たとえ怪異──そうは思いたくないけれど、こんな世界があるんなら、それはとても良い事なんじゃないかと
たまには、こんなに良い怪異に化かされたって良いんじゃないかと思うんだ
[自宅]
僕は今日、特に何の予定もなく只ひたすらにひたすらと退屈を満喫していた
[休日]
やれ、怪異だの、頼まれ事だの、頼み事だの
そういった今までにあったあれやこれやそれなんかが、ひとまず一段落したと思える、そんな何もないただ普通の、ありふれた1日となろう
そう、何の予定もない、何も起きていないであろうこの最高に退屈な時間を貪りに貪っていた
[真昼間]
妹達もなにやら友達のところへ遊びに行くとかで、我が家は僕1人お留守番となっている
「全く、真っ昼間から何の予定もないであろう兄である僕を1人にしてしまうなんて」
なんて薄情な妹達なのだ、とは思っても、まあ、火憐ちゃんも月火ちゃんも、いつまでたってもこの僕という兄から兄離れができなさそうな妹のことだからな、うん、そうだ、たまにはこういう時間も必要なんじゃないかな
そうだとも、決して僕が寂しいというわけじゃない
・・・・ゴロン
[ 寂 ]
家に、そして自分の部屋に1人で居るわけだが、でも誰かを呼ぼうとか、どこか誰かの所へいこうかという気は特になく、これといって勉強や読書なんかもする気が起きなかった僕は特に何も考えつくこともなく、只ベッドで横になっているのである
「うーん」
・・・・・ゴロン
つまるところ、ただの昼寝だ、最近は起きている間といえば大体誰かと居たり問題に奔走したりと、前の「人間強度を下げたがらない」僕とはだいぶ違っていると言える
だからこそ、この忘れかけた平和な退屈という時間を、平穏な今を、退屈で何もすることが無いこの時を、全力で満喫しようではないか
(たまにはこんな日があったって良いかもしれない)
・・・・・ゴロン
それに甘んじてお昼寝だ
・・・・・・・・・~~
・・・・・・・・ZZz
・・・・・・zZ・・・・・・ZZz
・・・・・・・Zz・・・・・・・
~~~~~~~~~
・・・・・・・ゴロン
・・・・・・・・・
んん・・?
(なんだろう、ベッドで寝ているわけだが、布団が妙に硬く感じる・・・寝返りでベッドから転げ落ちてしまったのか?)
「んん・・・・」
ザァ・・・・
「・・・・え」
[ 目覚 ]
ここは?
[ 木 ]
「ここは?」
[ 草原 ]
「なにがあって僕の部屋がこんなワイルドな仕様に変わっているんだ!?」
夢?いや、夢でなくては困る、まさか僕が夢遊病にでもなってこんな自分でも分からないところまで歩いてきた、だなんて思えない
僕は至って正常だ、健全な高校生だ、きっと
――スン
そよぐ風が運ぶ、母なる大地の匂いと言うべきか、もう完全に木とか草とか土とかが色々混ざった、都会育ちの僕にでも分かるくらいの、溢れんばかりの大自然な空気が溢れ、それ相応の景色が広がっていた
「・・どうなってるんだ」
部屋のベッドで寝ていたはずが、突然、荒れてはいないが荒野というか、本やテレビなんかで見たことがあるようなサバンナやサファリパークといった感じの、広大な自然の中に、今ぼくは居る
そして何やら、そこかしこが虹色にキラキラ光っている、不思議な光景だ
ここがどこだか、なんでこうなってしまったのか訳が分からないがとにかく動こう、もしかしたら、いや、それこそ今までがそうだったように、僕はまた[怪異]に遭っているのかもしれない
────────
・・・・・スゥ・・・スゥ・・・
ガサ ガサ
・・・・・・・
ガサリ ガサ ガサ
「 ! 」
バッ ~~
「っな!?」
近くの木の中から、少女が飛び出してきた
~~~フワァ~~
(何色だ!?いや、覗こうとしている場合じゃない!)
ダダダダダダダダダダダダ!
[ 走 ]
ダダダダダダダダダダダ!
僕はなんだか無性に、何かが始まりそうな気がした
なにか冒険なような
ドキドキとワクワクが溢れるような
そういえば、戦場ヶ原と初めて出会ったときも、降ってきたのを受け止めるといった形での、こんな感じの出会いだったようなーーー状況は随分違うが
ダダダダ バッ!!
僕は降ってきた少女へ全力で向かって、抱き留めるようにキャッチした
「うみゃーーー?!」
「へ・・・?・・耳・・?」
キャッチしたその時、僕はその少女の頭に付いてるそれを見て、つい言葉が漏れた
その途端
「うっわぁー!すっごーーい!!」
[ 凄 ]
僕にキャッチされたまま感嘆の叫びを上げるこの少女のことを、瞬間的に僕は大好きになった
「すごいねすごいね!狩りごっこだとおもって私が追いかけるつもりだったのに!」
[ 狩 ]
「木から飛びおりた私に向かって走ってきて、ジャンプして捕まえちゃうなんて!狩りごっこがとっても上手なんだね!すっごーい!!」
狩りごっこ?んーまぁそうだな、八九寺に対する愛情表現の代わりとして、狩りを為すような気持ちで紳士的にあんなことやこんなことをしてきたものだ、だがそれはきっと些細なことだろうから良いとして
この、とてつもないほど純粋な目と表情で、僕に凄い凄いと言いながら大人しく抱っこされてくれている少女の、やや不思議な格好に、さすがの僕も間の抜けた言葉が出てしまう
「豹柄?なにかのコスプレ?」
すると、パっと軽やかに僕の腕の中から降りた少女は言う
「ヒョウじゃないよ!私はサーバルだよ!」
「サーバル?」
サーバル、サーバルか・・・この少女の頭についている猫のような大きい耳と、チーターとか豹と似た感じのまだら模様から見るに、猫科の動物のサーバルキャットというものだろうか?
まてよ、キャット、つまりは猫
「猫」というものには些か心当たりがある、羽川翼がそうであるように、この女の子にも何かそういう類いの物が、怪異が憑いているのだろうか?
と、そんな事を考えたが
「ねぇねぇ!きみはどこからきたの!?名前は?その頭に付いてるのはなに?」
(
ヾ
シ
「うぅーわぁー!うごいたー?!なんなのこれー!ふっしぎー!」
(凄い食い付きだ、羽川にも効果があったりするんだろうか?)
とても天真爛漫な、無垢であどけないその表情や仕草の1つ1つ全てが、僕の頭の中に浮かんだ今までにあった、かつてのアレやコレな怪異の想像に蓋をし、さらにその上に大きな石の重りを置いた
「これは僕のチャームポイントだ」
「ちゃーむぽいんと??なにそれなにそれ?気になるー!」
「うみゃ!みゃんみゃんみゃんみんみー!」
ツンツンペシペシとじゃれては、僕(のアホ毛)に夢中なこの少女、だが、とりあえずすぐにでも聞いておきたい事を訊ねておくことにする、なんだかこの子を見ていると、今自分の身に起きているあらゆることを忘れてしまう、何もかも許してしまえるような気持ちになってきてしまっているからだ
「なぁきみ、ここはどこなんだ?それと君は?」
少女は腕を広げて言った
「ここはジャパリパーク、私はサーバルだよ!この辺は私のなわばりなの!」
「ジャパリパーク?」
「そ!ここはジャパリパークのさばんなちほーだよ!」
ジャパリパーク?聞いたことがない、いま頭の中でタララ~ラ~ラ~♪タララ~ラ~ラ~♪という、ジュラシックなパークの壮大な音楽が流れたが、これは違う気がする
ふと「オールウェ~イトゥ~ギャザ~♪」と歌い出したくなってきたが、これはアドベンチャーなパークのCMソングだっただろうか?
というわけで、もうさっぱりだ、ジャパリパークという物が僕の生きていた世界にあっただろうか?テレビや雑誌か何かで見たことも聞いたこともない
「ねえねえ!あなたのお名前は?なんていう動物のフレンズなの?おおきなフレンズだね!」
「ぼくの名前は阿良々木、阿良々木 暦だ・・・え? フレンズ?」
あれかな?この出会った瞬間から、君と僕とは友達!みたいなことだろうか?
「うん、ジャパリパークにはいーっぱいフレンズがいるんだよ!」
なんだって?サーバルちゃんみたいな少女が、ここにはいーっぱい居ちゃうのか!?
あぁ、これはまずい、とてもまずいぞ!もし今の僕が、少し前の「人間強度」を頑なに保ちたがっていた僕のままだったら、きっと狂わずにはいられない! 今の僕でさえこのサーバルちゃんという少女に心を鷲掴みにされてしまっているんだ、耐えられるものか
僕は少し取り乱してしまっているようだ、ふぅ・・落ち着け、よし
先に断っておくと、僕は決して幼女趣味なんかではなく、むしろどちらかというと大人な感じの、落ち着いた女性がタイプだと言える、そう、例えば羽川とか、他にも羽川とか、羽川みたいな感じの、だからぼくに幼女趣味や、少女趣味という性癖があったりする何てことはない、うん、いいぞ、落ち着いてきた
[オチツケ]
断言しよう、八九寺に関して言えばだが、僕は今まで沢山のあらゆる行いを仕掛けたことがあるけれど、それについてはいくらでも弁論の余地が僕にはあると思うんだ、え?無い?はは、そんな馬鹿な
健全な高校生であるこの僕のことだ、サーバルちゃんからは健全な魅力を見出しただけに違いない!
[ケンゼンナキュウケツキ]
とにかく、つまりはだ
ぼくはこの子を愛さずにはいられない!!
「なんだか面白い名前だね!アラ・・アラララ?ありゃりゃ?」
「阿良々木暦だよ」
「アラヤギ?ヤギ?あにゃにゃ・・うみゃー!えーっと、コヨミっていうんだね!よろしくね!コヨミ・・ちゃん?」
(くぅぅうぅぅーーーー!!名前呼びぃぃーーー!!!)ガッツポーズ
「なになに?どうしたの!?楽しそー!なにかいいことあったのー!?」
サーバルちゃんの言葉に、ふと怪しいアロハシャツを着た男の口癖を連想したが、いまこの場合、良いことがあったので全く勘に触らない
「いや、大丈夫だよ、僕の名字は阿良々木だけど、うん、暦でいいよ、なんなら暦お兄ちゃんでもいい」
「みょーじ?んー、わかんないや!じゃあこよみおにいちゃんで!」
「コヨミおにいちゃんもフレンズみたいだけど、なんだかわたしたちとちょっとちがうね!きみみたいなフレンズ、初めて見たよ!どこからきたの?」
僕の名字はどうやら少女にしっかり覚えられていないようである、これが八九寺なら問い直して訂正を申し出る所だが、まぁ、このサーバルちゃんという少女の前では些細な問題として置いておく、それよりも、さっきも出たこの「フレンズ」という言葉が気になる、ついでにどこから来たかというと僕は自分の部屋で寝てたはずだ、自らここへ来たのではないだろうから何とも言い難い
「どうやって僕はここに来たのかは僕自身も分からないんだ」
「ところで、なぁサーバルちゃん、さっきから言ってるフレンズっていうのは、どういう意味なんだ?」
「あれ?知らないの?こよみおにいちゃんはさっき生まれたフレンズなのかな?」
「え?僕はさっき生まれたのか!?」
「あの山からキラキラしたのがふきだしてるでしょ?あのキラキラしたサンドスターっていうのにあたって生まれるのが、フレンズだよ!」
サーバルちゃんが指をさした方を見ると山があって、その山頂には確かに何か煌めいてる物が見える
「ほら、まだ周りがサンドスターでキラキラしてるでしょ?」
ここで目覚めてから気になってた、あちこちでキラキラしている光の正体は、どうやらサンドスターというらしい
「わたしもよくわからないんだけど、サンドスターには不思議なちからがあるんだって!」
サンドスター・・・全然わからない、これまた不思議なものが出てきたようだ
サーバルちゃんと出会って、話して分かったことは
ここはジャパリパークで、僕はサンドスターという不思議なものでフレンズになって存在している、ということだろうか
「ねぇ、こよみおにいちゃんはなんのどうぶつなのか覚えてる?」
ふと、突然の質問に
「え?えぇ・・と」
言葉が詰まった
僕はかつては人間 " だった "、そう、吸血鬼になるまでは
だが僕は、人間だった時の阿良々木暦としての生き方も全うするつもりだ、そこに迷いはない
そして今は、人間であり、吸血鬼であり、フレンズなのだろうか
すると
「そうだ!わからないならとしょかんで調べたらいいよ、ハカセたちもいるし、なにか分かるかも!」
「え?図書館なんてあるのか?ハカセ?」
「うん!あるある!わかんないときは、としょかんで調べたりハカセに聞くんだよ!」
知っている単語がやっと出てきた、それに対して僕はいくらか安堵した気分になる
「私があんないするよ!いこいこ!」
「それは助かるよ、ありがとうな、サーバルちゃん」
「えっへん!まっかせてー!」
こうして僕は、ジャパリパークの中にあるらしい図書館へと向かうことに決めた、僕が何故ここにいるのか、どうなって此処へ来たのか、なんの手掛かりも掴めないままなのは少し癪だし、何よりサーバルちゃんが行こうと言うのだから、間違いないはずだ
「が~いど!♪が~いど!♪さばんなガーイドー!♪」
なにやら楽しげに口ずさんでいるサーバルちゃんに、今は全て委ねてしまおう
退屈だった何もない日が一変してこんな事態になったが、ただ悪いだけの事が起きているわけじゃなさそうだと考えて、一人の男の子としてドキドキワクワクな大冒険になりそうな期待に、僕は胸を踊らせていた