「狙撃だ!」
「綾波!」
深海棲艦からの超長距離砲撃により鹿屋の綾波は悲鳴すら上げられずに狙撃された。
《離島の言う通り、ヲ級様の支援の先見隊をするためだったが。まさか主力を発見するとわ。ここで少しでも削れば…》
小さな小島に乗り上げていた泊地棲姫。肩に設置された砲に接続された特殊な狙撃砲。複数の薬室による多段加速によって直線的な長距離砲撃が可能となっていたのだ。
《っ!》
綾波を狙撃して満足げにしていた泊地棲姫。そこにピンポイントで砲撃が襲いかかる。
《バカな、ここが一発でバレた!?》
「鹿屋基地の艦娘をなめるな!」
扶桑の正確無比な攻撃に泊地棲姫の護衛の半分がやられる。
《敵襲だ!》
その横合いから叢雲が襲いかかる。雷槍をル級に突きつけゼロ距離で魚雷をお見舞いする。近づいてきた叢雲に対して機銃で牽制しつつ後退する泊地。
「あの泊地棲姫。隻眼、まさか!」
あの時、夢で見た過去の記憶。あの夢は自分が無意識に感じていた事に対して体が出した警告だったのだ。佐世保隊の横合いからの攻撃により完全に優勢、この調子ならなんとか無事に終わるだろう。一撃目を食らった綾波もなんとか応急処置で復活できそうだ。
「夜が開ければ加賀たちが助けに来る。ここが正念場よ!」
「「「了解!」」」
ーーーー
《まだだ、まだ…》
「主砲斉射、始め!」
《ぎゃぁぁぁ!》
襲撃を行った深海艦隊に降り注ぐ砲弾。密集陣形を取っていた艦隊は根こそぎ凪ぎ払われる。
《どこから!?》
《敵、艦隊。四時の方向42㎞先に!》
《大和か!》
壊滅状態の泊地棲姫の艦隊。逃げ場など残されていない彼女たちは絶叫する。
《ヲ級さまぁ!騙したなぁ、離島ぅ!》
大和の第2射が突き刺さり巨大な爆炎を上げながら泊地棲姫は海に沈んでいくのだった。
ーー
無事に敵艦隊を撃破し大和を中心とする救援部隊と合流したのは夜明けごろだった。
「助かったわ。大和」
「いえ、無事で何よりです」
「私の出番は無しですか…」
「ほんとよ、大和だけで片付けちゃったんだから」
一緒に来ていた加賀と曙は不満げだったが無事に合流できたのは良いことだ。他の艦隊も脱落者はいない、このまま帰投するまでは無事でいられるだろう。
「包囲された際の突破戦と今回の戦闘での損傷は集積基地の物資でなんとか出来ましたが問題は弾薬です。圧倒的に足りません」
「魚雷も主砲も対空機銃の弾も全員に平等に供給して後一戦というところか」
その後に行われた会議での扶桑と那智の現状報告は良いものではなかった。
「では私たち救援艦隊が頼りということですね」
大和、加賀、曙たちの艦隊が最後の防衛手段ということになる。増援を呼ぶにしてもジャミング海域から脱出しなければならない。
「とにかく、最短で佐世保に帰投しましょう。鹿屋と岩川の艦隊も収容できる備えはあります」
「そうですね。距離も近いし、設備は佐世保の方が充実していますし」
「そうだな、その方がいいだろう」
扶桑も那智も加賀の意見に賛同し移動を開始するのだった。
ーー
「少し遠回りになるが下道を行こう」
「何故ですか?」
「君がこれから住む場所だ。軽くでも町並みを見ておいた方がいい」
「そうですね」
大本営から琵琶の帰り道。稲嶺は高速道路から降りようと車線を変更すると電話が鳴る。
「もしもし…え?」
「どうされたので…っ!」
電話を取った瞬間。稲嶺は追い越し車線に車をのギアを全開にする。飛龍は状況を理解出来ずにシートベルトに体を締め付けられる。
「コード19が発令された」
「深海棲艦による本土攻撃!」
「そう、最短で基地まで行くよ!」
稲嶺はボロボロの懐中時計を取り出すと時間を確認する。この時間帯なら高速道路の方が早い。
ーーーー
全周警戒を行いながら佐世保に向かっていた帰投艦隊はやっとの思いで制圧海域に到着する。
「叢雲さん!加賀さん!」
「どうしたの高雄!」
制圧海域の端にある島に待機していた高雄。彼女は全身を怪我し血を流しながらこちらに近づいてくる。その様子と単艦と言うことに驚きを隠せない叢雲は急いで彼女に駆け寄る。
「佐世保に敵の大艦隊が…海中からいきなり現れて…私が伝令で」
「単艦で…瑞鶴はなにをしているの」
「戦闘指揮は今は瑞鳳さんが取っています。でもカバーしきれなくて」
「なぜ?」
艦娘の指揮権は叢雲、瑞鶴、大和、加賀、瑞鳳の順番で前線の指揮権が移行される。本来なら瑞鶴が取っているはずだが。
「瑞鶴さんは、4番倉庫に仕掛けられた爆弾にやられて…生死不明です」
「火薬庫に爆弾!?」
加賀は静かに拳に握りしめる。その様子を横目に叢雲はすばやく判断を下す。
「とにかく、佐世保に向かうわ。佐世保はそう簡単に落ちないわ」
「そうですね」
高雄の報告で佐世保に急行する艦隊。果たして間に合うのか。
ーー
「あ……」
焦げ付ける火薬の臭いと噎せかえるような血の臭いで瑞鶴は目を覚ます。
「くそっ…」
倉庫の瓦礫らしきものの下敷きになっていた瑞鶴は意図せずに敵から隠れれることに成功していた。右半身から吹き飛ばされ、右腕がどこかに飛んでいっていた。
「なにがおきたのよ」
四番倉庫に不審な物があると言う情報を確かめに行ったとたんに倉庫が爆発した。
「なにやってるのよ、私は!」
瓦礫の下で倒れていた瑞鶴は自身の体に叱咤しながら下から這い出る。
「なっ!」
瓦礫の下から抜け出した瑞鶴は佐世保の現状を目の当たりにする。
「うてぇ!」
対艦砲を撃つ陸軍の兵たちその先には深海艦隊が佐世保守備隊と交戦していた。あそこは湾内だ、周囲の陸地に配備されていた砲台の各所から黒煙が上がっている。
真上では敵の艦載機と瑞鳳の直掩機が激しいドックファイトを繰り広げている。
「基地航空隊の滑走路が潰された!」
「消化班急げ!」
「第11砲台からの通信が途切れました!」
状況が悪化しているのは引きずられているだけで分かる。だが日本最高の戦力を保有している佐世保はただで流行られない。既に最初に出現した深海艦隊は殲滅している。だが海底から敵戦力が次々と沸いて出てくるのだ。
「サミシイ…サミシイナァ……」
深海艦隊。第5次浮上部隊、旗艦を勤める深海鶴棲姫とその傍らに立つ空母水鬼は壊れた笑みを浮かべながら黒煙を上げる佐世保鎮守府を見つめ笑うのだった。