アグレッサーとの戦闘から三日後IS学園は穏やかさを取り戻していた。
現在一年一組にて専用機持ちと楯無が集まっていた。
「は~い皆!今日は新しいお友達がこの学園やってきます!!」
楯無の意気揚々とした発言に皆(またか)とため息をついた。
「どうせ新しい専用機持ちでしょう?絶対天敵で各国の代表候補生が集まるて言ってたし。」
「残念!今回は代表候補生ではなく異世界からのお友達なのよ鈴ちゃん 」
一夏達(異世界?)
「じゃあとりあえず来てもらいましょうか。入ってちょうだい。」
そういうと教室の皆が教室の入り口に注目する。
「失礼します!!」
少年の声が扉の向こう側から聞こえ扉が開かれ入って来る。
金色の髪をなびかせながら歩き、コツコツと規則正しく奏でる革靴の音が教室に広がる。
「初めての方、初めまして。ラグナ・リンドヴルムと申します。本日よりこの学園で皆様と共にISを学ぶことになりました。初めてのことが多く皆様にご迷惑をお掛けしてしまうかも知れませんが何卒よろしくお願い申し上げます!!」
穢れの無い黄金の瞳、礼儀正しいしゃべり方、学生服というより制服のような作りに右肩から左腰に掛けてあるタスキのような物がどことなく貴族の風格を醸し出している。左胸にはIS学園のロゴマークが刻まれたエンブレムが付いており、羽織っているマントがとても目立っていた。
「あの楯無さん?このマントはやはりおかしいかと・・・」
来ている本人も流石に恥ずかしかったようだ。
「あらお気にめさなかった?リンドヴルムではそういうの付けないの?」
「確かに民たちの前では付けて着なれてもいますが、やはり学び舎で着るのはおかしいと思います!!」
ラグナと楯無のやり取りを生徒の皆はポカーンと見て置いてけぼりにされていた
「という訳で異世界の星リンドヴルムからやってきた王様、ラグナ君がやってきました!!皆も信じられないと思うけど調べた結果、異星人であることが証明されたの。だから、いろいろ思うところがあるかもしれないけど仲良くしてね 」
シィーーーーーーン
しばらくの静寂。そして
「「「「キャアァァァァァァァ!!」」」」
凄まじい女子たちの凄まじいバインドボイスが響き渡る
「男子!しかも異世界から!!」
「デュノア君の時とは違う紳士の態度!!あの純粋な目がたまらない!!」
「織斑君とラグナ君異文化交流(意味深)。うんイケるわ!!」
騒々しい教室、呆れる教員と耳を塞ぐ専用機持ち。その光景を見ているラグナは微笑ましく笑顔であった。
「ずいぶん賑やかですね。いつもこのようものなのですか?」
「いや、普段は静かな方だ。この学園にとって男とは珍しいものだからな。さて、貴様等!静かにしろ!!」
千冬の号令に一斉に静まり返る
「よし。リンドヴルム、お前の席は織斑の左隣だ。この後はお互いの力を理解するための模擬戦を行う。専用機持ちは直ちに第二アリーナに・・」
ビービービー!!
けたたましいサイレンが千冬の話を遮り、大きな地響きが皆に緊張が走る
「「「!!!!」」」
「どうやら模擬戦の必要はないようだな。専用機持ちは直ちに戦闘準備それ以外の生徒はシェルターに避難しろ!!」
千冬の指示に従い専用機以外の生徒はシェルターに向かう為教室から出て行った。
「山田君、状況はどうなっている?」
「第二アリーナに一つ、大型が五機、小型が多数のようです!もう一方は海岸に二つ、こちらは小型のみのようですが数が多すぎます!!」
真耶が見ているモニターから情報を伝え、千冬は素早く専用機持ちに指示を出した。
「リンドヴルム、お前は海岸の方を任せる。ギャラクシー、更識妹はリンドヴルムの援護に回れ。それ以外は全員第二アリーナだ!!」
皆「了解!!」
「と、その前にリンドヴルム。お前にこれを返しておく。初の絶対天敵戦だ、無理はするなよ」
ラグナは千冬からアタッシュケースを貰い中を確認する。中には王冠が入っていた。金色のフレーム、赤い布地がドーム状の形をしており、それを囲うように六つの薄い板が綺麗な曲線を描きながら中央に集まっている。赤や緑の宝石が埋め込まれており絢爛豪華な装飾が施されている。ザックリ言うとイギリス連邦系に近いデザインである。因みにこれはグローリー・クラウンの待機状態の姿である。
「大丈夫です。僕はこういうの慣れてますから。」
クラウンを頭に被り一礼して教室を後にする。
「・・・・慣れているか・・・」
まだ若いというのに戦争に成れているという発言に千冬は複雑な心境を憶えるのであった。
◇
外に出てすぐクラウンを纏ったラグナは指定された海岸に向かって飛翔していた。それをISを展開したヴィシュヌと簪が追いかける形で飛んでいた。
「待ってくださいリンドヴルムさん!!一人では危険すぎます。」
「数から考えて此処は私の山嵐で数を減らしてからの方が・・・」
「いえ、それだと周りへの被害がともないます。屋外での爆破物の使用は出来るだけ避け、素早く終わらせるべきだと僕は思います。それを可能にするには・・・ッ!!」
通信を切り、さらに速度を上げたラグナはそのまま海岸に飛来した絶対天敵の群れの中に突撃していった。
「敵の注意を引き付け、被害を一点に絞るのが最適です。」
展開したティアマオーグで螳螂型の絶対天敵を潰し、通信を再開させる。
「皆さんは海岸から離れようとする個体がいたら対処してください!しばらくここを動けないのでッ!!」
再び通信を切るとラグナはティアマオーグを担ぎ、常時加速を発動させ敵をなぎ倒してゆく。60体ほどいたうち6体を瞬殺。青い残像を残しながら速さを増したラグナは相当な重量があるはずのティアマオーグを軽々と振り回し、潰し・砕き・吹き飛ばしていく。
当然敵もやられっぱなしでいるはずもなくラグナの周りを囲い一斉に跳びかかる。
だがラグナは体をひねり、その回転の力を利用しティアマオーグを振り回した。
結果跳びかかった絶対天敵は胴体の真ん中からえぐり落され爆発する。爆煙で視界を遮られたがその爆煙から螳螂型が現れラグナに切りかかる。
「「!!」」
ラグナが螳螂型の群れに飲み込まれていくのを見た簪とヴィシュヌは絶句した。
だがうじゃうじゃと蠢く絶対天敵の塊の中でラグナはある程度の確信を得ていた。
「こんなものですか。では」
ラグナはティアマオーグの持ち手を左にひねる。すると刃の付け根部分がグルグルと回転しだしドリル様に周りを削りだしてゆく。ティアマオーグの特殊機能の一つ「掘削」である。アグレッサーの装甲を削り落としたり貫通させるためにつけた機能でありその「威力」は凶悪の一言に限る。そんな凶器を振り上げ張り付いていた螳螂型が鉄塊と化す。ラグナ自身が自ら回り、まとわりついていた螳螂型を一掃し姿を現す。
全身を切りつけられたにもかかわらずクラウンには傷一ついていなかった。
(威力は大したことは無く鎧の防御力が上回っていると言ったところか、装甲の硬さも予想を下回るほど低いる恐るに足りないのは解ったが油断してはいけない。)
周囲を確認するとまだ30体以上もの絶対天敵がラグナを取り囲んでおりいつ襲い掛かって来るか解らない。
(敵の注意を引き付けたのは良いですがいつもう一方に増援を呼ばれるわけにもいかない。内部に通信機能があれば厄介ですが急いで仕留めた方が良いですね。)
考えをまとめ、行動を起こすのはいつも通り速かった。ティアマオーグを一体の絶対天敵に投げつけ反対方向に飛ぶ。ティアマオーグは敵にめり込み同時にラグナはもう一体の頭部を”蹴飛ばした”。
「「はぁ!?」」
当然先程から見ているだけの二人が驚く。そんな二人のことなど露知らずラグナは絶対天敵を拳と足で流れるように穿ち砕いていく。殴った力を利用し回し蹴り、その力を利用したフック、からの蹴り上げ。どれも攻撃の力を利用した撲殺拳、無駄のなく打ち続けられるそれは対アグレッサー用に考案された格闘術「リンドアーツ」。武器が使えない状態の時に使える肉体武器の一つである。
「シャッ!(訳・一)ツゥッ!!(二)ツヴェイ!!!(三)ニャアァァ!!!!(四)・・・次。」
作業の様に冷静なまま絶対天敵の頭や胴体を壊していく彼はつまらなさそうな顔をしていた。今まで自分より強い敵としか戦ったことが無かった為か雑魚の相手がこうも危機感のないものだと落胆している。
「残り6。終わらせます。」
だがそう簡単に終わらせてくれはしなかった。仕掛けようと突っ込んだラグナにロケットパンチが直撃し海に吹き飛ばされたのだ
「これは、アリーナから!?」
「リンドヴルムさん無事ですか!?」
「・・・えぇ、少し頭が冷えました。物理的に。なにが起きたんですか?」
『すまないリンドヴルム。アリーナにいた大型の一機がそっちに向かってしまった。恐らく海岸仲間のの数が激変したのに気が付いての事だろう。撃破できるか?』
「わかりました。引き続き戦闘を継続します。」
と、通信を切ろうとしようとしたその時だった。
『その必要はもうねぇぞ?』
ラグナの上を六つのレーザーが通り過ぎ小型を貫いていったのだ。それだけではない。
「い~~~やっほおぉい!!」
甲高い咆哮が聞こえたかと思うと大型の絶対天敵ノクターン級の横腹に何かが突っ込み海へと吹っ飛び爆発する。
「「「!!!!!!」」」
『・・・・・』
「ハハハハハ!!なんだなんだぁ?でかい図体してるくせに装甲は地下シェルター並みかぁ?脆すぎてあくびが出ちまうよ!。」
大型を仕留めた謎の人物は海から浮上したのち笑いながら悪態をついていた。当然ながら彼女はISを纏っていた。
アメリカのファング・クエイクに似たデザインで黄金色の装甲に両肩にそびえる巨大な角が圧倒的な存在感を放っていた。金牛を彷彿とさせるISと纏った女は装甲に負けない金色の長髪をなびかせながら笑い、酒を飲んでまた笑っている。どうやら酔っているらしい。
『戦闘も終わりったことだし詳しいことはヘリを降りてからにするわ。んじゃまた後で!』
突如通信に割り込んできた女性はこの状況をスルーし通信を切った。ヘリと言う単語でラグナ達はレーザーが飛んできた方角を見ると空に米粒ほどの点のような物がこちらに向かって飛んでいるのが見えた。
「あの距離から狙撃したの!?」
「目測ですが十キロ以上はありますよ!?」
簪たちが驚く中ラグナは見事な狙撃だと感心していた。
◇
狙撃を終え両腕の部分展開を解除したグレイは先程の状況を思い出していた。
「戦闘が終わったと同時に酒を飲むとは、噂よりわいるどクレイジーなんだなアメリカの代表さんは。」
「見事な物です!どうですか我が社の新型は?」
ヘリの操縦をしている前回グレイを勧誘していた男が性能の感想を心待ちにしていた。
「なかなかのもんだと思うぜ?ブレもなく照準も悪くねぇ。だがちとライフルデカくはねぇか?多目的つってもこの長さでアサルトとか出来んのかよ!?」
グレイのいうとおりライフルは片手で持てるようにできていながら狙撃やグレネードを打てるようにバレルが長く作られている。本来はこれを片手で持ち撃つのだがバレルが長いせいで空気抵抗が懸念される。
「問題ないですよ貴方なら!すぐ慣れてこのままでと言うようになります!なにせ二年前に使ってた機体のデータから設計したので!!」
「そう力説されてもねぇ。あんまり期待すんなよ?二年ものブランクがあんだから・・・」
これ以上言っても丸め込まれるのがおちだなと悟りグレイは諦めてヘリがIS学園に着くのを待つのであった
◇
戦闘から少し経ち一年一組の教室には現在ラグナと専用機持ち、千冬・真耶が集まっていた。
「え~と言うことで、予定にはなかったアメリカとフランスの専用機持ちの紹介を始めるわ。入ってきて。」
楯無の指示に従い教室に二人の女性が入室してきた。一人目は褐色の肌に金色のロングヘア―水色の瞳、右頬の大きな傷が特徴的だが女性陣はそんなとこより一点に注目していた。
((((((デカい!!))))))
そうデカいのだ、彼女の胸がスイカ以上ににあるおそらくPカップはあるだろう。本人も見せつけるかのように胸元を開け谷間を強調している。さらに身長が高くスタイルもよくバランスの取れたプロポーションである。
「ん、まだ胸がきついね。あとで改造しとくか。と!ホルス・スタインだ!!歳は22、O型だ!アメリカの代表であり酒と男と金があれば文句は言わねぇ!!ついでにあたしの胸は天然物だ!!悔しいか小娘どもッ。アハッハッハッ!!」
自慢の胸を見せつけ女性陣を挑発し不穏な空気を作りだし第一印象は最悪である。そんな中一夏が思わぬことを言った。
「ホルス・スタイン、、、あぁ!略すとホルスタインだ!!」
その発言をした直後一夏は吹き飛んでいった。一夏がいた所にはホルスが右ストレートを放った後である。
「あたしをその名で言ったヤツは問答無用でぶっ飛ばしてきた。きぃつけろよ餓鬼ども・・・」
一夏を素手で教室の壁際に吹き飛ばすホルスの腕力に女子がゾッとする中一人だけ呆れていた。
「気に入らないことがあるとすぐ感情的になって手を上げる。あぁいやだねぇ女ってのは、、、、はぁ吐きそう。」
灰色のぼさぼさ頭でスーツ風に改造された制服姿の女性。グレイだ。先程から教室の隅で息を潜めている。
「ハハッ!噂通りの女嫌い!!それなのによくIS学園に来たもんだねぇ『ジャンヌ・ダルク』!!」
「その呼び名を言うな!!俺はその称号嫌いなんだよ!!」
「はいは~い二人と喧嘩しない!!これ以上騒ぐとおねぇさん怒っちゃうわよ~?」
これはいけないと楯無が仲裁に入ろうとしたが喉元に戦斧、眉間にライフルが付きつけられていた。
「「三下は下がってろ・・・」」
なんとホルスとグレイが一瞬のうちに武装を展開していたのだ。だが二人はそれ以上先をすることが出来なかった。自分たちの後ろにぎゅるぎゅると回転音がしていたからだ。正体は高速回転しているティアマオーグだ。
「お二人とも、どちらもこの星の危機に対抗するために来たというのに同士討ちは辞めて頂きたい。貴方たちは国が誇る偉大な方の筈、それが己の感情を優先しうちわもめなど恥ずかしくは無いのですか!!」
「「・・・・・・・・」」
ラグナはこの場を治めるために動いた訳では無い。これから共に戦う仲間がお互いを傷つけあうことに怒りを覚え動いたのだ。
「かぁ~わかったわかった。悪かったな、くだらないことして。ほら、自己紹介しな。」
そう言ってホルスは近くにあった机に腰掛ける。
「・・・・はぁ。グレイ・アングレースだ。歳は20、A型。ISは二年前に引退したんだが金銭的な問題で仕方なくフランスの代表に復帰することにした。あとアクシオン社の企業代表も務めてる。言っておくが俺は女が大っ嫌いだ!!だから俺に関わるな。いいな?」
さっきから言っていたことをあえて言ってきた。癖の強い代表生の出現に候補生は戸惑うばかりであった。シャルロット以外は。
「世界最速と謳われジャンヌ・ダルクとも讃えられたフランスの英雄グレイ・アングレースさんだぁ!!何で!?何でIS学園にいるの!?」
「なぁ、、シャルてあんな性格だったけ?」
「仕方ありませんわ、グレイ・アングレースと言えば知る人ぞ知る伝説級のIS乗りですもの。」
「そうだよ!!若くして高いIS適性を持ち最年少で代表候補生、IS学園一年にはあっという間に国家代表生になるという歴史上類を見ない偉業を達成するだけでなく三年にはあの第二回モンドグロッソ出場!その第一試合で織斑先生を得意の超高速機動で圧倒、あと一歩のところまで追いつめた凄い人なんだよ!!」
「お、おう、、、」
興奮するシャルロットの凄まじい圧に一夏はたじろぐ。他の皆はやや引いていたが同時にシャルロットの言うことに共感していた。世界最強と言われる織斑千冬と互角に渡り合うなら出来る人もいるがそれはあくまで相手も攻撃を受ける一進一退の攻防の話。だがグレイは違う。ISのハイパーセンサーですら追うのが難しい超高速移動と射撃を使った遠距離包囲攻撃を行いダメージを受けるリスクを回避した戦術で千冬に攻撃の隙を与えなかったのだ。千冬が仕掛けようなら一気に距離を取られまた全方向からの射撃・爆撃の嵐を受け見る者を圧倒した。だがそんな彼女も一瞬のスキを見せてしまい零落白夜により逆転負けを喫した。
「追い詰めた所で負けは負けだ。俺は噂される程の人間じゃねぇよ。」
「そう謙遜するな、私をあそこまで苦戦させたのはお前が初めてなんだぞ?」
「敗者であることには変わりませんよ千冬さん。」
「此処では織斑先生と言え。スタインは三年、アングレースは一年の教室に入ることになる。二年のブランクを取り戻して絶対天敵との戦いに備えろ。今後絶対天敵との戦いが激化するのを見越して各国から代表生が転校することが増えるようになる。皆も代表生に置いて行かれぬよう練度を上げるよ心がけろ!!」
「「「「「ハイ!!」」」」」
(と言って本当の目的はリンドヴルムの技術の調査だろうがな・・・)
自己紹介が終わり皆が教室を後にしようとしたその時。
「とっ!忘れるとこだった!!あたしはテロリストのレイン・ミューゼルの抹殺依頼を引き受けてんだが奴の事で詳しい奴はいないかい?」
ホルスがとんでもない爆弾を投下してきた