「おんどれぇ…」
「鹿屋基地からの通信が途絶えた。通信施設を破壊されたのか…それとも」
「どっちにしろ、そこまで深く進行されたのなら援軍どころの話じゃない」
千代音は特殊な防弾ガラスの窓から眼下で繰り広げれている戦いを見つめていた。戦略レベルの話はもう終わっている。ここまで来れば提督として果たせる領域は既にない。あとは戦術レベルだ、彼女が心血注いで育ててきた艦娘たちの真の実力が試される。
「わしも盲目したな。ここまで侵入されるたぁ」
「海底を歩いて移動されてはソナーでは探知しにくい。相手の方が上手なだけだ」
「はっきり物を言うのぉ。そう言うところは嫌いじゃない」
「どうも」
千代音の護衛に着いていた木曽は心底悔しそうな提督の背中を見て歯噛みする。あと一手が足りない、瑞鳳は奮闘しているがこのような危機的な状況ではどうしても役不足感は否めない。
(瑞鶴、どこにいるんだ…)
5年前の深海棲艦の大進行により前線に出たほとんどの艦娘は戦死しあるいはその縁をさまよった。あのNo.1シリーズでさえその半数が脱落。
そんな中、瑞鶴は生き残った数少ない艦娘の一人だ。当時新米だった彼女は生き延び、敵味方の生き血をすすりながらあの悪夢を踏み越えた。
(瑞鶴、こんなんで死んだら許さんぞ)
ーー
「はぁ!」
《っ!?》
港に上陸してきた駆逐古姫に襲いかかる瑞鶴。古姫も腕の砲を構えるが砲を掴まれ射線を逸らされる。その射線上にいたチ級の頭が吹き飛び絶命する。
「ナンデサ……ナンデ アキラメナイノヨォ…!?」
「死ね!」
「ガァ…」
瑞鶴は持ち前のパワーで駆逐古姫の土手っ腹に穴を開けるとそのまま迫る砲弾の盾に使う。艤装を装着していないと言うのにこのパワー、流石は生存組だ。
「早く艤装格納庫に行かないと行けないのよ!」
倉庫の鉄骨の破片を喉に突き立てられるリ級は声にならない悲鳴を上げながら倒れる。
ーーーー
「瑞鶴さん!」
「明石、遅い!」
「無茶言わないでくださいよ!」
酒匂、青葉、古鷹護衛の元。瑞鶴の艤装を持ってきた佐世保の明石は急いで取り付け作業を開始する。
「高速修復材は?」
「倉庫は真っ先に吹き飛ばされました」
「ずいぶんと手際がいいわね…っう!」
艤装の緊急装備は反動が大きい、これは艦娘の練度に比例する。瑞鶴は練度100越えの高練度艦、その反動は大きい。常人ならショック死するレベルだ。
「艦首風上、攻撃隊…発艦、始め!」
瑞鶴は弓を持ち、矢を口で咥えてつがえる。右腕が吹き飛んでしまった上に修復の目処が立たないので仕方がないが。
放たれ出現した瑞鶴攻撃隊は低空から一気に上場、上空の敵を凪ぎ払うとそのまま一糸乱れぬ編隊を組んで周辺の敵機を次々と落としていく。
腕が無い状態での発艦はリスクが非常に高い。その理由は発艦時に艦載機の速度が充分に出せないからだ。速度の足りない飛行機はたちまち失速し墜落する。だが瑞鶴航空隊にそんな柔な妖精はいない。
片腕になっても発艦できるようにボウガン式や勅礼式も開発されたが瑞鶴には信頼の高い和弓式が採用された。
「瑞鶴さん!」
「瑞鳳、合わせなさい」
「了解!」
上空で奮戦していた瑞鳳隊を救出した瑞鶴隊。瑞鶴隊の出現により盛り返す。
「瑞鶴さん!」
「状況報告!」
「はい!」
瑞鳳はキビキビと報告を終えると全体の指揮権を瑞鶴に移行。
「お、やっぱり生きてたか。じゃあ、そろそろ本気を出すよ大井っち」
「分かりました北上さん!」
前衛も反撃を開始、次々と攻撃を加えていく。だが今回の敵はそう簡単にやられてくれるものではなかった。
「大井っち。後ろ!」
「え?」
「カナシミト、クルシミヲ。オモイダセ!」
鶴棲姫の大口径三連装砲が火を吹き大井に直撃する筈だったが。北上が代わりに受け、激しく損傷する。
その様子を見ていた瑞鶴隊は瑞鶴に報告する。
《我、敵空母ラシキ新型ヲ認ム》
鶴棲姫の直奄隊と瑞鶴の攻撃隊が交戦を開始。すれ違いざまの攻防で瑞鶴の攻撃隊が一機脱落する。
「私の攻撃隊が!」
「ヤット…ミツケタ…。ワタシ!」
ーーーー
「このぉ!」
既に深海棲艦たちが蠢いている海域で足止めを食っていた叢雲たちは最短ルートで佐世保まで直進していた。
「扶桑さん…」
「鹿屋と連絡が繋がりません。提督…」
提督を心配する扶桑、その不安は的中していた。
ーー
「離島め…泊地を捨て駒に使ったな」
黒刀を持ったヲ級は壊滅した鹿屋の瓦礫の上で自身の部下を思っていた。
《泊地さん…》
ネ級も泊地との通信が途絶え悲しみの表情を作る。
「佐世保に向かう…」
ーー
「どうかな?」
「元帥…」
千代音が窓の外を見つめていると執務室に元帥が入ってくる。彼は沖縄戦線の様子を見るために佐世保に来ていたのだ。
「奥にいてくださいというたはずじゃが?」
「戦争は書類の上で起きている訳ではないだろう?」
「ふん…」
「私の直衛も連れてこればよかったな?」
「ムダな犠牲を出したいんか?指揮系統の違う部隊が同じ戦場にいれば悲惨じゃきに」
「君ならそういうだろうね」
元帥は執務室に常備してある紅茶を注ぎながら戦況を見つめる。その様子は実に落ち着いたものだった。
「まぁ、向こうは黙っとらんじゃろう。幻の副旗艦を拝めるんなら悪くはないがのぉ」
「来るかな。まぁ、彼女もそろそろ表舞台に出てきてもいいだろう。稲嶺くんが飛行機からの降下作戦を実現してしまったからなぁ。」
「あのヘタレが…」
「そう目の敵にしなくてもいいだろう。彼はとびっきり優秀だよ」
どことなくつかみどころのない元帥と千代音はただ静かに戦況を見つめるしか出来なかった。
ーー
「佐世保の状況は?」
「現在、戦闘が激しく充分な情報が得られないわ。敵は過去最大規模の艦隊のようね。元帥も無事よ」
「こっちから援軍は?」
「出すわけには行きません。敵は佐世保の警戒網を突破しています。敵の出現が予測できない以上、共倒れは許されません」
青波提督は歯噛みしながら伊勢と大鳳の話を聞く。武蔵を主力とする舞鶴艦隊がすでに救援に向かっているが間に合わないだろう。
「ねぇ、あなたに必要なのは冷徹さよ。軍人は国を護るのが使命。頭と心を切り離す時も必要よ」
「分かっている…」
「伊勢」
青波提督はこの状況においてさらに落ち込む。有能なのは間違いなのだがメンタルの弱さだけはどうも鍛えられなかったらしい。
「貴方は守りたいと思った人を守れる人にならなきゃいけない。後悔なんて…」
「伊勢…」
「忠告はそれだけ。貴方はここの指揮官、貴方が最善だと思うことを成しなさい。それが私たちの最善、それに従うわ」
冷静さを取り戻した青波は思考を巡らせる。鹿屋が墜ち、佐世保も切迫した状況。元帥もいる以上、本来なら救出に向かうべきだが付近の基地は敵の襲撃に備えて戦力を迂闊に動かせない。
「大鳳、攻撃隊はここからで往復できる?」
「可能です。爆弾を満載して絨毯爆撃の真似事は…他の空母とも連携を取ればですが。しかし爆撃後は即座に戦闘区域を離脱します」
「準備して。爆撃は一度きり、指揮は君に一任するよ」
「分かりました。手配します」
「伊勢、宿毛湾泊地に連絡を爆撃機発艦の間の警戒強化を」
「分かったわ」
青波はさらに詳しい情報を得るために通信室に足を運ぶのだった。
ーーーー
「状況は?」
「おう、厳しいな。鹿屋が墜ちた、佐世保に攻撃が集中してるだろうさ。そいつは?」
「俺が大本営から連れてきた飛龍だ」
「どうも」
「おう、とりあえず来い」
出迎えに来ていた天龍は校舎の地下に作られた通信室に案内する。そこにはメンバー全員が集まっていた。
「おや、提督。仕事をサボってデートでありますか?」
「笑えないな、あきつ丸。山城が見てるぞ」
「おぉ、怖い怖い」
ノイズだらけの通信をBGMに入室した稲嶺は全員の顔を確認する。特に天龍の表情は優れないものだった。
「天龍…」
「佐世保は墜ちるな…」
「…」
天龍の放った一言は何よりも重い。それは彼女のカンだ、だがあてずっぽうではない。これはもうだめだという彼女の経験から来るものだった。
「提督さん…」
「夕立。どうした?」
「私が殺ったやつらって全員死んだっぽい?」
「あぁ…」
「やっぱり黒幕が居たっぽい…」
「おい、どういうことだよ?」
夕立と稲嶺の会話に摩耶は疑問を覚える。それに対して二人はアイコンタクトで話を済ませる。
「夕立は佐世保時代に姉妹艦を含む三人を背後から雷撃し沈めている」
「え?」
「マジかよ…」
稲嶺の言葉に摩耶たちは驚くが一番驚いていたのは飛龍だ。まさか同じ境遇のものが居るとは思わなかったのだろう。
「ちゃんと殺した。私が殺したんだよ」
冷徹な夕立の表情に恐怖を覚えながらも全員は話を聞くのだった。
今作品の空母装備設定
和弓式…最も信頼度の高い装備。最初期に開発された装備だがいまだに現役を貫いている。信頼性の高い装備だが訓練期間はかなり長い。
ボウガン式…和弓の弱点であった片腕を喪失した場合でも発艦が行えるようにと開発された装備。ただ和弓より整備が難しく壊れやすい。
勅礼式…和弓と同時期に妖精さんによって開発された装備。だが適正者しか使用できない。仕組みが解析できない、艦娘の感情に強く影響を受ける点など兵器としての信頼性は低かった。
ライフル式…主にアメリカで開発されたタイプ。基本的にはボウガンと同じなのだがボウガンよりコストが高く、構造が複雑になっているため比較的に効率が悪い。なぜか国内では評価が高いが整備班からは不評であった。この中では一番、訓練期間が少ない。