戸塚彩加は隠していた。   作:蒼井夕日

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『見えてしまえばただの布』どうも蒼井です。

新しい部屋の芳香剤を買いました。


第7話 修羅場。

「それじゃあ、ゲームしましょうか!」

 

え、なに、ノゲラ?DTニート?

 

「…罰ゲームは」

 

「もちろんあります」

 

「やだよ。前回それで俺が辱めに合ったこと忘れたの?」

 

「忘れました」

 

「まあ、私は別にいいけれど」

 

いつの間にか本を鞄にしまっていた雪ノ下が自信のある顔で言う。

 

君前回負けなかったもんね!成績だけじゃなくて運もよかったもんね!

 

「あたしもやりたい!」

 

あぁ…これは多数派の勝利になる奴だ。

 

てか、なんで多数決で決めたことが正しいみたいになるの?

 

特に、葉山のような超絶リア充が意見だした時点で俺らぼっちに介在の余地なんてないんだよな…

 

「んで、なんのゲーム」

 

出来るだけぶっきらぼうな声音で一色を見る。いや、睨んでた。

 

関係ないけど、ロリッ娘に睨まれるのってなんかドキドキするよな。ルミルミとか。

 

「ワードウルフっていうゲーム知ってますか?」

 

なんでマイナーなのばっか持ってくるんですかねこの子。

 

「人狼ゲームとは違うの?」

 

「はい、違います」

 

「人狼ゲーム?なにそれ」

 

またもや知らんゲームを口にした由比ヶ浜に疑問を投げかける。

 

すると、3人が可哀そうなものを見るような目で俺をとらえる。

 

え、なに。

 

「人狼ゲームは今若者の間ですごい流行ってるじゃないですか…」

 

「友達とかでやると楽しいよ!」

 

「やったことないけれど、聞いたことはあるわ」

 

そんな有名なの?俺若者じゃないの?そういえば目とかもう死んでるもんね。

 

「ワードウルフとはざっくり説明すれば、仲間外れを探すゲームです」

 

「俺のこと?ゲーム終了じゃん」

 

「いやちがいますから...。

 

一人一人に同じ単語が書いてある紙をくばり、その単語について話し合います。ただし、一人だけ違う単語が書かれている人がいます」

 

「つまりその人を当てるってわけか」

 

一色が説明を終えると、由比ヶ浜が頭を抱えている。

 

「ま、やればわかるよね!」

 

由比ヶ浜が言った後、一色がスマホを制服のポケットから取り出す。

 

「4人の名前を入力してっと...。それでは、最初は練習ということで」

 

どうやらワードウルフというゲームはスマホアプリにもなっているらしい。

 

一色が見た後、次に雪ノ下、由比ヶ浜、そして俺へとスマホが回される。

 

一色は意外と、キーホルダーや派手なスマホカバーなどはつけないようだ。

 

『りんご』

 

まぁ、最初はこんな感じか。

 

『次へ』ボタンを押し、スマホをテーブルの真ん中に置く。

 

「3分でいいですかね、よーいスタート!」

 

「私はこれ結構好きだなー」

 

「ものによっては甘い、かしら」

 

りんごも酸っぱいやつと甘いやつあるもんね。

 

そういえば、青森のリンゴとか中に蜜みたいの入ってんだよな。青森だけか知らんけど。

 

由比ヶ浜と雪ノ下の発言を聞く限り、少数派は一色なのではと思ってしまうが...

 

「冬によく食べますかねー」

 

ほら、やっぱ少数派は一色だ。

 

なんて少し油断していると、

 

「そうね」「私も私も!」

 

あれ?なんか3人とも共感してない?てか冬ってなに??

 

「比企谷君、さっきから黙っているけれどあなたはどうなの?」

 

ゲーム開始から聞くことしかしていなかった俺に雪ノ下が疑いの目線を向ける。

 

どうする八幡。おそらく少数派は俺だ。ここはこいつらの単語を予想して...

 

「あー、そうだな...くだもの、だな」

 

俺が予想したのはみかんだ。由比ヶ浜が好きで、みかんもものによっては甘い。そして冬に食べる。

 

完璧な推理。これで俺の疑いは...

 

「くだもの...?」「くだもの...」「これ先輩ですね」

 

晴れなかった!もう俺の負けでいいよ!

 

まだ3分もたっていなかったが、満場一致で俺。

 

一色が『終了』をタップする。おそらく、そこに誰がどんな単語だったのか書いているのだろう。

 

『多数派:雪乃先輩 結衣先輩 私

ワード:餅 

 

少数派:先輩

ワード:りんご』

 

「やっぱり」

 

「はいヒッキーの負け―」

 

一色と由比ヶ浜がイェーイとテーブル越しにハイタッチをし、第二回戦へと移行する。

 

ここから本番ということは、罰ゲームが加わるという事だ。負けるわけにはいかない。

 

由比ヶ浜からスマホを受け取り画面を見ると、『キス』

 

いや待て待て。急にお題ハード過ぎない?

 

ハードな割にみんな全然動揺してなかったよね?これもう絶対俺少数派じゃん!

 

いや、女子はそういう話題に慣れている可能性が...特に一色なんかは...

 

ポーカーフェイスを心掛けつつ、『次へ』ボタンをタップしてからスマホをテーブルの中心に置く。

 

「それでは、3分間話し合いましょう!よーい...」

 

「どーん!」

 

由比ヶ浜の掛け声でゲームがスタートする。

 

最初はだれから仕掛けるのだろうと閉口していると、どーんと叫んだ由比ヶ浜が最初に口を開いた。

 

「二人で、するかな?」

 

「あー、しますね」「そうね...」

 

あれ、キスって二人でするよな。

 

「そうだな。お前らはしたことあるか?」

 

ここで俺が仕掛ける。この反応次第で誰が少数派なのかはわかるんじゃないだろうか。

 

3人とも、答えはNO。

 

少しだけ安心してしまったのは内緒だ。

 

正直、一色はキスくらい星の数ほどしてるのではと思っていたのだが...

 

「では、私から。どんな時にするかしら、比企谷君」

 

「俺指名かよ...まぁなに。俺もよく知らんけど...」

 

ここで下手なことを言えば確実に怪しまれる。

 

ピンポイントになりすぎず、曖昧に。そう、バーナム効果というものがあるのだ。詳しくはググってくれ。

 

「したいときに、じゃないの?」

 

「...まぁそうなんですけど、そうじゃない気が...」

 

「うーん、したいって思うことあんまないかな」

 

あれれ!?結局怪しまれちゃったよ!バーナム効果使えねぇ!

 

「怪しいわね」

 

「待て待て。俺はちがう」

 

「犯罪者は皆そういうのよ」

 

「咎人探すゲームじゃないから...」

 

これで俺が多数派だったら、呆れるほど責めてやる。

 

俺が心の中で決意を固めると、ゲーム終了のアラームが鳴る。

 

「私たちは先輩が怪しいと思います。先輩は?」

 

「じゃあ一色で」

 

そんな一色が『次へ』ボタンをタップする。

 

『多数派:私 雪乃先輩 結衣先輩 

ワード:二人三脚』

 

「やっぱり先輩が少数派じゃ...」

 

『少数派:先輩

ワード:キス』

 

「...」「......///」「...///」

 

だから何なのこの空気。俺にキスなんて似合わないとか思ってるんだろお前ら!泣くぞ!!

 

てか、このお題考えたやつ誰だよ。絶妙すぎだろ。

 

そんな変な空気を破ったのは由比ヶ浜。

 

もじもじしてどうしたのかしらと視線をくれてやると、

 

「ひ、ヒッキーはしたの?その、彩ちゃんと」

 

「...は!?いやいや、なにその質問。おかしいでしょ?また俺に恥かかせるの?」

 

「だって、ヒッキーも私たちにその質問したじゃん!」

 

「そうね、不公平よ」

 

「そうです!」

 

横暴すぎだろ...。

 

確かに戸塚とキスはしたが、んなこと正直に「はいしました」なんて言えるか。

 

「結果的にお前らは二人三脚をしたかどうかで答えただろ。だったらお前らもキスしたことあんのか言えよ」

 

「ないわ」「私もないよ?」「私もです」

 

「...」

 

「なんで私を見るんですか!!本当にしたことないですから!」

 

ぷんすかぷんすかと訴える一色。いやだって、君どう見てもビッt...ビッツだし。

 

「ほら、見てくださいよこのぴちぴちな唇を!とてもキスをしたことがある唇に見えないでしょ!」

 

言いながら、唇を若干尖らせて寄ってくる。

 

「いや、キス経験者の唇とかわからないから...寄るな寄るな」

 

歩みを止めない一色は、ぷんすかしていた表情をころっと変え、今度は小悪魔めいた微笑を浮かべる。

 

「なんなら、先輩に初めてあげちゃってもいいですよ?」

 

「...は?」

 

「ちょっといろはちゃん!?ずるい...じゃなくて、だめだよ!」

 

「...」

 

一色は俺をからかうように唇に人差し指を当てる。

 

男の(さが)として、一色の艶やかで、口紅を塗ってないであろう唇に目が引き寄せられる。

 

やがて一色は俺の肩に手を乗せると、顔の距離は余程近くなり一色の吐息がかかる。

 

冗談だという事は分かっている。だからこれは避けなければならないのだ。拒否しなければならないのだ。

 

なのに俺は、それをすることはできなかった。

 

「ほら、もうしちゃいますよ?」

 

一色は、まるでこの空間には二人しかいないかのように、あわあわしている由比ヶ浜と、体がぷるぷるしている雪ノ下を気にしていないかのように唇を寄せてくる。

 

かくいう俺も、二人の存在を一瞬忘れていた。

 

いっそのこと...

 

そう思ってしまった俺に、天罰が下った。

 

一色の唇に意識が注がれていたせいか、がらがらがらと立て付けの悪いスライド式のドアの音に気付けなかった。

 

もし気づけていれば、なんて考える余裕もない。

 

入り込む特別棟の冷たい空気でやっとドアの方に顔を向けると、テニスラケットを背負った女の子が胸のあたりを左手で握りしめるようにして棒立ちしていた。




恋には修羅場が必要だ、とどこかで聞いたことがある気がします。(ない)

てなわけで、『俺の彼女と小悪魔が修羅場過ぎる』回でした。

次回『喧嘩』
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