「...寒い」
外へ駆け出してから約3分、自転車通学の甲斐もあってガトリン顔負けのスピードで走ったせいで喉が痛い。
今の俺の現在地から、家と駅までの距離までは大体等しい。
とりあえずもう一回戸塚に連絡しよう、うん。勝手に家まで行ったらさすがの戸塚にも引かれるかもしれないし。
「あー、もしもし戸塚?」
「は、八幡!?ごめんね変なメール送っちゃって...」
「いやいいんだ。よければなんだが、少しだけ会わないか?」
「いいの!?でもちょっと遠いよ?」
遠いと言っても、電車で10分程度だ。行けない距離ではない。
それに、
「あんなメール送られたら、会いたくなるだろ」
「僕も八幡に会いたい!」
なんて、傍からみたらバカップル同士にしかみえない電話を終え、電車に向かう。
小町にはメールだけしておこう。
電車を降りると、戸塚が改札の前できょろきょろとしている。
俺の存在に気づくと、改札越しで「あ、八幡!」なんて手を振るもんだから、「可愛すぎんだろ俺の嫁!!!」と言いたい気持ちを心の奥にしまい改札を抜ける。
てててっと俺の方へ駆け寄ると、戸塚は少し申し訳なさそうな微笑を浮かべる。
「んじゃ、行くか」
「うん!」
お互い特に目的地を決めたわけではないが、ただゆらゆらと暗い空の下を歩く。
方向としては戸塚家の逆方向。
駅を離れるにつれ、人通りも街灯も減る。
特に会話をすることもなく歩き続け、やがてお互いの靴音だけが聞こえてきた時、東方向に見えるやや広い公園に二人吸い込まれるように入った。
ここまでくると人通りはほとんどなく、公園も薄暗い。
「八幡、ブレザーのまんまなんだね」
本来なら改札で会った時に言うべきセリフを、ベンチに座ってやっと口にした。
しかし違和感などなかった。
「あぁ、まあな」
「あれ、コートは!?」
戸塚があわわと俺の頭からつま先までを眺める。
それは本当に改札で言うべきセリフですね。
「ちょっとスタートダッシュに成功しすぎたっていうか、男って単純だよな...」
「なにそれ」
俺が冗談交じりに言うと、ふふっと笑ってくれる。
とても心地がいい。一生続けばいいのにと、ふと叶わない願いが頭を
「じゃ、じゃあ八幡」
「ん?」
俺の名を呼ぶと、すっと俺にぴったりくっつき、自分のマフラーを
「こうすれば、あったかいでしょ?」
戸塚と俺の首を柔らかく包んだマフラーは、なんともいえない暖かさをもたらしてくれる。
巻いているのは首だけのはずなのに、自然と心も温かい。
「あ、あの、近い...」
「ご、ごめん!嫌だった...?」
「ち、ちがう!ちょっと心の準備が出来ていなかっただけだ」
思えば、戸塚彩加という女の子はこう見えて積極的なのだ。
選挙の時や、泊まりに行ったとき、そして今。
それはきっと、秘密を知らなければ知ることのできなかった戸塚の一面なのだろう。
「......」「...」
段々と緊張していくのが自分でもわかった。
戸塚が息を吐くたび、白い煙が視界に入る。
小町はとっくに風呂を上がっているだろう。そして俺の送った『ちょっと出かける』というメールも見たはずだ。
それなのに先ほどから携帯が鳴らないのは、きっと小町なりの気遣いなのではないかと、勝手に思い込む。
そう思い込んでいいほどにできた妹なのだから仕方がない。
「八幡は、卒業後の進路どうするの?」
「ん、そうだなぁ...。とりあえず大学には行けと親に言われてるから、地元でそこそこの大学ってとこだな。戸塚はどうなんだ?」
「僕も地元がいいなって思ってたけど、どこの大学かはまだ決めてないかな」
「つっても、今度は大学卒業後の進路も考えなきゃならないんだよなぁ...」
今までは、一貫して専業主夫希望だったが、そういうわけにもいかなくなった。
「俺も、働かなきゃならんしな」
「え!八幡働くの!?」
ちょっとその反応傷つきますね。いやわかるけどさ。
「...僕、八幡と大学別れるのやだな」
「...なら、お互い地元だし、俺も特に行きたい大学ないし、その...」
必死に言い訳を探し、取り繕う。
そんな欺瞞が、嘘が、自分でも気持ちが悪い。
だからやはり、せめてこの女の子の前だけは、俺を信じてくれたこの子の前では素直でいたいと思った。
だから、
「一緒の大学、行かないか」
思っていたよりすんなりと出てくれた。
しかし、戸塚の顔を伺うのが怖いと、否定されるのではないかという懸念が俺の視線を下に落とさせた。
「...はい」
まるで、プロポーズを受けた彼女のように、たった二文字の、それでいて力強い肯定をしてくれた。
それからの会話はなかった。
代わりに、たまたま触れた手は、指を絡めるように繋がれ、
その左手の温もりから、まるで戸塚の言葉、想いが体に染み込んできた気がした。
*
現在の時刻、AM7:00
朝起きると、異様なほどの頭痛に苛まれた俺は、仕方なく熱を測ることにした。
案の定38度。
まぁコートも着ずに長時間外にいたらそりゃこうなりますわ。
っふ、遂に
喰うのは死体だけにしてほしいよ、金木君。
「まったく、ほんっとバカなんだからお兄ちゃんは」
「いやほんとすまん。受験生なのにな...」
「そのことは別にいいんだけどさ。んじゃ小町行ってくるから。なるべく呼吸しないでね、菌うつるし」
それはつまり死ねっていってるのかな。
「はぁ、寝るか」
食欲ないし、暇だしということでありったけ寝よう。地震が来ても地雷が落ちても空間震警報が鳴っても布団から出ない。
そう決意すると、机の上に置いていた携帯が鳴る。
『風邪、引いちゃった』
仲間がいました。
それにしても、戸塚からのメールはいつも簡潔。
由比ヶ浜のような痛々しいほどの顔文字絵文字などはない。
『俺もだ。悪いな、昨日長く外にいさせちまって』
簡潔なメールに簡潔なメールを返す。
そして、1分と経たないうちに再び携帯が鳴る。
『あ、じゃあさ、お互い看病しようよ!』
”お互い看病”という単語に、絶妙な
次回『お互い看病』(エロアニメではありません)