提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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呉絶対防衛戦

 

「先見隊をここで潰す。ここでやられては九州奪還は夢のまた夢だぞ!」

 

 那智を中心とした岩川基地艦隊が九州より来襲した深海棲艦隊と激突。背水の陣である那智たちは決死の覚悟で戦闘を開始するのだった。

 

ーー

 

「岩川艦隊でなんとかなりそうでありますな」

 

「奴は居なかったか…」

 

 援軍として横須賀艦隊も呉からは佐世保のドイツ艦隊も動き始めている。これほどの戦力ならなんとかなるだろう。あきつ丸や天龍たちは例のヲ級のために備える。

 

「いえ、奴は来るでしょう」

 

「その時は俺たちで対処するのか…」

 

 メガフロートでボコボコにされた記憶を思いだし憂鬱になる摩耶。

 

「心配するな、そのための特訓だっただろうが」

 

「そうですね…」

 

ーーーー

 

「さぁ…いくぞ」

 

「えぇ」

 

 天龍たちの予想通り、ヲ級たちも呉戦線に到着していた。だがそれは主戦場から遠く離れた場所。しかしそのヲ級の目の前には既に艦娘たちが立ち睨みを効かせていた。

 

「貴方ね。鹿屋を壊滅させたのは」

 

「……」

 

「そう、なら遠慮はしません!」

 

 扶桑を中心とする残存の鹿屋艦隊は仲間や提督の仇を討たんと構える。

 

「屠れ…」

 

 それに対してヲ級艦隊も迎え撃つのだった。

 

ーーーー

 

「きゃ!?」

 

「綾波!」

 

 巡洋戦艦と化したネ級の砲火に綾波がやられる。だが扶桑に仲間の死を悼む暇はない。ヲ級によって全ての砲塔が破壊されいたぶるように痛め付けられる。

 

「っ!」

 

 サラトガの甲板偽装砲により筑摩が吹き飛ぶ。圧倒的不利な状況、だな退けない。呉を岩川を鹿屋の二の舞にしてはいけない。そんな使命感が扶桑を突き動かす。

 

「まだ腕があるわ!」

 

「なら死ね…」

 

「わりぃ、遅れた」

 

 腕を振り上げる扶桑と剣を構えるヲ級。だがその間合いに割り込んだのは天龍。ヲ級の剣を弾くと蹴りを入れる。だがヲ級もそれを防ぎ後退する。

 

「借りは返すであります」

 

「っ!」

 

 そんなヲ級の背後から現れたのはあきつ丸。彼女の剣激を受け流し肘打ちで殴り飛ばす。

 

「メガフロートの奴らか…」

 

「俺さまは天龍。ふふ、怖いか」

 

《増援!?》

 

 驚くネ級に接近する影。ネ級は腕に備えられた砲を向けるが腕を捕まれ投げ飛ばされる。そのまま海面に叩きつけられ声にならない悲鳴をあげる。

 

「やるじゃねぇか」

 

「伊達に隠密はやっていないもので…」

 

 ネ級を投げ飛ばした川内は手を払いながら立ち上がるネ級を見つめる。

 

《流石は軽巡最強の艦娘…》

 

 赤いオーラを漏らしながら対峙するネ級に川内は静かに構えて迎え撃つ。

 

「悪いな、ここは私たちが相手だ」

 

「貴方は摩耶、不知火ね」

 

「おう」

 

「そうです」

 

 流石のサラトガもこの二人を相手にして油断など出来ない。

 

《ヲ級さまたちの援護を!?》

 

《ぐわっ!?》

 

 その他の随伴艦たちも加勢しようとするが空から襲いかかる艦債機たちに阻まれる。

 

「ここは倒さない!」

 

 飛龍の精鋭たちが足止めを行い。琵琶基地艦隊は万全の態勢を整える。

 

 ついにヲ級艦隊対琵琶基地艦隊が再激突。主戦場から離れた場所で決死の戦いが始まるのだった。

 

ーーーー

 

「千代音さん!」

 

「夕立か!?」

 

 その頃、夕立はやっとのことで千代音と再開を果たしていた。

 

「おまん、どうしてここに」

 

「はやく、酒匂とプリンツ・オイゲンを拘束するっぽい!」

 

 夕立の言葉に千代音は驚愕の表情を浮かべる。何故かという言葉を彼女は飲み込み答えに至る。

 

「やはり、クロスロード作戦」

 

「提督さんは敵にサラトガが居たって」

 

 なぜ佐世保のプリンツと酒匂なのか。その理由はある、これは稲嶺が可能性の一つとして地下の通信室で話していたことだ。佐世保のあの二人だけドロップ艦だということ。

 

「やはりおまんが姉妹艦を沈めたのは毒されとったからか…」

 

 千代音もその考えはあった、だが信じたくなかった。提督として家族として接してきたからだ。

 

「酒匂は中国地方の基地じゃ。プリンツはすぐに呼び出す」

 

 千代音はそう言うと通信でグラーフを呼び出す。

 

「なんだ、提督」

 

「プリンツはどこじゃ?」

 

「ビスマルクと一緒に補給に行っているが」

 

「分かった」

 

 そう言うと次もすぐにビスマルクに通信を送る。

 

「ビスマルク、今どこじゃ?」

 

「……」

 

「ビスマルク?ビスマルク!」

 

 ビスマルクから応答がない。アイツは抜けているところがあるが間抜けではない。その応答で全てを察した。

 現にビスマルクは意識を失い、地に伏していた。

 

「……」

 

「ごめんなさい、お姉さま」

 

「夕立、工廠じゃ!」

 

「ぽい!」

 

 このタイミングでプリンツが動く理由、それは日向の破壊。それが目的なら納得がいく。だがあそこには作業中の明石含め、山城と伊勢がいる。簡単にはいけないはずだ。

 

「警報をならさんかい!」

 

「はい!」

 

 千代音の言葉に部下は素早く警報を鳴らすのだった。

 

ーー

 

 工廠ではけたましく警報が鳴り響き緊急事態を知らせる。

 

「なんだ?」

 

「どうもみなさん」

 

「プリンツ・オイゲン…」

 

 工廠に入ってきたのはフル武装のプリンツ・オイゲン。彼女の登場に伊勢と山城は戦闘態勢に入るが艤装は整備倉庫の中だ。彼女たちは生身に限りなく近い。

 

「関係者以外立ち入りは禁じているはずよ」

 

「嫌だな、伊勢さん。そこを退いてくださいよ」

 

「伊勢、退きなさい。私が殺す」

 

「酷いですね」

 

 殺気を隠さないプリンツに同じく殺気で返す二人。日向の建造まで30分を切っている。護りきれさえすればなんとかなる。

 

「待て…」

 

「っ!?」

 

 凛とした女性の声に伊勢と山城は固まる。プリンツの背後にいたのは呉の長門。彼女もまたフル武装でこの工廠に来ていた。

 

(長門まで…)

 

 火力、装甲共に伊勢と山城を上回る性能を待つ長門の登場に二人は戦慄する。艤装がない状況下での戦闘は不利すぎる。これはヤバイ。

 

ーーーー

 

 その頃、天龍たちも苦戦を強いられていた。

 

「くっ!」

 

「てりゃ!」

 

 互いの得物がぶつかり火花を散らす。天龍とあきつ丸の二人を相手にしてもヲ級は対等。いや、やや有利に戦闘を運んでいた。

 

「えげつないでありますな!」

 

「死ね」

 

「ありゃ」

 

 ヲ級はあきつ丸の眼前にショットガンの銃口を向ける。前回とは違った武装に虚を突かれた彼女は反応が出来ない。

 

「あきつ丸!」

 

 天龍は即座に剣を投擲。銃口を逸らさせるがその反動を利用してヲ級が天龍の首めがけて剣を振るってきた。

 

「やべ…」

 

「天龍殿!」

 

(槍でも間に合わねぇ)

 

 龍田の槍を抜刀するにも時間が足りないし剣を投擲した直後のため体のバランスも崩れている。回避するにもバランスが崩れたこの状態では避けられない。

 

「なに!?」

 

「おぉ!」

 

 だが天龍はその刃を止める。決して避けられない首への一撃を噛みついて受け止めたのだ。口での真剣白羽取り、接近戦のプロフェッショナルである彼女のみが導き出した選択。

 

(片目だというのになんという動体視力と咬合力)

 

 ヲ級が感心していると天龍はヲ級の手首を蹴り上げ、剣を空中に飛ばす。天龍はヲ級の黒剣をヲ級は天龍の対艦刀を持って再びぶつかる。

 

(かるっ!)

 

(重い!)

 

 二人は互いの得物の違いに驚く。ヲ級の黒剣は軽く剣速を高めることに特化した仕様だ。重心も手元近くにあり、切り返しをしやすくしてある。

 対して天龍の刀はフルカスタム品であり通常の天龍の刀とは雲泥の差がある。天龍の刀はトップヘビー型の刀。日本の刀のように刃の切れ味で切るのではなく。中国の青竜刀のように刀の自重で切り裂く剣だ。そのため、剣の重心が剣先になっているのだ。

 

 互いに相反する剣を手にし動きが鈍る。長年体に染み混ませてきた感覚とのズレに苦しむ。

 

「ちっ、余計におかしくなっちまった…」

 

「くっ…」

 

 口の端が切れて血を流す天龍に対してヲ級はいまだに無傷。これは流石にキツくなってくる。

 

(ちっ…思ったより場数踏んでやがる…)

 

(これほどの強者と出会えるとは…やはり生きていてよかった)

 

 他の血肉を喰らいながらも生き長らえた意味があるというもの。ヲ級の中にあるものは乾期と興奮のみ。戦いが彼女を研ぎ澄ましてくれる。

 

 再び激突する両者。まだ戦闘は始まったばかりであった。

 

 

 


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