提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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上陸

「どうした、その程度か!」

 

「ガングートさん!」

 

「なに!?」

 

 最前線を張っていたガングートに砲弾が直撃。巨大な爆煙を上げて姿が見えなくなる。メガフロートに設置された対艦砲による砲撃だった。

 

「ぐっ…!この私が、この程度で沈むと思うな…!あったまってきたぞ!!」

 

 ガングートの砲段は山なりに進みメガフロートの対艦砲を吹き飛ばす。

 

「ごめん、漏らした」

 

「構わん!」

 

 響が放った魚雷群を潜り抜けてリ級が接近。ガングートはあえて近づくとリ級の腕と腰を掴んで持ち上げる。

 

「近づけば沈められると思ったか!舐めるなぁ!」

 

 砲塔旋回。6門の砲がリ級を捉え、ほぼゼロ距離で砲撃が行われる。ガングートが掴んでいた右腕のみが残り、他は消し炭と化す。

 

「数が多くなってきたわね!」

 

「ガングート」

 

「涼月か!?」

 

「後退してください。敵艦隊を誘き寄せます」

 

「понимание!各艦、一斉射の後に後退。撃てぇぇ!」

 

 砲弾と魚雷が迫っていた深海艦隊を凪ぎ払うと同時に前衛が後退。深海艦隊も逃がさないとそれを追撃に出る。

 

ーー

 

「流石でありますな。敵がワラワラ要るであります」

 

「台風の切れ目に乗じて横須賀の航空隊が敵を凪ぎ払う。それと当時に出発してくれ」

 

「ナビゲートは任せてください」

 

「幸運を祈る」

 

 エンジンを暖めて離陸準備を進めるあきつ丸は目の前に広がる敵艦隊を見て笑う。稲嶺と明石との通信を終えて離陸体勢に入る。

 

「横風は8メートルほどです。ご武運を…」

 

「さて、行くでありますかな」

 

 離陸さえしてしまえばあとは勝手に高高度まで行ってくれる。日の光が少し射し込む海原を滑った飛行挺は無事に離陸するのだった。

 

ーー

 

「千歳についてきて!」

 

「攻撃隊、発艦開始よ!」

 

 千歳を中心とした攻撃隊が発艦し敵の艦隊へと向かっていく。零式艦戦52型や烈風を始めとする飛行隊が深海棲艦の進攻艦隊を凪ぎ払う。

 

「それにしても隼鷹さん。どこに行ったんだろうね千歳お姉」

 

「まぁ、作戦にはしっかりと参加されてるし…」

 

 その中に隼鷹の姿が無かったが艦載機はしっかりと編隊を組んで飛行している。いったいどこにいるのやら。

 

 

「流石は横須賀。やるな」

 

《前衛だけではなく。後衛の空母隊にも被害が》

 

「構うな、攻撃を続けろ。数はこちらがおおい、消耗戦に持ち込むんだ」

 

《了解しました》

 

(天気が落ち着いてきたな)

 

 航空隊の連度は艦娘の方が圧倒的に上。たこやきでも出せれば楽だったのだが沖縄の部隊が寄越さなかった。

 

「ヤツめ。私の邪魔ばかりして…」

 

「ヲ級。来るわ」

 

「なに?」

 

 いつの間にか来ていたサラトガがヲ級に空を見るように視線を送る。彼女は素直に空を見上げると雲のわずかな隙間、太陽を背にしてなにかが飛んでいた。

 

「輸送機か?」

 

ーー

 

『横須賀第一、及び第二艦隊による敵艦隊誘因に成功』

 

 輸送機の格納庫。カタパルトに足を固定した天龍は無線から流れてくる明石や妖精たちの声を聞く。

 

『長距離砲撃の効果を認めず。外部からの攻撃はやはり効果はないようです』 

 

 陸奥やガングートたちが敵の間撃を抜い、砲撃を加えているようだがメガフロートはビクともしない。

 

『敵対空兵器の存在は不明。目標周辺に空母艦隊を確認』

 

 

『空母による妨害は間に合わない。作戦に支障なし、作戦を続行する』

 

 普段、釣りで暇を潰しているとは思えない提督の立派な声が聞こえる。声だけ聞けば尊敬できるが…声だけ聞けば…。

 

「天龍…時間よ」

 

「あぁ…」

 

 カタパルトで最初に射出されるのは天龍と山城。山城は今更ながらこの作戦には意義を唱えたい。というかせめて最初は嫌だった。

 

「全く、不幸だわ」

 

「そう嘆くなよ。もうやるしかねぇんだからよ」

 

 山城の口癖もこう言う時にはなぜか安心してしまう。

 

『作戦遂行地点に到着。後部ハッチオープン』

 

「うわっ、さみぃ…」

 

 吹き込む冷気に体を震わせるのは摩耶、彼女は手にしていたショットガンを抱き枕のように抱え込み寒さに耐える。

 

 天龍を除くみんな、大なり小なり従来の武装を手にしている。これは明石が独自開発(趣味の暴走)の結果なのだが。敵の数が分からないこの状況下においてはありがたい追加兵装だった。

 

『これからHALO降下を行う。怪我と病気に気を付けてね』

 

「ぽい!」

 

「……」

 

 無線機から流れて来た提督の言葉に反応したのは夕立と川内。怪我は分かるが病気とはなんなのか。修学旅行に向かう親のような口調に調子が狂う。それに対し川内は静かに頷くと爆音と黒煙が渦巻く地上を見つめる。

 

「作戦開始」

 

「行くぜ!」

 

 高度10、000mからの自由落下、真っ先に飛び降りたのは天龍。

 目指すは鋼鉄の大地、人間では耐えられない寒さと低気圧の中をその女性たちは手に持ち身に付けた武装と己の体のみで落下する。

 

 それぞれ自身と共に顕現した武装に加え、対深海用の追加装備をしょい込み真っ黒な空を落下し続ける6つの影。

 

「対空砲火。敵を上陸させるな!」

 

 ヲ級の言葉と共に砲台小鬼が弾幕を張り、降下する山城たちを狙う。

 

『こちら04、目標を認める』

 

 ロケットランチャーを左肩に乗せながら降下目標を見つめる不知火は手持ちの高度計が300になるのを目安にパラシュートを開く。

 

「死にたいのですか、貴方は」

 

「全くもって不幸ね」

 

 対空放火の弾が山城のパラシュートを破壊。完全に自由落下と化した自身の身を省みつつ体勢変更、巨大な砲を落下地点に放ち身を地面にめり込ませながらも三点着地を成し遂げる。

 

「でもまだマシかしら」 

 

「さらりと頭のおかしいことをまるで漫画でありますなぁ」

 

 背後から迫るチ級の首を切り落としたあきつ丸は自身の愛刀から滴る青い地を振り払う。そう言うあきつ丸も先程、綺麗な五点着地を決めたばかりであった。 

 

「みなさん、重力の法則ぐらいは守って欲しいのですが」

 

 十分に減速しパラシュートをパージした不知火は手持ちの火器を唸らせながら言葉を漏らす。

 

「まぁ、ここはそう言うところだからな」

 

 不敵な笑みを浮かべた天龍は夕立と川内を伴いながら姿を表す。するとその場の雰囲気がさらに引き締まる。

 

「さぁ、行くぜ!」

 

《行かせん!》

 

 対空砲火を張っていたツ級がその巨大な拳をあきつ丸に対して振るが彼女はすでにおらず。

 

《どこに!?》

 

「遅いでありますなぁ。イライラするであります」

 

《!?》

 

 一歩、二歩、三歩で刀を鞘に納める。ツ級の体に現れる斬撃痕、ツ級はなにも言わずに倒れる。

 

「平和ボケしてしまった自分に…」

 

 乗り込んできた六人を確認した敵はこちらを向き直り戦闘体勢に移行する。そんな事は知らぬとばかりに中央部に目掛けて走り出す。

 

《支援砲撃が来ます。前方、300!》

 

「はっ、容赦ねぇな!」

 

 天龍の単装砲が火を噴きヘ級を吹き飛ばすと刀で切り刻まれる。

 

《着弾、いま!》

 

 明石の言葉と共に天龍の鼻先が吹き飛んだ。雑魚は問答無用で吹き飛ばされる。この正確さと威力は陸奥だろう。

 

「出てこい雑魚どもぉ!この私が相手だぁ!」

 

 摩耶は連装砲とショットガンを放ちながら叫ぶと飛んできたイ級を蹴り飛ばし、ロ級を踏み潰す。

 しばらく走っているとBー3と記された区画が現れる。しかし分厚い隔壁に阻まれている。

 

「山城!」

 

「分かってるわ」

 

 山城の主砲が隔壁を吹き飛ばし道を作る。摩耶と不知火が後方の敵に牽制を仕掛けつつ中に移動。最後の川内が置き土産に魚雷を転がし追撃を吹き飛ばす。

 

「では私はアイオワの格納庫に向かう」

 

「頼んだ」

 

 手筈通り、川内、不知火と夕立はアイオワの救出に他の天龍、摩耶、あきつ丸、山城は中央管制塔の占拠に向かう。なかはイ、ロ、ハ、ニ級の非人型がゴキブリのように群がっておりなかなかの気持ち悪さだった。

 

「両方とも掃除します」

 

 不知火は手にしていたロケットランチャーで敵の雑魚を手当たり次第に吹き飛ばしていく。1カートリッジ分撃ちまくると少しだけスッキリする。

 

「いっても変わらんか」

 

「気持ち悪いわ」

 

 なんかもう。視界が真っ暗な通路、それを見ながら山城は手持ちのドラムマガジン式大口径マシンガンと主砲で一帯を吹き飛ばしミンチにする。と綺麗に死骸の絨毯が出来上がるとそれを踏みつけて進む一同。

 

「ここからまっすぐ行ってエレベーターがあるでありますなぁ。っと!」

 

 あきつ丸は通路の角に潜んでいたリ級に素早く反応。両腕を切り飛ばすと腰から拳銃を取り出し頭に数発撃ち込む。摩耶も二丁のショットガンで一面に広がる雑魚に撃ち込むがワラワラ沸いてくるために減った気がしない。

 

《行かせん!》

 

 エレベーターホール前に立ち塞がったのはル級。ル級は主砲の一斉射撃であきつ丸たちの足を止め、山城を吹き飛ばす。普通ならこれで怯む筈だが天龍だけは止まらない。

 

「おもしれぇ!」

 

 次弾の装填は間に合わない、時間稼ぎのために大きく右腕を振りかぶり殴り付ける。この選択は間違っていない、パワー差があるのならそれを利用するのは当然の事。なにもまた違っていない、だがそれは相手の予想の範疇ということになる。

 

《!?》

 

 天龍はル級の脇に左手を突っ込み威力を殺し頭突きで上半身を仰け反らせる。これでル級は上手く力が入らなくなる。その時、天龍の剣の刃が赤く光る。

 

「…雑魚が」

 

 天龍のヒートサーベルはル級の装甲を融解させ、真っ二つに切り裂く。

 

《そんな…バ…》

 

 すかさず倒れたル級の頭を踏み砕き止めを刺す。

 

「俺様は天龍だ。フフ…怖いか?」

 

 右目が金、左目は眼帯越しに紫に光っている天龍を見てエレベーターホールで陣取っていた他の深海棲艦が一歩退くのだった。

 

 




天龍の特殊装備

ヒートサーベル

天龍型の初代に実験的に配備された特殊装備。刃を高温に熱し、斬撃力を強化している。大体、一回の戦闘で内部のヒューズが壊れるので一回、一回。念入りな点検が必要。
兵器としての信頼性と安全性、そして異様にかかるコストと維持費を見てこのヒートサーベル計画は凍結。セカンドシリーズ以降の天龍型には実刃刀、槍が採用された。


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