注意!
※今回は特にグロテスクな表現が多いです。お気をつけてください。
「ふっ!」
「つっ!」
激しい剣撃が何度もぶつかり合い火花を散らす。日向と刀棲姫、互いに手も足も止めることなくぶつかり合い周りが完全に置いていかれていた。
「援護しなければ!」
「各員、構え!」
二人が離れた瞬間。駆けつけた大和を初めとする艦娘たちは刀棲姫に向けて砲撃。周辺にまんべんなく弾をぶちこむ。
「やったか?」
「馬鹿者、手を出すな!」
大和を含む大火力砲撃、無事では済まないはずだが。奴は止まらない、爆煙に紛れて接近した刀棲姫は大和らに肉薄し刀を振るう。
「まさか!?」
艤装を一瞬で解体され切り裂かれた大和は言葉を発する暇すら与えられず倒れる。
「よくも大和を!」
「煩わしいな…」
駆けつけたのは長門。長門の高速の拳が刀棲姫に迫るがそれでも遅い。刀棲姫は一瞬で刀を持ち変え、長門の腹に突き立てる。
「んぐ!?」
「倒れんか…面白い…」
「ビックセブンを侮るな!」
長門の一撃が刀棲姫に直撃、吹き飛ばされ刀からも手を離してしまう。腹に刀が突き刺さろうとも長門は止まらない。長門の拳は一撃、一撃が重く受ける刀棲姫も苦悶の表情を浮かべる。
「私も…舐めるなよ!」
刀棲姫は長門の一撃をかわすと突き刺さった刀に一撃を加える。
「んぐぅ…」
「これ以上はさせん!」
「忘れないでっぽい!」
「いきます」
「いくぜぇ!」
思わず吐血し倒れ混む長門。それと同時に川内、夕立、不知火、摩耶が動く。川内の大跳躍からの重力を味方につけたかかと落としを片膝をつき、頭上で両腕をクロスさせ受ける。
「っ!」
「下がるであります川内!」
刀を逆手に持ち高速で迫るあきつ丸。足を固定された川内はそのまま投げ飛ばされあきつ丸の所まで飛んでいく。
「ヤバイであります!?」
「くっ!」
あきつ丸は刀を止められない。川内はクナイを袖から出すとあきつ丸の刀をなんとか止める。
「殺す気か…」
「申し訳ないであります」
謝っている間にも刀棲姫は迫ってくる。あきつ丸はなんとか避けたが川内が対応しきれずに腹に思い蹴りを受けてしまう。
「がはっ!?」
「くそっ!」
誤射覚悟で砲を向ける摩耶。その瞬間、砲塔にクナイが突き刺ささり爆発する。それを目眩ましに不知火が接近するも川内のクナイで切り刻まれる。
「くっ!?」
「不知火!?」
夕立の気が逸れた一瞬を契機に後ろ回し蹴り。それは彼女の頚椎に直撃、息を無理矢理止められ地面に埋められる。
「なんだこの化け物は!」
刀を奪ったとしても強さが変わらない。接近戦において刀棲姫は艦娘を凌駕する実力を兼ね備えていた。
「ヤバイであります!」
「行かせん!」
夕立たちを手早く片付けた刀棲姫はあきつ丸に迫る。日向も迎撃するが地面を転がって避けられ接近を許してしまう。
「リーチは有利なはずなのに!」
クナイ相手に完全に押されているあきつ丸。刀棲姫を飛ばそうと力一杯刀を振るうあきつ丸。だが振るおうとした瞬間、柄を蹴り飛ばされ刀が上に飛ばされる。
「っ!」
その瞬間、あきつ丸は眉間を切られたまらず退避する。時間遅れで眉間から垂れてきた血が視界を阻害する。
慌てて血を拭うがすでに遅い。刀を回収した刀棲姫はあきつ丸を鋭く切りつける。
「がはっ!?」
力なく膝から倒れるあきつ丸。彼女は底知れない敵に恐怖を抱きながら倒れていくのだった。
ーーーー
「こんな奴に…勝てるの……」
「勝てる、傷が再生するような化け物じゃない。傷つけば傷つく、それだけで十分だ」
暁の件からすっかり弱気になっている。叢雲に対して日向は笑みを浮かべながら刀を構える。不謹慎なのはわかっている。だが笑みは押さえられない。日向という武人にとっては刀棲姫は最高の獲物だからだ。
「そうだ日向。私とお前は同じだ、戦うために作られ、戦いに価値を見いだす。死すら我々には障害にならない!」
「……」
刀棲姫のおかげてこちらの主力はズタズタだ。それに刀棲姫の活躍に応じるように敵の増援が止まらない。
「行くぞ…」
「来い。我が宿敵ぃ!」
ーーーー
「はぁ…」
刀で戦艦水鬼ー壊ーに止めを刺した伊勢は大きくため息をつく青い返り血を浴びた彼女は疲れたようにため息をつくとその場に座り込む。
「伊勢、無事か?」
「なんとか…別格に強かったわ」
体も四肢もボロボロにされた伊勢はもう身動きが取れない。
(日向…今度こそ、提督を悲しませないでよ)
ーーーー
「山城、稲嶺を頼む」
「もうやってるわよ…」
日向は振り替えることなく稲嶺を気配で感じる。山城に守られた稲嶺も黙って彼女の背中を見つめる。
「ありがとう…」
そう言うと日向は消える。文字通り消えた、それは日向が人の動体視力を越える動きを始めたということだ。
日向の神速の突き、あれは伝説の三段突き。それを刀棲姫は受けきり、いなす。
体勢を崩しながらも必殺の横凪ぎを放ってくる刀棲姫だか日向も体勢を深くしてかわす。すると少し離れた街灯が真っ二つに裂ける。
「斬激を飛ばした…」
渾身の一振りを避けられ本当に体勢が崩れる刀棲姫に彼女はそのまま腹に向けて頭突き。
「がはっ!」
「ぐっ!」
腹の装甲を砕かれたが彼女も黙っていない。日向の腹に膝を叩き込むと彼女も咳き込む。
追撃を加えようとする刀棲姫だったが日向のクロスカウンターで砕けた顔面がさらに砕ける。
(視界が!?)
「逝け…」
さらに回し蹴りが顔面に直撃しよろめく刀棲姫。それを見るとすぐさま刀を構えてその腹に刀を突き刺す。
盾を構えるもそれごと貫通した刀は彼女の腹に突き刺さりガントリークレーンの鉄骨に縫い付けられる。
「ああぁぁぁぉぁぁぁぁ!」
「………」
絶叫する刀棲姫、それを見て見ていた艦娘たちも喜ぶが日向は一切表情を変えずに立っている。
「日向!」
瞬時に状況を理解したのは稲嶺。よく見れば日向の脇腹にも刀が深々と突き刺さり血溜まりを作る。
「うっ…」
片膝を着いてしまう日向に対して絶叫しながらも笑みを浮かべる刀棲姫。彼女は腹と左腕に突き刺さる刀を掴むとゆっくりと引き抜く。
「素晴らしい!ここまで追い詰められるなんて、日向。やはりお前は最高の宿敵だぁ!」
腹と口から大量の青い血を撒き散らしながら笑う。引き抜いた刀を振りかざし脳天を切り裂かんと振るう。日向は脇腹に刺さった刀を引き抜きながら刀棲姫の体を切り裂かんと振るう。
「……」
「……」
致命傷は日向。彼女の振るった一撃は浅く、奴を絶命させるには足りなかった。
「日向、お前…。生きようとしたな……」
「………」
刀棲姫は分かった。彼女が、日向がほんの一瞬だけ死の覚悟が揺らいだ事を。
「戦士には不要なものだ。こんな大事な場面で…そこまで男が大切か…」
「提督、下がって!」
殺気を感じた山城は稲嶺をその身で隠すと構える。
「待て…がはっ!」
「不安要素は取り除くべきだなぁ…」
血を撒き散らしながら迫る刀棲姫。山城の拳が奴を撃退せんと振るわれるが両腕を切り飛ばされ喉笛を切断される。
「……っ!?」
一瞬で腕と言葉を失う山城、それからは解体ショーであった。艤装も体も切りつけられるが彼女は倒れない。文字通り肉壁となって稲嶺を守る。
「山城、頭を下げろ!」
「っ!」
稲嶺の言葉に咄嗟に反応し頭を下げる山城。そこから現れたのは夕立の砲を待つ彼の姿。射線が開いた瞬間に放たれた砲弾は顔面に直撃する。
「っ!」
発射の衝撃で両肩の関節が外れるが構わない。山城も頭突きをかまして奴を下がらせる。
「くそっ、顔面ばかり…」
思わず悪態をつく刀棲姫だがすぐに笑みを浮かべる。流石は日向が惚れ込んだ男、キモが座っている。並みの人間ではあんなことはしないだろう。
だが射線が開くと言うことはこちらも同じこと、条件は同じであればこちらが遅れを取ることはない。
「確かにいい男だな、日向」
「稲嶺!」
「っっっ!!!」
「そうだろう…日向は見る目のある女だからな…」
稲嶺の腹から真っ赤な染みが白い制服に広がる。彼の腹にはクナイが突き刺さっていた。
(抜いたら逆に出血死するな…)
「っっっ!!!!」
激昂する山城だが刀棲姫の貫き手により腹を抉られてしまう。
「大人しく…っ!」
「おまえぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
口と喉から血をドバドバと出しながら山城は前進。奴は突き刺した右手がさらに深く突き刺さる事で逃げられない。
山城は大きな口を開けて右肩に噛みつき、肩の肉を食いちぎる。
「精神が肉体を超越したか!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
怒りの獣と化した山城は奴の首に食いかかろうとするが鞘を口に突っ込まれ押し返される。
「獣は首だけでも仇を取ると言うが。お前もそうなのか?」
このままでは山城の首が飛ぶ。いくら艦娘といえど人体の主要器官である頭を失えば絶命してしまう。
「やめろ、山城!」
必死に止める稲嶺の声むなしく彼女の首に迫る刀。
「俺様を忘れるな!」
「っ!」
山城の影から現れたのは入渠していたはずの天龍。彼女は剣を口に加えながら現れると刃を刀棲姫の喉笛に突き立てる。
「狼は首だけでも殺しに来るぞ!」
両腕がないために受け身を取れず地面を転がる天龍。彼女は渾身の力を振り絞り、動かなくなる。
「腕をなくしても来るか。だからこそ艦娘は面白いぃ!」
満身創痍の彼女だがオーラを抑えず、気配だけで気絶しかねない濃度の殺気が艦娘たちを襲う。
もう地面には刀棲姫と艦娘たちの血で染まりきり、まさに地獄が出現していた。
「だがこれは不味い。まずは数を減らす…」
「頭に来ました…」
あきつ丸の刀と天龍の剣の2刀を持った稲嶺と山城に迫る。だがそれは新たな介入者により邪魔される。
頭上に現れたのは戦艦加賀、彼女と刀棲姫が激しくぶつかり合いその衝撃波で稲嶺が転がる。
「無事ですか?」
「鳳翔…か……」
「安静にしてください。傷に障ります…」
いつも通りの無表情である加賀だが彼女は内心、怒りで震えていた。日向も山城も稲嶺もかつては同じ釜の飯を食べた仲間だ。そんな彼女らが目の前で血まみれで倒れている。それを見て、なにも感じないほど冷たくはない。
「貴方は私が必ず殺します」
「素晴らしい、これ程とはな!」
加賀の登場と鳳翔が稲嶺を保護したことにより少し安心した山城は立ったまま気絶する。目を見開き、その一瞬すら見逃さないとする彼女の瞳は開いたままで。
「元空母が無理をするな…」
「それは貴方も同じでしょう!」
元から刀を握っていた刀棲姫と元弓兵であった加賀では分が悪い。
「貴様も強い。だがまだ遠く及ばん!」
刃が飛ぶ、加賀の刀が真っ二つにへし折られたのだ。刀の問題ではない、単純な技量の差が目に見える形で現れただけのことだ。
「くっ…」
「お前も人に殉じて死を選ぶか、戦士として蛮勇に死すか…。人間に尽くして何になる。それほどまでに創造主が大切か」
「いえ、私たちは軍艦の魂。魂とは心、もちろんこのような形で息を得たのは感謝すれど。私たちには心がある、それがある限り。我々はただの兵器ではない。我々は兵士です」
創られたから尽くすのではない。尽くしたいから尽くすのだ、彼女のたちの記憶にはたくさんの人が居る。護りたかった民衆、ともに生死を賭けた
彼女もそれは決して忘れない。自分達は故国のために尽くした甲斐があったと胸を張って言える。例えその結末がどれ程悲惨なものになろうとも。今も
「もはや、これは忠ではなく。自己満足ですね」
「義に生き、義に殉ずるか…。」
「貴方は何のために戦うかは知りませんが。後悔はしないでしょう」
「?」
「貴方の
刀棲姫の背後、ゆっくりと立ち上がる日向その濃い殺気に当てられ振り向く。
(大きい…)
「………」
これが人、いや…。艦娘などであるものか、これは艦娘の姿をした化け物だ。
濃厚な殺気に当てられ惚けそうになる。あぁ…死はすぐそこまでやって来ていたのか…。