提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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深海刀棲姫

 

「天龍!」

 

「バカが来るな!」

 

「まずは一人…」

 

 先程とは速度も圧力もまるで違う。動揺している叢雲では無理だ、そんな天龍の思考とは裏腹に狙われたのは天龍。絶対の間合いに入り込まれた天龍は対応できずに右腕も奪われる。

 

「ぐっ!」

 

「天龍!」

 

 暁の援護も虚しく再度の接近を許す天龍。足の甲にそなえつけられた隠し刃で剣を防ぐ。

 

「流石は古参。戦場を知っている」

 

「ありがとよ!」

 

 艤装での砲撃を行いながら後退する天龍。両腕を失った彼女に前線で戦う能力は備わっていない。後退は懸命な判断だ。

 天龍の追撃を行いたい深海刀棲姫だが暁の錨に阻まれてうまく動けない。

 

「残念ね。そう簡単にはこの錨からは逃げられないわ」

 

「ちっ!」

 

 深海刀棲姫は錨の鎖を掴むと渾身の力で引っ張ると暁が巻き込まれ上手く釣られる。空中に放り出されながらも砲撃を全て直撃させる暁。だが姫が持つバリアの様なものに阻まれる。

 

「くっ、火力不足か!?」

 

「天龍、龍田。借りるわよ!」

 

 叢雲は龍田の槍の刃を加熱させると投擲。錨の鎖を破壊する。

 

「助かったわ!」

 

「早く退いて!」

 

 逃げるように言う叢雲。だが暁はまだ飛んでいる、彼女の意思で動き回ることは出来ない。

 

「逃げられるかな?」

 

「私たちを舐めないで!」

 

 深海刀棲姫の砲撃。暁は第一波砲撃を自身の砲撃で撃ち落とす。

 

「ロケットアンカー!」

 

 アンカーに装備された怒りが高速回転、第二波を防ぎきる。奴の砲塔は2基、これで防ぎきったはずだ。

 だが深海刀棲姫はこれだけでは終わらない。砲弾の迎撃にて生まれた爆煙を目眩ましに落ちてくる暁に向けて刀を構える。

 

「あれは、日向の一閃!」

 

 腰を限界まで落とす。構えとしては脇構え、だが刀身を隠さずに見せつけるように大きく構える。体を極限までに曲げ、体がミチミチと奇妙な音をあげる。渾身の力で必殺の一撃を加えんとする構え。薩摩の示現流を彷彿とさせる。否、それそのものだ。

 

「暁!」

 

 叢雲による槍の全力投擲、体勢さえ崩せれば暁の勝利は確実だ。

 

「くっ!?」

 

「……」

 

 叢雲の槍が刀棲姫の肩に深く突き刺さるが彼女はは微動だにしない。

 

「叩き殺す!」

 

「チェスト!!」

 

 それを爆煙の僅かな乱れで察した暁は深海刀棲姫に向けて錨を射出する。刀棲姫の剣がこの錨で一番頑丈な中央部に当たるように。

 

「……」

 

「……」

 

 お互いの一撃が交錯し暁は無事に海面に着水すると遅れて暁の艤装が海面に落ちる。一拍置いて暁の錨が鎖もろとも真っ二つになり、バラバラになる。

 

「暁…」

 

 その二人を見守る叢雲と天龍。対して刀棲姫は右目からヒビが生まれると顔の右側が派手に砕け散る。

 

「なにしてるのよ叢雲!早く天龍を連れて逃げなさい!」

 

 その瞬間、暁の体から大量の血液があふれでる。

 

「っ!」

 

「はや…く……」

 

 倒れる暁。止めを刺そうと歩み寄る刀棲姫。叢雲も慌てて駆けつけるが間に合わない。その時、刀棲姫のすぐそばで爆発が起きる。

 

「なに?」

 

「各員、すみやかに撤退してください!」

 

 声を出したのは飛龍。飛龍は持てる全ての艦債機を持って刀棲姫に集中攻撃を行う。

 

「各員、煙幕を焚くんだ!」

 

 飛龍の援護と川内の指示で不知火たちも速やかに撤退行動を開始する。

 

「くそこえぇな!」

 

「早く逃げますよ…」

 

 煙幕が焚かれる中。摩耶は暁を、不知火は暁の艤装を担いで撤退する。残念ながら暁が持つ二つの錨は海底だが命あっての物種なのだ。仕方がない。

ーー

 

《追撃しますか?》

 

「いい、それより補給と修理だ。一時撤退しよう」

 

 そう言うと刀棲姫は持っていた刀を眺め、納刀する。

 

「あの駆逐艦…」

 

《はい?》

 

「背中の艤装をパージして致命傷を避けた」

 

 あの時、彼女が放った一撃が直撃すれば彼女は一瞬で真っ二つになっていただろう。それを重症に抑えたのだ。彼女は最善の判断で最悪の結果を避けた。その上、切断された錨で顔面を砕かれた。尊敬に値する判断力と技量だ。

 

「まだ向こうにはあれほどの猛者がいるのか…」

 

 刀棲姫は楽しそうに表情を歪める。

 

《っ!ヲ級さま、付近の部隊から連絡が。離島様が出撃されたそうです!》

 

「なに?」

 

ーーーー

 

「提督さん!」

 

「夕立か!」

 

 その頃、工廠では復帰した日向の修復作業が行われていた。プリンツの方も長門に制圧され行動不能となっていた。

 

「遅いわよ」

 

「ごめんなさいっぽい…」

 

 艤装を取り出すのに時間がかかったとはいえ状況がすでに終了しているとは。長門の活躍のお陰だが夕立は初めて見る日向に息を飲む。好きなく鍛えられた体が黒インナー越しからでもよく分かる。間違いなく彼女は強い艦娘だ。

 

「少しずつよ。希釈してゆっくりかけるのよ」

 

「分かりました」

 

 明石と夕張が慎重に日向に高速修復材をかける。

 

「あぁ、沁みるなぁ」

 

「普通なら泣き叫んでいる痛さだと思いますけどね」

 

「まぁ、日向は痛みに関してはめっぽう強いからな」

 

ーー

 

 日向の修復作業を行っている頃。大本営の会議室では参謀が不機嫌そうに叫んでいた。

 

「なぜだ!我々は約束を守ったではないか!」

 

「九州ノ件ハ感謝スルワ。デモ私ハ日本ソノモノガ欲シイノヨ」

 

「なぜ日本に拘る?」

 

「他国ト陸デ繋ガッテイル国ナンテ奪イ返サレルデショ?我々ガ足場ヲ築クノニチョウドイイ広サナノヨ」

 

 通信の先に居るのは現在、呉に向かっている離島棲姫。大本営の一部は取引を行っていた、九州を与える代わりに今後、日本の領土を侵害しない条約を。

 

「そんな、条約違反だ!」

 

「我々ハ人間二アラズ。ソウ定義シタノハ貴方タチ人間様デショ?化ケ物二条約ナンテ関係ナイワヨネ」

 

「そんな…」

 

 佐世保に対艦娘用の爆弾を送りつけたのも全て彼ら。そのせいで瑞鶴を初めとする艦娘たちが大ケガをした。

 

「無様ですね。これで貴女方は海のゴミにも我々人間にも見捨てられたわけです」

 

「げ、元帥の加賀か!」

 

「沖縄に対する攻勢も全ては佐世保の力を削ぎ、そこにいる元帥を殺すためでしたか。やはり、その手に引っ掛かってしまった我々も我々ですが…」

 

「鳳翔…」

 

 残念ながら元帥は信じようとしていたようだが。それも今、無駄な努力になってしまった。

 突然の登場に動揺した参謀だが少し頭を冷やして二人を見ると加賀の服になにか赤いものがこびりついている。

 

「ま、まさか…」

 

「深海棲艦に与する人間は人にあらず。死になさい」

 

「まて、私が奴等と粘り強く交渉してきたから今までの五年間。全面戦争にならずに済んだのだ!私が居なければ誰が奴等の交渉をしていくのだ!」

 

「交渉など不要です、化け物は狩り尽くさなければなりません。和解など不可能、我々はもうその段階まで来てしまったのだから…」

 

 有無すら言わせないと言わんばかりの加賀はゆっくりと参謀に近づく。

 

「鳳翔!お前なら分かるはずだ、戦争は落とし所が大切なのだと!このまま全面戦争に移行すればもっと多くの血が流れることになるんだぞ!」

 

「過去は繰り返してはなりません。我々には勝利しか目指してはならないのです。多くの血に報いるためにも…全て中途半端に終わらせてまた戦争が始まるかもしれないと言う恐怖の中で怯え続けるのですか?」

 

 静かに広がる鳳翔の目は据わっている。

 

「憎しみを抱えたまま生き残ってしまう悲しみを、虚しさを。貴方は分かっていない。どうしようもない、泣くことも、狂うことも許されない生き残り達の無念を、貴方は知らないのです」

 

「待て、待て!」

 

「さようなら参謀長。早く死ねて良かったですね」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 参謀の断末魔を聞きながら鳳翔は思案する。日向の件も恐らくは向こうに筒抜けだ。参謀は日向を復活させてすぐに殺したかったのだろう。二度目の復活は出来ないはずだと。だから稲嶺を呉に行くように差し向けたのだ。

 

「まだ間に合います。すぐに呉に戻りますよ」

 

「分かりました」

 

 用事を済ませた二人はさっさと部屋を退出する。そして元帥の待つ呉へと急行するのだった。

 

ーーーー

 

《やはり正攻法でも裏でも上手くはいかないわね》

 

《離島様。先見隊が全滅しました》

 

《でしょうね》

 

 那智たちの必死の防戦とガングートや陸奥の参戦により先見隊は全滅させられた。それを予見していたかのように離島は笑う。

 

《日向が元気になる前に呉に上がるわよ》

 

《はっ!》

 

《ついにこの忌々しい国を奪うときが来たのね!》

 

 高笑いをする離島は笑う、笑う。さぁ、目標はすぐそばだ

 

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