大所帯となった一同は、冴木の案内で地上にある一室へと移動する。
連れ立って歩くには少々手狭となるいので、サーヴァント達には霊体化をして貰っていた。
しばらく歩くと目的の部屋へ到着する。
そこは作戦会議室だったようで、部屋の中央には二十人は同時に使用可能な角机が陣取っている。
その上には何枚もの印刷紙を繋ぎ合わせて作られたものと思しき巨大な世界地図があり、各所に色や形の異なる駒が幾つも散りばめられていた。
冴木が奥手側中央の席に着くと、その正面側に流理とセイバーの二人、流理から見て右手側にはアーチャー・ランサー・ライダーの三人、左手側にはキャスター・アサシン・バーサーカーの三人に別れて着席した。
「まずは召喚に応じてくれた英霊達に軍を代表して礼を述べよう。私は大日本帝国陸軍大佐・冴木京次郎だ。諸君らの世話役として実権を預けられているので、要望があれば私か直属の部下に申し付てくれ。最大限の便宜を図ることを約束しよう。その見返りという訳ではないが、私からの要求はただ一つ――この国の未来の為、どうか力を貸して欲しい」
真摯に頭を下げる冴木の態度に、流理は呆気にとられる。
魔術師とはどこまでも利己的な生き物であり、己が目的の為ならば何を犠牲にするのも厭わないのが常識だ。
ところが冴木の在り方は、寧ろその逆であるかのように流理は感じた。
冴木からの訴えに、自分でも理解不能な感情の揺れ動きに流理は戸惑いを隠しきれない。
そんな流理とは裏腹に、ライダーが如何にも愉快だと言わんばかりに大笑した。
「カッカッカッ、この時代にも少しは骨のある若者が残っておるようだな!よかろう、力を貸してやる。そもそも、儂が天下統一を成せば日の本の民は全て我が庇護下に入ることとなるのだから守ってやらねばなるまいよ」
「一部不穏当な発言もありましたが、概ねライダー・信玄公の仰る通りです。私が此度の召喚に応じたのも、故国の行く末を憂いてのことでしたから」
「クラス名呼びだけで良いぞ、セイバーの。下手に真名で呼び合う癖を付けてしまっては、戦場で足元を掬われかねんからな。他の者も、それで構わんな?」
ライダーが首を巡らせて同意を確認すると、その動きに合わせて皆が頷いた。
バーサーカーだけ反応が若干鈍いようだったが、言葉を発するのにも一苦労な様子であり、恐らくは狂化の影響によるものであろう。
真名の扱いに関して全員からの賛同を得られると、冴木が引き続いて議題を進行する。
「協力に感謝する。それでは集団としての行動指針を決定する為にも、各自の目的を擦り合わせていきたい。まずはマスターである周防宮流理から順次、聖杯に賭ける望みを明かしてくれ」
また内心を吐露しなければならないのかとうんざりする流理だったが、ここで話の流れを遮るのは得策ではないと思い直し、大人しく目的のみを端的に伝えた。
「小生の望みは兄を黄泉返らせることです」
この発言を受けたサーヴァント達はそれぞれ何か言いたげな様子だったが、機先を制してセイバーが音頭を取った。
「一つ一つの表明に各々が反応していてはキリがないので、ここはお互いに静聴としましょう。それでは、次からは私、アーチャーと順に時計回りでいきますよ」
セイバーこと
今の流理からすると正直苦手な人種だが、面倒事を買って出てくれる分には一向に構わなかった。
「私の望みは先程も申しましように、この国の安寧を守ることに他なりません。次はアーチャー、お願いします」
「拙者はセイバーのように明確な意志を持っていた訳じゃあないが・・・・・・なんとなく、
「有難う御座いました。次はランサー、お願いします」
「某の望みは強者と心ゆくまで戦い、往生することだ。戦とあらば存分に槍を振るおう」
「有難う御座いました。次はライダー、お願いします」
「儂も今しがた述べたが、この国を武田の名の下に治めることよ。ゆくゆくは外海への進出も視野に入れておったでな、此度の戦で一気に決着をつけられるならば願ったり叶ったりだわい」
「有難う御座いました。次はキャスター、お願いします」
「わたくしの望みはこの国に芽吹いた文化を守ることにあります。荒事は不得手ですが、出来る限りのお力添えをしていきますわ」
「有難う御座いました。次はアサシン、お願いします」
「拙者の望みは殿が築き上げた太平の世を崩壊せしめた舶来の者共を誅することで御座ります。白兵戦では侍より一歩引けを取りますが、諜報活動や破壊工作の類でしたら是非ともお任せあれ、で御座る」
「有難う御座いました。次はバーサーカー、お願いします」
「・・・・・・イテ、キ・・・・・・ホロ、ボス・・・・・・ボク、ノ・・・・・・シメ、イ」
「有難う御座いました。それでは全会一致で、この国を守る為に仇なす敵は全て排除する、という方針で間違いありませんね?」
微笑を浮かべながらも得体の知れない狂気を宿して妖しく光るセイバーの鋭い眼光は、それなりの修羅場を潜り抜けてきた自負のある流理ですら背筋に怖気が走る程だった。
また、それを物ともせず受け止めるサーヴァント達にも、流理は戦慄を禁じ得なかった。
聖杯へと託す決意表明を終え、冴木が次の議題を持ち出した。
「諸君らの意欲的な協力に改めて礼を述べよう。では次に、聖杯からの現代の情勢や聖杯戦争に関する知識を与えられていると思うが、それを確認したい」
「はい。それでは僭越ながら、私の口から今回の聖杯戦争が開催された経緯と、その取り決めについて語りたいと思います。皆さんの記憶と食い違っている点や補足等が有りましたら、ご意見ください」
誰からも異論はなかったので、セイバーが聖杯戦争に纏わる説明を開始する。
「第二次世界大戦の勃発を切っ掛けに、人類が滅亡する未来を魔術協会の重鎮が予知しました。その声明を受けた聖堂教会が対策に乗り出し、魔術協会と合同で解決策を模索した結果、世界規模での聖杯戦争を執り行うこととなります。儀式は公正を期す為、魔術協会と聖堂教会に
「世界の滅亡が具体的にどのような形で現れるかは不明だが、これだけ大掛かりな仕掛けが用意されている以上、単なる法螺話では済まされないだろう。もしかすると、二大組織による何らかの陰謀の可能性もある。各員、呉々も外界からの干渉に注意して任務を遂行せよ」
「小生は軍の狗になった覚えはありませんが、まぁ良いでしょう。精一杯任務に努めさせて頂くであります」
常の癖か、上官のように指令を下す冴木に対し、流理はわざとらしく戯けて敬礼をしてみせる。
鼻白む冴木だったが、話の進行を優先して不問に処することにした。
だがしかし、その代わりと言わんばかりに信玄が立ち上がって怒りを顕にする。
「軍議の最中だというに、その巫山戯た態度は何だ!貴様、それでも日ノ本を
「どうやらその人に感化されて勘違いしてるようですが、魔術師とは元来からして独善的なもの。お国の為に役立とう等と考える方がどうかしてますよ」
流理の吐き捨てるような台詞にライダーの怒気が瞬時に膨れ上がるが、それが爆発する寸前に冴木が自嘲気味な調子で言葉を挟んだ。
「その意見は最もだな・・・・・・。だがそれでも、これだけは聞いて欲しい。周防宮流理――貴君であればこそ、この戦いに勝利出来ると私は確信している。だからどうか、我々に力を貸してくれ」
信じられない程に真っ直ぐな言葉であったが、頭を下げる冴木からは一切の嘘や誤魔化しの気配は感じられなかった。
裏の全く読み取れない真摯な態度に流理は面を食らう。
世界の命運を左右する戦争の代表に、どうして自分が選ばれたのか、その答えが一向に分からなかった。
それなりに有力な血筋を受け継いでいることは確かだか、それと同等以上の「格」を有する家系など、流理が知っているだけでも両手の指に収まりきらない数が存在している。
戦闘に優れた魔術であることを考慮したとしても、その順位には大して影響はない筈だ。
いくら自問しても答えは得られず、理由を尋ねずにはいられなかった。
「・・・・・・どうして小生なのですか?」
「大切な人を失うことの痛みを知っているからだ」
魔術師の生死観とは一般のそれとは大きくかけ離れている節がある。
彼らは愛する人を喪うことよりも、血脈が途絶ることにより一族が積み上げてきた魔術を失うことをこそ恐れているのだ。
幸か不幸か、魔術師としての心が完成する前に
魔術師としては未熟もいいところだが、未熟であるからこその可能性に冴木は活路を見い出したのであった。
神妙な顔をする流理に気勢を削がれたのか、幾分か落ち着きを取り戻したライダーが厳かに宣言する。
「儂としても言ってやりたいことが山程あるが、ここは冴木殿に免じて一つにしてやろう。勝負だ、小僧。――と言っても武力では勝負にならんからな、儂と知恵比べをして見所があることを示せばお前さんを我らが
「それは良い考えですね、ライダー。私も賛成します」
セイバーに引き続いて他の面々からも同意を得られ、勝負は避けて通れない雰囲気となった。
次から次へと押し寄せて来る厄介ごとにウンザリする流理だったが、ここでゴネてもサーヴァント達との関係が破綻する可能性が高かったので、内心渋々ながらも表面上は格好つけて勝負を承諾する。
「いいでしょう・・・・・・。その勝負、受けて立ちます!」
「カッカッカッ、存外、中々の面構えをするじゃあないか、小僧。精々頑張って儂の期待に応えてみせよ!」
かくして、流理とライダーによる騎乗ならぬ机上の一騎打ちが幕を開けるのであった。
遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした。
各キャラの掘り下げも進めていきたいのですが、また2ヶ月程は忙しくなる予定なので、更新のペースは上がらないと思われます。
今年中に最低でも1話は更新出来るようにしますので、どうか今後ともお付き合い戴ければ幸いです。