「くそがっ!」
防空棲姫の全力攻撃に対して天龍は壁の隔壁を剣で切り抜き盾に使う。
「ぐっ!」
山城は顔面を両腕で庇う前面防御。重い一撃に思わず呻き声を上げながら片膝を着く。天龍も隔壁をボロボロにされて吹き飛ばされる。
「シズメ、シズメェ!」
「舐めるなぁ!」
逃げ場がなくダメージを受ける山城の前に立った天龍は剣で直撃弾だけを切り裂くが捌ききれない。
(くそっ、捌ききれねぇ!)
「天龍!」
「山城、援護しろぉ!!」
「っ、はい!」
多数の弾を受けながらも前進する天龍。艤装はボロボロで身も血だらけだ。体勢低く、地を這うように一気に間合いを詰める。
「せえぁらぁ!」
爆炎を潜り抜けた天龍の先には砲口が大きな口を開けて待ち構えている。それを切り裂き、さらに前進するが防空の艤装が彼女の右手に噛みつき剣を弾き飛ばす。
「下がって!」
山城の援護砲撃。天龍に噛みついた艤装も悲鳴を上げながら離すが剣を失っては天龍に攻撃手段はない。
「ナイス援護だ山城!」
だが天龍は笑う。先程の爆風で彼女の眼帯が弾け飛び隠されていた左目があらわになる。
「紫色の瞳…」
金と紫のオッドアイ。限界まで防空棲姫に近づいた天龍は艤装の武装ラックに隠してあった武装を取り出す。
「てめぇにコレを使うとはなぁ!」
薙刀を取り出した天龍は刃を発光させ右側の艤装を切り裂いた。
「アイツみたいには使えねぇが!」
遠心力も加わった高威力の斬激は防空棲姫をあっという間に刻み、破壊し尽くす。
「ヤッタナァ…オマエモ イタ…」
「自分の性能スペックもろくに覚えねぇ奴にやられるわけないだろう…」
顔面に薙刀を深く突き刺しねじ込む返り血を浴びた天龍を防空棲姫は信じられないといった顔で倒れるのだった。
「はぁ…はぁ…。ガバッ!」
「天龍!?」
相手が絶命したのを見届けた天龍は荒い息をしながら血反吐を吐く。
「やっぱり鈍ったなぁ…。こんなところ見られたらアイツらになに言われるか分かったもんじゃねぇ」
タバコに火を着けながら大きく息を吸った天龍はすぐに歩き出す。
「いくぞ、山城」
「分かってるわ…」
オッドアイの事について聞きたげの山城だったが今はそれどころではない。足早にその場を立ち去るのだった。
ーー
「っ!」
ヲ級の鋭い斬擊に対してあきつ丸は懐から手榴弾を取り出す。勢いのついているヲ級は止まれずに近づいてしまいそのまま、爆発。
「あきつ丸!」
「本当に痛いでありますなぁ」
爆炎の中、姿を現したあきつ丸はヲ級の頭部から生えている触手を切り飛ばすが次の斬擊は受け止められる。
「……」
「おぉ、恐いでありますなぁ」
切り結んだ二人は互いに距離を取り得物を構える。
(傷口を塞いだか…)
先程の手榴弾の爆炎を使って左肩の出血を止めた。こちらに対して目眩ましの意味もあっただろう。
(随分と場馴れした奴だ)
先程の完全な奇襲。本来なら彼女はあの時点で胴体を二つに切り裂かれていた筈。奴はこちらに気づいて左腕を犠牲にしながらこちらの攻撃を防いだのだ。
それにあきつ丸の片手正眼には隙がない。思ったより厄介な相手のようだ。
「あたしも忘れるなぁ!」
摩耶の連装砲が火を吹き、ヲ級を狙うが簡単に避けられてしまう。
「くそっ!」
摩耶の援護を盾に何度も切り結ぶあきつ丸。片腕を失った分は手の数で補いうがやはり遅れを取る。
「いただく…」
「やば…」
懐に入り込まれたあきつ丸は体勢を極度に低くしたヲ級の斬激を無傷では防げない。
(やむ得ないでありますなぁ)
利き脚である右足の損失は避けたい。故に左足を使って刀の軌道を逸らす、その代償に左足がなくなるがまだ立てる。
「これで立つか…」
「まだまだでありますなぁ」
「そうか…」
することがヲ級の頭部についていた甲板の口が大きく開き大口径の三連装砲が姿を現す。
「なっ!」
間髪いれずに発射。後方にいた摩耶に直撃し彼女は大破してしまう。
「摩耶殿!」
「っ!」
気を失い、微動だにしない摩耶。絶体絶命の状況に突然の砲撃。
「どけぇぇぇぇ!」
腹の底から吐き出される怒号。爆炎の中から山城が姿を表し、戦艦の破格のパワーでヲ級を殴り飛ばし、吹き飛ばす。
「無事か、摩耶!あきつ丸!」
「山城殿!天龍殿!」
駆けつけた山城と天龍。援軍に駆けつけた二人を見てあきつ丸は安堵の表情を浮かべるのだった。
ーー
その一方。川内たちも同じフロアに到達、制御室を目指していた。防空の死骸を過ぎ、新たに展開していた深海棲艦もアイオアの攻撃力で押しきる。
「よし、もうすぐ制御室だ」
「先行していた攻略組。なにかあったぽい?」
「あの面子で苦戦しているとなると我々の援護も必要なはず」
全速力で走っている三人に対して突然。アイオアが停止、明後日の方向に顔を向ける。
「川内、アイオアが」
「なに?」
挙動不審なアイオアの動きに警戒する川内。
ピーン ピーン ピーン ピロロロロロロ…
「なんかヤバイっぽい…」
急に動きがぎこちなくなったアイオアに対して顔を青ざめさせる三人。そしてアイオアの三連装砲がついに火を吹くのだった。
ーー
「しゃぁぁ!」
駆け付けた天龍はすぐさまヲ級との戦闘を開始。負傷した摩耶とあきつ丸は山城の後ろにいる。
(制御コンピューターを…)
山城の巨大な艤装を影にしてあきつ丸はコンピューターにアクセスし一斉パージシークエンスを操作する。
天龍とヲ級の勝負は互角、だがこのままでは時間がない。急いで操作するあきつ丸は足から流れ出る血を止めることなく操作し続ける。
「ちっ、思ったよりやるじゃねぇか」
「分かるぞ、その眼。貴様の物ではないな、形見か、それとも贖罪か?妹の眼球を埋め込むとは酔狂な艦娘もいたものだ」
「てめぇ…マジで殺す!」
刀を構える天龍。その瞬間、再びの爆発。不知火が室内のモニターまで吹き飛ばされ川内も頭部に酷い損傷を受ける。
狂犬モードと化した夕立も無傷ではない。彼女の目の前に立っていたのは幽霊のように佇むアイオア。
「………」
彼女の眼は紅く光り、三連装砲をこちらに向けている。
「来たか…」
「マジかよ!」
「魚雷が使えないと倒せないっぽい!」
なんとか奮戦していた夕立だが最大火力の魚雷が使えない状況ではかなり手厳しい。
「私の勝ちだ…」
自身の勝利を確信したヲ級は刀を構え直す。ここさえ抑えれば勝てる。あとは物量で…
その時、ヲ級はコンピューターを操作するあきつ丸が視界に入る。
「何をしている!」
「ぐっ!」
刀を投げつけあきつ丸を壁に縫い付けた彼女だが山城の艤装の裏から起きた摩耶がこちらを睨む。
「私たちの勝ちだ。くそ野郎!」
ガラスのカバーを破壊しながら実行スイッチを押す摩耶。
ズドン…!
地震のような重い揺れとともに地響きが強くなる。
ーー
「なんの音?」
「まさか!」
陸奥と殴りあっていたサラトガは背後にあるメガフロートを見つめる。
「ひえぇ、何ですか!何ですか!?」
《ヲ級さま!》
横須賀守備隊と侵攻してきた深海棲艦もその凄まじい音を発生させるメガフロートを見つめる。
「いかん、救出隊。緊急発進、琵琶基地隊を救出してください!」
「天龍たちがやったか」
「やりましたよ提督!」
その様子は横須賀にいた稲嶺や川崎にも届き、メガフロートを見つめる。
「やったぞ、同志ちっちゃいの!」
「うん、そうだね」
横須賀の艦娘たちが歓喜を上げる中、メガフロート内は文字通りメチャクチャになっていた。
「琵琶基地所属の艦娘…覚えたぞ…」
憎々しげに呟くヲ級は降り積もる瓦礫の中に消えていく。
「山城、あきつ丸を絶対に離すんじゃねぇぞ!」
「分かってるわよ!」
動けないあきつ丸と気を失った不知火を担いだ山城は二人を瓦礫のから守る。床が崩れ、壁が倒れてくる。至るところから水が漏れ出ている。
「どうするんですか姉貴。ここは水中ですよ!」
「今更、登れねぇ。救出隊に頼るしかねぇ!」
「ぽいぃ!」
崩れ落ちる壁や天井を支えながら摩耶たちも大きく傾く床を滑っていく。
「天龍」
「なんだ、山城?」
「不幸だわ」
「やかましいわぁぁぁ!」
落ちていく床に巻き込まれアイオアが消え、天龍たちは瓦礫とともに海中に放り出されるのだった。