ブリュンヒルデ VS ヤング・サムライジャック   作:梵葉豪豪豪

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03 白と赤

 クラス代表を決める試合の翌日から、一夏は剣道部に所属し剣道場にて日々剣の腕を磨くこととなった。あの試合に一夏が思うところが多々あったのは確かである。また、剣道部が一括して放課後とアリーナとISの使用を申請し、ISによる自主訓練も行い、剣道部らしく主に剣を振るい対戦する日々である。ここで一夏は、強い相手は世の中に数多く存在することを思い知らされた。

 

 既に剣道部に所属している箒としては、意中の一夏と一緒にいられるというのはそれはそれで嬉しいことではある。が、そのような感情を表に出すのはどうにも苦手で、それに今一夏が鍛錬に打ち込む姿勢に自分が水を差しはしないか、とのささやかな恐れがあり、奥手へ奥手へと向かってしまう。

 それら諸々を気にしつつ、ふとアリーナの周囲を見回してみれば、ISに剣を振るわせている生徒が一頃より妙に増えていることに気付いた。千冬とジャックのインパクトは余程大きかったのだろう。自分と一夏とて例外ではない。

 

「そういやさ、ジャックは普段どこで鍛錬しているんだ?」

 

 という一夏からの問いに、箒は早朝の剣道場らしい、と答えた。直接見た訳ではない。だが実際に立ち会った剣道部長曰く、彼がやっているのは我流の剣術の型であり、実戦向きだとのこと。剣道と剣術の違いって? と二人の頭には疑問符が芽生えたが、何分夜更かしの多い若い子たちでは早朝起きて確かめに行くにはつらかった。

 

 尚1組のクラス代表は一夏に決まった。セシリアからは自身の大人げなさを反省して辞退があり、ジャックは千冬の悪巧みに乗ったことへの責任を取る形で辞退した。二人に謝罪までされてはクラスとしても意向を無下にはできない。最終的に、将来性に期待できるという理由で一夏なのだが、つまりは消去法である。後になって一夏が「これって政治では?」と気付いたが後の祭りだった。

 

 

 昼の混み合う食堂にて、いつもの如く簪とジャックが向かい合って昼食を摂っている。二人の取ったメニューは湯豆腐定食である。昼からそれ!? という隣に座った生徒の目を気にすることなく和気藹々とランチを楽しんでいた。

 

 彼女らのテーブルから少し離れたところにあるテーブルが多少騒がしい。姦しいとはちょっと違う。ふと簪が注目してみると、そこは一夏らのグループだった。いつもなら一夏、箒、セシリアのところに、背が低くツインテールの髪型をした女子生徒が一人増えている。随分と挑発的な態度を取っている感がある。

 

「1組に吶喊したんでしたっけ? 例の2組のあの子」」

「織斑殿の知り合いでござったよ」

 

 ツインテールの女子は遅れて入学してきた中華人民共和国の代表候補生で2組に所属している。その彼女が今朝1組に宣戦布告しに行ったとは簪のいる4組でも噂になっている。当然、ジャックは現場を目撃している訳ではあるが。

 簪がふと何かを閃いた。

 

「あ、わかっちゃいました。あの人らに痴情のもつれが起きると」

 

 閃き、とも呼べない誰が見ても今現在そうなりかけている現状を指しての言葉だ。とはいえ他の女子も一斉に同意して頷いた。

 ジャックはつい苦笑いが出てしまう。彼としては何年生きてもガールズトークというものには慣れないものである。

 

「ここはそっとしておくのが一番でござるよ」

「馬に蹴られて何とやらですよねー」

 

 とは隣に座る生徒の弁。言外に手を出さずに遠くから眺める方が面白いんですよねこういうの、と受け取られていたとは流石のジャックでも考慮の外だった。

 

 

「さて一夏」

 

 日も変わり、本日はクラス対抗試合が執り行われている。その会場であるアリーナにて、第1試合、1組の一夏と、2組のツインテールの例の子、凰鈴音が空中で対峙する。彼女はクラス代表でもあった。授業の一環のため、観客席には全校生徒が詰めかけ、当然ながら満員御礼である。

 

 お互いが装着している機体は、一夏が白い「白式」、鈴音が赤黒の配色の「甲龍(JIALONG)」。同じ専用機同士、白と赤、日本と中国のある意味判りやすい対決の構図に生徒たちは興味をそそられ盛り上がる。

 

「この期に及んで言うことある?」

 

 非常に冷ややか、ともすれば無表情に鈴音が一夏に問う。怒りも高まり過ぎると逆に冷えて感情が消える、ということを一夏が知るには若すぎた。

 

「いや判んねーよ! 俺が何したってんだ」

「ま……そんなこったろーと思ったわ」

 

 一夏の突っ込みに鈴音はただ静かに肩を竦めるだけだった。

 元々は鈴音と一夏との間で交わした約束を一夏が曲解して覚えていたという、ただそれだけの諍いだった。売り言葉に買い言葉で拗れてしまったが、本当のところISで落とし前を付けたからどうなるというものでもないことは鈴音も自覚はある。

 

 試合開始のブザーが鳴った直後、一夏は鈴音に向かって突撃した。ただ真っ直ぐに。

 

 武器を量子化して格納する「拡張領域」から、「甲龍」の右掌に中国製の92式拳銃が再構成され出現した。鈴音は即一夏に向け、5発連射する。

 

「おわっ!」

 

 一夏は速攻で右に避けた。そのつもりだったものの銃弾が巨大なバックパックの端に一発当たり、跳ねていった。

 

「感心感心、ちゃんと避けられたじゃない」

「その手があったか……」

 

 自分が銃火器のないISに乗っているとはいえ、銃火器の使用も含めてISの試合である。流石に一夏は銃を卑怯とは言わなかった。

 

 即92式拳銃を格納する鈴音。単に一夏の動体視力を測っただけの行動である。その上で、今度は中国刀「双天牙月」を右手に再構成し、握る。

 

 その間にも一夏が蛇行して接近し、唯一の武器である刀「雪片弐型」を大上段に構え、振り下ろした。剣道の面である。

 迎え討った鈴音は「双天牙月」を片手のまま斬撃を滑るようにいなし、払いのけた。負けじと一夏が切先を強引に変え上段での連打を加える。それでも全ての斬撃を鈴音が表情を変えることなく片手で払い続けた。10打目にして、一夏が剣道の胴よろしく鈴音の左腹を狙う。それすらも鈴音は無言で跳ね返した。

 

「吹っ飛べ! この!」

 

 一夏は何度も回り込みあらゆる方向から斬撃を加え続けている。が、全てが片手の中国刀にいなされ、逆に自分が切り刻まれ、シールドエネルギーが少しずつ減少していった。

 頭上を取った! と一夏が鈴音の真上に位置しほぼ密着しかけた。だが閃光のない重厚な爆発音が両者の間から響き渡り、一夏は明後日の方向に飛ばされた。

 

「ぐはっ!」

 

 種を明かせば、鈴音の「甲龍」のバックパックに搭載された「龍咆」と呼ばれる遠距離兵器による仕業である。これは、衝撃のみを生成し見えない砲弾を撃ち出すものだ。しかし複雑な機構と製造コストの割に、砲口の向きとISのセンサーによる検知で簡単に避けられる代物であると判明している。しかも連射が遅いときている。機関銃を持たせるのに比べて割に合わないため、初見殺しと牽制に使うのが関の山となった。結局は使いどころである。

 

「こんな隠し玉があるのかよ! ……ちょっ! 何とか言えよ!」

 

 ガチバトルの最中にベラベラ喋りまくる愚を犯すつもりは鈴音にない。「双天牙月」を構えてからは終始無言を貫いている。しかもその場から一歩たりとも移動していない。

 一夏から見ると舐められてると見えて、怒りを覚えテンションが上がってはいる。一方の鈴音は鋭く睨み付けたままである。ただ冷酷に、獲物を狩っているだけなのだ。

 

 

 盛り上がるアリーナの客席の一席において、箒は不安に駆られていた。当然ながら、一夏が勝つかどうかである。隣に座るジャックについそんな不安、というよりも願望を訊いてみた。

 

「一夏……勝ちますよね?」

 

 対してジャック……ではなく更に向こうにいる簪、箒からすれば面識のない誰かに代わりに答えられて一瞬ムッとした。更に向こうには本音が笑顔で意味もなく手を振ってアピールしている。

 

「場数を踏んでる代表候補生と鍛え始めたばかりのペーペーじゃ勝負にならないんじゃないかなぁ。織斑君に格闘センスはあるけど」

 

 判っている。判っちゃいるけどこう手心を……と言いたくなる程身も蓋もない回答に箒は若干イラッとする。だからつい反論をしてしまうのも致し方ない。

 

「いやこの前だって候補生には迫ったし」

「一次移行による攻撃判定のキャンセル、相手の慢心によるラッキーだよ。今はそうはいかない」

「だが『零落白夜』さえ当たれば勝てる筈だし……」

「あの時彼は自分のシールドエネルギーを食われて自滅してた。逆に使わなかったら撃ち返されてエンド。その二の舞にならないという保証はない」

「ぐぬぬ……」

 

 あー言えばこう言う。淡々とやり返されて箒は人目もはばからず地団駄を踏みたくなる気持ちをかろうじて抑えた。何か一夏に恨みでもあるのか。あるに違いないこのアマ。

 

 そこでジャックがフォローに入った。

 

「織斑殿には人一倍の粘り強さがあるでござるよ。この戦いがどうであれ、彼が学んで血肉にすれば無駄にはならぬでござる」

 

 しばらく彼の言葉を咀嚼した後、裏表なくいいこと言うけどそれって結局一夏が負ける前提で言ってないかって気付いた箒だが、突っ込むタイミングを逃してしまった。

 

 

 一方のアリーナでは、一夏がシールドエネルギーを削られながらもどうにか鈴音に食らい付いている。

 

 突然、アリーナ上空で何かが叩き付けられる音とともに、頂上のバリアが破られ何かが落ちてきた。簡単に壊れないバリアではあるのだが、落下速度が音速を超えた高い質量相手には些か強度が足りなかった。

 

 一夏、鈴音だけでなく観客も一瞬注目し、まるで静止したかのように固まった。その間にも、バリアに叩き付けられても尚勢いが止まらないその物体は地面に激突した。それでも勢いが止まらず地面を滑っていく。

 

 物体はよく見ると2つであった。下にいるのは群青色のIS、バックパックが粗方失われていて、満身創痍とも言える。上の物体をISの腕で何度も殴りつけている。

 一方その上にのしかかっているのは、傍目によく判らない真っ黒な不定形の物体だった。腕があり、埋もれた頭があるのでかろうじて生物の上半身に見える。一方、トカゲのような口と、そしてギョロッとした目が人間性のなさを思わせ、見る人に不快感をこみ上げさせた。

 

「何だこいつ!? 何だお前!?」

 

 一夏がそう叫ぶが相手に聞こえる道理もない。

 

 謎のISと黒い何かは壁面にぶつかり、更に壁面ひいてはバリアをも滑って上昇した。黒い何かはISの頭に手を掛けてバリアに押し付けている。

 

 

 観客席が騒然とする中、ジャックは黒い物体を睨み付け、立ち上がった。彼だけは奴の正体を知っている。

 




・一夏
 鈴ちゃんとのあれやこれやを「痴情のもつれ」の一言でひっくるめた。

・甲龍(JIALONG)
 設定の辻褄合わせのため、作者の前作からネタを引っ張った。神龍と甲龍は混同しようがあるのかという疑問が。神田川をよどがわと呼ぶようなものだろう。龍咆は初見殺し扱い。センサー満載で銃弾避けられるISなら普通に対応の一つもできるだろうということで。

・92式拳銃
 等身大メカならサブアームの類は携行していてもおかしくなかろうということで持たせた。

・鈴音
 強い。
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