メガフロートの倒壊と共にトップであるヲ級との通信が途絶え、深海棲艦たちの連携が崩れ出す。
《くっ、全艦撤退。我々の支配領域まで撤退だ!》
「逃がしません!」
ネ級の指示で陣形が完全に崩れた艦隊が後退していく。それを阻止しようとする比叡だがネ級は尻尾と両腕に追加装備された砲で牽制しつつ撤退する。
「仕方ないわね!」
「くっ!」
「陸奥さん!」
サラトガも甲板に艤装した砲を陸奥に当てるとそのまま逃げていく。
「大丈夫よ。全艦、追撃不要。基地の被害状況を調査して!」
それを両腕で防いだ陸奥は悔しげに指示を出す。向こうもそうだがこちらも酷い損害を受けた。追撃にまわす部隊など現在、存在しない。
「酷いわね…」
黒煙に巻かれる横須賀を見た陸奥は静かにつぶやくと鎮守府に帰港するのだった。
「あぁ、疲れたぜ…」
「よく遣ってくれたでち。礼を言うでち」
「どうも…」
横須賀の救出隊。つまり潜水艦部隊に無事に捕まった琵琶基地隊は横須賀へと向かっていた。奇跡的に誰も欠けることなく作戦を終了した天龍は小さく溜め息を溜め息をつくのだった。
「稲嶺!よくやってくれた!」
「なんとかなったな」
「お前が居なかったら我々は全滅していただろう」
「やはり"現状"の横須賀では厳しかったか…」
「あぁ、情けない話だ」
「建物の倒壊は酷いですが雨のお陰で火災が広がないで済みましたね」
工廠で一息ついていた稲嶺と川崎が話していると現状確認を終えた明石が戻ってくる。幸いなことに轟沈の報告が上がってこないのは横須賀の艦娘たちの連携のお陰だろう。
「司令部はなんとか無事だ。そっちに来てくれ」
「いや、俺は港に行く。天龍たちを迎えにいかんとな」
「…そうだな。お前の言う通りだ」
川崎はそう言うと後で来てくれと言い残し司令部に戻っていくのだった。
摩耶 大破
あきつ丸 海だったら轟沈
不知火 大破
天龍 中破
山城 中破
川内 中破
夕立 小破
なんとか帰投したメンバーは横須賀のメンバーと共に入渠。あきつ丸は即刻叩き込まれ他のメンバーも順番を待つこととなった。
ーー
「敵艦隊の転進を確認。沖縄防衛戦に戻っていきます」
「どうやら横須賀を襲った敵部隊がやられたみたいだね」
「あの戦力で良く持ちこたえたわね」
敵艦の撤退を確認した伊勢たちは呉鎮守府に帰投。損害は少なくないがなんとか防衛に成功していた。
「うん、あの琵琶基地の部隊が秘密裏に動いてたみたい…」
「そう…」
時雨の言葉に言葉を濁らせる伊勢は黙って空を見つめる。
「提督から伝言だよ。呉から支援物資を横須賀に運ぶからその護衛をしてほしいってさ…」
「そう、わかったわ。すぐに向かうと伝えて」
「分かったよ」
台風も一段落つき、穏やかな海が戻ってきた。
「怖いわ…」
彼女はそうやって呟くと静かにその場を立ち去るのだった。
ーー
「叢雲、物資支援の件じゃが…」
「私が行くわ」
「おまんが行かんくても」
「久しぶりに昔馴染みに会いに行くのよ」
「天龍か…」
佐世保鎮守府。大損害を受けた横須賀への支援のために話をしようとしていた矢先、叢雲が自ら名乗りをあげる。その理由に納得した彼女は玉って頷いて許可を出すのだった。
ーー
「あぁ、確かにあのヲ級は変だ。普通に喋ってたし、無駄に剣のキレが凄かった」
「提督、もしかして。あのヲ級、五年前の…」
「そうかもしれないな…まだ生きていたとは…」
入渠していない摩耶たちから話を聞いていた稲嶺は帽子を深く被る。その様子を見て山城も悔しそうな顔をする。なにやらただならぬ雰囲気で聞けるわけなかった。
「まさかアイオアが暴走するとは…」
高速修復材を浸した包帯で頭をぐるぐる巻きにされた川内は悔しそうに呟く。ついでにアイオアは救出に来た潜水艦隊の魚雷の集中攻撃に沈んだ。
「にしても手痛い被害だな」
「横須賀にしては持ちこたえただろうさ」
摩耶の言葉に天龍も同意する。天龍の言葉、決して横須賀をバカにしているわけではない。横須賀の現状を考えればこれは誉め言葉なのだ。
横須賀鎮守府はその土地からしても重要拠点であったが五年前の九州戦線の崩壊に伴い佐世保、呉は大半の戦力を喪失。その際に安全海域を十分に確保していた横須賀所属の高練度艦は佐世保、呉に移籍。
その後も九州方面戦力拡充のために横須賀で育て、九州に送り込む構図が続いていた。横須賀の戦力は低練度艦と最小限の戦力しか保有していなかったのだ。空母は正規空母などはおらず軽空母のみ、他の性能の高い艦も横須賀には在籍していなかった。
「補給を終えたら他の鎮守府や基地から支援物資が届く。その受け入れ作業を手伝ってくれ」
「「「了解」」」
「一応、随伴するわ」
「頼む、山城」
そういうと稲嶺は山城と共に司令部へと向かうのだった。
ーー
その後も瓦礫の撤去作業。付近の民間人たちへの救助作業など琵琶基地のメンバー含め多くの艦娘たちは昼夜を問わず、精力的に活動した。
「あぁ、身に染みるぅ」
「こう言うときのラーメンは無性に旨いでありますなぁ」
横須賀の間宮は素早く食べられるものを用意し復活したあきつ丸たちはラーメンを啜っていた。
「やっぱり戦いってのは後始末が大変だよなぁ」
「防衛戦なら尚更ですね」
大分、整理された基地内を見渡す摩耶と不知火は啜りながら現在作業中の艦娘たちを眺める。
「ってか早く入渠してぇ」
これまで入渠施設は轟沈寸前、大破組の艦娘で溢れ返り中破していた天龍たちはまだ入れずにいた。明石は横須賀の艦娘たちの艤装も含め、一緒に修繕作業に集中している。
「相変わらずな間抜け面、変わらないわね貴方は…」
「あ…げぇ」
休憩していた天龍の背後に立ったのは叢雲。その姿を見た天龍はあからさまに嫌な顔をする。
「たかが、敵拠点への強襲でこんなにボロボロになるなんて。貴方も落ちしたわね」
「お前か叢雲。てめぇには一番会いたくなかったぜ」
「あら、せっかく戦友が会いに来たってのに酷い言い草ね」
「あーあ、目を閉じたら暁にならねぇかなぁ!」
「折角人が心配してきてやったのになによその態度!」
天龍の言葉に業を煮やした叢雲は愛用の槍を取り出してぶちギレる。
「会った早々からケンカ売りやがって!」
天龍も件を抜刀。にらみ合いになるがその二人の間にロケット推進器が着いているの錨が突き刺さる。
「っ!」
「この錨は…」
「貴方たち、私より立派な体を持ってるんだからレディらしく振る舞いなさいな見苦しい」
「「暁」」
二人のケンカを止めたのは暁、彼女はロケット推進器の錨を二つ艤装に懸架している彼女はため息をつきながら錨を回収する。
「凄いです。あのファーストシリーズの艦娘が全員、揃ってます!」
「壮観でありますなぁ」
隻眼の孤狼《天龍》
紫色の雷雲《叢雲》
戦場の
20年前から戦場を駆けた猛者たちが一同に介していた。日本、いや世界の剣の切っ先として戦った三英傑。その姿を一目見ようと他の艦娘たちも集まってくる。
「まさか大湊からここまで来たのか?物好きだなお前も」
「貴方に会いたかっただけよ。だって左遷されてから久々の戦場でしょ?上司に恵まれないのは相変わらずのようね」
「無能な上司は殴ってきた。それだけだ」
「貴方は本当に軍では生きにくい性格してるわね」
小さな背格好からは予想もつかない闘気を纏っている暁はあきれた様子で天龍を見つめる。
「まぁ、心配してくれたって勝手に思っておくぜ。ありがとうな」
「貴方を心配して来たと思ったのおめでたいわね」
「貴方も昔から変わらないわね。天龍のこと大好きな癖に」
「なにいってるの暁!」
言ってることはともかく、約15年ぶりのメンバーの顔合わせに三人とも笑みを浮かべるのだった。
ーー
「それで今回の件だが」
「あぁ、我々横須賀の要請で君に動いてもらったってことで報告書は出しておいた。艦娘たちの報告書にも陸奥がチェックを入れてくれているから大丈夫だと思う」
「助かる」
「そして報酬の件だが。前々から言っていた分だけで大丈夫なのか?」
「あぁ…」
稲嶺と川崎は基地の被害を確認しつつ歩いている二人の背後に着いていた山城は何かに気づくとその場から離れる。
(提督…)
「何してるの?」
「山城…」
呉鎮守府の秘書艦、伊勢は稲嶺を見つけ歩み寄ろうとするがその前に山城が立ち塞がる。
「どいて、山城」
「無理よ」
「提督に会いたいの。少しだけでいいから」
「貴方の提督は稲嶺提督じゃない、青波提督でしょ」
絶対零度の鉄仮面を被っていた山城に対して伊勢も下がる気はなく互いに睨み付ける。
「なんで貴方は私を提督に近づけさせないの!」
「貴方の存在は提督を傷つける!」
「貴方こそ、提督にすがってるだけじゃない!わざわざ琵琶基地に行くなんてね!」
「貴方みたいに未練タラタラじゃないわ。その傷、治るどころか深くなってるじゃない。贖罪のつもり?それとも提督に慰めてほしいだけ?」
「山城!」
伊勢のノーモーションからの打撃、山城の顔面に直撃するがそれと同時に山城も伊勢の顔面に一撃を食らわせるのだった。
互いに一歩退くが倒れない、物凄い音が周囲に響き作業していた要請や艦娘たちが何事かと視線を移す。
「もう気がすんだ伊勢?」
「ふざけるな山城」
一触即発の状態であったが周囲の目もあり互いに来た道を戻る。その眼光を鋭くしたままその場を後にするのだった。