閃光が全てを飲み込み、ミーティアの光学的な視界を奪っていた。
咄嗟に五感を愛機の全センサーとレーダーに繋ぎ直すも、やはり周囲の状況は掴めない。
微かなデータから唯一分かったことは、現在自機は次元跳躍用の異層次元空間に居るということだ。
それも同じ異層次元に留まってる訳ではなく、まるで次元の壁を次々と突き破っているかのように計測値が変動していく。もしやザブトム諸共、次元カタパルトから射出されたのだろうか?
いずれにせよ今の彼ができる事は、R-9Cの異層次元航行システムをフル稼働させて、変動する異層次元の物理法則から身を守ることだけだった。
数秒か、或いは数分か。
異層次元航行によって起こる時間感覚のズレにより、どれ位の時間が経ったかは不明だが彼はようやく自機とその周囲の状況を確認することができた。
自機の状態。
装甲キャノピーにレベル3の亀裂を確認。現在マイクロマシンによる自動修復中。
電磁投射砲、一門脱落。残り一門も出力低下、3秒以上の継続射撃不能。
フォース及びフォースコンダクター、異常無し。
右エンジンの出力6割低下。エンジンは自動修復中だが、5割以上の出力にするにはオーバーホールが必要。
異層次元航行システム、先ほどフルパワーで稼働させたことにより、オーバーヒート。一時的に機能停止中。
波動砲ユニット、波動粒子のオーバーロードにより異常発生。最大出力が30%低下。
結論としては全体としては結構なダメージを受けているが、まだまだ戦闘行為は可能だということだ。
この程度の損害で音を上げていてはR戦闘機のパイロットは務まらない。
続いて周囲の状況の確認をする。
現在自機は異層次元ではなく、宇宙空間に放り出されたようだ。
回復してきた視界を占めるのは星が瞬く漆黒の宇宙と、グリトニルの巨大な外壁だ。
衝撃でグリトニルの次元カタパルトの射出口から宇宙空間へ放り出されたらしい。
とりあえず目の前に漂っていた自機のフォースをリモートコントロールで回収する。
あの後一体どうなったのか。まだザブトムは生きているのだろうか?
そう思い自機の周辺を見回して、ミーティアは凍りついた。
自機の直下の視界を青い星が占めていた。
見間違う筈もない。これは地球だ。自分はグリトニル諸共地球の衛星軌道上に跳躍したのだ。同時に機体のセンサーが自機とグリトニルが地球の重力に捕まり、ゆっくりと落下を開始しはじめたことを警告してきた。
不味い。
R戦闘機の出力なら右エンジンが不調のこの状態でも、地球の重力圏から脱出することなど容易い事だ。
だが。
グリトニルはどうだ?
全長30kmを越える宇宙要塞が地上に落下したら、巨大隕石が落下したのと大差ない被害を地球環境に与える事になるだろう。
ましてや、グリトニルはバイドに汚染されている。
落下の際の衝撃に加えて、汚染体が大規模に撒き散らされることになれば地球は壊滅だ。
ミーティアは自機をグリトニルの次元カタパルトの射出口前に移動させる。
外部からカタパルト内部をセンサーで走査するが、既にカタパルト内部は破壊しつくされて、ザブトムの姿は無く、僅かな残留バイド係数を感知しただけだった。
あの時、ザブトムを撃破できた―――とは思わない。自機が無事ならば当然相手も無事である可能性も考えるべきだ。
というよりも地球に到達したため、次元カタパルトからグリトニルの深部に移動して、地球を攻撃する準備に移行している可能性が高い。
ミーティアは一縷の望みをかけて、グリトニルのメインフレームにアクセスを試みたが、バイド汚染警告と共にあっさりと弾かれた。
グリトニルのシステムは未だにバイドに汚染されている。
やはりザブトムはまだ健在ということだ。
今すぐ再度突入してザブトムを仕留めに行くべきかどうか、彼が判断を下すより先に機体の通信システムに友軍からの連絡が入る。
『エニグマよりミーティアへ。無事か?状況はどうなっている』
それは突入部隊の指揮官機R-9ER2"
『ミーティアよりエニグマへ。現在次元カタパルトの射手口付近にいる。交戦していたA級バイド体ザブトムは行方不明。それよりも緊急事態だ。グリトニルは地球の軌道上へ転移した。現在地球に向かって落下中だ』
『エニグマよりミーティアへ。状況はこちらでも把握している。グリトニルの航行用のザイオング慣性制御システムを遠隔操作して、グリトニルを重力圏から離脱させようとしたが失敗した。転移の衝撃でメインフレームへのハッキングがキャンセルされたのが原因だ。おまけにその隙をつかれて、グリトニルの姿勢制御システムを始めとする幾つかのシステムがバイドに奪われてしまったようだ。』
『やはりザブトムは生きているようだな。再突入して始末するか?』
『いや……時間がない。計算したが、この状況下では例えザブトムを仕留めてもグリトニルの落下を止めることは不可能だ。軌道上の防衛艦隊に連絡して陽電子砲と波動砲の一斉射撃で落下する前にグリトニルを破壊する。こんなものがいきなり現れたんだ。恐らくは向こうも攻撃準備をしているはず。巻き添えを食らわないように、一度全機グリトニルから離れる』
『了解した。全機と言ったな?我々の他にもグリトニルの次元跳躍に巻き込まれた機体があるのか?』
『今回の次元跳躍の効果範囲はグリトニルだけじゃない。グリトニルを含めた半径1000kmの周辺区域全てだ。突入部隊全機に加えて、グリトニル制圧部隊を載せたヒルディスヴィーニ級強襲揚陸艦『トール』とその支援をしていたナーストレンド級ミサイル駆逐艦『フライバー』とその護衛部隊のIFFを確認している。それとグリトニル周辺に展開していたバイド体の生き残りが少々。それは『フライバー』とその部隊が殲滅中だ』
『随分と大所帯で来てしまったな。突入部隊は全機無事か?』
『ロストした機体は無い。お前の機体が一番の重傷なぐらいだ』
惑星破壊兵器クラスのA級バイドと単独で渡り合ったのだ。この程度の被弾ならむしろ安いほうだろう。
だがそれはともかく状況は把握できた。
今この場で自分にできる事は何もないということが。
無理に再突入しても友軍の攻撃の邪魔になるだけだ。ミーティアは傷ついた自機を加速させる。
スラスター出力は落ちていたが、それでも数秒足らずでグリトニルから500kmほど離れた空間へと退避した。
そして彼に続くように、グリトニルの艦船用ドッグの出入口や物資搬入路から次々と青い光が飛び出してくる。
ミーティアと同じ突入部隊のR戦闘機のスラスター光だ。だが突入部隊のRの総数に比べて光の数が1つ足りない。
まさか脱出ができない機体があるのか?と思ったその瞬間、グリトニルの外壁の一部が内側から弾け飛んだ。
反射的に臨戦態勢を取るが、すぐに解除する。
吹き飛んだ外壁の内部から飛び出してきたのは突入部隊の最後の1機、R-9DP3"
特徴的な真紅の塗装を施されているそのR戦闘機は、他のR戦闘機より二回りは巨大だ。だがその大きさに反してキャノピーは通常のR戦闘機と同じサイズの為、奇妙なチグハグさがある。
装備されたディフェンシブフォースも母機であるRが巨大すぎて、機体を完全に隠しきれていない。
そして何よりも目を引くのは機体の左右に取り付けられた大型の盾と、機体下部の鉄杭型波動砲だ。
パイルバンカー帯電式H型と名付けられたそれは、通常の波動砲と違って射程距離は極端に短いが、その破壊力は数ある波動砲の中でも群を抜く程の威力だった。
今作戦に置いて『マルトー』のコールサインを与えられたこの機体は、グリトニル内部で遭遇するであろうA級バイド体に対する切り札の一つだった。……残念なことにそれをザブトムに使う機会はなかったが。
先ほどグリトニルの外壁を打ち破ったのも、この"パイルバンカー帯電式H型"による一撃だろう。
戦艦をも撃沈可能な威力とは聞いていたが、陽電子砲にも1発なら耐えられるというグリトニルの外壁をいとも容易く打ち破れるとは恐れ入る。
これで突入部隊は全てグリトニルから脱出した。後は軌道上の防衛艦隊からの攻撃を待つばかりだが、そこでミーティアは異常に気がついた。
防衛艦隊がいない。いや、それどころか地球の軌道上にくまなく配置されているはずのバリア衛星も、攻撃衛星アイギスも確認できない。
咄嗟に『エニグマ』に通信を繋ぐが、彼もまたこの事態に混乱しているようだ。
『エニグマより全機へ。付近一体に地球軍のIFFか友軍を確認できるものはいるか?目視でもいい。トール、フライバー。そちらはどうだ』
戦闘機のセンサーだけでは捕らえられないと判断したのか、彼は同じ宙域にいる駆逐艦と強襲揚陸艦にも判断を求めた。
『こちらミーティア。確認できるIFFは我々突入部隊とトール、フライバー、及びその護衛部隊のみだ』
『こちらゴリアテ。ミーティアと同じく』
『こちらアハトアハト。同じくネガティブ』
次々と僚機達から否定の報告が上がってくる中、駆逐艦フライバーが気になることを報告してきた。
『こちら駆逐艦フライバー。艦のセンサーでも我々以外の友軍の存在は確認できないが、奇妙なものを地球周回軌道に複数見つけた。全機にデータを送る』
その言葉と共に送られてきた画像に写っていたのは旧式の攻撃衛星だった。それも1つや2つではない。数と軌道からして地球全てをカバーするように配備されているようだ。
だがこの攻撃衛星は最低でも一世紀は昔のタイプだ。数も本来の防衛衛星のそれに比べると圧倒的に少ない。対バイド戦では全く役に立たないだろう。
それ以外にも駆逐艦フライバーのセンサーは、やはり旧世紀で採用されていたような宇宙ステーションや、ラグランジュポイントに建造中と思わしき大型宇宙船を複数確認していたが、こちらも既存の地球連合軍が採用している艦船とは全く異なるタイプだ。
そもそも最新鋭の防衛衛星は何処に行ったのだ?防衛艦隊は?軍事ステーションは?
『我々の知らない間に防衛衛星がアップデートされたか?』
『馬鹿を言うな。わざわざこんな前世紀の骨董品にアップデートする意味がどこにある。』
『だが視認できるもので人工物はこれと建造中の宇宙船団ぐらいしかないぞ。 あの宇宙船団も初めて見るが、なぜ造船所ではなくあんなところで建造しているんだ? エニグマ、あれらの通信システムを解析して割り込むことはできるか?』
『それなら現在解析中―――、いやもう終わった。信じられん。量子通信でも亜空間通信でもない、単純な電波型の通信方式だ。これではまるで本当に前世紀―――』
余りにも想定外の状況に僚機達は通信で意見の交換をはじめる。
本来作戦行動中―――それも非常時に行うようなことではないのだが、状況が状況だ。
元々サイバーインターフェイスを利用した圧縮された情報通信でのやり取りの為、(音声での通信は高速戦闘を伴うR戦闘機の通信手段としては情報伝達に時間がかかりすぎるため、戦闘時では余り使用されていない)グリトニルの外に脱出した後に行ったこれらの一連のやり取りは、実時間としては数秒も経っていない。
しかしグリトニルが現在進行形で落下をしている以上、いつまでも議論をしているわけにも行かないのも事実だった。
そんな中グリトニルを監視していたミーティアが異変を感じ取った。
『ミーティアより全機。グリトニルの落下速度が上がり始めた。自然落下にしては異常な速度だ。バイド係数も上昇中。やはり内部のバイドが生きている』
その言葉と共に強襲揚陸艦トール、ミサイル駆逐艦フライバーとも議論していた友軍達の通信が一時的にピタリと止まる。
そしてその場に居る全員を代表するように、エニグマが全てのユニットに指示を出し始めた。 階級で言うのならエニグマよりフライバーやトールの艦長の方が上ではあるが、今作戦の指揮権に限っては、突入部隊の指揮官である彼が一番上位の権限を有しているのだ。これがこの部隊のやり方であり、誰も反論はしなかった。
『エニグマより全ユニットへ。状況は不明だが、どのみちグリトニルを地球へと落下させるわけには行かない。地球軌道上艦隊と連絡が取れない以上、我々のみでグリトニルの破壊を試みる』
『トールよりエニグマへ。内部の制圧を目的とした我々の火力ではグリトニルを完全に破壊するのは不可能だ。それが可能な火力は後方の艦隊が有していたからな』
『エニグマよりトールへ。何も木っ端微塵にする必要はない。グリトニルはブロック式の構造体だ。構造体の継ぎ目を狙って解体してやれば、落下時の被害を抑えることが―――』
『フライバーより全ユニットへ。例の攻撃衛星が動き出した!』
その言葉と共にミーティアが攻撃衛星に意識を向けると、機体がパイロットの思考を読み取り、攻撃衛星の拡大されたリアルタイム画像をキャノピーに大きく表示させた。
画像を見る限り攻撃衛星は向きを変更しつつ、装備したミサイル発射口をグリトニルへと向けつつある。
―――攻撃するつもりか?
ミーティアのその考えを裏付けるかのように、攻撃衛星からミサイルが発射された。
その衛星はグリトニルに対して幾分近い距離にあった為か、然程時間をおかずにミサイルはグリトニルに着弾。核による炎の花を咲かせた。
だが。
核の光が収まった後には当然のように無傷のグリトニルの姿があった。
当然の結果だった。波動砲はおろか、出力によっては陽電子砲にも耐えうるグリトニルがたかだか核兵器一つで破壊されるわけがない。
ましては先の核ミサイルは威力の方も地球軍が運用する核ミサイルに比べて破壊力、弾速共に大幅に劣っていた。
あれでは何十発と撃ちこんでも無駄なだけだ。
だというのに。
『フライバーより全機へ。周回軌道上の衛星群から更なる核ミサイルの発射を確認』
攻撃衛星達は無数の核ミサイルを放ち続ける。まるでそれしか攻撃方法がないかのように。……いや、実際それしかないのだろう。
次々と咲き乱れる核の花を浴びながら、何事もなかったかのようにグリトニルは落下を続けていく。その上生き残っていた自動迎撃システムが起動したのか、ミサイルの大半がグリトニルに到達する前にレーザーと電磁投射砲で落とされ始めた。
その状況をみかねたのか、エニグマが攻撃衛星に呼びかけた。
『こちら地球連合軍太陽系第2防衛艦隊所属、グリトニル突入部隊指揮官『エニグマ』。応答を願う。我々はグリトニル攻略作戦中に、次元カタパルトの暴走によって、グリトニルと共に転移した。現在グリトニルはバイドに汚染されている! 繰り返す、現在グリトニルはバイドに汚染されている! そんな旧式の核兵器じゃグリトニルは傷ひとつ付かないぞ! 防衛艦隊は何処に行った!? R戦闘機もかき集めてありったけの艦首砲と波動砲を叩き込むんだ!』
エニグマの必死の訴えに対して、衛星からの反応はない。
衛星の通信方式は解析したので、通じているはずなのだが。
エニグマは埒が明かないと判断したのか、衛星に対して無線通信による呼びかけを暗号なしで全周波数で行った。
しかしそれでも返事はない。ただ動揺したかのように核ミサイルの発射が中断しただけだ。それも一時的なもので再び核ミサイルが発射されはじめる。
こうなってしまっては衛星からの返事をいつまでも待ってはいられない。こちらはこちらで独自の阻止行動を起こすべきだろう。
突入部隊の一機であるコールサイン『ハウンド・ドッグ』もそうした考えにたどり着いた者の1人だった。
『ハウンド・ドッグよりエニグマへ。これよりグリトニル内部に再突入してデルタウェポンを起動させる。それ以外のものは外側から砲撃をしてグリトニルに少しでもダメージを与えてくれ』
デルタウェポン。
それはフォースと連動したR戦闘機の最終兵器だ。あらゆる攻撃を食らうR戦闘機の次元兵装フォースは、攻撃を吸収する度にドースと呼ばれるエネルギーゲージが蓄積されていく。そしてドースゲージが100%を超えた時、オーバードースと呼ばれる状態になり、フォースから放たれるレーザーの出力が格段に上がり、圧倒的な攻撃力をR戦闘機は手に入れることができる。
そして同時に任意でフォースに蓄積させたエネルギーを解放することで、物理法則をも捻じ曲げる超絶的な破壊を引き起こす事ができるのだ。
発生する現象は機体やフォースの種類によって様々だが、そのどれもが波動砲をも凌駕する破壊力で、発動させるだけで戦局を一変させることができる戦術級殲滅兵器だった。
しかし大抵のR戦闘機パイロットは、このデルタウェポンを軽々しく使うことはない。
なぜならばこのシステムはフォースを意図的に暴走させ、炸裂させるようなもので非常に不安定なシステムだからだ。
かつてフォース開発初期において、フォースの耐久テストの際、度を超えたエネルギーの蓄積により実験対象のフォースが暴走。自身を中心に半径30kmの空間歪曲を発生させて、実験施設の木星のラボを空間ごと吹き飛ばした事件があった。
第一次バイドミッションが迫っていたこともあって、一旦はこの事件は棚上げにされたものの、悪名高いTeam R-TYPEは後日このデータを元に、意図的にフォースを暴走させ兵器へと転用させるシステムを完成させた。それこそがデルタウェポンなのだ。
その為一歩間違えれば自爆にも繋がりかねないデルタウェポンは、R戦闘機乗りにとってまさしく最後の切り札として扱われていた。
ハウンド・ドッグが装備するアンカーフォースに搭載されたデルタウェポン『ヒステリックドーン』は、次元の壁を破壊し、効果範囲内の存在を強制的に複数の異層次元へと連続転送を行い、転送の際の次元の位相差を利用して、目標を空間レベルで引き裂き消滅させるタイプの物だ。
如何にグリトニルが強固と言えど内部からこれを発動されては一溜りもあるまい。
よしんばヒステリックドーンによる破壊に耐え切る事が出来たとしても、グリトニルの大半は異層次元に強制転送され地球への激突を回避することができる。
ただし内部のバイドの妨害がなければという条件が付くが。
『エニグマよりハウンド・ドッグへ。単機でか?僚機は不要と?』
『ハウンド・ドッグよりエニグマへ。突入部隊の中で無傷で、尚且つフォースのドース・ゲージが100%になっているのは自分だけだ。それにこの機体の波動砲は大質量の破壊には向いていない。デルタウェポンを起動させた後は、亜空間潜行にて脱出する』
『エニグマよりハウンド・ドッグへ。了解した。だがせめてエスコート役として、マルトーを連れて行け。幸いグリトニル周辺の通信へのジャミングは消えている。衛星群の核ミサイルのルートとこちらの砲撃の目標とタイミングを常時そちらに送る。マルトーもそれでいいな?』
『こちらマルトー。了解した。この機体の波動砲では、グリトニルへの遠距離砲撃ができないからな。それでは本機はハウンド・ドッグと共にグリトニルに再突入する』
そのやり取りと共に、軌道上に退避していたR戦闘機郡の中から2機のRが青いスラスター光の残映を虚空に刻みつけて、グリトニルへと向かっていった。
先行した機体は、R-9DP3 "
そして後に続く1機がR-13A "
装備したアンカーフォースは攻撃力を優先しすぎたが故に、母機からのエネルギーケーブルによる有線制御を余儀なくされた、数あるRの中でも一際攻撃的かつ歪な機体。
ハウンド・ドッグとマルトーはグリトニルに迫る無数の核弾頭を回避し、グリトニルを包む核爆発による輻射熱をフォースで防ぎながら、核の炎と大気圏の摩擦熱で燃え上がるような状態になっているグリトニルへ接近。
そして2機は開放されたままの次元カタパルト射出口から突入し姿を消した。
ミーティアはそれを忸怩たる思いで彼らの軌跡を目で追っていた。
せめて自分があの時、ザブトムを完全に始末していれば―――そんな益体もない思いが脳裏を遮るが、今言っても詮無きことだ。
思考を切り替え、波動砲のチャージを開始する。
マイクロマシンによる自動修復システムのお陰で波動砲の出力は80%程度にまでは回復していた。
これなら多少威力は落ちるが、拡散波動砲も使用可能だ。
それと同時にほかのR戦闘機もまたグリトニルとグリトニルそのものへの攻撃に移る。
既に全機、波動砲のチャージは完了している。
エニグマよりグリトニルの構造上の弱点は既に全機に伝えられている。
複数のブロックを重ねあわせて作り上げられたこの軍事要塞は、ブロック同士の接合部の強度が存外弱い。
この部分を破壊すれば落下途中のグリトニルを解体して、被害の度合いを抑えることが可能になるだろう。それでも被害は出るだろうが、このまま落下させるよりは遥かにマシだ。
R戦闘機群は命中精度を少しでも上げるため、グリトニルと同じ速度で大気圏へと降下しながら照準を定める。
大気圏へと突入しながらの砲撃など一見無謀に見えるが、フォースを盾にすれば大気圏突入時に発生する断熱圧縮など問題なく凌げるのだ。
だがフォースという便利な盾がないグリトニルは、断熱圧縮効果で火の玉のように燃え上がり、今や巨大な隕石さながらだった。
そしてそれを取り巻くは、蒼く輝く尾を空に刻む無数の流星。
これから起きる被害を無視すれば幻想的とも言える光景だった。
◆ ◆ ◆
「なんなんだあいつらは……」
空で起きる現実離れした光景を見て白銀武は呆然と呟いた。
突如として現れた巨大隕石とそれを迎撃する地球側の核攻撃は、地上からでも見ることができた。
そしてこちらの核攻撃が全くの意味をなさないことも。
余りの出来事に呆然としていると、更に理解を超える事が起きる。
火の玉の様になった巨大隕石の周りに無数の流星群が取り付き、青い光を次々と打ち込み始めたのだ。
「撃ち落とそうとしているのか? ……あの隕石を」
思わず地上に出てしまったが、ここで見ていても状況は分からない。
あれが敵なのか味方なのか。BETAなのか人類なのか。
白銀の知識の中には大気圏に突入しながら、戦闘を繰り広げられる兵器など人類どころかBETAすら持っていないはずだ。
「タケル!」
その言葉に白銀武は振り向いた。その視線の先には、彼と同じ部隊の仲間である御剣 冥夜がいた。
いや、彼女だけではなく、かつて所属していた第207衛士訓練部隊の仲間たちが全員揃っていた。
既に彼女達は実戦部隊であるA-01に配属されていたが、非番の時などはよくこうして元第207衛士訓練部隊の人間同士で動いたりしていることが多い。
「これは……いったい何が起こっている!? そなたは副司令から何か聞かされてはおらぬか!?」
「いや、俺もたった今知ったばかりで何がなんだか……」
ひと目で状況を理解していないと分かる白銀の返答に、冥夜の頭も冷えたのだろう。
「すまぬ……。例え知っていても我々に軽々しく教えられるはずもないな。そなたにも事情が分からないとなると一刻も早く副司令の所に向かったほうがいいのでは? ここで見れることなら司令部からでも確認できるだろう」
その冷静な言葉に白銀は今更になって、自分が地上に出てきたことの無意味さを理解した。
「ああ、言われてみればその通りだ。全く俺ってやつは……これじゃまた夕呼先生に怒られちまう。じゃあ俺は一旦戻るから皆も、念の為出撃できるように待機しといたほうがいい! またな!」
そう仲間達に言うと、白銀はより多くの情報を手に入れるべく、司令部へと走った。
だが、司令部では白銀が想像もつかないような混乱に陥っていることに、この時の彼が知る由もなかったのだ。
ようやくマブラヴ勢が出てきたけど多分ずっとこんな調子です