この見た目。
そして、ファーストネーム。
とどめに、ファミリーネーム。
『あの金髪吸血鬼とは全くの無関係かを、どれだけ説明しても疑惑の目が無くなることは無い』に、花京院の「魂」を賭けよう。
少年はこの、アトムみたいな頭またはサザエさんのような頭または鳥の巣頭またはハンバーグ頭の少年と初めて出逢ったその時、「もう駄目だ」と素直に思った。
第2話 ご都合の宜しくない人生
何が、と言えば『全て』と答えなければならない。
主人公である仗助が、高校入学後半年もしない期間に巻き込まれる怒濤の連続事件が起こる街、凶悪なスタンド使い達が多数居る街が、住み慣れたこの街であるということが何よりも恐ろしい。
少年は自身の住んでいる街の名前に既視感を感じていた。『前』には無かった、というこことは『前』とは少し違う世界なのか? と思う程度で、まさか漫画と同じ世界に生まれ変わり、尚且つ物語が始まる街に住んでいるとは普通思わないだろう。
少年の住んでいる街が死亡エンド満載と理解したが、危険から逃れる為に、物理的にその街から離れることも考えたが、結果からいうと離れることは出来なかった。
親から扶養してもらっている未成年の少年なのだ。急遽引っ越しなど現実的ではない。
杜王町の外、寮がある学校へ転校などという話も無理がある。寮がある学校へ、今の時期に転校? どうやって? どういう理由で? そんな都合のいい学校など今から入れるわけない。そもそも学校への支払いは少年の親だ。勝手に転校など出来はしない。
なりふり構わずの説得、ということもできる限り実行した。
理由は適当にでっち上げて引っ越しを促したり、杜王町以外の高校へ転校したいと『お願い』したりもした。もちろん結果は惨敗。
泣いて喚いて部屋にとじ込もって懇願して転校や引っ越しを狙う、または病気の振りをして入院……などと普段の少年がやるはずもないことをやってのけたが、少年をよく理解している親や回りの人間は、心配それこそされたが、それまでだった。
少年の、エベレスト山脈のように高いプライドとひねくれた性格をかなぐり捨て、『前』の大人としての矜持も今回ばかりは蓋をし挑んだが、結果は生暖かい目を向けられることが多くなっただけと、散々であった。
もっとも、少年は某ボスのように二重人格ではないし、ケバブ売りに扮したクズゲスの何某よろしく、そんなに演技が上手いというわけではなかったことも理由に付け加えられる。
結局のところ、少年は「扶養されている身なので勝手は出来ない」につきる。親も仕事があるため、家族まとめて杜王町から離れることはない。そんなに『ご都合は宜しくない』のだ。ここは漫画やドラマではない。
──そう、ここは、私が生きている現実。
総合すると、少年は『杜王町からは出られない』。
死人さえもでてくる物騒な事件が、必ず発生すると判っている場所で暮らさなければならないことに、少年は息がとまりそうな眩暈を感じる。
更に物語が始まる合図として、少年が毎日鏡で見ている姿によく似ている、金髪吸血鬼に因縁ある海洋学者の最強スタンド使いが、物語の四番目の主人公に会うため杜王町へやって来る。
この男が関わってくる時点で少年は目の前が暗くなるのを感じた。
主人公である仗助やスタンド仲間、果ては某財団から、少年の見た目や名前を見聞きすれば、必ず探ってくると少年は考える。
金髪吸血鬼の関係者か血族か、などと痛くない腹を勝手に探られることは確実。探られるだけならまだ、鬱陶しいだけでいい方だ。
無いとは思うが、開口一番に最強であるスタンドを使われ、自身が認識できないうちに叩きのめされ再起不能とされる最悪の可能性もある。それこそ堪ったものじゃないと少年は身震いする。
──こんな田舎の片隅に来るより、嫁と子供へ会いに行けよ!
──『そういうところ』がもとで、子供がグレて、最終的に六番目の物語が始まるんじゃあないか!
トドメにもう一人、金髪吸血鬼と因縁がある男も厄介どころの話ではない。
なんといっても、誰かによく似ている金髪吸血鬼の一部を植え付けられ、不死となった父親を殺す為『弓と矢』を使用し、無差別にスタンド使いを量産している。
無差別というところが重要で、この『弓と矢』に選ばれなかった人間へ強制死亡エンドをプレゼントされる。
物語のファンならば、強い意思をもち、敢えて『弓と矢』を持つ男を探しに行き、わざと『弓と矢』に刺さりたいと考えるものもいるだろう。
これは、生まれながらのスタンド使いではない場合、『弓と矢』を使うしかスタンド使いにはなれないことが理由だ。
なぜなら所謂脇役は騒動に巻き込まれる。巻き込まれなくとも、大雑把に表現するならば、この物語の脇役は呆気なく死んでいく。それを回避する為の力となるスタンドが欲しい。結果、スタンド使いを生み出す『弓と矢』を探すのだ。
男も、父親の不死の原因となった吸血鬼に瓜二つな少年を見掛けたとなれば、スタンドで攻撃されるか、『弓と矢』を使ってくる可能性が高いだろう。
しかし『弓と矢』に選ばれなければ、例えかすり傷であったとしても、『死』あるのみ。
少年は『ご都合が宜しくて』晴れてスタンド使いになる確率と、死という絶対の暗闇を天秤にかけようという気も起きなかった。
──『前』へ戻りたいと願っていても、死にたい訳ではない。
──ましてや殺されるだなんて、もってのほかだ。
──この私が、他者の為に、『生命』を捧げる事など、許さないッ!
* * *
「ジョジョ。お前、高校へ入学したら、しばらくこの俺に近づくな。」
少年は、決定事項をこの物語の主人公へと通達した。
「え? ……いやいやいやッ! なんすか突然! 俺、先輩の気に障る様なことなんて、してないと思うんスけどッ!?」
「常に気に触っている。存在自体が癪だ。」
「辛辣ゥ~ッ! でも、ほんと、なんで急にそんな事なるんスか! 入学したら先輩から勉強みてもらったり、高校生活のノウハウ教えて貰う予定なんスよ~!?」
中学生にしては恐ろしくガタイの良い体で詰め寄ってくる仗助に、少年はそんな予定は何処にもない! と言いながら、やれやれと嘆息する。
勿論、男にくっつかれても嬉しくはないので、仗助を引き剥がす。
「いいか、脳内お花畑のお前にも分かりやすく説明してやる。」
「辛辣ふたたびィ……」
「お前、流石に俺の学年は覚えているだろうな?」
「ハイッ! 高校二年生でいらっしゃいます、です!」
「……お前の言葉には何も突っ込まんが、そうだ。現在高校二年生、お前が高校に入学してくる来年は、三年生。簡単な足し算だ。そして俺は大学へ進学予定、つまり受験生になる。そんな大事な時期に、毎日がお祭り男のジョジョが近くに居たのでは、勉学への妨げになる、以上。」
とたん仗助から異義が飛んでくるが、無視。
この四番目の主人公へ説明した、勉学の邪魔になるのは勿論のこと、静寂を良しとする少年にとって騒がしいものが近づかないことは、生活の質の向上となる。
そして、『物語から少年自身を遠ざけること』。
これが本命の理由である。
──わかっている。こんな事はただの時間稼ぎでしかない。
──全く、確実ではない、あまりにも、杜撰な、計画で、幼稚な手段だッ!!
それが判っていても、他の方法が思い浮かばない。
思い付かない程に、少年は追い詰められていた。
逃れることの出来ない極寒の絶望が、少年の身を凍らせる。
「……そんな事あ嫌だッ! っていうのがホントのところなんスけど、先輩のそんな顔見たら頷くしか出来ないッスよ……」
「……ふん。俺はいつも通りの顔だ。お前こそ、そのアホ面を治せ」
「仗助クンのこのプリティ~顔は、産まれてから変わってませんよォ!……とにかく、分っかりましたッ! この東方仗助、高校入学後は日頃お世話になっている、『ディオス・ブランドー先輩』へは、しばらく近づかないことを誓いますッ!」
──流石に私が、何かに焦っている事を察したか。そりゃそうだ。こんな馬鹿馬鹿しい計画しか考えられなかったんだ、態度にでていたか。他の物語には無い四番目独特の、ぬけている優しさと主人公スペックである観察眼を使うまでもないだろう。今、鏡を見れば最高に情けない顔を写っていること請け合いだッ!
『前』へ戻りたい。
その思いは、今でも変わらず少年の胸を焦がしている。
──『前』を忘れることが出来たなら、こんな思いはしないのだろうか。
──『今』と割り切ることで、素直に人生を楽しめただろうか。
──それでも私は、今の『生命』の火を消したいとは思えない。
──まったく、本当に、ほんとうに『ご都合の宜しくない』ことばかりだ。
「ところで先輩、『しばらく』ってのは一週間ぐらいでいいッスかあ?」
「なあに寝言言ってるんだ! 『しばらく』といったら半年位だ、このスカタンッ!!」
「な、なにィーーッ!? 長過ぎッスよーッ!」
* * *
五部アニメ化、おめでとうございます。
10月が楽しみです。