提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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初任務

「川崎」

 

「稲嶺、よく来た!」

 

 横須賀の空にも雲がかかり、風が帽子を飛ばそうとするがそれを押さえて二人は握手を交わす。

 

「ここらの天気が荒れてるせいで人工衛星でもメガフロートを見つけられなかった。九州じゃもう戦闘が始まってる」

 

「単冠の海防艦との連絡が取れなくなっているらしいな」

 

「あぁ、間違いなくこっちに向かってる。それもすぐ近くだ」

 

 二人が話している間にも明石たちと妖精たちは横須賀の工廠に艤装を運び出す。

 

「よう、天龍」

 

「ガングートか。サボってていいのか?」

 

「行くときは行く。救出は任せろ、死んでも引っ張ってきてやる」

 

「はっ、頼もしいな」

 

「お前の持ってくる酒はキャビアに合うのだ。仕方あるまい」

 

 互いに笑いながら拳をぶつけ合う二人。それを少し遠くから横須賀の天龍が様子を伺っていた。

 

「すげぇ、初代の俺様だ」

 

「へぇ、あれが天龍ちゃんの」

 

 同型艦からしてみれば初代は頭の上がらない存在である。言ってみればご先祖様みたいなものだ。そんな視線に気づいていた天龍は横須賀の天龍た龍田がならんでいるのを見て少しだけ悲しそうな顔をする。

 

「どうした天龍?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

 タバコでも一本、吹かしたい気分だったが風が強くて火がつけられない。そうしているとガングートが手を貸し火をつけられた。

 

「すまねぇ」

 

「吸わないとやっていけないときはある。私は前の記憶であるが随分、長いこと時を過ごした。同志を失うのは悲しいものだ」

 

「そうだな…」

 

ーー

 

「高高度からの降下作戦なんて…」

 

「可能なのですか?」

 

「足の艤装がない時点で他に選択肢はない。艦娘が人であるなら出来ないことはないはすだ。そのためにはお前の助けが必要なんだ」

 

 予想を越えた作戦にたじろぐ川崎と陸奥だが実質、この作戦の対案がないのも事実だ。

 

「敵、防衛艦隊の誘引と作戦終了後の救出。当然やらせてもらう」

 

「ありがとう」

 

「では早速、準備に…」

 

 ウーー!

 

 お互いに確認程度の話し合いであったがこれで行動に移せる。そう思った矢先、横須賀基地に警報が鳴り響く。基地の対空砲が火を吹き、配置された艦娘が対空砲火を行う。

 

「おぉ、来たでありますか」

 

「マジかよ」

 

 鳴り響く警報。それと同時にあきつ丸と天龍が空を見上げる。曇天の中を駆け回る黒い艦載機。深海棲艦の艦載機たちだ。

 

「てやんでぃ!ここにカチコミたぁ、いい度胸だ!返り討ちにしてやるよ!」

 

「皆さん、ご用意を。合戦準備!」

 

 対空防御を行う艦娘たちだが数が多く、撃ち漏らしまい爆弾を投下される。

 

「マジかぁぁぁぁ!」

 

「ぽいぽい!」

 

 墜落した敵艦載機がガントリークレーンの基部に直撃し倒れる。その先に居たのは摩耶、夕立、山城の三人。彼女らは全力疾走で迫り来るガントリークレーンから逃げる。

 

「不幸だわ!」

 

 その先には投下された爆弾。山城は苛立ちを込めながらどこぞの金剛の如く、裏拳で弾き飛ばす。

 

「おぉ、凄いっぽい」

 

《来るのなら 払って退散 不幸だわ》山城 心の一句 

 

「なんで私ばかり!」

 

 吹き飛んだ瓦礫を掴み投げる山城、それは敵機に直撃、爆弾が誘爆して墜落する。

 

「敵の艦載機が?」

 

「こんな風の中来たと言うの。特攻と変わらないわ…」

 

 基地の各所から火の手が上がり、妖精たちが慌ただしく動き回る様子を執務室から見た川崎、陸奥、稲嶺。

 

「工廠と飛行挺を守りなさい」

 

「省吾、警戒隊から入電。来たわ!」

 

「思ったより早いな。工廠に繋げてくれ」

 

「分かりました」

 

 稲嶺に電話を渡した陸奥は自分の艤装を取りに部屋を後にする。

 

「明石、そっちはどうだ?」

 

「あと10分、持たせてください。3年も放置されてたので常態が酷くて」

 

「分かった。川崎、10分ほど持たせてくれ」

 

「うちの艦隊だってそれなりに出来るさ。艦隊誘引までやっておく」

 

「頼む」

 

ーー

 

「どう、千歳お姉」

 

「ダメね、もう風速が15を越えてる。」

 

 打ち降ろすような雨に加え、風速は15を越えている。流石にこれでは艦載機は出せない。それに対して深海棲艦は次々と艦載機を上げ、襲いかかってくる。

 

「こんな作戦、今まで無かったわ」

 

 爆弾を落としたら、一緒に機体も落ちていく。そんなことを平然とやってのける敵に恐怖すら覚える。

 

「提督が言っていた作戦もこれ以上、風速が上がれば厳しいわね」

 

「やっぱり、やることないか。祝い酒でも選んでくるかなぁ」

 

 そんな心配顔の千歳の肩に腕を乗せる隼鷹、彼女は意気揚々と鎮守府に戻っていく。

 

「隼鷹…」

 

「羨ましいわ。私にもあれ程の余裕が持てれば良かったのだけれど」

 

「いや、千歳お姉はこのままでいいんです!」

 

ーー

 

《ヲ級さま、奇襲は成功しました》

 

「よし、このまま攻撃を続けろ。第5次攻撃を終え次第、海から一気に押し込む」

 

《了解しました》

 

「順調のようね」

 

 指揮所で指揮を取っていたヲ級に話しかけサラトガ。

 

「まずは横須賀を落とし、日本を落とす。これは前哨戦に過ぎない」

 

「期待してるわ」

 

「あぁ…」

 

 横須賀のから沿岸部、ギリギリ視認できる地点まで接近していたメガフロートからは深海棲艦の大部隊を放出していた。

 

「敵艦、急速接近。来るよ」

 

「行くぞ、同志ちっこいの!」

 

「そうだね、同志でっかいの…」

 

「突撃する、我に続け! Ураааааааа!」

 

「Ураааааааа…」

 

「うらうらうらうら!」

 

「うらー!」

 

 ガングートを中心に敵艦隊に切り込みを入れる。深雪や響、暁などの駆逐隊を主力とした部隊は猛威を奮う。ガングートに構えば駆逐の魚雷に駆逐に構えばガングートの砲の餌食になる。

 

 ガングート隊の攻撃を皮切りに次々と進撃する横須賀の部隊、その破竹の進撃に深海艦隊が釣れ、攻撃を激しくする。

 

ーー

 

「琵琶隊は工廠に集まれ!」

 

「任せるぞ。涼風!」

 

「おう!大船に乗ったつもりで行きな天龍!」

 

 風と雨と炎、怒号が飛び交う中を駆けた天龍はなんとか工廠にたどり着く。

 

「天龍さん、出来てます!」

 

「おう!」

 

「装着作業を急ぎなさい!もたもたしてると海に叩き込むわよ!」

 

 妖精たちが天龍を始め、他の琵琶メンバーの艤装取り付け作業に移行する。体に力がみなぎってくる、とうの昔に忘れ去った筈の昂りを思いだし天龍はどう猛な笑みを浮かべる。

 

「パラシュートの取り付け作業は終わっています。すぐに向かいましょう!」

 

「操縦は任せるであります」

 

「もうすぐ、台風の切れ目に入る。そこで出発しろ」

 

「提督…」

 

 腰に刀を吊るした稲嶺はわざわざ工廠に出向き指示を出す。

 

「琵琶基地隊の初任務だ。締めてかかれ」

 

「「「「了解!」」」」

 

 全員がキッチリとした敬礼をすると艤装を背負って外に飛び出す。

 

「大丈夫よ。ちゃんと帰るわ…」

 

「すまんな、山城」

 

 少し心配そうな稲嶺を見た山城はすれ違いざまに言うと彼は小さく礼を言うのだった。

 

 

 


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