ブリュンヒルデ VS ヤング・サムライジャック   作:梵葉豪豪豪

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 サボってしまい恐縮です。

 あと白い束(タバえもん)とか、舞台装置として便利だしそうなんだろうとは思うけども。



07 白の兎

「喜べ諸君、今日はプロをコーチに呼んである」

 

 一夏や箒を含む剣道部の面々を前にして、顧問であるバタカップ・ユートニューム先生が腕を組みつつ弁を取る。博士号持ちであり、米国から招へいされた白人の女性教師である。短髪で後ろ髪の跳ねた黒髪が勇ましさを思わせる。

 

 ここは放課後のアリーナ。その片隅で一夏、箒を含む剣道部が整列する。ISの鍛錬であるため、ISを持ち回りで使っていくことになる。

 剣道部とは言うものの、インターハイ等の公式試合に出場する訳ではない。実情はISにおける戦技の研究会だ。

 剣道部に貸し出された機体「打鉄」は彼女らの後方に1機待機してある。尚一夏だけは一人で特定の機体を使っている。専用機「白式」だ。ずるいといえばずるい話だが、そこをやっかむ部員はいない。彼女らは一夏なりに国から責任を背負わされながら努力しているのを知っているからだ。

 

 彼女らの前に立つのは、同じく国から責任を背負わされている人物、セシリア。IS「ブルー・ティアーズ」を纏っている。

 

「皆様、よろしくお願いします」

 

 セシリアが優雅にお辞儀を取る。ISを纏ったままでは窮屈な動作なのは否めないが、そう思わせないしなやかさがセシリアにはあった。

 そのセシリアはレーザーライフル「スターライフルmkⅢ」を縦に掲げている。ISの全長をも超える銃身の先に剣を取り付けてある代物だ。結果、銃剣としては相当長く、槍か薙刀のニュアンスが近い。

 

「おぉ、プロ」

 

 部員の一人が思わず感嘆してしまう。現役の代表候補生と剣を交える機会なぞそうそうあるものではない。

 

 尚先日トラブルにより休止になったクラス対抗戦であったが、日を改めて無事開催された。学校行事であるので必然とそういう措置になる。

 再度鈴音と対戦した一夏だったが、結論から言えば負けだった。文句の付けようがなく、完璧と呼べるほど。

 これをもって一夏は素直な態度で鈴音に頭を下げた。今の実力を思い知ると同時に、鈴音に教わりたい、高みに登りたい、その愚直とも呼べる気持ちが一夏を動かした。その時放った彼の言葉は真剣だった。

 

「俺自身今何をしたいのか判らない。だから自分が人生で何をしたいのか見極めたい。それまで結論は待って欲しい」

 

 鈴音の反応は語るまでもない。

 尚この一連のやり取りを目撃した箒は、あぁ男だ、と嬉しくなったと同時に、鈴音に向かって帰れチャイニーズと叫びたくなったのは察して欲しい。

 その鈴音は現在自分のクラスメイトに引っ張り出されて自主練を行っている。箒としてはできれば永久にそうなって欲しいと脳内で実家の神社に向かって願を掛けていた。

 

 などと箒が悶々としている間に、セシリアに向かって部員が機体を持ち回りしつつ一本取りに行く形式で練習が続いていた。道場でよくやる剣道の練習みたいなものである。

 箒も挑みはしたが、何がなんだか把握できないまま圧倒的に一本取られた。思った以上に実力が違いすぎてただ呆然としてしまい、頭が追いつかない。

 

 さて、空中におけるドッグファイトは、基本的に死角の取り合いである。というまさに実例とも取っ組み合いを見せているのが、まさにセシリアvs一夏の練習だった。

 一度距離を取った一夏が、アリーナ壁面のバリアを垂直に滑りつつ蹴りつけ、急角度を取って加速してセシリアに肉薄する。遠くからでも残像が見える速度で迫り、狙ったポジションは彼女の右後方、ISの構造上得物を向けにくい角度だ。

 しかしセシリアはその場で大きく円を描くように縦に滑り、タイミング良く一夏の真上を取った。死角の一つである真下を選ばなかったのは、蹴りで反撃される可能性を考えたが故である。一夏もそのつもりであった。

 ともかく二人は刃をカチ合わせたのだが、鍔迫り合いとなるほど都合よく行かない。セシリアが銃剣の刃を滑らたのだ。斬撃を受け流したという表現が適当であろう。ヒットに失敗した時点で一夏が全力で後退し距離を取ったのは賢明な判断と言える。

 

 そんな上空で繰り広げられる剣撃の繰り返しを、箒始め手の空いた部員らが眺め続けている。

 

『一夏さん、「零式白夜」は一撃必殺のスキルですが、ハッ! 知っていれば対策は幾つも研究できるものです。ですから「対策されている」ことを前提に戦術を組み立ててください!』

『あぁ、やってみる!』

『その意気ですわ!』

 

 持ち込んで地面に置かれた通信機材からは、二人の真剣なやり取りが流れてくる。返し技を研究した対戦相手に更に速攻で返し技を編み出す某女性柔道家並みにハードルの高い要求を一夏はされているのだが、それでもモノにしようと果敢にも食らい付いている。そんな彼に惚れ惚れしてしまうのが箒だ。

 だが一方で、オルコット貴様は駄目だと吊り眼を更に吊り上げつつ、箒は上空に舞う蒼い機体を睨み付けた。

 一夏に寄るな帰れ故郷でウナギを不味く食ってろそして太れ。脳内から罵倒が次々と湧いてくる。

 

「篠ノ之さん、何か怖い顔になってるよ」

「え、あ、その、すまない」

 

 隣に並んでいた部員からの何気ない指摘に、箒が思わず我に返ってしまった。思わず両手を両頬に当てて、引きつるやら恥ずかしさで紅潮するやらの顔を誤魔化した。後ウナギのゼリー寄せといっても煮こごり自体は日本にもある料理であることを彼女には判って欲しい。

 

 突然アリーナが変に騒がしくなった。多くが上空を指差している。一夏が飛んでいる方向と反対側である。箒らが釣られてその上空に目を向けると、そこに貼られたバリアが消滅していた。中心に鎮座し、ロケットを派手に噴射して勢いよく下降しているのはVTOL(垂直離着陸機)、見た目は横倒しになったミサイル、身も蓋もなく称すると某国際救助隊の1号機である。現状、燃料の推進力のみで離着陸できるVTOLはどこの国も開発中なので、非常に珍しい。ただ、オレンジとグリーンに塗られた機体には、箒は何と悪趣味な、と眉をひそめるばかりだった。

 だがその悪趣味なセンスには不幸にも思い当たるフシがあった。

 

「まさか…!?」

 

 VTOLにある側面のハッチ兼タラップが下へと展開した。地面のコンクリに叩きつけるほど勢いが付いており、その奥から人の脚が伸びている。つまりは蹴り開けた。

 周囲の生徒らは事態を呑み込めないまま、皆無言でVTOLに注目し見守っている。果たしてその薄暗い奥から現れたのは、メイド服を来た女性だった。控えめに言って身だしなみに無頓着な風体なのは残念なポイントであろう。その女性が多少スキップしつつ、箒に向かってきた。

 

「うん、その、久しぶり、箒ちゃん」

「えと……姉さん?」

 

 そのコスプレ女・篠ノ之束は妹に対しいかにも能天気なスタイルで接してきている。周囲が一気にざわめくのは致し方ないところである。地上に降りた一夏は一見して束姉ぇ実のところ多少無理しているのではと見立てた。

 

 ただ束の見た目がおよそ尋常じゃなかった。白髪になっているのだ。箒と一夏の記憶している限りでは、彼女が10代の頃は青紫の光沢を湛えた綺麗な黒髪だった筈である。

 しかも顔から首にかけての左側と左目が多少変色している。火傷の跡だった。更に左腕は上腕から先が義手になっている。それでいて目付きはギラついていた。

 あまりにインパクトある姿に、周囲の生徒らは唖然とするだけである。

 

 一方バタカップ先生は、生徒を引率する教師だけに他の生徒らを庇いつつ前に進み出た。警戒は解かない。

 

「アンタ……篠ノ之束博士かい?」

「ご名答! うんうん束さんの知名度もまだまだ高くて何よりだねぇ」

 

 腕組んでドヤってる姉に、箒がつい周囲の目を気にしてキョドッてしまうのは仕方がない。もう何年も会っていない姉であるが、ヘラヘラしてた兎が猛禽類にジョブチェンジしてもやはり身内だとは判るものだ。

 

 姉と妹という関係に、事の推移を見守ってきた周囲のざわめきが更に増してきた。これまで生徒らには箒の家族関係は伏せられていたし常識的に教師がおおっぴらにはしていなかったが、そもそも篠ノ之という苗字自体が珍しいために、生徒らの間では密かに関連を囁かれてはいた。

 

「束姉さん……やっぱ束姉さんだ」

 

 小学生時代に記憶する限りクレイジーサイコ姉さんだったが、一夏の印象では当時と根っこはそう変わらないんじゃないのか、と何となしに感じた。

 

「箒ちゃん」

「は、はいっ!」

 

 突然自分へど直球に向き直った姉に、何を話せばいいのか思いを巡らせていた箒が対応できずしどろもどろになってしまう。

 

「単刀直入に言うね。姉からのプレゼント、受け取って!」

「え、えぇー……」

 

 何を!? と箒が思う間もなく、VTOLの腹が開きコンテナが吐き出された。そのコンテナが展開され中央に鎮座したそれはISだった。既存のどれとも違う、紅い新品のそれである。

 

「あの、幾ら何でもこれって」

 

 箒が真っ青になってISを指差した。今の世界情勢で束謹製のISを受け取ることがどういうことかは授業で習った以上判る。判るのだが、あまりにも。

 

「色々言いたいことあるのはわかる。迷惑掛けてる自覚はある。迷惑料と受け取って構わないよ」

 

 迷惑どころか一家離散の上政府から監視させられ続けた、その原因を作り出した姉を恨んだことは数え切れない。

 

 箒が縋るようにバタカップ先生の方を向いた。そして一夏にも。

 

「先生……」

「篠ノ之、お前のやりたいようにやれ。こっちは咎めんよ」

 

 腹を括ろう。その箒の決心は一夏が頷いてくれたことが多分にある。

 

「では姉さん、ありがたく受け取らせていただきます」

「うん」

「ただ……他の皆にも使えるようにしていただきませんか?」

 

 絶対揉めると判っている以上、いっそみんなの共有物にしてしまえというヤケクソの提案だった。

 束は顎に手を当てニヤついた。納得はした様子だ。

 

「なるほど、さすが箒ちゃん、いい落とし所だね。いいよ、箒ちゃんが承認すればユーザー登録出来るようにする。分解整備マニュアルも用意しとくから安心してね」

「……ありがとうございます」

 

 ただお辞儀をする箒。姉相手に馬鹿丁寧すぎないか? 変にハイになってしまって、どうでもいいことを変に気にしてしまった。

 

「じゃ、早速フッティング行こうか」

 

 今から!? などと驚く暇もなく、あれよあれよという間に気がつけばその紅いISに鎮座していた。自覚はないが彼女は流されやすいタイプだ。一方束は左の義手からビューモニタを投影し、機体の挙動のチェックと微調整を行っている。

 

「何、5秒で終わるから。説明は後でマニュアルじっくり読んでね」

『紅椿・登録ユーザー『篠ノ之箒』を認証。各部調整……OK』

 

 箒が新しい樹脂の匂いを嗅いでいる一方、目前のビューモニタからOKの文字が大量に流れていく。直後に各部がロックされ箒の体は「紅椿」に一瞬で馴染んだ。

 

「では、試してみて?」

 

 箒が一瞬飛べと思考した瞬間、既に視界はアリーナの上空を見せていた。かかる荷重は「打鉄」に乗った時よりも遥かに小さい。

 

「篠ノ之さん」

 

 目前にセシリアが上ってきた。先程まで打ち合って箒が一本も取れなかったプロだ。セシリアが優雅にお辞儀しつつ、銃剣を構える。

 

「一緒に踊っていただけませんこと?」

「承知した!」

 

 「紅椿」の腰から日本刀を一振り抜く。機体には2振り装備されているが、生憎彼女は剣道で二刀流をやったことはない。体に染み付いたやり方を通すのが一番だ。

 

 直後、2つの機体が残像を残しかち合った。ように地上にいる生徒らには見えた。

 

 

 試合開始から1分、高速で2機が上空を縦横無尽に飛び回る。一夏からは一進一退で拮抗する様に見えた。箒が一撃を打ち込むもセシリアの銃剣に流される。失敗した瞬間一回転し胴を狙う。挙動はセシリアの機体と比しても3倍は速い。

 そんな試合を眺めつつも、一夏はあることに気付いた。

 

「あ、これって……ユートニューム先生?」

「そうだな、最新鋭機と新人の組み合わせは学園じゃ滅多に見られないけど、まぁそうなるな。織斑の時もそうだったな」

 

 一夏はセシリアと対戦した初試合を思い起こした。

 

「機体に振り回されてる……かな?」

 

 トリッキーさで勝負する一夏と違って一直線の動きを旨とする箒にとっては、思った以上に動きすぎてかえって余計な挙動を取ってしまうのが現状である。

 

「そうなんだけどISって基本同じだからね!」

 

 腕を組んで隣に立つ束が、試合を眺めつつ身も蓋もない指摘をした。結局本人の技量なのだ。

 

 結論を言えば箒はセシリアから1本も取れなかった。

 

 

 箒が機体から降りて周囲を見回した時には、既にVTOLが急上昇していた。バタカップ先生から「グッジョブ。人生の成功を祈る」と束からの言伝を伝えられた。随分忙しい姉だと思ったが、出入り口から教師陣が殺到している様を見て、あぁそういうことねと納得した。

 

 ふと、彼女はあることを思い出した。

 IS学園に強制的に入学させられると伝えられた頃、携帯に1通のメッセージが届いていた。差出人は不明だったが、思い当たる人物は姉以外考えられなかった。ただ一言、

 

『ごめんね』

 

 ふざけるなと当時は憤慨したものだが、今になって思うとたったそれだけのことをどれだけの思いや葛藤が姉にあったのか。家族に会えないのは姉だって同じなのだ。たったそれだけのことにようやく気付いた。

 

 彼女は一つ、背伸びをした。

 

 

「……よろしかったのですか?」

 

 VTOL内のコクピットにて、アシスタントの銀髪少女。クロエが束をちらちらと見ながらVTOLを操縦する。箒と面識はないが恩師兼養母の家族ということもあり気にはなる。

 

「箒ちゃんなら自分の意志で歩いていけるさ」

「妹思いなのですね」

「まーね」

 

 ドヤってはいるが、妹をどれだけ気にしていたかを間近で見ていた。何だ母さまかわいいなと益体もないことをクロエは思い浮かべていた。

 

「後ちーちゃんとあの男にも会いたかったけどね、それはまた今度!」

 

 VTOLは空港や軍からの管制を掻い潜り、何処とも知らぬ場へと消えていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「おいジャァァァーック!」

 

 ジャックのいる寮部屋の扉が唐突に開いた。彼がしっかり施錠をした筈である。合鍵を持っているのは寮長しかいない。つまるところ寮長の千冬が乗り込んできた。ラフな格好だが、ほのかな化粧水の匂いをジャックは察した。

 

「何でござるか、藪から棒に」

 

 床に胡座をかいて番茶をすすっていたジャックは苦笑いしつつ迎えた。この学園に席を置いてから本当に苦笑いの連続だ。

 

 ビールの箱と芋焼酎の瓶、ツマミをドカッと床に置いた千冬は、箱からよく冷えた缶ビールをジャックの眼前に置きつつ、自分も胡座をかく。

 

「飲むぞ付き合え。そして全部話せ」

「ふむ。約束でござったな」

 

 確かにそう約束したのだ。いつかはジャックも話す気でいた。それが今だ。

 

「私も全部話すぞ、覚悟しておけ」

「お手柔らかにでござる」

 

 翌朝ジャックは真耶の元に千冬をきっちり送り届けた。真耶ちゃん曰く、ここまで来たらもう何も言えません、であった。

 




・バタカップ・ユートニューム
 米国生まれのあの人。が元ネタ。一文字変えればいいってもんじゃない。

・箒
 原作と違い束との関係をカミングアウトされてりしたりはしていない。珍しい苗字故に勘ぐった生徒は多数いたであろうが。

【挿絵表示】

・紅椿
 ベラベラ早口で仕様を垂れ流されても即暗記できるものでもない。

・セシリア
 プロ。この作品は基本的に剣でどうこうする話なので必然的に銃剣持ちとなる。動作や諸々のバランスはセシリアのフィギュアを手にして検討した。

・束ねぇ
 世界の悪と戦うクレイジーサイコ姉さん。絵は某伝説巨神のカ○ラっぽく描きたかっただけ。見えねぇ。

【挿絵表示】

・ちっふー
 話し合いって大事。後自分とこの作品のキャラが普通に飲酒してるのは駄目なんじゃないんかと今更思った。

・ラウラ
 次回登場予定。キャラと背景大分いじった。

【挿絵表示】

・シュヴァルツェア・レーゲン
 次回登場予定。正式にはシュヴァルツェア・レーゲン・メッサー。軽量化してナイフのみ携行という軍部はラウラ殺したいのかレベルのクソ仕様。

【挿絵表示】


 ラストバトルを臨海学校戦と定め、そこに収束するためにキャラを一人一人掘り下げていきたい。
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