戸塚彩加は隠していた。   作:蒼井夕日

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どうも、僕の作品を読んでくださっていた方は、一ヶ月ぶりですね。(いるかな...)

ちょっとだけ戸塚成分補給したいなって方向けに書いた作品です。

どうぞ。


短編
約束の海。


季節はすっかり10月下旬に差し掛かり、北海道では一部の地方で初雪が降ったらしい。

 

しかしそんな情報を聞いて誰が信じようか。

 

天から差し込む太陽は、じりじりらんらんとどっかの名探偵が「ばーろぉ」と罵倒を浴びせるほどらんらんしており、今が秋であることを忘れてしまいそうになる。

 

しかし今注目すべき点はそこではない。

 

真っ白な砂浜、広く透き通った海。目の前を通るナイスバディなお姉さん。

 

何を隠そう俺は、俺たちは、石垣島のフサキビーチに来ているのだ。

 

「わぁ!!見てよ八幡、海!!!海がいっぱい!」

 

既にこの人の多さと暑さでばてている俺の横で、目の前に広がる青をピシッと指をさして興奮している女の子は俺の彼女、戸塚彩加。

 

そんな戸塚は、白いワンピースとつばの広い麦わら帽子を身に纏い、透明感で言えばこの石垣島の海に劣っていない。いや、圧倒的勝利。

 

「いっぱいなのは海じゃなくて水だけどな」

 

何故俺達が石垣島に来ているのかといえば、それはもちろん半年前の約束もあるのだが、その引き金を引いたのは俺でもなければ戸塚でもない。

 

あれは、つい2日前戸塚の家で勉強会をしていた時のこと――

 

 

*****

 

 

「はい、これチケットね。お金は心配しなくていいから!」

 

 

*****

 

 

以上回想終了。早えな。

 

そして何もわからぬまま言われた待ち合わせ場所へと来てみればこれだ。

 

それに......

 

「ヒッキー!海だよ!!海!」

 

「ああもうそのくだり戸塚とやったからいいから。てかなんでお前らもいるんだよ。帰れ」

 

「ヒッキーひどっ!!」

 

「あら、私達も戸塚君から誘われていたのだけれど。聞いてなかったの?」

 

こくり、と可愛らしく首を傾げる雪ノ下から戸塚へと視線を移し、目だけで説明を促す。

 

すると、少しだけ申し訳なさそうに苦笑し、

 

「あはは、ごめんね。驚かせようと思って...」

 

「いや戸塚を攻めてる訳じゃ無いぞ。サプライズだものね。嬉しいわ」

 

「それじゃ、およごーう!!!!」

 

俺の渾身のものまねは華麗に無視され、元気よく走りだした由比ヶ浜が手際よくパラソルを設置する。

 

パラソルが設置されるや否や、雪ノ下は影を求めてすっとその中に入る。紫外線とかとても弱そうだものね。だからなんで来たの?

 

*****

 

全然関係ないが、MOSバーガーのOはOCEANの頭文字をとっているらしい。まじでどうでもいい。

 

 

雪ノ下から人一人分だけ距離を置いて座ると、水着に着替え海ではしゃぐ戸塚と由比ヶ浜をぼーっと眺める。

 

戸塚の水着は、以前クリスマスの時にプールで着ていたフリル付きのピンクのビキニ。ああ、天使。

 

視線を少しずらしてみると......うむ、なかなか...

 

「......通報されたいの?」

 

「いや全然見てないからほんとこれは男の子の証なだけだから本能だから」

 

「否定してるのか認めているのか...まったく」

 

頭痛を抑えるようにこめかみに手をやり、呆れた表情をする雪ノ下。

 

てか、通報されたいとかどんな性癖だよ。木材さんくらいだろ、そんな性癖。

 

「そういえば一色は?あいつこそこういうの来たがりそうだけどな」

 

「誘ったのだけれど、何故か平塚先生が断ったわ」

 

「生徒会忙しそうだったしな...」

 

「私たちも、受験生なのだけれどね」

 

「...こんな時くらい忘れようぜ」

 

「......そうね、ごめんなさい」

 

ここ最近勉強三昧だった事を思い出してしまい、少しだけ落ち込んでいると、「おーい!」と戸塚と由比ヶ浜がこちらへ大きく手を振っている。

 

いかんいかん、胸に目線を向けてはだめだ。マジで通報されかねない。

 

「二人もおいでよー!」

 

雪ノ下は、仕方ないわね、と羽織っていた上着を脱ぐと、白く華奢な肌が露わになる。普段の男っ気のない雪ノ下と、黒いビキニに身を包んだ雪ノ下のギャップに、少しだけどきりとしてしまう。

 

もしかしてこいつ、結構可愛いの?

 

よっこらせ、と俺も重たい腰を持ち上げて、二人の女の子のところへと向かう。

 

謎の罪悪感のせいで、海につかってから上がるまで、雪ノ下の方へは視線を向けなかった。

 

*****

 

「うはあぁー!!!楽しかったぁ!!」

 

あれから二時間弱、ひたすら泳いだ後にビーチバレーをしたり砂で生き埋めにされたりとしているうちに、気付けば、海の向こうにある夕日は地平線から半分だけ覗かせていた。

 

このフサキビーチの特徴でもある桟橋からその夕日を見届けた後、海のすぐ反対側のホテルへと向かう。

 

荷物を置きに一度入ったが、やはりこのホテルは普通のホテルとは違い、いわゆるコテージによって部屋が分かれている。

 

んで、部屋割りは......

 

「私ゆきのんとねー!」

 

「近い...」

 

「じゃあ、僕は八幡と、だね...」

 

「お、おう」

 

上目遣いとかほんと心臓に悪いんですよ...いや、俺彼氏だし?同じ部屋とかよゆーっしょ?

 

 

「それじゃねー」

 

レストランで夕飯を済ませた後、雪ノ下由比ヶ浜組と別れ、戸塚と鍵に書かれた数字のコテージへと向かう。

 

部屋に入ってすぐ、手前側のベッドに体を投げつけると、海ではしゃぎ過ぎた所為かたまった疲労が一気に体に走り、思わずため息が漏れる。

 

すると、「し、失礼します」とすぐ後ろから戸塚の声がしたかと思うと、脹脛あたりでなにかに触れた気がした。

 

「ん?」

 

なんだ、と思った時には遅く、膝の裏から脹脛にかけ戸塚が座っていたのだ。

 

「.........あの?」

 

「八幡、疲れてると思って、マッサージ、しようかと...」

 

決していかがわしい言葉ではないはずなのに、何故だかそういう風に聞こえてしまったのは俺が意識してしまっているからだろうか。

 

「いや、それを言ったら戸塚だって...」

 

「いいの!」

 

めっ!っと背後からの念押しに観念し、甘んじて受け入れる。

 

最初は背中のマッサージから始まった。

 

手前から奥へ、手前から奥へと、程よい力加減がとても気持ちいい。

 

仰向けになるように促され、今度は腕のマッサージへと移る。

 

部活で慣れてるのか、ということは部員の男どもにも?そう思うと、それを聞かずにはいられなかった。

 

「こういうの、慣れてたりするのか?」

 

恐る恐る、聞きたくない答えを、それでも聞かずにいてはもやもやしてしまう答えを求めて耳を澄ます。

 

「うーん、昔はお父さんとかに肩もみとかしてたけど、最近はあんまりかなぁ」

 

「部活、とか」

 

そこでやめておけばいいものを、それでもまだ俺の嫉妬心は留まることを知らない。

 

「ううん、しないよ?」

 

「そ、そうか」

 

「八幡、もしかして、嫉妬してるの?」

 

「あ、いや、なんつーか...」

 

やはりこういうところで戸塚は鋭いのだ。

 

男が嫉妬など、見苦しくて仕方ないものとしか認識がない俺は、なんとか誤魔化す(すべ)を探す。

 

すると、

 

「あはは、八幡も嫉妬とかするんだね」

 

「...」

 

「大丈夫だよ。八幡が思ってる以上に、僕は八幡にぞっこんなんだから」

 

キリキリしていた胃が段々と落ち着きを取り戻し、一気に安心感に満たされる。

 

安心したせいか、疲労のせいか、睡魔が襲ってくる。

 

瞼が重くなるのに伴い、触れる戸塚の力が弱く、いや、俺の感覚が薄くなっていく。

 

徐々に意識が遠のき、気づけば俺は、眠りに落ちていた。

 

*****

 

俺が目を覚ましたのは、恐らく眠りに落ちてから数分もたっていない。

 

というのも、唇に、熱い感触が伝わってきたからだ。

 

それだけではなく、鼻のあたりにかかる香りのいい風がくすぐったい。

 

ゆっくりと目を開いてみると、目を瞑ったまつ毛の長い女の子が、ほんの至近距離にいるという事に気が付く。

 

「.........」

 

ぼうっとした意識でしばらくその様子を眺めていると、目の前の女の子も唇をつけたまま少しずつ目が開いていく。

 

そして、

 

「は、八幡!?」

 

ばっと唇を離しあわあわと両手をわなつかせる。

 

「......夜這い?」

 

「ち、ちがうよ!ばか!!」

 

恥ずかしいのは俺も同じで、冗談で取り繕わないと理性を保てない。

 

「...じゃあなんで」

 

「だ、だって、寝顔見てたらなんか、したくなって...」

 

「夜這いじゃん」

 

「だから違うってば!!」

 

ぷんすかぷんすかと可愛らしく怒る戸塚に愛くるしさを覚えて、危うく理性が壊れそうになるのをぐっとこらえる。

 

「...散歩行くか」

 

「うん!!」

 

*****

 

時刻は22時を回っており、浜辺を歩く人は俺らを抜いて2,3人ほどしかいない。

 

昼間の賑やかさの中で聞くことが出来なかった、ざぁ、ざぁ、と、優しく静かに流れる波の音に耳を傾けながら白い砂を踏みしめる。

 

やがて無言のまま、数時間前4人で夕日を眺めた桟橋に二人腰かけ、空を見上げる。

 

空は一転の曇りもなく、星がきらきらと輝く画が、なんとも幻想的に見えた。

 

「...綺麗だね」

 

「ああ...」

 

とつ母ちゃんの急な計画だったが、それでもやはり、来てよかったと思った。

 

「約束したしな。海」

 

「覚えててくれたんだ」

 

「当たり前だろ」

 

一つだけ大きく光る星に意識が吸い込まれ、その一点をただひたすらに見つめる。

 

その力強く光る星が、どこか儚さを纏っている気がして。

 

きっと隣の女の子も、同じ星を見つめて、同じことを思っている。

 

俺たちは、言葉こそ交わしてはいないが、通じ合っていた。

 

その一つの星を媒介として、通じ合っていた。

 

会話とか、意識とか、そんな生ぬるいものではなく、心が”通って”いたのだ。

 

一年越しに約束を果たせたことに、お互いが満たされていたのだ。

 

俺たちはこれからも、こうして、約束を継続していくのだと思う。

 

「...」

 

左手の小指に、華奢な小指が重ねられる。

 

「約束」

 

小指が交差された状態で、視界が奪われる。

 

優しく押し付けられる唇だけが妙に熱く感じて、一瞬だけ息が止まってしまう。

 

そして、

 

 

「長生きすること」

 

 

 

星は、強く輝いていた。




実は半分くらい書いた所でデータぶっ飛んで書き直ししました。泣きました。

書き終わって気づいたんですが、由比ヶ浜と雪ノ下いらなかったですよね。いや、いらない人間なんて存在しないっ...!!

またいつ現れるかわかりませんが、次回も短編でお会いできたらなぁ、なんて思ったり思わなかったり。いや思えよ。
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