Fate/stay right   作:黒木光月

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お初目にかかります。もしかすると久しぶりとなる方もいらっしゃるかもしれませんが、改めてご挨拶申し上げます。筆者の黒木光月と申します。
本作について簡単に説明しますと、Fateシリーズの設定を借りて好き勝手に大風呂敷を広げた物語となります。
オリジナル要素が多々含まれることになるかと思いますので、アレルギーのある方や肌に合わない方の閲覧は自粛するようお願いします。
前置きが長くなりましたが、少なくとも私は真剣に創作と向き合っていく所存ですので、少しでも楽しんで戴けたらそれに勝る喜びはありません。
どうぞ皆様、これからよろしくお願い致します。


第1話「歪な日常は正しい非日常に」

 周防宮流理(すおうのみやりゅうり)の一風変わった日常は、ある日唐突に終わりを告げた。

 彼はいつものように()()()()()()()()裕福な家庭でお世話になり、このご時勢としては破格に豪華な朝食を遠慮なく平らげる。

 食事を終えると食器を片すこともなく席を立ち、腹熟しのつもりかブラブラと町並を散策しに出かけた。

 当て所なくのんびりと歩くその姿は、暇を持て余した老人宛らだが、見た目は二十歳ばかりと随分若い。

 その格好は黒足袋と下駄に灰色の袴、白の詰襟と濃紺の袷に学生帽の組み合わせという、いかにも書生然とした出で立ちであった。

 

 時は一九四二年、第二次世界大戦が激化の一途を辿る中、日本では二十歳以上の男性が徴兵を義務付けられていた。

 しかし、大学や高等専門学校に通う者には猶予期間が設けられており、一部の富裕層や突出した才能を持つ若者だけは難を逃れている。

 流理もまた、その例外に位置する人物――と周囲の人々は認識しているが、それにしては些か奇妙な点がある。

 昨今では戦争の影響により卒業時期の繰上げが行われ、学生といえども暇を持て余す余裕のある者などまずいない。

 ましてや書生の立場であれば下宿先の手伝いをするのが当然の習わしであるにも関わらず、そんな素振りは一切見せなかった。

 そもそも根本的な話として、平日の朝っぱらから学校に向かう訳でもなく散歩に興じる学生など有り得ない。

 通行人に見咎められれば詰問や叱責を受けて然るべき状況だが、誰一人として彼の姿など目に映らないかのように素通りしていく。

 状況を認識できる者からすれば不可解極まりない光景だが、これこそが周防宮流理にとっての当たり前であり、これからも変わらず続いていく日常――の筈だった。

 

「おい貴様、こんなところで何をしている!」

 川辺にある石造りの小さな橋の上を通りかかった時、流理の目の前に声を荒げる憲兵がいた。それでも初めは、自分には関係ないことだと思い素通りしようとする。

 だがしかし、自身に向けて伸ばされる手の動きを認識してから、流理の内で歯車が噛み合ったかのように思考が高速で働き始め、常人離れした動きで憲兵との距離を空けた。

「・・・・・・特に強い魔力の流れも感じなかったのですが、どうやって小生の姿を捉えたのでしょうかね?」

「何を訳の分からんことを抜かしている。ははあ、さては煙に巻いて誤魔化そうという魂胆だな。だが残念だったな、本官の目を欺くことなど出来はしまい。柔道六段、剣道四段の併せて十段。人呼んで鬼の熊五郎とは俺のことよ!」

 暑苦しい動作と銅鑼声で謎の自己紹介をかます大男に対し、流理は隙のない視線を向けたまま黙考する。

(どうやら()()()ではないようだけど、それだと今の状況に説明がつかない。何者かが裏で糸を引いている線が妥当かな)

「怪しい奴め・・・・・・まさか敵国の諜報員か?これはじっくり取り調べを行う必要があるな」

 先ほど流理の肩を掴めなかったことから警戒したのか、熊五郎は腰を落とすと力士のぶちかましの要領で容赦なく襲いかかってくる。

 その巨体からは想像もつかないほど俊敏で洗練された動きだったが、流理からしてみれば然程の脅威ではなかった。

 掴みかかろうとしてくる両腕を弾いて懐に飛び込むと、相手の突進力を逆手にとって鳩尾に強烈な肘鉄を食らわす。

 この一撃には流石の大男も堪えきることができず、気を失って仰向けに倒れた。

 周囲に人気がないことを確認し、流理は懐から式札(しきふだ)を取り出して素早く呪文を唱える。

陰呪・急急如律令(オン ソマ シリ ソワカ)

 魔術によって男の体を探査してみるが、やはり魔術回路の存在は確認出来ない。

 これで熊五郎は正真正銘の一般人であることが確定した。

 それでも念には念を入れて、更に深く精査を試みる。すると、眼球の辺りから僅かな違和感を検知した。

「この感触・・・・・・恐らくは遠見の魔術の類」

 この男はきっと、自分でも気が付かない内に特定条件下で起動する術式を掛けられていたのだろう。

 それが今しがた発動したということは即ち――

「――狙いは小生の居場所を特定することか!」

 

 天井からぶら下げられた電球が陰影を形作る窓のない部屋。

 そこでは軍服を身に纏った男達が椅子に座り、身じろぎもせず虚空を見詰めていた。

 動きがあるとすれば呼吸による肺の膨張と収縮、または瞬きを忘れた眼球による不気味な蠢動のみ。

 この部屋では、ここ数ヶ月の間に幾度となく繰り返され続けている光景だ。

 永遠に続くかのように思われる沈黙だったが、一人の男が一際激しく眼球を蠢かせた後、この均衡はあっさりと崩れ去る。

『生体監視番号一七0一(イチナナマルイチ)号、標的らしき人物との接触を確認。網膜映像の録画開始。・・・・・・・・・・・・意識途絶。強制起動状態へと移行・・・・・・・・・・・・探査系魔術の発動を感知、即時作業中断・・・・・・中断完了。逆探知された可能性一割以下。危険度小。本部へと情報を送信します』

 とても人体から発せられたようには思えない無機質極まる声を発すると、男は元の通り彫像じみた状態を再開する。

 しかし、ほんの僅かにではあるが、この人間らしからぬ一団からも、久しぶりに熱が入ったような気配が発せられるのだった。

 




最後まで目を通してくださった皆様、どうもありがとう御座いました。
まだ話の骨子も見えてこないかと思われますが、この後すぐに2話も掲載する予定ですので、不快に感じなかった方々は引き続きお付き合い戴けると幸いです。
設定は極力原作に準拠したいと考えておりますが、思い違いや覚え違いをしている部分もあるかもしれないので、もし可能でしたら出典情報も添えてご指摘願います。
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