そんなことは、一度で十分。
──こんなことなら、もう少し足掻けばよかった。
──こんなことになるなら、まだ意地汚く生きればよかった。
普通に仕事して、趣味を楽しんで、恋をして、家族を増やして、愛して、生きて、働き盛りを過ぎて病気が判明。
男はろくに動かない身体と薄れ行く意識の中、家族に見守られていることに幸福を感じる。そんなよくある話。
平均寿命より幾分か短い人生であったが、その男にとっては満足のいくものだった。
口元に笑みを浮かべ、瞼をとじ鼓動も止まり、命の灯火は消えた。
これにて人間終了、となった筈だったのだが。
──なぜ。
──何故。
巡る命の灯火は『再点火』する。
第1話 疑問の生命
「おはようさん! 今日も朝から不機嫌そうだなあ」
「おはよう。俺は別に不機嫌ではない、憂鬱なだけだ」
「オハヨン! つまりイライラツンツン、いつも通りだな!」
「おはよう。人の話を聞けあとうるさい」
「おはようございます! 馬鹿達はおいといて、あたし達と一緒に学校へ行きましょッ」
「おはよう。鬱陶しい近寄るな」
煩わしい朝の挨拶。
『前』は成年男性だった少年にとって、名前を取り敢えず記憶している程度の、興味もない子供達とのくだらない会話。全く面白くもない、面白いと感じたいとも少年は思わない。そもそも『前』から静寂を好む。騒がしいうえ話が通じない馬鹿や『前』の自分の子以外の子供は好きではなく、改善しようと周りの子供達と群れたいとも考えられない。
──そんなことよりも。
──そんなことよりも!!
──こんな訳の分からない場所に、私は居たくはないのだ。
──早く『前』に帰って、愛するもの達の顔を見て、普通に往生したい。
──それだけでいい。それで終いでいい。新しい生などいらぬ!
常にこんな考えが頭にあるので、とても暗い性格をしていることを少年は自覚している。
『病気であと数分後に死ぬ予定のぼろぼろの体に戻りたい』とは馬鹿馬鹿しい考えであり、同時に到底無理なことも少年は知っている。自分の意思で肉体を乗り替えるなど、普通は出来ることでは無いうえ、なぜ新しい生を受けることになっているのかすら分からない。分かっていることは「理解できない」ということのみ。
新しい生を受けて何かが変わったなどということはない。物語でよくある、神を自称する人物にも会っていない。唐突に素晴らしい能力が発揮されることもない。
──私は普通の人間だ。なにも出来はしない。
──『前』に戻る手段がない。
──もう、戻れない。
『前へ戻りたい』という、灼熱の焔で身を焦がしたかのような切望。
何故知っているのかさえ解らない『前へは戻れない』という事実による、輝ける太陽が消滅したかのような漆黒の絶望。
……自分自身理由もわからないのに、何故か『知っている』という確定した事実から感じる、氷の部屋に放り込まれたかのようなうすら寒さ。
故に、苛立たしいと眉間に皺がよっていることも少年は自覚している。
苛立たしいだけで不機嫌ではない。
死んだ人間がまったく違う人間となり、生命活動しているという疑問が解決されず憂鬱なだけである。
静かな環境で考え事が出来ないことにキレている訳でもない。
だから──
「だから、近寄るな! この馬鹿どもッ!」
「相変わらず綺麗な顔を歪ませてるなあ~。というか暗い性格っつーより、ひねくれてるんじゃね」
「そこがまたいいんじゃなあーい! ハアァン、お人形さんみたいに綺麗で影がある顔もまたステキッ!」
「すんごい顔してこっち睨んでるぜ。人形みたいはわかるけど、本人に言うと怒るんだよなあ。あとつんけんしてるのに律儀に挨拶返してる辺り……」
「お前ら、聞こえてるぞッ!!」
──まったく、これだから馬鹿とガキは嫌いなんだ!
* * *
少年にとって、大変不本意だか生まれ変わった。
少年にとって、輪廻転生などというものを体験するとは思わなかった。
神や仏など全く信じていなかった自分がなぜと少年は考えるが、他人に相談しても誰も信じないだろう。頭の可笑しい奴扱いになるだけである。
──こんなことはお話の中だけで十分だ、ちくしょうめ。
『前』の記憶は赤子頃からデジャビュとして感じており、勉強などは便利と思う程度であった。そこにきて最近『前』死んだ時までを思い出した。しかし少年にとって、思い出さない方が新しい生を満喫できた可能性が高い。その方がただの子供として生活出来るのだから。
親も勿論『前』とは違う。生まれた国も人種さえも異なるし、当然ながら自分の見た目も『前』とは随分変わっている。今の両親がいわゆる容姿が良い部類に入る人間で、少年もその遺伝子の恩恵を受けている。世間でいうところの美形であることは、ほんの少し『前』よりお得だと思っている。
『前』の少し癖がある黒髪、日本人によくある黄色が強めの象牙色の肌、少したれ目で虹彩は普通の茶色であった。それが今では『前』とは異なる、艶やかでさらりとした金髪とシミひとつ無い陶器のような白い肌。少しつり目の瞳は琥珀色で光の加減で金色にも見える。
『前』のチャームポイントは両目元にあった涙黒子で自分は気に入っていものだったが、今では左耳の三連黒子だ。
以上を踏まえ少年を評した言葉は“人形”。
──お得には感じるが馬鹿馬鹿しい、私のことは放っておいて欲しい。私は静寂が好きなのだ!
「なぁなぁ、今日の小テストってどこからへんがでるんだ?」
「ちゃんと出題範囲を覚えておけ馬鹿めが! 15頁から16頁と少ないが、教科書にはない部分が多目に出るので良く聞いてノートをとれと教員が言っていただろう馬鹿め」
「馬鹿と二回も言いつつ丁寧に教えてくれるお前がスキッ! 勿論そんときのノートも写させてくださいお願いします! 助けてオカン!」
「うるさい誰がお前の母親か! 写させる時間が無駄だ。学校へ着く前に、そこのコンビニでコピーをとれ馬鹿」
「オカンありがとう! ツンな優しさが身にしみるぅ。そんじゃ、ノート借りてくぜ」
「お前の様な馬鹿をこさえた覚えもない。二度も言わせるなこの鳥頭めッ。時間ロスになるから、慌てて用紙間違いしないよう気を付けろこの馬鹿」
「……オカン」
「完全にオカンでした」
「厳しさのなか、子を思う優しさが滲み出てる」
「お人形のオカンとはいったい」
「そこの馬鹿共、いい加減に黙れッ!!」
ちなみに少年を評した“人形”以外にも何だかんだと言いつつ世話を焼いた結果、“オカン”というものがある。
──自分は静寂が好きなのだ。
──しかし『前』は成人した男であり、子供を持っていた者としてつい一言付け足してしまう。それだけなのだ。ただの癖であって世話を焼きたいと思ったこともない!!
イライラしながら子供達から早足で離れたところに、昨今ではあまり見掛けなくなってきた髪型に改造制服を着こなしたガタイの良い少年が近づいてくる。
「先輩、おはようございまーす! いや~相変わらず手厳しいっスね」
「おはようジョジョ。まったくあいつらは静かに登校出来ないのか」
ジョジョと呼ばれた少年のその姿は、とある漫画の主人公そのもの。
少年の名前は『東方仗助』。
今住んでいるこの街の名前も、その漫画の舞台と同じ『杜枉町』。
日常とはかけ離れた奇妙な話、胸に宿る黄金の精神、受け継がれる血脈、そして『人間讃歌』。
その物語の名は、
──ジョジョの奇妙な冒険。
続かない。
書きっぱなしの昔の話を発掘したので供養。
内容を直したいところも、頭のおかしなところもそのまま投稿。
主人公、見た目完全にDIO。しかしあくまでも似てるだけ。
この後騒動に巻き込まれて苦労する話の予定だった。
「この私を巻き込むなあァーーーッ!!」