ブリュンヒルデ VS ヤング・サムライジャック 作:梵葉豪豪豪
対峙するジャックと魔物。彼の後方に庇われている一夏はこの後起こるであろう偉丈夫の無双劇を期待してしまう。
ジャックが目線を黒い奴から離さず一夏に語り掛ける。構えた切っ先は僅かともブレない。
「では一夏殿、この場は頼む」
「え……はい?」
一夏が言葉の意味を咀嚼する間もなく、残像を残すほどの速度でジャックが跳躍、巨大に開かれた魔物の口腔へと飛び込んでいった。
「ちょっと! ジャックさぁぁん!?」
確かに千冬からジャックに従うべく指示はされていたが、これには流石に一夏とて面食らうしかない。ジャックが呑み込まれたその一瞬できた沈黙の空間に、一夏、ティナが唖然としシャルロットが突っ込みを入れようとして口をバクバクさせる。観客すら意味も判らず沈黙をしてしまう。ここまでほんの6秒。
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ラウラ・ボーデヴィッヒは試験賢ベビーであるが決してそれが人生の不幸であったというワケではない。寧ろエリートとしての道が約束されていた。ISの技術を応用した施術を左眼に施し、起きる筈であった能力の発動が失敗した時、全てが悪い方向へと転がった。
後にドイツ陸軍へ外部の教官として赴任した千冬が特別目をかけ訓練を施し、ラウラは他の同じ試験体の子よりも格段の成績を上げた。千冬は今でもそう自負しているが、さりとて周囲はそう思わなかった。ラウラの記憶している限り、同じ境遇の子で彼女に突っかかっていた子は全て心を折る程に叩きのめしている。
落ちこぼれとの烙印を押され、上官の少佐にねちっこく咎められた時、傍らにいた千冬の静止も聞かず、彼女はナイフでもって自らの左眼球を抉り取り、眼球の刺さったナイフを少佐に差し出した。
この事件については軍内部で不問とされる。金と時間を掛けた優秀な人材を失いたくなかったのだ。尚事件の関係者でもあった少佐は辞表を提出し、後に自宅で拳銃自殺を遂げた。
以降ラウラは何事にも、特に人間関係に興味を失った。配置先のIS専門部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」においてもそれは変わらず、誰とも話さなかった。任務に置いては、常に死ぬギリギリの戦闘を行い、傷は深くも浅くも増える一方である。機体もそれに伴って機能を徹底的に削ったものとなった。隊員は皆彼女の扱いに憤慨していたが、実情は彼女自身の要望によるものだった。
ラウラは自身の死を望んでいた。
隊長のクラリッサ・ハルフォース大尉からはよく話しかけられていたのだが、嫌いではなかった。だが好きでもなかったので何も返さなかった。
そうしてこの春、IS学園へ期限付きの赴任が決まった。身分は学生としているが、軍人でもあるので保安要員としての赴任となる。隊員にしてみればこれが彼女を持て余した上での放逐であることは明らかであり、一同が任務の撤回を具申したものの結局通らなかった。
今の人間関係が自分の態度によりもたらしたものであることは自覚している。だが今彼女は無理に生きていたいとも思わない。
「実にクソったれた人生だ」
白くざらついた、日本で言う和紙のような空間にラウラは漂い、ただ過去を振り返り一人愚痴た。これが地獄という風景なのだろう。自身の格好に服一枚纏っていないことは特に気にするものではない。
だがこの空間に、一つの黒い存在が現れた。人の形をしており、漆黒の表面を纏った逆三角形の何かである。自身が呑み込まれる直前に見たあの化け物である事は見て取れる。
「否早イヤハヤいやはや、何とも不幸ですねぇ涙が出てきますよ否私に涙はありませんがね」
大袈裟に拍手をしゆったりと近づいてくるその黒い魔物に、ラウラはただ生理的な嫌悪感を覚えた。裂けたようにニヤけた口元は真っ黒で歪だ。
「うるさいよ貴様」
ただ静かに拒絶したが、それで相手が引き下がるものでもない。魔物は大袈裟に肩を竦める。
「おや自己紹介はさせてもらえないのかい? 悲しいねぇ」
「知るか」
ただ二人しかいない空間に向き合う。眼球がなく抉れたその奥に光る2対の赤い光点からは何も感情が読み取れない。
「まぁまぁ。といっても俺は俺で誰でもないシガない魔物なんだがね。強いて言えばアク様の眷属くらいが俺の狩り暮らしのアイデンティティ」
「お前の素性なぞどうでもいい」
「つれないなぁ、私は君に永遠を与えにキたのだよ」
「いらん」
即答である。何が生きたいというのか。
「ホゥホゥホゥ、生きる気力がミニマムでございますか」
「生きようなどと思わん、さっさと殺せ」
「実にエキサイティンな要求。いやーでもそうは行かないんだなァ。君はこの世界で永遠に傍観者として生き続けるんだよ。実にお姫様。プリンセェス」
「そうか」
ラウラが持たれと願うと違和感もなくその手にナイフを握っていた。即、刃先を首筋に当てる。が、漆黒の帯が四方八方から放たれ、ラウラを拘束した。縛り付けている帯は融解し黒い膜となりつつある。
「グ……」
「人生まーけーいーぬーのお姫様はここでお外を眺めていようなぁ」
最大の嘲笑を持って魔物がラウラを迎えようという瞬間、
「……!」
「……!」
その場に何者かが顕現していた。
「誰だァ!?」
その存在は真っ白な着流しを纏い帯刀し、鋭い目つきで静かに彼女らの傍へ歩を進める。
ジャックだ。
「おいよせ! 私なんぞ助けるな! 放っておいてくれ!」
ラウラの悲痛な願いは心から出たものである。受け止めたジャックが見せた優しい眼差しは到底ラウラが受け止めきれるものではなかった。眩しすぎる。
ジャックが帯剣し正眼に構え、魔物と対峙する。瞬間、和紙の如き空間の中で輪郭が吹き上がる。墨が爆発したかのように漆黒のものが流れていく。同時にそれはジャックが覇気を爆発させたような、精神の奔流だった。
3度、刀と爪が打ち合う。柄を返して大上段からの「魔剣」による袈裟斬りが魔物を一閃した。正確には頭頂部から右脇腹にかけて真っ二つである。黒い獲物の絶叫が黒い滝の流れるような空間に響き渡る。
魔物から踵を返し、ラウラへ向かって跳躍した。着地と同時にラウラに向かい二閃。それだけでラウラを覆った黒い膜は弾け飛んだ。ラウラに墜落の感覚が襲うその瞬間、ジャックが彼女の手を引き、再度跳躍した。向かう先は魔物である。斬られた断面には朧気ながらアリーナ、つまりは外の世界が見えていた。
偉丈夫は少女を握ったまま、躊躇なくその断面に飛び込んだ。
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ジャックが魔物に飛び込み、異変が起きたのはほんの5秒後だった。突然魔物に頭頂部から右脇腹へかけて切れ目が生まれた。分断され、右片方が滑り落ちる。
一夏らが事態について行けず唖然とし一拍置いて、怪物の断面から大量の機械が吐き出された。ISである。部位毎に別れたレーゲンと打鉄のそれだった。
吹き出す機械の狭間から、ジャックとラウラも流れに乗って現れていた。コンクリに叩きつけられる前に背を丸め、二人は転がり回ってアリーナへと舞い戻った。
「ジャックさん!」
驚愕と嬉しさが同伴するおもろい表情を浮かべたシャルロットは、即彼らの元へ向かおうとする。が、先に魔物が残された左腕を振り上げるのが見えた。呆れるほど伸びた長く爪は、間違いなくジャックとラウラに届くのが見て取れる。
その爪が振りかざされた瞬間、火花を散らし滑っていき何者かに受け止められた。一夏である。折れた雪片弐型を右手で振るい、左手の無くなった左腕で支えている。
半ばで折れた雪片弐型は、必殺技を発動できない。もはや鈍らを通り越してただのチタン棒でしかない。それでも一夏はこのひ弱な一振りに全身を込めた。
「この野郎ォォ!」
醜悪な魔物の汚い咆哮に負けない声量で吠える一夏。垣間見た異形の断面は漆黒の闇であったが、蠢動する心臓のような何かの器官が見えた。
「そこかァ!」
自身の直感を信じた一夏は、右に思い切り振り抜いて敵の爪を躱し、雪片弐型を逆手に持って断面の中心に半ばしかない刀身を突き立てた。
更に醜く驚愕の色が乗り吠える魔物。折れた左腕を柄頭に添えて構わず押し込んだ。斬り上げる勢いで力を込める。ぞわっとする不快な手応えを一夏は無視した。
「ぶった斬……!」
魔物とて何もしないワケではない。怒り狂い死の恐怖に苛まれた存在は残った左の爪を再度乱暴に振り下ろす態勢に入った。現在の白式はシールドが回復していない状態にあるため、切り刻まれれば彼の致命傷は免れない。死なば諸ととばかり一夏は雪片弐型に力を込めた。手首のモーターがビシギシと過負荷で悲鳴を上げている。雪片弐型の柄も同様に悲鳴が聞こえる。
刹那、魔物の爪、いや左腕全体が視界から消し飛んだ。ジャックが瞬時に跳躍し、廻り込んで魔物の腕を斬り飛ばしたのだ。勢い余ってかなり離れた地点に滑り込んだ。
「ジャックさん!」
「一夏殿!」
「応! ぉおおおお!」
逆手に持った雪片弐型を遂には斬り上げた。魔物の核となる器官は真っ二つになる。振り上げた雪片弐型が刀身から柄までが粉々に砕けた。魔物の最後の抵抗である。同時に指関節が明後日の方向に折れ、手首が盛大に砕け散って部品を撒き散らした。
最後まで汚い悲鳴を漏らしたまま魔物は塵となって崩れていった。
遂に、一夏が倒した。
「一夏! 一夏!? ジャックさん!?」
「はは……」
シャルロットとティナが駆け寄ると同時に、一夏は膝をついた。改めて機体を見ると傷だらけで損壊も激しい。一夏はまず整備の子たちにごめんなさいしようと決意した。
公式にはラウラ・ティナ組の勝利であるものの、このトラブルには観客皆何が何だかわからない体でざわつくのみである。ただ、助けた、勝ったという事実のみが伝わり、一人、二人と何故か拍手が起こり、全体に伝わっていった。
ジャックがラウラを抱え起こす。彼女が自分で起き上がろうとしてつんのめったもののジャックがフォローした。包帯が外れ義眼の露出したラウラが片目で睨む。
「何故、助けた」
どこへ行っても地獄には違いない、余計なお世話だと付け加えた。
「千冬殿の願いでござる」
ただジャックは、そうではないと言外に込めた。ラウラにしてみれば彼と教官との仲については知らないが、随分と信頼しているものだと半ば呆れてしまった。
「同時に某の願いでもある」
「お前に私の何が判る」
「クラスメイトを助けない理由はなかろう。某の性分だ」
ラウラが言葉で斬って捨てたつもりであったが、性分では反論するだけ無駄に思えた。そのような気力もない。あの眩しい目線は汚れた自分にとって直視するのがつらい。
「フ……」
まだラウラは生きねばならないらしい。傍観者ではなく当事者として。
・魔物
抉れた眼窩というとイ○ント・ホライ○ン。後巨大綾〇〇イ。
・一夏
ヘタレマンと誰が決めた。
・白式
まだイケる。
・雪片弐型
さようなら。
・ラウラ
当作品最大幅の再構成ガール。保安要員という設定で辻褄を合わせてみた。それと死にたい人間に上から目線で生きろなどと安易に言えるものではない。後全裸だからって慧漏いシーンにはならない。
【挿絵表示】
・ティナ
何もしてなかった。