい振動音を探知したわ! この通信が聞こえているなら、一刻も早くそこから退避しなさい……!』

 

「……え?」

 

 新しい振動音? それは一体どういうことだ?

 白銀だけでなく、速瀬や宗像さえ相手に届かぬと知りながらも、香月博士に疑問をぶつけようとしたその時だった。

 不知火改のコクピットに再び警告音が鳴り響く。

 それはつい先程聞いたばかりの警告音―――即ちバイド係数探知機が放つアラーム音だった。

 

「マジかよ……」

 

 それが何を意味するのか悟った白銀がそう呻くと同時に、『二体目』の汚染母艦級が再び穴から這い上がってきた。

 

 

 




腐れ母艦級「パウたんの出番かと思ったか? 俺だよ!」


というわけで今回初登場のオリジナルバイドというかオリジナルBETA腐れ母艦級の説明
要は母艦級の口の中に重光線級をたらふく詰め込んだような存在です
それ以外にも表皮や歯がバイド化に伴い強化されている模様
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