ブリュンヒルデ VS ヤング・サムライジャック   作:梵葉豪豪豪

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02 銃と刀と

 結論を先に述べれば、セシリア対一夏の試合は、僅差でセシリアの勝利だった。

 

 一夏の敗因は、武装の刀「雪片弐型」が自身のシールドエネルギーを消耗しながら斬る武器であったため、結果、シールドエネルギーを食い尽くして判定負けとなった。試合中に判明した武器の特性を即理解しろというのも酷な話である。加えて、一夏の専用機「白式」が届いたのが試合直前であり、試合中に調整をしながら挑み、また武器が刀一本であった。ISに搭乗して数分の経験しかない素人がこれだけの悪条件の中、専用機を持つ代表候補生相手にここまで肉薄できたこと自体が寧ろ賞賛すべきであろう。

 ただ一夏は悔しかった、とだけは付け加えておく。

 

 

 アリーナにおいて、10数分のインターバルを置いての次の試合、セシリア対ジャックに備え、両者がただ静かに、中空で向き合っていた。

 

 セシリアがジャックに関して本国に問い合わせたところ、本国からは「紛争地帯で度々存在が確認された東洋人」程度の情報しか回答がなかった。少なくとも平和ボケしているような人物ではなさそうだという漠然とした印象が精々である。

 セシリアとしては、先程の僅差の試合結果は自身の慢心がもたらしたものだと自覚している。目の前に佇む彼が誰であれ全力で当たろうと決意した。

 

 その彼、ジャックは日本製のIS「打鉄」を纏い、IS用の刀を手にし、また腰に私物の刀を差した姿で、目を瞑りただ静かに空中で佇んでいた。銃を携行していない。一夏の時と同様、近接戦一本槍のスタイルとなる。

 

 試合開始のブザーが鳴った直後、ジャックの姿が消えた。ようにセシリアには見えた。

 実際はジャックが自身の左側へ円を描くように飛んだだけである。ただ予備動作がなかったための一瞬の錯覚がセシリアに起きた。ISのセンサーは正確に捉えていたため、セシリアは即機体を右に向け、右手に抱えたレーザーライフル「スターライフルmkⅢ」で鴨撃ちするためトリガーに指を掛けた。が、その時には既に相手の姿は消えていた。ISは捉えても乗る人間の感覚までは追いつかないのだ。

 

 直後、センサーが上方に奴がいると示したと同時に、セシリアの肩口から胸にかけて衝撃が走った。上から一閃されたのだ。機体のシールドエネルギーがごっとりと減少した。これがゼロになると負けが確定する。

 

 セシリアの駆る「ブルー・ティアーズ」はワンオフ、つまり専用機であり最新鋭機である。ジャックの駆る日本製の訓練機「打鉄」如きではスペックは「ブルー・ティアーズ」の足元にも及ばない。しかしジャックは専用機をも上回る機動をやってのけた。

 

「打鉄でしょーっ!?」

 

 そうセシリアが叫ぶのも無理はない。叫びつつもその場を速攻で離れ絶間なくジャックに向かって乱射しているが、レーザーにも拘わらず見事に躱されてしまう。スペックの違いを凌駕している。

 

 セシリアは、腰に懸架していた遠隔レーザー狙撃兵器「ブルー・ティアーズ」子機を有りったけ切り離し射出した。ここで格好良く前口上を語るのが常ではあるが、相手にタイミングを教えるのは愚策なので黙って行動を取った。

 もうジャックが戦いの素人である可能性を思うのはやめにした。

 

 

「ねーかんちゃんかんちゃん、打鉄であれだけ動けるものなの?」

 

 観客席にて、簪の隣に座った布仏本音が彼女に尋ねる。更識家の従者の家系であるが、簪とは対等の友人関係にある。

 

「最大スペックを引き出せばイケる。そして後はテクニック、そして胆力」

「おー」

 

 思わず両手の親指を立てる簪。余談ではあるが、日本政府主導の下で秘密裏に行われたISの非公式試合でジャックが圧勝したのを彼女は見学している。

 

 そしてアリーナではジャックが二度目、三度目の斬撃をセシリアに与えていた。

 

 

「すげぇ……」

 

 一方、控室でモニター越しに試合を観戦していた一夏は、その様相には驚愕の一言だった。隣に立つ箒はどちらかというと一夏を見ている。

 

「一夏、よく見ておけ。これが本気の者同士の試合だ」

 

 同室にいる千冬はそう釘を刺すが、一夏が段々悔しそうな色を見せてきている辺り、これが自身の向上に繋がればいいと考えていた。

 一通り試合の流れを見た千冬は、確信を持って控室を抜けた。

 

 

 円を描くように立体的に軌道を取り、セシリアは彼に間合いを取らせないようとにかく飛び回った。が、子機を脳波により機動させ撃ち込む関係上、自身の機動と射撃が疎かになる。止まるのは愚策であるため、単純な動きで負担を減らしつつとにかく飛び回ることにしている。レーザーライフルも連続使用による熱ダレで自動停止するギリギリまで休めない。

 それでも死角から襲ってくるジャックからの斬撃で自身と子機1機が斬られる有り様だ。一方の彼には未だ一撃もヒット出来ていない。

 

 子機による追い込みを掛け、ジャックを特定のルートへ誘導する。2グループに別れた子機がジャックを想定した地点に誘い込み、獲物を中心に2つの円状のルートに沿って公転した。つまりは即席のトラップである。

 

「ロンドン橋ィッ!」

 

 セシリアの小さな呟きに特に意味はない。子機のトリガーを脳内で引き、同時に自身もライフルで狙撃した。これで相手は詰みである。

 

 が、次の瞬間には子機が全て爆発した。ジャックがレーザーの光条を全て斬り返したのだ。その跳ね返されたレーザーは正確に子機へと飛び、破壊しつくした。いくら人間の動体視力が良かろうと、光の速度で飛ぶものを捉えるのは無理がある。彼は先を読んだのだ。

 ライフルの光条すら跳ね返され銃身に当たり、レーザーライフルが機能停止に陥った。つまりこれでセシリアは長距離で攻撃する手段を全て失ったことになる。

 

 観客、一夏や箒らは唖然とするしかなかった。

 

 一方のジャックであるが、パキンと音を立てて刀が4つに割れた。さもありなん、高出力のレーザーを立て続けに食らって得物が無事に済む筈がない。

 

「ふむ」

 

 ジャックも攻撃の手段を失ったかに思えたが、特に慌てることもなく残った柄を鞘に納めた。

 そして、ISの腕パーツを解除し、放り捨てた。更に胸部パーツも捨てる。ISスーツに包まれた生身の上半身が露出した。鍛え抜かれた筋肉の塊が公衆に曝け出される。

 最後に自身が持ち込んだ刀、「魔剣」とも称される程の一振りを躊躇なく抜いた。

 その刀身の輝きに、セシリアは吸い込まれそうな錯覚を覚えた。

 

 ジャックが魔剣を正眼に構える。僅かなぶれも歪みもない。セシリアは魔剣だけでなく、持ち主のジャック自身の目にも吸い込まれそうに思えた。

 対するセシリアも、ショートブレード「インターセプター」を抜き、ライフルの銃身に接続し、銃剣として構えた。銃剣は戦うイギリス人にとって信頼の置ける武器の一つである。

 

 数瞬の沈黙の後、両者は残像を残す勢いでもって激突し、すれ違った。ある種の研ぎ澄まされた美がそこにあった。

 

 仰向けに飛ばされたのはセシリアだった。ジャックの胴打ちが完璧に決まったのだ。シールドエネルギーを残り全て吹き飛ばし、その下の「絶対防御」すら突き破った。ISスーツの胴部分が吹き飛んだだけで済んだのは僥倖であろう。

 

 セシリアの機体が墜落するが、地面に激突する前に自動で姿勢を制御されスラスターが噴き出して軟着陸した。地面に尻もちをついた形となる。

 見上げた位置にいるジャックは、遂にただの一度も攻撃を受けることもなく呼吸すら乱すこともない、圧倒的な完勝だった。

 

 セシリアは自身の負けをはっきりと思い知らされた。だが不思議と充足感を覚えている。

 

 遅れて試合終了のアナウンスが真耶よりもたらされる。観客は一斉に溜息をついた。息をするのもつい忘れていたのだ。

 

 当のジャックはゆっくり地面へ降りた。納剣して一礼した。そこに相手を見下す姿勢は露程も見受けられなかった。

 

『つ、続けて、ジャック・ラマールさんには次の試合を行ってもらいます』

 

 真耶からは、即次の試合を促すアナウンスがなされた。流石に無理があるかと思われたが、

 

「仔細承知した」

 

 通信越しにジャックは何の問題もなく承諾した。

 

 次の対戦相手である一夏がピットから現れる……と思われたが、実際には違った。

 

『次の対戦相手、織斑千冬先生!』

 

 観客が困惑を極めざわめく。「打鉄」に身を包んで勝ち誇った表情でアリーナに登場した千冬に、更にざわめきが拡大していく。

 

「なるほど、そう来たか」

 

 ジャックは千冬がこの試合に彼を巻き込んだ理由にようやく合点が行き、苦笑いした。結局彼女自身が彼と戦いたかったのだ。

 

「さぁ往くぞ、ジャック」

 




・ジャック
 殺し屋が狙ってきた原作のエピソードに顕著だが、どうやったら勝てるのコイツな人物だけに、セシリアは苦労したろう。

・一夏
 原作ほぼそのままのエピソードは概ね数行で納まる。

・セシリア
 終始セシリア視点でのバトルにした。

・千冬
 ドヤ顔で乱入した人。
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