「んはっ」
ここが風呂だという事、そして目の前の一糸まとわない女の子と口付けを交わした事から、俺の理性が一瞬崩壊する。
しかし、それは目の前の女の子に抑制される。
戸塚は首に回していた腕を解き、
「それじゃ、上がろっか」
まるで何もなかったかのように、そう言った。
*
「それじゃ、またね八幡」
電車のドアがしまっても手を振り続ける女の子に片手だけ上げると、電車は慣性なんて知りませんとばかりに心地よく動き出す。
電車内を見渡してると、俺と同じく初詣帰りといった親子が多くみられる。
30分ほど前小町に送った『今から帰る』というメールに対しての返信を見ようとスマホを取り出す。
メールの着信はない。しかしその代わり、LINEアイコンの右上に着信を表す印が一件だけついていた。
俺がLINEを交換しているのは一人だけ。先ほど別れた女の子だ。
どうしたのだろうかと緑色のアイコンをタップする。
それは、3分前に送られたもの。
『楽しかったよ。また来年も三人で来れたらいいな』
それを見た瞬間に、背中に寒気が走る。
スマホを持った手がぷるぷると震えだす。
肺が圧迫され、息が苦しい。
足に力が入ってくれず、膝をついてしまう。
そんな異様な状態の俺に、当然周りの乗客の視線が集まっていた。
自分でも理由はわからない。何故か俺はその文章を見た瞬間、恐怖を感じた。
やがて俺の降りるべき駅まで差し迫った頃に、何かに体を揺さぶられていることに気が付いた。
「おにーちゃん、だいじょーぶ?」
視界には電車の地面しか映っていないが、その細く幼い声を聞いてやっと我に返った。
「...あ、あぁ。すまん、大丈夫だ。ありがとう」
顔を上げると、女の子は可愛らしいハンカチをこちらに差し伸べてくれる。そのハンカチを汗だくの手で受け取ると、てててっと向こう側にいる恐らく母親のところに戻っていった。
電車を降り、ふらふらとした足取りで改札を抜ける。
外は闇だった。
視線を遠くにやればやるほど、その闇は色濃くなる。
そしてふらふらとした足取りのまま、その闇へと体を運ぶ。
思考回路は、ほとんど止まっていた。
なんとか家に向かう道に沿って歩けたのは、体が染みついていたからだろう。
理由不明な恐怖の正体は、人の通りが完全になくなった、ちょうど家と駅の半分くらいのところに来たところで判明した。
足を止めて、握りしめたままのスマートフォンをさら強く握りしめる。
あの時感じた恐怖の正体は、”喪失感”だった。
第2章はこの話で最後になります。
何だよその終わり方!ふざけんなよ!!と感じる方もいるかもしれません。
ホントそれな。
ではでは、3章でまた皆様にお会い出来たらすごく嬉しいです。