「よし、ここらはだいぶ片付いたな」
「呉に合流します。横須賀艦隊は…」
「逃ガサン…」
先見隊を撃破した横須賀艦隊たちは呉鎮守府に向かおうとするがその進路上に敵艦隊がさらに出現。深海鶴棲姫を含む艦隊が陸奥たちの前に立ちふさがる。
「殲滅、撃滅、蹂躙だ!このガングートに続けぇ!」
「урааааааааа!!」
「比叡、全力援護よ!」
「分かりました!気合い、いれて、沈めぇぇ!!」
深海主力艦隊と激突した横須賀艦隊を含む艦隊は再度戦闘を開始する。
ーーーー
「くそっ、あの野郎。次こそは俺が…」
「そんなこと言ってないで傷を直してください!」
最後のファーストシリーズである三人のうち二人が重症を負い。呉に帰還。まさかの状況に他の艦娘たちも動揺する。
「叢雲、なにがあったんじゃ!」
「日向に会ったわ。日向を殺した奴、そいつがあのヲ級よ!」
「ヲ級だと?」
叢雲の言葉に驚く千代音。すると日向も駆けつけ状況を聞き出す。
「日向、貴方復活したの?」
「私を殺した深海棲艦は深海海月姫という奴だぞ」
「そんなの知らないわよ。でもあいつはヲ級で今は貴方と同じ顔をしているのよ!」
「日向と同じ顔?」
あまりにも不可解な報告に全員が困惑するが叢雲はこんな状況では嘘をつかない。ただ事実は天龍、暁、叢雲の三人を退けるだけの戦闘能力を持った敵が居ると言うことだ。
「この音…」
そんな時、金剛は違和感を感じて耳を研ぎ澄ます。
「Get down !」(伏せろ!)
その言葉と同時に全員が伏せる。その瞬間、超長距離砲撃が呉軍港を襲う。反応出来なかった艦娘が吹き飛ばされ倉庫が爆散する。
「前線が突破されたのか?」
「違います、前線が足止めされてるんです!」
そう言うと赤城が素早く艦債機を発艦させる。空には敵の艦債機が待ち構えドックファイトを開始する。
「いったいどこから?」
「前線を海底で移動してきたんじゃろう。呉の位置は変わらんからのう。砲撃は可能じゃろう」
「またここまでの侵入を許すなんて…」
このままでは佐世保の二の舞だ。だがここにはまだ呉、佐世保の主力がいる。とれほどの戦力だろうと押し返せるはずだ。
「サア、国取リヲ始メマショウカ」
「これは笑えないでありすな」
先頭に現れたのは離島、その取り巻きと思えるものはどれも質の高い戦力。鬼や姫も多数混ざっている。
「起きて早々、最終決戦か。中々、キツいな」
「日向、貴女ハ確実二殺ス」
「そうか、殺して見せろ」
「行ケ」
「これが最後の決戦じゃ。功名を上げよ!」
「「「うおぉぉぉぉ!」」」
深海棲艦 極東艦隊と日本主力部隊がついに激突するのだった。
ーーーー
「本当かぁ!」
《はい、本当です。離島様は日向を確実に葬るために前線に…》
離島直属の奴から状況を聞き出した深海刀棲姫は苦しむツ級を離す。
「あの野郎。日向は私の獲物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
刀棲姫の咆哮にその場にいた者、全てが息を飲む。サラトガさえもその迫力に言葉を失う。
「離島。許さん、許さんぞ!私に日向のことを報告せずに勝手に葬ろうとするとはぁ!」
《ヲ級さま…》
「ネ級、すぐに呉に向かう。日向と戦うのはこの私だ!」
《は、はい!》
苛立ちげにツ級の顔面が刀棲姫に踏み潰され無様な悲鳴を上げる。オーラを全開にした刀棲姫は呉へと進軍するのだった。
ーー
「くっ!」
呉に駐留していた全ての戦力が離島の部隊とぶつかる。そんな中、日向は集中砲火に合っていた。
「俺のことは気にするな日向。このままではお前が死ぬぞ!」
「大丈夫だ。私は頑丈だからな」
現場にいた稲嶺に対して攻撃を行ってくるのに対して日向は防戦一方だ。琵琶メンバーも奮戦しているかいかんせん数が多い。対応しきれなかった。
《ははっ!人間は簡単に死ぬ、憐れね!》
「抜刀……」
「……」
日向の表情が濁り始めた頃、レ級3体が同時に真っ二つになる。伊勢の神速の抜刀術、それを囮にして山城が離島を殴り飛ばす。
《この!》
激昂した離島は髪を自在に動かし山城の右腕を拘束する。
「っ!?」
《馬鹿ね》
「それはそっちだろう?」
日向の一撃が離島の首を掠める。念のために致命傷となり得るところは全て装甲を強化している。皮一枚とはいえ、あっさりその装甲が切断された。
「二人とも、ここは頼むわよ!」
「任せろ!」
急いで司令部に戻る伊勢。そこには指揮を執っている青波が居るはずだ。呉司令部と艦娘の艤装格納庫は遠い。もしかしたら雑魚辺りが突破しているかもしれない。伊勢は全力で走る。
「バーニング、パーンチ!」
《!?》
南方棲鬼と金剛が互いに顔面を殴りあい、南方が吹っ飛ばされるがすぐに捕まる。
「歓迎するネ!」
《!!》
南方のツインテールを掴みタコ殴りする金剛。
「さ、流石は鬼の金剛」
「みな、金剛姉さまに続け!」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
榛名先陣に呉、佐世保部隊も戦闘に熱が入る。互いの雄叫びで恐怖を消しあい、進む。
「制空権はお任せください!」
「うじゃうじゃと、叩き落としてやるわ!」
「呉の空を汚すことはこの大鳳が許しません!」
「これ以上、奴らの好きにさせてたまるか!」
赤城、瑞鶴、大鳳、飛龍を中心とする空母たちの艦債機が獅子奮迅の働きを見せ呉で奮戦している艦娘たちを護る。
「第2、第16陸戦隊。通信途絶!」
「第四遠征隊からも通信が帰ってきていません!」
「味方損耗率一割を越えます!」
「第三水雷戦隊から救援要請!」
「戦力は出し尽くしている。現場で持ちこたえろと伝えろ!」
「まずいね」
「まだです呉はそう簡単に墜とさせません!」
悪化する戦況。司令部にいた青波と元帥はこの状況に歯噛みしていた。
「基地守備隊第2隊、突破されました!」
「ここに来るぞ、総員待避!司令部を移す!」
司令部死守をしていた隊が敵に突破された。もうこちらを護る壁はない。
《総員待避!繰り返す、総員待避!各自の生命の守備を第一とせよ!》
「元帥も早く!」
「いや、もう遅いな」
「え?」
壁を突き破ってきたのは戦艦水鬼ー壊ー。二頭の怪物を引き連れて青波たちの前に姿を現す。
(死ぬのか…)
「うわぁぁぁ!」
あまりの光景に何も出来ない青波。それと同時に伊勢が現れ戦艦水鬼を殴り飛ばす。
「伊勢か!」
「もう何も失ったりしない!全門、放てぇ!」
「グウォォォォ!」
弾が直撃し戦艦水鬼の艤装が悲鳴を上げる中、水鬼本体は伊勢を殴り飛ばす。奴は全てがパワーアップされた特別仕様、装甲もパワーも桁違いだ。
「なめるなぁ!」
互いに掴みかかりながら殴り、砲撃を繰り返す。その間に司令部にいたものたちはすぐに逃げ出す。それを青波は逃げることなく見届けんとその場から動かない。
「せりゃぁ!」
伊勢の切り飛ばした水鬼の腕が壁に張り付きあたりを青い帰り血を飛ばす。
「伊勢…」
青波は見る。愛する女の背中を、決して届かないその背中をただ見つめる。
(あぁ、あと少し産まれるのが早ければな…)
欲しいものは全て勝ち取ってきた。努力を重ね、苦汁を何度も舐めてここまでたどり着いた。だが彼女だけは決して来てくれない。これが恋というならば。
(一生叶わぬ恋か…)
あの気高い背中を見つめることしか出来ない青波は静かに拳を握りしめるのだった。
ーーーー
《貴方を殺し、呉をいただく。これで世界は我々のもになる!》
「ノコノコと前線に出てきたことを後悔させてやる!」
鬼より進化した離島棲姫の力は凄まじいものだった。髪や手に持つ杖を自在に操り、艦債機を操り、日向たちを追い込んでいく。
多種多様な攻撃手段に攻めの手が出せない。
(だが、やれる!)
日向が前に出た瞬間、激しい爆発が彼女を襲う。
「なに!?」
「地雷?」
「違う、小型の砲台だ!」
よく見れば、足元に小さな砲台が日向をも囲むように展開されている。
「くっ!」
《さぁ、死ね!》
小型とはいえ砲台は砲台だ。日向は傷つき、ボロボロになっていく。
《私の世界に英雄はいらない!》
「ちっ!」
日向の刀が砲撃で弾かれ飛ばされる。それを見て離島は目を細め、勝利を確信する。彼女は搦め手というものにめっぽう弱い。単純に強かったのが原因なのだがなんでも正面突破しようとするのは昔からの癖だった。
《この世界には神はいない!》
「くっ!」
日向のピンチに稲嶺が叫ぶ。だが離島の硬化された髪が彼女に向けられ、日向を殺さんと殺到する。
「日向ぁ!」
その瞬間、離島の艤装に備えられた砲が吹き飛んだ。驚きの事態にその場にいた者全てが驚く。離島の後ろにいたのは刀棲姫、彼女は手にしていたショットガンを放ちながらこちらに迫ってくる。
《どこの同胞だ!》
艤装、脇腹、腕を撃ち抜かれ苦悶の表情を浮かべる離島。近づいてきた刀棲姫を迎え撃とうと砲を構えるが顔面を掴まれ倒されると顔面を蹴り飛ばされる。
「私との約束を反故にしたな!私の許可なく日向を殺そうとしたな!」
《貴方、まさかヲ級!?》
なす術もなくボロボロにされる離島。完全に主導権を握られ、蹴られ、殴られ、撃たれた彼女は刀棲姫の暴力に耐えるしかなかった。
《この私を誰だと!?》
「貴様は越えてはならん一線を越えた…」
ショットガンを静かに離島の腹に向ける刀棲姫。
《よせ!》
ズガン!
ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン!!
穴だらけになった離島を見下ろし、弾切れになった銃を捨てる。
「さぁ、久しぶりだな。日向」
「お前は…あの時のか……」
「その通りだ。会いたかったよ、お前に」
「私は二度と会いたくなかったがな」
先程の喧騒とはうって変わり静かに、睨み合う二人。日向も損傷しているが刀棲姫も顔面を砕かれ損傷している。
「さぁ、私を殺してくれ。戦って殺せ、お前たちのような猛者を待っていたんだぁぁぁ!」
狂ったように叫ぶ刀棲姫。日向を援護するようにあきつ丸たちも集合、対峙する。
「いやぁ、まさに最終決戦でありますな」
「殺すっぽい?」
「ええ、流石にあれを捕まえるのは無理でしょう」
自身の得物を構える艦娘たち、それと対峙する刀棲姫は刀を抜きいつでも戦える体勢を整えていた。
「全く、私は起きたばかりなのだが……行くぞ」
「来い!」
呉軍港。最大の防衛戦が今、始まるのだった。