R-TYPE M-Alternative   作:DAY

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七話 接触

 厚木市の付近に落下したファイアーボールから剥離した巨大構造物。

 幸いにも避難が進んでいたことと、市街の外れに墜落したことによって被害は予想以上に小さなものだった。

 正確に言えば小さすぎた。

 巨大構造物―――アラスカのそれにならって『γ』と呼ばれるその大型ブロック(当初はβというコードネームになるはずだったが、BETA繋がりでややこしいということなのでやめにした)は、付近の住民の証言によると地上への激突の瞬間、突如速度を落として緩やかに着地したとのことらしい。

 これはつまりこの巨大構造物の中の機能がまだ生きていることを意味する。

 その為、『γ』を確保するべく派遣された国連軍所属の特殊戦術機部隊A-01もまたあらゆる状態に備えるため、フル武装で向かうことになった。

 

 そして現場に到着したA-01が見たものは無人の市街地にまるで場違いな高層ビルのように横たわる巨大な『γ』の姿だった。

 直線の装甲板で構成され、所々に付いた小さなライトを発光させる『γ』は空母程のサイズがあり、それはどこか戦術機の装甲を始めとする人類の兵器のそれを連想させた。

 

 そして『γ』近づくに連れてA-01の隊員は誰もがこれはBETA由来の物ではなく、人間が―――というか地球人が作ったものだと確信を抱いた。

 なぜなら『γ』の装甲のあちこちに様々な英数字が書かれていたからだ。

 それらの英数字の大半は何らかの規格を表すもので、読むことはできても意味は分からない。

 しかしそんな中でも一際わかりやすい単語が幾つかあった。

 

 "Earth Allied Armed Forces "

 

 直訳すると地球連合軍といったところか。

 しかし地球上にそんな組織の名前の軍隊はいない。

 これに近いのは国連軍だが、だからと言って軍隊の表記を変えるような真似はしないだろう。

 となればこれを落とした相手は、国連軍でも米軍でも日本帝国軍でもない全くの別勢力となる。

 それを理解したA-01の隊長である速瀬水月は、展開する部隊員達に当初予定していた対BETA戦の陣形と警戒ではなく、対人戦のそれに切り替えるように指示を出した。

 もしこの『γ』の中から敵が出てくるとしたらそれは、BETAではなく人間だろうと思ったからだ。

 

 そんな彼女の意を組んだのかA-01の隊員達は異議も唱えることもなく、即座にそれに従う。

 対人用の陣形を取り、市街地のビルを遮蔽に使いながらA-01はゆっくりと慎重に『γ』に近づいていった。

 そして何の迎撃もなく『γ』の元へと辿りつく。

 そのことにほっとしつつもA-10の突撃前衛である白銀武は思わず隊長に話しかけた。

 

「速瀬中尉……何の迎撃もありませんでしたね」

 

「静かなのは今だけかもね。中に入ったらBETAかラプターの大群がお出迎えって可能性もあるわよ」

 

「いや、まさかラプターはないでしょう? 米軍だってこれには大混乱だったみたいですし」

 

「馬鹿ね。要は何が飛び出してきてもいいように構えてなさいってこと! ……『γ』の東側の側面を見なさい。あそこに戦術機も通れる穴が空いてるのが見えるわね? そんなわけで名誉ある一番槍はあんたに任せるわ」

 

「うわぉ……藪蛇でした?」

 

「どのみちあんたに任せる気だったんだから、そんなこと言わないのエース君。本当は私が見てみたい所だけど立場上やむなくあんたに譲るんだからね。……それにあんたなら不測の事態が起きてもどうにかしそうだし。まず内部を軽く見てすぐ戻ってくるだけでいいから。茜、彩峰! 白銀に入り口まで付いていって、何かあったら支援射撃。白銀も敵が出てきたら即座に離脱して! いいわね!?」

 

『ラジャー!』

 

 指名された隊員達が返事をする。そしてまず白銀機が。そして彼の支援を任された2機が彼に続いて東の側面に空いた大穴の前へと飛ぶ。

 

 (さて、鬼が出るか蛇が出るか……。頼むぜ……BETAよりは紳士であってくれよ……)

 

 夕月との会話とここに来るまでに見た『γ』に刻まれた数々の英単語や数字で、白銀武はこれが未来の―――或いは並行世界の地球のものだとほぼ確信していた。

 後はこれの持ち主がこちらと話し合いに応じる姿勢を持っているかどうかだ。

 恐らく『γ』、そしてその本体であるファイアーボールを作り上げた未来の地球は、現在の地球とは比べ物にならない技術力を持っているはずだ。

 それが現在の地球に敵対したらBETA以上の脅威になりえると夕月博士は言っていた。

 だが逆に友好的に接して彼らの技術を取り込むことが出来れば、BETAなど敵ではなくなるとも。

 

 もしこの『γ』の内部に生存者がいても白銀は余程のことがない限り穏便に接して、できれば相手を捕虜として確保するつもりだった。

 大穴の内部は闇に包まれている。

 そこに踏み込んだ白銀機は突撃銃や戦術機に備え付けてあった指向性ライトを全開にして、視界を確保した。

 そして絶句する。

 円形に照らされた光の中には戦術機に勝るとも劣らぬサイズの人型機動兵器が待ち構えていたからだ。

 反射的に突撃銃を発砲しそうになるも、違和感に気付きなんとか堪える。

 

「白銀! これって……」

 

「ああ、わかってる、茜達も撃つなよ!」

 

 白銀が照らしたその大型人型兵器の存在は、当然白銀の背後でバックアップに当っている二人も見ている。

 だがその二人もまた発砲しなかった所を見ると、彼女達もこの兵器の違和感に気づいたようだ。

 

「この機体……整備途中なのか? ハンガーに固定されてる……」

 

 その兵器は大型の整備ハンガーに取り付けられて、装甲の一部も外されていた。

 少なくとも今すぐ動き出して襲い掛かってくる様子はなさそうだ。

 白銀は更にその人型兵器を観察するために、ゆっくりと回りこむようにして近づいていく。

 この兵器は形状こそ人型だが、よく見ると戦術機とは全く違う作りをしている。色は緑。

 まずサイズからして二回り、いや三回りも大きい上に、装甲が随分と厚い。まるで一世代型の戦術機のようだ。

 しかし戦術機にあるはずの跳躍ユニットが両腰についていない。最初は取り外されたのかと思ったが違う。最初からついていないのだ。そしてその代わりに背中に可動式の推進システムを背負っている。

 恐らくこれが跳躍ユニットの機能を持っているのだろう。

 更にその上、首筋から背中に向けてマントのように、まるで甲虫の羽を思わせる大型のパーツがついていた。

 武は頭を悩ませたが、このパーツの意味するところは結局わからなかった。放熱板の一種だろうか?

 

 とりあえずこの機体のことは一旦置いて、更に内部を確かめるため『γ』の奥に踏み込もうとしたその時だった。

 闇に包まれていた『γ』の内部が突如として人工的な明るさに包まれる。死んでいたライトが復活したのだ。

 

「……なんだ!?」

 

「ちょっとこれ……!」

 

「白銀!?」

 

「待て! お前達は態勢はそのままで待機していてくれ!」

 

 突然灯りが付いたことは当然、入り口で待機している彼女たちにも理解できた。

 だから白銀は彼女たちに動くなと伝えた。

 いや正直彼女たちをどう使うか、と言ったところまで気が回らなかったと言ってもいい。

 なぜなら―――彼は白い人工灯で照らされた『γ』の内部に圧倒されていたからだ。

 この部屋はそれだけで二百万立法メートルはある広さがあった。そのまま『γ』の中身を全て繰り抜いたような広さである。広さだけでなく高さも200メートル近くはある。

 隠れていた闇の中には無数のハンガーがあり、そこには先ほど白銀が見つけた巨大人型兵器が複数固定されていた。

 

 最初に見たものが一番状態のよかった機体であったようで、それ以外の人型兵器は腕や足がなかったり、酷いものは胴体に大穴が開いている機体すらあった。

 そしてそのハンガー隣にはこの人型兵器の携行兵器と思わしき、巨大な火砲やガトリング砲が置かれていた。明らかに人型兵器には大きさが合わないサイズのものも放置されており、まさに武器庫と言った具合だ。

 

 それ以外にも重要物資が詰まっていそうな大型のコンテナがそこら中に散乱している。

 戦闘があったのか、それとも落下の衝撃で飛び散ったのかはわからない。

 よく見ると散乱したコンテナの奥には真っ赤な戦闘機―――巨大な盾を付けた戦闘機なんて見たこともないがキャノピーがある以上、戦闘機のはずだ―――が転がっていた。

 その戦闘機に近づいて観察した所、戦闘の痕跡が残っていた。この機体の盾は半壊し、エンジンや胴体には被弾の痕がある。

 戦闘機のキャノピーは開放されて無人だったがコクピットシートと思わしき物が見える。間違いなくこれらは人間が作り出し、人間が操る兵器なのだ。

 白銀は興奮するあまり、思わず管制ユニットの内部でガッツポーズを取った。

 

「人はいない……でもすげえ……すげえぞこれ……! ここは兵器の格納庫か何かだったのか? どっちにしても宝の山だ……これを見たら夕子先生が飛び上がって喜ぶぞ」

 

「いや、ここにあるものは全て地球連合軍の所有物だ。勝手に持って行かれては困るんだがね」

 

 だからこそ、聞きなれない男の声が自分の独り言に対して返事をしてきた時、白銀は臓腑を鷲掴みにされたような気分になった。

 反射的に通信システムを見ると、誰かが自機の通信システムに介入している。

 画像はなし。声だけだ。発信源すら不明になっている。

 

「……誰だ!?」

 

「地球連合軍、太陽系第2防衛艦隊所属、第1混成遊撃部隊―――。いや、現時点ではグリトニル突入部隊になるのかな。

 君の前に転がっている赤い戦闘機があるだろう? そいつのパイロットさ」

 

 立て板に水のようにその声はすらすらと答える。

 だが言っていることは全くの意味不明な上に、結局名乗ってもいない。しかし質問に答えるつもりはあるらしい。

 白銀は質問を変えた。

 

「どこにいる!?」

 

「この落下したD-3ブロックの管制室。その兵器の図体じゃ入ってこれない場所だ。ところでこちらも君の所属を聞いてもいいかね?」

 

 逆に問い返されて白銀は言葉に詰まる。果たしてどこまで自分の事を話してもいいものだろうか?

 反射的に通信システムを見やる。そこにはA-01の隊員全ての顔が表示されている。隊長である速瀬水月の顔もだ。今までのやりとりは、通信システムを通じて全てA-01全員が聞いている。

 全員が未知の勢力の人員との接触に固唾を飲んで見守っていた。

 速瀬は無言で白銀に対してゆっくりと頷いた。自分達の所属を明かしていいというサインだ。上官から許可を得た白銀はゆっくりと自分達の所属を喋り始めた。

 

「自分は―――国連軍横浜基地の特殊任務部隊A-01に所属する白銀武少尉であります。厚木市に落下したこの正体不明の人工物を調査するために派遣されてきました。」

 

 その言葉に、相手はしばらく沈黙した。

 不安になった白銀が思わず問い返す。 

 

「ちょっと? 聞こえてますか?」

 

 今度は返答はすぐに帰ってきた。

 

「ああ、聞こえているとも。まさか例の基地の部隊とはな。確かにここに一番近いが……。いやはや運がいいのか悪いのか」

 

「貴方には今回の事件で聞きたいことがあります。……悪いようにはしませんので、こちらの事情聴取を受けていただけませんか?」

 

 白銀はあくまで下手に出る。相手は生身のようだが、この『γ』の管制室に篭っているようなので、威圧的に出れば何がどうなるかわからないからだ。

 

「構わないとも。こちらもいろいろ事情を説明する気だったからな。……痛っ。全くエニグマも怪我人にメッセンジャーになってこい、とは乱暴なやり方をする」

 

「怪我をしているんですか? でしたら尚更―――」

 

「いや、結構。大した怪我ではない。それよりも君たちの上官は横浜の魔女かな?」

 

「―――っ!?」

 

 いきなり飛び出してきた自分の上官の二つ名に白銀は表情を変えた。

 

(なんで夕子先生の渾名を―――!? ていうか今回の件は俺絡みじゃなくて先生絡みなのかよ!?)

 

 驚愕する白銀を置き去りにして、淡々と男の声は続く。

 

「その様子だと正解のようだな。どんな方法でもいい。香月夕呼と話がしたい。なんとかして話が出来るようにしてくれ。その話し合いの結果次第では―――君たちが『γ』と呼ぶこのグリトニルD-3ブロックを君たちに進呈してあげてもいい。

 だがもし力ずくで来るなら私はこのD-3ブロックの迎撃設備を全て起動させて、管制室に立て篭もることになる。こんな風に。

 この場合、『γ』はBETAのハイヴより厄介なことになると忠告させてもらおう」

 

 一方的に条件を喋ると、男の声は沈黙した。

 そして巨大な格納庫の壁の一部が開き、そこから巨大な砲塔が出て、こちらにその砲身を向けてくる。あれが彼の言う迎撃設備だろう。

 

「警告しておくが、下手な発砲は控えることだ。お互い碌な事にならないのが目に見えている。そんなわけでよろしく頼んだ、白銀少尉」

 

 そう言って正体不明の通信がブツリと途切れる。

 白銀は恐る恐る別ウインドウに映るA-01の隊長である速瀬に目を向けたが、予想通り爆発寸前に見えた。

 

「上等じゃない……! 現場指揮官の私を通り越して香月副司令官と話させろだぁ~? いい度胸してんじゃないの!」

 

「ちょ、ちょっと中尉、ここは冷静に……!」

 

「わかってるわよ! 今横浜基地に回線を繋げて事情を説明してる。暗号度の高い通信にしないといけないからちょっと時間がかかるわ。あんたはそれまでそこで待機してなさい!」

 

「りょ、了解」

 

 そんなA-01のやり取りを耳にしながら―――当然これも秘匿通信だが勝手にシステムに介入して盗み聞きしているのだ―――R-9DP3 "KENROKUEN(ケンロクエン)"のパイロットであり、『マルトー』というコールサインで呼ばれていた男は管制室の通信システムで仲間に話しかけた。

 

「これでよかったのか? エニグマ」

 

『問題ない。細工は上々とまではいかんが、取り敢えず彼らは香月博士とコンタクトを取っているのが確認できた』

 

「お得意のハッキングで盗聴しているのか。悪趣味だな。コールサインをピーピングトムにでも改名したらどうだ?」

 

『俺は別に覗きはしない。それに盗み聴きはお前もしているから同罪だろう』

 

 エニグマの言うとおり、マルトーは現在A-01も含むこの付近で行われている通信を全て把握している。

 だが実際にA-01の通信システムに介入を行い、その内容を管制室にも聞こえるようにしているのは、このグリトニルD-3ブロック、現地の勢力が『γ』と呼称するブロックの遥か上空で待機しているエニグマだ。

 

 エニグマの乗機R-9ER2"UNCHAINED SILENCE(アンチェインド・サイレンス)"は電子戦機と早期警戒機の機能を併せ持ち、更に威力偵察も可能な戦闘力をも有する特殊なR戦闘機だ。最前線で友軍への電子支援を行い、場合によっては直接戦闘もこなすこの機体は、パイロットとしての才能に加えて、情報処理と指揮能力に優れた地球軍でも極めて特殊なパイロットしか搭乗することができない。

 R-9ER2の電子戦能力を駆使すれば一世紀も前の旧世代のセンサーやレーダーから身を隠すことも造作もないし、彼らの通信システムを盗聴するのもさほど難しいことではない。

 マルトーは悪びれた様子のない同僚に溜息をついた。

 

「それにしても人使いが荒い指揮官殿だ。怪我人に交渉役を努めてこいとはな」

 

 マルトーは通信システムに向けて皮肉を言った。彼は被弾し、墜落した時の衝撃で肋骨に罅が入ったのだ。その気になればRに乗れなくもないが、R戦闘機のザイオング慣性制御システムも完全ではない。

 巡航速度でならともかく、戦闘速度で高速機動を行うと、僅かだがどうしても完全に制御できないGが発生し、パイロットにもある程度負担が掛かる。パイロット自身も高性能な耐Gスーツを着ているが、それも限度がある。肋骨に罅が入った状態で戦闘機動を行えば、今度こそ肋骨が折れて肺に突き刺さってもおかしくはない。

 とはいえ彼らの医療技術からすれば、この程度の負傷はそれほど重傷でもないのも確かだ。今は医療キットで処置してあるが、彼の母艦で然るべき処置を受ければ数日で治る怪我でもある。

 

『今の状況でお前を救出するとなるとどうしても荒事になる。そうなった時の準備はしているが、交渉する前から険悪な関係になるのは避けたいのでな』

 

「R-9ER2のジャミングを使えば連中に気付かれずに、俺一人連れ出すことなど訳ないだろうに」

 

『まあそれぐらいならできる。それで? このD-3ブロックに残った物資は丸ごと現地の連中にくれてやるわけか? それとも俺がここの連中諸共焼き払うか? その場合、折角手に入れられそうになった例の魔女の繋がりが台無しになる。

 諦めろ。現地勢力の動きをコントロールするためにはどうしてもメッセンジャーと目に見える飴が必要だ』

 

「パイロットの仕事じゃない」

 

 マルトーは食い下がった。

 

『元々ネゴシエーションが出来るような人物など制圧部隊にはいないさ。バイド相手の殲滅任務にそんなもの必要ないからな。そこにいる奴がやるしかない。

 となれば、乗機を破壊されて暇になりそうなパイロットをあてがうのが合理的とは思わんか。特に今は猫の手も借りたいほど人手不足だしな。

 俺もこれから他のブロックの落下地点に出向かなければならない。大半のブロックはBETAとやらの勢力圏に落ちて、現在進行形で荒らされている。奴らは手当たり次第に物資を乱暴に持って行くから装備を奪い返しても、ボロボロで再利用もできない有り様だ。

 我々はブロックと装備の奪還は諦めて、BETAに対する技術の漏洩を防ぐ方向にシフトした。その為早急に動けるR戦闘機を使ってブロックと盗人達を、付近のハイヴごと焼き払わねばならないんでね』

 

 だが口の達者なエニグマの前では無意味だった。

 諦めたマルトーはそれでも最後の抵抗をする。

 

「負傷したパイロットを休養させるとかそういう考えはないのか」

 

『若い内は休むことよりも働く事を考えたまえ。俺だって休めるものなら休みたい。それにパイロットだというならバイド戦の戦術アドバイザーにもうってつけだろう? ……ところでハウンド・ドッグの件だが、奴はどうなった?』

 

 マルトーは目を細めてグリトニルを破壊する為に共に突入した僚機―――R-13A "CERBERUS(ケルベロス)"コールサイン『ハウンド・ドッグ』とはぐれた顛末を語った。

 

「わからん。運悪く通路で白兵戦特化のゲインズ3の群れに出くわしてな。更にそいつらを囮にして通路の中に建造中の戦艦がブースターを最大出力で吹かせてきた。

 戦艦の推進炎を回避する際、バウンド・ドックとは分断された上、フォースは俺を守るために推進炎の直撃を受けて消し飛んだ。それからは俺は生き残ったゲインズ3と相打ちになって、汚染を避けるために被弾した機体を汚染されてないこのD-3ブロックに移動させるので精一杯だった」

 

 次元航行戦艦の推進炎の威力はR戦闘機どころかフォースにとっても侮れない。まず次元航行戦艦のエンジンからして数千万トンにも及ぶ質量を、一瞬にして加速させR戦闘機に追随可能な速度を叩き出すことが可能な出力を持っているのだ。

 そんな次元航行戦艦の推進部から放たれる推進炎の余波は、それだけで次元航行戦艦の全長を上回る規模になり、波動砲に匹敵するエネルギーを秘めている。

 

 それを利用してバイドに汚染された次元航行戦艦は、時として急激な方向転換や加速を行い、推進炎を武器とした『格闘戦』をR戦闘機に仕掛けてくることがある。ザイオング慣性制御の限界を越える為、生身の人間が乗っていれば絶対にできない戦法だがバイドならば可能だ。記録によれば限界を超えた急加速の負荷で、艦体を真っ二つにへし折りながらも襲いかかってきた戦艦もあるという。

 この推進炎を使った汚染戦艦の戦術は、R戦闘機パイロット達からはその予想できない動きとその威力から畏怖をもって『魔剣』と呼ばれ恐れられていた。

 その一方でこの推進炎を攻撃に利用するという発想を逆に取り込み、R戦闘機で実行する猛者もいるのだが。

 

『そうか。奴のIFFもバイタルサインは確認できない。予定されていたハウンドドッグによるデルタウェポンの発動も確認できなかった。撃墜されたか汚染されたと思うべきだろう』

 

「だろうな。その時の戦闘データをそちらに送る。解析はそっちでしてくれ」

 

『了解』

 

 しばし会話が止まり、その場に流れるのはエニグマが流してくるA-10と横浜基地とのやり取りだけになる。

 横浜基地との秘匿回線を使って、『γ』と香月夕呼が直接会話出来るようになったのはこれより10分後のことだった。

 

 

 

 




後書き
PSPの解像度もあって当時、タクティクスの敵ユニットの攻撃である推進装置の噴射をなぜか推進装置の魔剣と誤読していました。
⊿とかは大砲撃ってくる戦艦よりブースター吹かせて攻撃してくる戦艦のほうが多かったような気がします。

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