戸塚彩加は隠していた。   作:蒼井夕日

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僕も知らないうちに、戸塚と八幡はLINEを交換したようですよ。


でも、二人ともLINEでの会話はあまり好まないようです。



第3話 メール。

「八幡に、下着姿を見られたんだ」

 

余った袖を口に当てながら言った俺の彼女、戸塚彩加は顔を真っ赤に染めていた。

 

ていうか何言ってくれちゃってるのん!?

 

いや事実だけど!言っちゃいけない事実だってあるでしょ!

 

親父の貯金が1000円切ってるとか!親友の彼女を寝取ったとか!ダメ、絶対。

 

「し、しし下着姿を...?」

 

「ヒッキーどういうこと!!!」

 

「...」

 

俺と戸塚を交互に見る一色。立ち上がって大声を出す由比ヶ浜。無言で携帯電話をとりだす雪ノ下。

 

やめてっ!通報しないで!

 

「い、いやちょっとまってくれ。とくに雪ノ下。これには事情が...」

 

「女子の下着姿を盗撮するのにセクハラ以外のなんの理由があるというのかしら」

 

俺を勝手に盗撮魔にしないでね。靴にカメラとかしかけてないからね。

 

というか、何で好きな人の話から下着になったのん!?と、疑問の視線を戸塚に向ける。

 

俺たちを動揺させた当人は、未だ顔を朱に染めている。

 

「なんで好きな人の話から下着の話になったんですか!ていうかなんで戸塚先輩が下着を...まさかそういう趣味...」

 

俺の意思を受け取ったのか、一色が疑問を投げかける。

 

「ち、ちがうよ!あのね――」

 

そして戸塚は、俺が下着姿を見た経緯、なぜ唐突にそんな話を持ち出したのかという理由をすべて話した。

 

戸塚が女だということは雪ノ下も由比ヶ浜も知っている。しかし何故それをしているのかを知っているのは俺だけだ。

 

「だから、その...僕が好きな人は八幡...です」

 

戸塚は粗方の説明を終え、真実、というよりも結論を述べる。

 

またも顔を真っ赤にした戸塚だが、言われた俺も相当恥ずかしい。好きって。好きって。

 

3人が納得の表情を見せた後、質問をした本人がやれやれやーれんそーらんそーらんはいっはいとため息をつく。

 

「...なるほど、大体わかりました。戸塚先輩に異常性癖があったらどうしようかと思いました」

 

「ほんとびっくりしたよー」

 

「そうね。思えば、こんなヘタレ谷君が盗撮なんてする度胸ないものね」

 

「すいませんねお騒がせして。全然俺のせいじゃないけど」

 

一歩雪ノ下を止めるのが遅かったら、ヒッキーが牢獄へヒッキーするところだった。

 

誤解も晴れ、これで一件落着という空気が流れて今日のところはお開き、ということにはならず、生徒会長は許してくれるはずもなかった。

 

「いやいや、なんかおしまいみたいな空気流れてますけど、先輩の答えまだ聞いてませんよね」

 

「たしかに!」

 

4人の視線が俺へと集まる。

 

「え、俺?いや、俺は良いでしょ」

 

「じゃあ、先輩は戸塚先輩のことが好きじゃないんですか?」

 

「は?んなわけねーだろ」

 

「じゃあちゃんと答えてください」

 

一色がからかうような、試すような表情で言う。

 

おいおい嘘だろ...こんなところで好きっていうなんて公開処刑だろ...

 

「わりぃ、俺、死んだ」とどっかのゴム人間のようなかっこいいことなんて言えない。言いたくない。

 

「はちまん...」

 

しかし、戸塚もこの状況で言ったんだもんな。男の俺が言わないでどうする。

 

「俺の、好きな人は...」

 

「...」

 

まるで闇の中にいるかのような沈黙が流れる。

 

外から野球部の掛け声が聞こえる。夕日はもうほとんど沈んでいて、明かりのつけてない部室はかなり暗い。

 

それでもぎりぎり見える、戸塚の何かを求めるような、切なそうな表情で決心がつく。

 

「俺は、戸塚が、好きだ」

 

途切れ途切れに出た俺の言葉に、4人の女の子が耳を傾ける。

 

4人の女の子、4人のヒロイン。そう、これはニセコイではなくマジコイです。

 

あの青髪の女の子と戸塚の声が似てるななんて思ってないから。

 

俺の顔は、さぞ真っ赤になっているのだろう。

 

視線のやり場に困り、目をおろおろと泳がせていると、戸塚が両手で顔を覆い俯いているのが目に入った。

 

「と、戸塚?」

 

具合でも悪いのかと、戸塚の名を呼ぶ。

 

どうしたのだろうと3人の女の子を見やると、何故だかみんな顔が真っ赤だ。

 

「お、おいお前ら?」

 

「.........あ、えーっと。あはは、はは...」

 

「.....」

 

「...」

 

なにこれ。なんだこれ。

 

一色は、ハッとした反応を見せた後苦笑する。

 

無言の由比ヶ浜は、両手で頬を包む。

 

そしてもう一人無言の雪ノ下は目をおろおろさせている。

 

だからこの空気なんなの?みんな俺の告白に気持ち悪くなっちゃったの?なにそれ死にたい。

 

「ご、ごめんなさい先輩。なんか、久々にキュンとしちゃいました」

 

「う、うん...」

 

「お、おう?」

 

良かった。どうやら気持ち悪くはなかったみたいだ。

 

「ていうか戸塚、大丈夫か?」

 

相変わらず両手で顔を隠し俯き、表情がわからない。

 

「先輩はほんっと空気読めませんね!空気になることしかできないんですか?」

 

「えぇ...」

 

いや大体あってるけどさ。空気は行間しかないからむしろ読めないんだよなぁ。

 

一色にひどい罵倒を受けると、ずっと黙っていた戸塚がついに口を開く。

 

といってもその開いた口はまだ見えないのだが。

 

「ぼ、僕、今の表情八幡には見せられない、かも...」

 

結構ショックなことを言われた。いや、伝わり方の問題かもしれない。そう思うことにする。

 

まぁ、後のことは女子軍に任せて、男の俺はぱっぱと退出しよう。すごい恥ずかしいし。

 

「なんかよくわからんけど、俺は帰る。恥ずかしくて死にたいし」

 

「わ、わかったわ。では比企谷君、また」

 

「じゃあね、ヒッキー」

 

「さよならです」

 

「...」

 

始めトランプをしていたのが嘘かのように静かになった部室を後ろにドアを閉める。

 

「はぁ、女ってのはわからんな」

 

そもそも人間のことをよくわかっていない俺が女子を知るなぞ至極至難だ。

 

教室を出て少し、恥ずかしさのあまりに忘れていたが結構寒い。

 

この時刻になると廊下の暖房は消されるし、部室につながる特別棟は人通りが少ないため余計に肌寒さを感じる。

 

早く帰って小町に慰めてもらおう。

 

 

「まったく、あの先輩ってたまにドキドキさせてくるから困りますよね」

 

「認めたくはないけれど、それは同感するわ」

 

「なんかドラマ見てるみたいだったね!わぁ、思い出したらまたドキドキしてきた...」

 

八幡が部室を出てから、すぐに和やかな雰囲気に変わる。

 

僕はやっぱり、奉仕部のこういう雰囲気が好きだなぁ。

 

でも、さっき変な空気が流れたのってきっと僕のせいだよね。

 

だって、だって、付き合ってはいるけど、面と向かって好きなんて言われたことはなかったし...

 

『好き』たった二文字の言葉なのに、それを言われた瞬間、まるで体の中でうさぎがぴょんぴょん跳ねたように胸が高鳴った。

 

それだけじゃない。顔が一気に熱くなって、つい頬が緩んで、嬉しくて嬉しくて仕方がなくて。思わず両手で顔隠しちゃった。

 

明日から八幡の顔ちゃんと見れるかなぁ。

 

八幡に会いたい。ふと、そんなことを思った。

 

 

「へぇ、なるほどね」

 

あの謎の空気の正体はつかめないまま家に帰り、仕方なく小町に聞いてみることにした。

 

真実か挑戦か、というゲームを一色が持ちこんできたこと、俺が危なく変態王子と笑えない盗撮魔になるところだったことなど今日あったことを話した。

 

「お兄ちゃんはほんとダメダメだなぁ」

 

かまくらの首をすりすりしながら片手でやれやれというポーズをとる。

 

「俺なんか悪いことしたのかな、しくしく」

 

「その仕草はほんと気持ち悪いけど、お兄ちゃんはよく頑張ったよ」

 

きもい悪いと言いながら、小町は優しい目を向ける。

 

「もっと信用しなよ、雪乃さんのことも、結衣さんのことも、一色先輩も。そして、彩加先輩も。

 

あの人たちがお兄ちゃんを嫌いになることなんて絶対ないから。これは小町が保証する」

 

「その自信どっからくるんだよ...あと一歩で本物のヒッキーになるところだったというのに」

 

「とにかく!今のところお兄ちゃんが心配しなきゃいけないのは彩加先輩との行く末だから!明日学校で見つけたらお兄ちゃんから声かけること!以上!」

 

人差し指をぴっと俺に向けた後、小町はそそくさと着替えをもって風呂に行ってしまった。

 

小町の励ましによって一つ分かったことがある。

 

戸塚が顔を両手で隠していた理由。

 

あれはきっと、照れなのではないかと思う。

 

”好き”なんて、言うだけでもかなり恥ずかしいのに、言われるのもそりゃあ恥ずかしいだろう。

 

てか、なんでそれに気づけなかったんだよ。彼氏だろ俺。

 

あぁ!!!見たかった!!戸塚の照れる顔が見たかったよぉ!!!

 

俺は心の叫びを、かまくらにぶつけていると、メールの受信を知らせる通知が鳴り響く。

 

送り主は戸塚から。

 

そしてただ一言、

 

『会いたい』

 

思わず俺はかまくらを雑に放り、コートも着ずに外へ駆け出した。

 

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