呉鎮守府
深海棲艦の救出制圧から数日。前線となる基地たちに物資や兵員が送られ活気に満ちていた。通常の3倍ほどの人員が存在している中、間宮たちなどは死ぬほど忙しかった。
「ついに着いたか…」
「提督…」
「いや、分かってる。覚悟はしてるさ」
そんな中、琵琶基地のメンバーも輸送ヘリで呉鎮守府に到着。フル装備の艤装を身につけたメンバーたちを見て他の艦娘たちも注目する。
「提督、ちょっと行っくっぽい」
「あぁ、頼む」
そんな中、夕立は用事を済ませるために先に人混みの中に紛れていく。
「あれが琵琶基地の艦娘かぁ」
「様々な理由で飛ばされた艦娘たちの行き着く部隊」
「あれ、飛龍ってまさか…」
その中には飛龍の元同僚も居たが当の本人はばつの悪そうに稲嶺たちに着いていく。
「提督!」
「伊勢…」
嬉しそうに駆け寄ってきた伊勢。それに対して山城は鋭く睨み付けるが伊勢は気にせずに近づくと片ひざを立てて跪く。
「お久しぶりです。横須賀では挨拶が出来ませんでしたので」
「いや、無事で居てくれてなによりだ。傷は残ったままか…」
「私が望んだことですから…」
稲嶺は伊勢に視線を合わせると悲しげに顔に刻まれた傷をなでる。それを伊勢は嬉しそうに微笑む。
「どうも琵琶基地司令。稲嶺大佐、呉鎮守府提督の青波大佐です」
「初めまして。稲嶺です」
手を差しのべ、握手を求める稲嶺だが青波は無視する。敵意にも似た目をしている彼に仕方なしと稲嶺も手を納める。
「お久しぶりです。稲嶺少…いえ大佐」
「大鳳。久しぶりだな…」
「はい…」
前呉鎮守府提督であった稲嶺は前呉にて健在だった伊勢と大鳳と挨拶を交わす。
「メガフロートの事件以来だね。稲嶺くん」
「元帥…あの時はお世話になりした」
「ほう、捨て駒にされた相手に礼とは君も変人だな」
「その結果を望んだのは自分ですからね」
元帥の軽口に稲嶺も乗り笑みをこぼす。すると元帥の後ろから戦艦加賀が顔を出す。
「提督…」
「君は…そうか。てっきり死んだとばかり…」
「はい、鳳翔さんに助けていただきました」
加賀は元呉の一航戦であった。だが深海棲艦の大侵攻時にMIAと判断されていたのだが。
「生きていてくれて良かった…」
「空母としての機能は奪われてしまいましたがこうして生まれ変われました元帥に感謝しています」
「え、あの加賀さんなのですか」
今まで気づけなかった大鳳や伊勢は驚きながらも喜ぶ。それを稲嶺は喜びながら眺めていると元帥は話を続ける。
「状況は最悪だよ。深海棲艦の沖縄主力艦隊が九州に上陸した、あそこを橋頭堡として本土に侵攻するつもりだ」
佐世保を始めとする九州の主力基地の喪失で日本の戦力は3割を喪失している状態だ。
陸奥、比叡、ガングートを主力とする横須賀艦隊。武蔵、リュリューシュ、ウォースパイトを主力とする舞鶴艦隊。暁、ザラたちを主力とする大湊艦隊も現在、全力で南進中。
九州奪還作戦を開始するために日本の全戦力が投入されている。
「そして大本営の参謀の意見と私の意見は同じだ…。ここに呼んだのは君にしか出来ない事があるからだ」
「…やはり。これですか…」
稲嶺は腰に吊るしていた刀を持つと元帥の前に掲げる。それを見た天龍は察して驚く。
「まさか、再建造をするのか!」
「まぁ、条件は揃ってるでありますからなぁ」
あきつ丸もそれに気づいたようでウンウンと頷く。
「再建造ってなんだ?建造と違うのか」
「さ、さぁ…」
意味が分かってない摩耶は横にいた飛龍に聞くが彼女もよく分かっていない。
「再建造は再び建造するという意味だ」
「んなこと分かってるよ!」
「摩耶、再建造は沈んだ艦を再び建造する事を指すのです」
川内にバカにされたようで怒った摩耶だが不知火がすぐにフォローにまわる。
とある提督が沈んだ嫁艦を偲んでその遺品を媒介に建造を行った。すると沈んだはずの嫁が新たに建造されたという実例が発生した。艦娘は沈んだ戦艦たちの魂と仮定するのなら建造装置はその魂をサルベージする装置。沈んだはずの艦娘の魂をサルベージするというのも理論的には可能なのだ。
「ってこのはまさか…」
「日向の再建造をいってるぽい」
前回の深海棲艦大侵攻を食い止めた英雄。呉の日向をサルベージすると言っているのだ。元帥は。
「成功確率は0.12%今まで再建造出来たのは2艦。それまでどれだけの提督たちが再建造を試みたか…」
確率的にはかなり低い。だが元帥はそれを提案し稲嶺はそれを感じながらもこの呉に足を踏み入れた。
「英雄にすがりたい訳じゃない。ここに向かっている戦力で九州は充分に奪還可能だ。だが叢雲たちが報告に上げていた謎のヲ級、奴を止めなければ磐石とは言えない。だからこそそこに彼女に押さえて貰いたい」
「単艦での戦闘能力なら日向は誰にも負けません。ですが、分の悪い賭けですね」
「呉の大型建造装置を使いたまえ。すべて、用意してある」
「……」
「提督…」
黙り混む稲嶺を心配する山城。
「日向…」
稲嶺はただそう呟くだけだった。