ブリュンヒルデ VS ヤング・サムライジャック   作:梵葉豪豪豪

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 クロスネタとして伊良子清玄と行徒版ヴァン・ヘルシングを送り込んだ場合を考えてみた。人間関係が大惨事過ぎたので10秒でやめた。



06 わが闘争

「すぐにでも病院へ搬送します。あまり長居はしないでくださいね?」

 

 校医からの念押しを肝に銘じつつ、千冬とジャックは病室に入った。ベッドに座っているのは、件のISの少女だ。病衣に着替えてある。あの件で大量の出血をしたため、点滴を受けていた。失った右腕の先は応急処置として樹脂で固めてある。千冬としては一連の騒動について彼女に事情聴取、とまでは言わずとも事情を聞かなければならない。一夏らも聞きたがっていたが、結局押し留めた。

 

「何だ、織斑千冬か」

 

 およそ好意的ではない調子で例の彼女が睨んできた。千冬としては自身が有名人という自覚はある。が、IS乗りから自身へ僅かとはいえ敵意を向けられるというのは気分の良いものではない。とはいえそこは飲み込んだ上で接した。

 さしあたっては、千冬はジャックともどもお互い丸椅子を引き出して座り、ベッドの上の彼女と相対する。

 

「調子はどうだ?」

「右腕が痒い」

 

 つまりは幻痛である。校医の話によると、彼女は処置の間取り乱しもせず終始落ち着いていたという。

 

「で……そこのお前は何者だ?」

 

 少女は千冬の隣で静かに座る偉丈夫を疑わしい目を向けつつ、左手で指差した。とはいえ別にジャック個人へそこまで興味がある訳ではない。当のジャックは飄々とした態度を崩していない。

 

「……まぁいいか、訊きたいことは察しが付く。答えてやるよ」

 

 改めて、千冬とそっくりな風貌の彼女は自己紹介から始めた。

 

「私はエム……は通称か、本名は織斑マドカだ。偶然と思うなよ?」

 

 千冬の片眉がこれみよがしに釣り上がった。その名前の意味するところを数瞬の間吟味していた。心当たりは、あるといえばある。

 

「そうか。随分とあっさり明かすんだな」

「帰る所が無くなったのだ。今更組織に義理立てしても不毛なんだよ」

 

 マドカが左手で頭を掻きつつ、話を続けた。

 

「まぁ、お前も大方察しは付いているだろうがな、私はお前のクソ両親がやらかしたクソ計画の産物で犠牲者だ。今更どうでもいいが」

 

 千冬の両親は蒸発している。何があったのかは薄々感じてはいたものの、当時は頼る親戚も知らず姉弟ともども食うのに精一杯で、調べる余裕なぞありはしなかった。かといって今更過去を知りたいとも思わない。

 今の千冬にしてみれば目に前にいるのは数少ない親類とも言える。

 

「なら姉妹として見ていいか?」

「勝手にすれば?」

「にべもないな」

 

 些か拙速に過ぎたかと千冬が内心恥じた。彼女が織斑家に好意的になる筈もない。

 

 ここにきてジャックが口を挟んだ。あくまで物静かに。

 

「ここに来た理由と後、あの魔物と何があったか伺ってもよろしいか?」

 

 マドカが一瞬考え込む。仕事上彼のプロフィールは見た筈であるが、特に興味も持たなかった。

 

「……あぁお前、噂の男性適合者か」

「某(それがし)についてはジャックと呼んで頂ければ差し支えない」

 

 拙者といい某といい、彼は自分を謙りすぎでは? と千冬は思わず彼に振り返り、訝しんだ。そこまで自分を一歩距離を置いて彼から見えている世界は何なのか。

 その千冬にお構いなく、マドカが先を続けた。

 

「追いかけられていたのは、そりゃ殺されそうだっただからに決まってる。ここに落ちたのはたまたまだ。アレの正体は、まぁどうせ説明してもお前らに判らん」

 

 喋った後でジャックが魔物の正体について聞いてはいない点にマドカが気付いた。

 

「もう一点よろしいか」

「何だ」

「『アク』をご存じか?」

「悪か……?」

 

 マドカの眉根が厳しくなる。一方、千冬は首を傾げる。一般的な言葉を知っているかと問う意味は何の意図があってと訝しんで、彼の方を向いた。

 ただマドカの方は固有名詞だと正しく受け取っていた。

 

「おい」

「闇のような黒い体にギョロっとした目と大口に牙、尊大な態度、不快感と恐怖、まぁ奴の特徴を挙げるときりがないが」

「何だ知ってるのか」

 

 プロフィールに記載された朴念仁などという言葉に騙された気分をマドカが抱いた。報告書に個人的感想を書くな。

 

「そうだよその『アク』にやられたんだ。うちの組織がな。……あの黒い奴が突然現れて、うちの組織に恭順を強要したんだ。まぁ当然上は突っぱねた。結果、本部ビルごと何もかもタールみたいな黒い何かに沈められた。同時に支部も活動中の連中も全部ひっくるめてだ。私だけは方々の体で逃げ出して、今に至る、と。恐らく私が最後の一人、ということだ」

 

 一気に言いたいことを全部吐き出して、マドカは気が抜けた。後に警察や政府にも同じことを言わなければならないと気付くのは後の話である。

 ジャックはそれで得心を得たようだ。逆に千冬は混乱している。あの魔物を目の当たりにしても尚荒唐無稽に聞こえるのだ。

 

「うむ」

「そんな無茶な話があるものか……?」

「お前の相方は信じてるぞ」

「……そうなのか?」

「実際あり得る話でござる」

「むぅ……」

 

 ジャックにそう言われると納得せざるを得ないのが今の千冬である。そんな千冬を他所にジャックは更に促した。

 

「接触された理由に心当たりは?」

「まぁうちは世界規模のテロ組織だったからな、もっと悪い奴にすれば他の悪い奴が気に食わなかったんだろうさ」

 

 マドカは肩を竦めた。仲間を失ったことに思う所はあるが、殺し合いの世界にいた間柄である。いつかは自分含めて死んでもおかしくはなかった。もはや過去となった。

 

 聞けることは聞いたのでとりあえずは千冬が話を進めた。今後のことである。

 

「話は変わるが、お前の身柄は悪いようにはされない筈だ」

「どうでもいい。今更生き延びても不毛だ。金輪際『アク』ともお前らとも関わり合いたくない」

「そうか。私としては同じ親戚同士、一夏とも仲良くなって欲しいのだがな」

「あぁ織斑計……今となってはただの人か。一般人として頑張って生きていればいいんじゃないか。私の知らないところで」

「……あいつの過去に何かがあったとしても黙っていてくれれば助かる」

「弟思いなんだな」

「まぁな」

 

 最後はマドカなりの投げやりな皮肉である。千冬は受け流したが。

 

 

 その晩、千冬は自室にてスマホを手にある番号へと掛けた。番号の主曰く、通信キャリアにログが残らない番号らしい。

 速攻で相手と繋がった。

 

『ぐっいぶにーん、ちーちゃーん!』

「まぁ何だ、久しぶりだな」

『ナニナニ、遂にシケた教師生活辞めて回顧録で夢の印税生活?』

「そんな物書く程まだ人生歩んでおらん」

 

 通話の相手は、ISを発明した友人、篠ノ之束だ。箒の実姉でもある。久しぶりと言っても春先には一夏がISを動かせた件で問い詰めたばかりだったが。尚彼女からはもう過ぎたことのオマケの残りなどと返された。

 

「たまには妹と実家に顔見せてやったらどうだ」

『なかなかそうもいかなくてさー、表に出るのは危険が一杯』

「そんなにか」

『家族に迷惑掛けているの自覚してるつもりなんだけどねぇ』

 

 通話口からは頭を掻いたような音がした。

 現在彼女は行方を眩ませている。あらゆる理由で国家や団体から狙われる面倒な立場にある。どう面倒かを列挙していったらきりがない。

 

「そうか、それはそれとしてだ」

『うんまぁそれはそれとして』

 

 早速千冬は本題を切り出した。

 

「……『アク』を知ってるか? 固有名詞の『アク』」

 

 お互いに無言の間が起きた。ほんの数瞬である。束なら知っているかもという軽い期待から来る問いかけだ。

 

『……ちーちゃん、そいつに関わる何かを知ったんだね?』

「あぁ、そうだ。今日学園でそれらしき怪物に遭った」

『なるほどね……。突然ですが質問です。束さんがISを造った理由、当時何て言ったでしょう?』

「ISをか……? ……おい!?」

 

 束がISを発明した当時、つまり中学生の頃を千冬が何とか記憶の底から引っ張り上げてみた。当時彼女は確か千冬に向かってこう述べていた。極めて真顔で。

 

『ISは『アク』を倒すために造った』

 

 当時千冬は「悪」と受け取って、ヒーロー物の見過ぎじゃないかと内心一笑に付していた。だが今日の一件があり、これがジャックとマドカの指した『アク』という存在だとしたらと思うと、寒気を覚えた。そして一つの可能性をも思い立ち、寒気は倍になった。

 

『そういうことだよちーちゃん』

「言葉もない……なぁまさか10年前の2千発のミサイルって」

『うん。……あんな真似が出来る存在なんだよ』

「何故!?」

『束さんがいたから』

 

 千冬は絶句するしかなかった。

 10年前、日本列島が世界各地から襲来した2千発のミサイルに狙われるという惨事が起きた。規模と威力からして関東平野が丸ごと更地になる勢いだとは聞かされていた。そこで当時中学生だった束はIS実用型一号機「白騎士」を用意し、千冬が乗り込み全てを迎撃した。後に邂逅した各国の艦隊をも迎撃した件と併せ、「白騎士事件」と呼ばれる珍事の概要である。

 一方、世間では束のマッチポンプだと囁かれており、千冬自身その疑念は今日まで捨てきれないままでいた。

 だが千冬はたった今真相を知ってしまった。絶対悪の存在は彼女一人を殺すためだけに日本の国土を平気で壊滅させようとしたのだ。しかしこんなこと他人に話したところで取り合ってもらえる話でもない。

 

『できればちーちゃんとこにいるあの男、昔から奴に対抗できたみたいだから欲しいんだけどね』

「……やらんぞ?」

『はは』

 

 ここ数年間で束が恐らく普通に平和的に微笑んだ一瞬ではあった。

 

 千冬は、比喩的な表現だが襟を正した。

 

「束」

『うん?』

「死ぬなよ?」

『奴を倒すまで、死ねないさ』

 

 束のその決意は10年来変わっていないものだった。

 




・マドカ
 亡国なんとかは、ま、どうでもいいだろう……という意図があったりなかったり。

・ジャック
 実はそんなにござる言わない。この作品が言わせ過ぎ。キャラ付けに便利なので。

・束
 ここの束は超真面目に人生を生きてる。織斑計画はちっふーの知らんうちに潰えた。原作の彼女は未来を生きてるようで過去を向いているんだなと思った。

 次回はいきなり箒が以下略。
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