3分考えた前書きがこれです。では本編どうぞ。
視界が暗い。闇の中にでもいるのだろうか。
体が動かない。金縛りにでもあっているのだろうか。
背中が冷たい。いったいここは、どこだろうか。
異世界召喚されたときの主人公と今俺が感じている感覚は、きっと似ている。俺は、飛ばされたのだろうか。
異世界に来ちまったってことは、もう戸塚と小町に会えないのか...。
幾分の寂しさと名残惜しさを心の中にぐっと閉じ込め、新たな人生を歩む覚悟を決めると、暗くなっていた視界はやがて開ける。
「...ちゃん」
ああ、幻聴まで聞こえてきた。
「お兄ちゃん!!!」
「......こ、まち?」
「どこで寝てるのさ!!!」
「お前も召喚されたのか?」
「...何言ってるのお兄ちゃん。腐るのは目と根性だけにしてよね」
あたりを見渡せば、現在地は俺の部屋。ただしベッドにはいない。勉強机の下だ。
「部屋に入ったら死んだように倒れてて、ほんとに心配したんだよ?」
やっと目を覚まし顔を見上げると、小町の目は確かに潤んでいた。
「わ、悪い。寝ぼけてた」
「まったく...あ!彩加先輩もう来てるよ!」
.........
「ってやばい!!」
慌てて机の上にあったスマホで時間を確認してみれば13時を過ぎていた。
というのも、今日は戸塚と小町と初詣に行く予定なのだ。
異世界とか言ってる場合じゃない。
超絶怒涛の速度で支度を済ませ、戸塚のいるリビングへと向かう。
中性的な私服に身を包んだ戸塚は、「おはよう、八幡」と寝起きの俺に刺激を与えるほどの、まるで向日葵ような笑顔を俺に向ける。
あ、これ夫婦っぽい。
「すまん戸塚!」
「大丈夫だから、ゆっくり準備していいよ」
きっと俺はまだ、異世界気分が抜け切れていない。なぜなら今目の前に大天使が見えたからだ。
そんな大天使に、体がギシギシのゾンビヒッキー、略してゾンビッキーが成仏されそうになっていると、小町がトトトっと階段を下ってくる。
「彩加先輩聞いてください。さっきまでお兄ちゃんが死んでたんですよー」
「おい、その言い方だと本当にゾンビになったみたいだろ。ゾンビなのは目だけだ」
「そこは認めるんだ...」
もはや『これはゾンビですか?』というタイトルも『これはヒッキーですか?』に変えても誰も気づかないレベル。気づきますね。
「それで、八幡がどうしたの?」
「お兄ちゃんなんであんなとこで寝てたの?」
「...わからん」
不思議なことに、昨日の夜何をしていたのかも全然覚えていないのだ。
「ま、行くか」
*
電車で20分ほど揺られ目的の駅へ着くと、1月1日の賑やかさは肌で感じることができる。
まだ神社にはついていないが、年齢は限らず着物を身に着けている女性がちらほら見える。
っく、戸塚の着物姿が見たかったよぉ!!!
すると、俺と同じことを思ったのか、我が妹が提案をする。
「彩加先輩も着物きたらどうですか?」
「えっ、でも持ってないし...」
「レンタルできるんですよ!あそこで!」
ピッと指した小町の指の先に視線をやると、確かにそこから着物を着た人々がぽつぽつと出てきていた。
ここは小町側に加勢すべきか...?
しかし戸塚が女子だってばれる可能性も...
でも見たいし!!!
「いや、戸塚が女ってばれたらどうするんだよ」
「あー、そっかぁ...」
すると、ずっと考えていた様子の戸塚は決心がついたように両拳をぐっと握る。
「僕、着るよ」
「え?でも」
「バレたらしょうがないよ。それに僕、着てみたかったし」
「...そうか。んじゃ俺は待ってる」
戸塚が着物を着つけている間にMAXコーヒーを買いちびちび飲んでいると、やがてかこん、かこんという音が鼓膜を刺激する。
段々その音が近づきそちらに視線をやると、プールの時と同様ピンク色で花柄の着物を纏った戸塚が不安そうな表情で、それでいて照れた表情で俺の胸あたりを見つめる。
「...え、と」
と戸惑いを隠せなかったのは、戸塚ではなく俺だった。
付き合ってから、戸塚の
しかし目の前の女の子からは、その気配を感じさせないほどの麗しさがあった。
華奢な体躯。僅かに覗く、細くて白いうなじ。
そのあまりの美しさに、周りの音が完全に遮断される錯覚に陥る。戸塚の横に立つ小町の存在さえも一瞬忘れていた。
「はち、まん...?」
初めて口を開いた戸塚のおかげで、遮断されていた音が解放され、小町の存在にも気づく。
「お兄ちゃん、感想は?」
「あ、あぁ...いいな。それ。きれいだ」
片言になってしまった俺に小町が半ば呆れつつ、戸塚が照れつつ俺も照れつつ変な空気が流れる。
照れを隠すように俺はいち早く足を前に運び、神社へと向かう。
後ろから聞こえるかこん、かこん、という音は、鼓膜ではなく心臓へと届いていた。
*
「結構人いますねー」
「うん、すごい賑やかだね」
「うえぇ...」
これは人に酔いそうだ。
がやがやとした人込みをかき分け、小町の受験合格を祈ったところで人気の少ない方へと歩いていくと、あることに気が付く。
「あれ、小町ちゃんは?」
「...電話かけてみる」
この騒がしい中で電話に気づくとは到底思い難かったが、なんとびっくり半コールで反応があった。
「あ、お兄ちゃん?小町先帰ってるから彩加先輩よろしくね!それじゃ!」
言い返す間もなく光の速度で電話が切られる。元々それが狙いだったのかよ...
「なんか、先帰るって」
「具合でも悪かったのかな?」
「いや、違うと思うが...」
さてどうするかと頭を悩ませていると、俺の腹が『ご飯をお与えください、ご主人様...』とロリボイスで嘆願する。もちろん脳内でだ。
「あ、八幡ご飯まだだったね。屋台いこっか」
かくいう戸塚も昼食はまだだったようだ。
「八幡、はい」
「ん?」
人気の少ないベンチでたこ焼きを平らげると、戸塚は一口かじってあるクレープを俺の顔の前に持ってくる。
え、これやるの?人が見てる!若い二人組の女子がこっち見てるから!
しかし戸塚の好意を無下にできるはずもなく、まだ口のつけていない側を小さくかじる。
「おいしい?」
「お、おう...うまいぞ」
なんだこれただの夫婦やん?思ったよりも悪くないやん?
今の俺たちは、傍からみたらクレープよりも甘ったるいカップルでしかなかった。
腹を満たし、適当に屋台を歩いていると、「ちょいちょいそこのカップルさん」といかにも胡散臭さ満載のおっちゃんが手招きをしている。
寄ってみると、どうやら甘酒がタダで飲めるらしい。
「でも僕たち未成年だし...」
「甘酒はアルコールがほとんど含まれていないから未成年が飲んでも捕まらんぞ」
俺が説明すると、そうなんだとさぞ感心した様子の戸塚。
「それじゃ、飲んでみようかな」
戸塚は酒に強そうなイメージはないが、甘酒なら大丈夫だろと俺もその隣のものを手に取る。
一口飲んでから視線を戸塚に向けると、戸塚はありえないスピードで顔が赤くなっていた。
「お、おい戸塚、大丈夫か?」
「...」
絶妙に嫌な予感がする。
おいおい、甘酒で酔う人なんて本当に存在したのかよ。
このままじゃまずそうだと戸塚の甘酒を取り上げ、おっちゃんにそれを返す。
するとふらふらしていた戸塚は、
「はーちまん!」
と、俺の首に手を回し抱き着く。
「お、おい!いったん離れないと...」
抱擁を交わす俺たちに周りの視線が集中していることは確認しなくてもわかった。
「歩けるか?」
戸塚を引きはがし手を引くと、ふらっと戸塚の姿勢が崩れ、危うく顔面から倒れそうになる。
「あぶねっ!」
どうする八幡。この緊急事態を一刻も早く逃れるためには...
仕方なく、戸塚の背中と膝に腕をまわして持ち上げる。
ギャラリーの「おおぉ」という声は聞こえないフリをしたが、おっちゃんの「神社を出て東に行けばホテルがある!行け!!」という死に際の親友のような声だけは、しっかりと耳に残っていた。
*
「ここ、ラブホじゃねえか...」
それに気づいたのは、部屋に入ってからだった。
このままトツハチのイチャイチャを眺めるってのもいいけど、刺激足りねーなって感じてる人ももしかしたらいるのかしら。
大きな進展、展開は近寄りがたい感じしちゃうからなぁ...。
オリキャラとかどうしても出さないでっ!!やめてっ!!という方いるかしら...いやいまんとこ出す気はあんまないんですけど。出すとしても玉縄くらい。