提督とはぐれ艦娘たちの日常   作:砂岩改(やや復活)

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日本の砦

 

「第一艦隊、佐世保鎮守府の援護要請任務から帰投した。小破以上はなしだ」

 

「ごくろうさま長門。疲れたでしょ、ゆっくりしててね」

 

「お気遣い痛み入る提督。お言葉に甘えさせてもらおう」

 

 呉鎮守府執務室、そこの椅子に座るのは17ほどの少年であった。彼が前任から鎮守府を引き継いで5年、当時12であった彼は破格の昇進を得てこの地位についた。

 

「変ね。敵の攻撃はいたって散発的、大手をかけられているのはこちらなのに向こうは決めてこようとしないなんて」

 

「深海悽艦には大局を見て判断すると言うほどの知性を持たないというのが大本営の判断だ。それから見れば向こうはいつものパターンに入ったという見方が正しい」

 

 愛刀を自身の方に倒して座る伊勢は呉鎮守府提督、青波提督と将棋を指しながら会話を続ける。

 

「その意見は八割方賛成するけど。肯定はしないわ」

 

「ええ、向こうにも知性をもつ存在は確かにいるはず。やはり姫級を鹵獲しなければな」

 

 呉にて五年前の悪夢を乗り越えた艦娘の一人、伊勢型航空戦艦一番艦《伊勢》彼女の顔には生々しい傷が残っている。デコから左目を通り、頬を切り裂いたような傷。他にも身体中に火傷や裂傷の痕が無数に存在する。

 

 艦娘の体は理論上、どれ程の傷を負っても帰投さえ出来れば完全に修復が可能である。だがごくたまにその艦娘の精神状態によって治らない傷が存在する。

 それはトラウマになっている場合、そして本人がその傷痕を残したいと思っている場合だ。

 伊勢の場合、傷は五年前から残り続けている。その間にも何度も入渠してはいるが一向に治る気配はない。

 

「その肝心の姫級もあまり出てこないし。最近は楽じゃない、あきらかにおかしいわ」

 

「まぁ、僕たちが何を言ってもなにも変わらない。これが嵐の前の静けさなのか、それともただの好機なのかは上が判断してしまうことだ」

 

「あら、随分とあっさりしてるのね」

 

「もしもの時は勝手に動くさ、君を失望させるつもりはないよ」

 

「あらそう」

 

 伊勢のあっさりとした態度に青波はほんの少しだけ残念そうにするがそれを悟らせまいと顔を引き締める。

 

「随分と反応が薄いな」

 

「そう言うのは他の子に求めなさいな。私に期待しても無駄よ、はい、王手」

 

「待った」

 

「待ったなし」

 

「うむぅ…」

 

 希代の天才と呼ばれる青年でもまだ少年。暖簾に腕押し状態の伊勢には形なしだった。

 

ーー

 

 日本の砦、佐世保鎮守府。高い練度と連携、文字通り日本の最強部隊を有するこの鎮守府は実質、最高戦力を保有している佐世保は他の鎮守府とは違い、完全に要塞と化している。

 

「おや、今日は随分と機嫌が悪いですね。提督」

 

 噎せかえるようなタバコの匂いと視界を霞ませる煙がその部屋を充満させていた。それを見た大和は執務室の窓を開けて換気を始める。

 

「駆逐艦の子達も来るのですから。少しは考えて頂かないと」

 

「大和、わしは女房を作った覚えはない」

 

「でしたら、他人に対する気遣いというものを覚えて頂きませんと」

 

 佐世保鎮守府の全ての実権と責任を持っている女性提督、その名は神楽座千代音提督は聞き飽きた説教を聞きながら書類を纏め上げる。

 

「それで艦隊はどうした?」

 

「先程、寄港しました。もうすぐこちらに報告に来るかと」

 

「来てるわよ」

 

 脚以外の艤装を装備したまま執務室に現れたのは叢雲。彼女は槍を杖代わりにして悠然と報告を始めた。

 

「沖縄の手前まで手を伸ばしてみたら。大物が居たけどそれだけよ他はいつも通り」

 

「広域かつ散漫的じゃのう。おかげでこっちの手が足りんわい」

 

「なら私も出ましょうか?」

 

「あほんだら。おまんが出ても釣りはでてこんのじゃい」

 

 そう言うと再びタバコに火を着けて開けられた窓に体を向ける。

 

「叢雲、おまんはどう思う?」

 

「嵐の前の静けさ」

 

「じゃろうな」

 

 九州絶対戦線。佐世保鎮守府を主力とする海軍戦力と陸上部隊による多重防衛線、本土上陸を何としても阻止するために組まれたこの戦線を破るのは容易ではない。

 

「やつらには知性がある。一度見せただけで十分じゃ、もの考える奴が向こうにおる。必ずここに来る」

 

「本当に奴らがここを欲しがってるのならね」

 

「なんじゃと?」

 

 佐世保の最古参である叢雲は千代音とは友とも呼べる関係性である。そんな叢雲の言葉に体を動かさずに目だけ見る提督。

 

「九州に対する攻勢。それ自体が囮だったとしたら…」

 

「5年前も囮じゃと?」

 

「ただの妄想よ。入渠するわ」

 

「提督…」

 

「叢雲の勘は馬鹿にできんじゃき。頭には入れとかなあかんのぉ」

 

 佐世保の叢雲はNo.1(ファースト)シリーズと呼ばれる者の一人。彼女の戦歴は他の艦娘を凌駕している。彼女の勘は当てずっぽうの勘ではなく、経験に基づく勘であるのだ。

 

「ほんまに嫌な感覚じゃき」

 

 現場指揮官においては実質的な権力を持つ彼女は窓から見える海原を見つめるのだった。

 

ーー

 

「加賀、さっきは助かったわ」

 

「いえ、まさか戦艦水鬼が出てくるとは思いませんでした」

 

 報告を終えて艤装を格納庫にしまいに来た叢雲は艦載機のチェックをしていた加賀と出くわす。

 

「動きのパターンは読めてるのに無駄に固いから困るのよね」

 

「パターンが読めるのは貴方ぐらいだと思いますが…」

 

「経験よ、経験…。やってりゃ、慣れるわよ。貴方も間近で戦えばいいわ」

 

 槍を専用のケースに納めると電子板から充電中と表示される。それを確認した彼女は左腕に固定された二連装砲を外す。これは叢雲の物ではなく、姉である吹雪の物だ。

 

「無茶を言いますね。後衛に前衛能力を求めないでください」

 

「あら、私の知り合いに素手でやりあってた空母いたわよ」

 

「そんなのいましたか?」

 

 加賀は過去の記憶を遡りながら一人の艦娘に辿り着く。そういえば、彼女は両手に手甲を嵌めていたような気がする。

 

「確か呉に…」

 

 そう言葉を漏らしながら叢雲を見ると彼女は頷く。

 

「呉って変人が多いわよね」

 

「いや、それなら貴方も変人なのですが…」

 

 佐世保は提督を頂点とする統制で動く正規軍、呉は提督をトップに置きながらそれぞれで研鑽を高めあい、独特の戦術、戦略を展開する愚連隊のような気質がある。

 

「私はあの13人の中で数少ない常識人よ」

 

「いやいや、まずその13人が頭おかしいですから…」

 

 プライドの高い加賀が一貫して敬語を貫いている。言われてみればかなり珍しい光景だが身内からしてみれば当然のことだ。叢雲は佐世保の中で一番の古株、特に階級を持たない艦娘たちは自然と配備年度が古い順で先輩、後輩といった立場を取っている者が多い。

 

瑞鶴(先輩)「加賀、なにタラタラしてるのよ!アンタがいないと飯が食べられないじゃない!」

 

加賀(後輩)「うるさいわね五航戦、あなたにだけは怒られたくないわ」

 

 …何事も例外は存在する。

 

「バカなことしてないで飯に行くわよ」

 

「「了解です…」」

 

 やれやれと言った具合で倉庫から出る叢雲、そんな彼女に空母二人は着いていくのだった。

 

 

 




No.1(ファースト)シリーズ

 二十年前、一番最初に建造された艦娘たちの事を指す。

 吹雪、白雪、初雪、深雪、磯波、浦波、叢雲、雷、電、暁、響、天龍、龍田の13艦が建造され他の艦娘たちの製造、開発体制が完了するまで高い戦闘能力で対深海戦線を支え続けた。しかし現在、生き残っているのは3艦のみとなっている。

 練度、経験ともにずば抜けた能力を持ち、圧倒的な戦闘能力を有している。経験から起こされる戦術、戦略眼、独特の戦闘術は圧巻の一言に尽きる。

残存の3艦はそれぞれオーダーメイド武装や他のNo.1シリーズの形見の武装を使っていたりする、



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