提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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天龍の改二来たぁぁぁぁ!

日向改二もはよ



過去編1 その日、人が産まれた

 No.1(ファーストシリーズ)彼女らは長い間、戦場を駆けただけあって一癖も二癖もある連中の集まりだった。

 

「んだとてめぇ!」

 

「もう一度いってやるわよ!アンタの単独先行が迷惑だって言ってんのよ!」

 

 深海棲艦の登場から三年ほど。艦娘の開発が行われていた沖縄が奴等に占拠され艦娘開発計画は停滞。再開発の目処がまだ立っていない状況だった。

 

「まぁまぁ。天龍ちゃんも悪気がある訳じゃないし、今回も大目に」

 

「龍田、貴方は天龍に甘いのよ!」

 

「まぁ、天龍の単独先行は私たちも助かってるんだよ。ここぐらいに」

 

 怒り心頭の叢雲を諭そうと龍田と響が止める。しかし彼女の怒りは収まらない。彼女は規律を重んじるのに対して天龍は現場の判断と言って戦場で好き勝手している。対照的な二人がぶつかるのは仕方のないことだった。

 叢雲と天龍は互いを両目でにらみ合う。一般人ならその眼光だけで殺せそうな勢いだった。

 

「大丈夫だよ、私も天龍さんのことも考えてやってるから」

 

「吹雪、貴女がこんな奴のためにくろうすることはないのよ!」

 

「なんだと!」

 

「そろそろ止めようよ」

 

「でもこのままじゃ…」

 

 必死に叢雲の怒りを抑えようとする吹雪。そのままでは怒らせたくない奴を怒らせることになる。

 

「うるさいのです…」

 

「「「……」」」

 

 叢雲の前に突き刺さる錨。部屋のはしっこで唐揚げ弁当を食べていた電からの警告。彼女は食事時にだけ滅茶苦茶怖い。電にとって唯一のリラックスタイムである食事時は邪魔されたくない時間なのだ。

 

 天龍と叢雲の事をみていた磯波たちも固まりその場に沈黙が訪れる。それを見届けた電は満足そうに箸を動かす。

 

 ついでにここは横須賀の基地。当時は鎮守府なんてものは存在せず通常の基地に一同が集まっていたのだ。この時から鎮守府再建計画が進行していたがそんなこと彼女たちは知らない。

 

「そういえば、艦娘の建造装置の目処がたったようね」

 

「そうだね、これで私たちの負担も軽くなれば良いんだけど」

 

 雷の言葉を皮切りに響も便乗し全員がそれに乗っかる。

 

「上の方々は空母、戦艦が欲しいらしいですね…」

 

「そう簡単に建造出来たら苦労ないんだけどね!」

 

「まぁ、誰が建造されるにしろ戦力になるならありがたいわねぇ」

 

 浦波、深雪、龍田も追加建造は快く思っている。仲間が増えるのは良いものだ互いの生存率も比べ物にならないくらい高くなるだろう。

 

 そして当時から半年後に第二次建造が行われることとなる。その際に建造されたのは球磨型と大本営が欲しくて止まなかった空母《鳳翔》が建造。

 

 彼女は名付けられた異名の体現者として後進からも伝えられている。《全ての空母の母》彼女はその名の通り。今後、建造されていく全ての空母たちにその全てを教えていくことになる。

 

 その鳳翔は現在も健在である。現在も心から信頼を寄せる提督と共に軍務についている。

 

「お、そろそろ時間だ行くぜ!」

 

 天龍の声と共にそれぞれ休んでいた彼女たちが動き出す。

 

 今回の任務は八丈島の奪還。既に熟練となった彼女たちには島のだ奪還など朝飯前だった。

 

ーー

 

「まぁ、ぼちぼちだったな」

 

「私がいるから大丈夫よ!」

 

 敵と言っても魚のような雑魚ばかり。練度が上がっていた彼女たちにとっては対処もお手のものだった。

 

「後続の陸戦隊が来ればお風呂には入れるわね天龍ちゃん」

 

「そうだな。ちょっと一服してくるわ」

 

 天龍は愛用の煙草を少し離れたところで吸う。この頃から天龍は彼女は煙草を愛用していた。きっかけはほんの些細なことだった。助け出した兵にお礼に貰った一本、それが始まりだった。

 

「どうも釈然としねぇなぁ」

 

 人類の切り札である艦娘、たった12の艦娘で戦況は一変した。追加生産の艦娘たちも予定されている中、人類は海を取り戻すだろう。だが解せない、こんなにあっさりと相手がやられてくれるものか?

 

がさっ…。

 

「ん、なんだよ?まだ陸戦隊はまだなはずだろうが?」

 

「……」

 

「誰だてめぇ…」

 

 人間ではない、だが人間のようなやつだ。肩から単装砲を備えた艦娘はこちらをボーッと見つめていた。

 

「みたことねぇやつだな。陸戦隊は反対側だぜ」

 

草木が生い茂っていて顔と砲しかよく見えない。仕方なく歩み寄る天龍はその艦娘が見たこともない赤いオーラ―を纏っているのが見える。のちに奴は《泊地棲姫》と呼ばれる存在であった。

 

「その配色…」

 

 白と黒のツートーン。およそ人間離れした容姿に天龍は戦慄する。こいつは艦娘ではない、それだけは分かったからこそ彼女は叫ぶ。

 

「敵襲だ!」

 

「なに!」

 

「天龍ちゃん!」

 

 島全体に響き渡るかと思えてくるような怒号。それに反応した一同はすぐに現場に急行する。

 

「天龍!」

 

 ズガン!

 

「え?」

 

 駆けつけた叢雲。返ってきたのは天龍の返事ではなく血飛沫。よく見れば天龍の左顔面が吹き飛び周囲を真っ赤に染め上げたのだった。

 

 ドチャ…

 

「てめぇ!」

 

 吹き飛ばされた天龍はピクリともせず沈黙を守る。叢雲はすぐさま槍を構えて突撃、人形の深海棲艦に重い一撃を加えるが障壁のようなものに阻まれる。

 

「なに!?」

 

 それどころか槍はその半ばで真っ二つにヘシ折れてしまう。

 

「……」

 

「うっ…」

 

 目の前に突きつけられたのは砲口。しかし後ろから襟首を掴まれ無理やり回避させられる。同じく駆けつけた龍田が助けたのだ。

 

「龍田、あなたは天龍を!」

 

「……」

 

「叢雲、ダメだよ。今は敵に集中して!」

 

「吹雪、でも天龍が!」

 

「あきらめて!」

 

 仲間を失うという初めての経験に動揺する叢雲。だが吹雪は冷静に物事を俯瞰していた。

 

「叢雲ちゃん。落ち着いて、私たちは今こそ冷静にいなきゃいけないのよ」

 

「っ……」

 

 龍田の言葉に叢雲は押し黙る。一番悲しいはずの龍田が冷静に今の状況を乗り越えようとしている。浦波たちの全力攻撃も障壁に阻まれ効果が見えない。

 

「喰らうのです!」

 

「行くわよ!」

 

 高速で回転させ遠心力がたっぷり加えられた電と雷の錨が振り下ろされ直撃するが障壁はびくともしない。

 

「これは不味いね」

 

「前衛の肝である天龍がやられて、群雲も槍が折れた。これは退くしかないわね」

 

 暁は偽装に備え付けてあった煙幕弾を砲塔に積み込むと狙いを定める。

 

「吹雪、撤退するわよ!」

 

「分かった。全艦撤退します、陸戦隊にも至急待避を通告!」

 

 吹雪の指示と共に姫の周りには煙幕が焚かれ全員が離脱体勢に入る。

 

「よし、撤退します!」

 

「早く行くわよ…っ!」

 

「龍田!」

 

 龍田は全力で叢雲を投げ飛ばす。投げ飛ばされた彼女はガッチリと敵に掴まれた龍田の姿が見えた。

 

「逃げなさい、叢雲ちゃん」

 

「龍田!」

 

 投げ飛ばされた叢雲を吹雪が受け取り抱えたまま逃げ出す。それを見届けた龍田はホッと一息つく。まぁ、一息つける状況ではないが仲間を逃がせたのは大きい。

 

「天龍ちゃん…すぐ行くわ…」

 

「……」

 

 真っ赤な目を光らせながら肩の砲を向ける泊地棲姫。流石の状況にあきらめる龍田。

 

「おいおい、勝手に殺すなよ」

 

「っ!」

 

 泊地棲姫の腕を刀で切断した天龍は龍田を安全な場所まで蹴り飛ばす。

 

「お返しだこの野郎!」

 

 砲で牽制しつつ天龍の突きが泊地棲姫の左目を貫いた。左目から血を撒き散らしながらも反撃した天龍は刀を刺しっぱなしにしながら反転。

 

「逃げるぞ!」

 

「えぇ!」

 

 龍田を連れて逃げる天龍。本当ならもう一撃でも入れたかったが体が持たない。早々に逃げる。

 

ーー

 

 この日を境に人形の深海棲艦の目撃例が増加。戦略性の幅が広がった深海側たちはさらに勢力を伸ばすことになる。

 

ーーーー

 

「…なんであの時の夢を」

 

 沖永良部島。深海棲艦の罠に嵌まり、避難した島で仮眠を取っていた叢雲は突然の夢に目を覚ます。

 

「あ、叢雲さん。どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっと嫌な夢を見て…」

 

 夜警をしていたオイゲンは突然起きてきた叢雲に驚きながらも時間を確認する。時間は日を跨いで二時間が経過しようとしていた。

 

(なんであんな夢を…)

 

 叢雲は先程まで見ていた夢を思い返していると真っ暗な空が明るく光る。

 

「照明弾!?」

 

「赤玉三発。戦闘開始の合図です!」

 

「あの方角は鹿屋の夜営地か!」

 

 南西の方角に夜営を張っていた鹿屋の部隊からの合図に叢雲たちは一気に動き出す。

 

「レーベ。ビスマルクたちを起こして!プリンツ、私と鹿屋の援護に向かうわよ!」

 

「分かったよ!」

 

「分かりました!」

 

 艤装を装着した叢雲は自身の獲物を持って鹿屋の夜営地に向かうのだった。

 

 

 

 


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