そんなわけでようやく第10話ですっ。
side和人
俺の数少ない趣味の一つ、それは読書である。本は嫌なことや悩んでいることを忘れさせ、物語の世界に自分を呑み込んでいく。現実感のあるもの全てを忘れさせ、ましてや時間さえも無くなる。
……まあ、悩み事なんて無いんだけどな。
と、とにかく、本は凄いのだ。自分一人の時間だったはずが気付けば架空の人物の人生を傍観する時間だけになっている。そんなストーリー性と作者の力量が目に見える本を読むのはもちろん、探す時間も俺は好きなのだ。
結局、何が言いたいかというと
「もうこんな時間か……」
風呂に入ってないのだ。
流石に読み終わるまで風呂に入らなかったら日付を超えてしまうので、話の区切りがついたところまで読み進め、栞を挟む。名残惜しい気持ちを胸に抱きつつも本を机に置いて椅子から立ち上がる。
「今日は徹夜決定だよな」
和装の寝間着と下着、バスタオルを持って部屋を出る。これからの展開を考えながら。
「そういえば、だいぶ暖かくなってきたな。もうすぐ梅雨だし」
洗面所に着き、何となく呟きながらスライド式のドアを閉めた。服を脱いで雑に洗濯カゴに投げ入れる。風呂場では、入念かつ素早く体を洗って湯には浸からずに出た。
ざっと4分くらいか。カップ麺ができたな。なんでカップ麺ってあんなに美味しいんだろ?あれも日本食の遷移とも言えるよな。
なんて読んでた本とは無縁の思考を働かせていた。これは、俺が腹を空かせているからなのだろうか?思わず身体をバスタオルで拭く手が遅くなる。
パンツを履いたところでドアが開けられる音がする。そこには、美竹が立っていた。
side蘭
「そろそろお風呂、行こうかな」
今日は課題がたくさん出されて嫌になりそう。特に数1のプリントが手強いんだけど。中間考査が近いからって問題多いし、難しいし。
「お風呂から上がったらすぐに寝よ」
下着と寝間着を持って廊下に出た。でも、洗面所に着いてもドアは閉まっている。誰が入ってるんだろ?
「まあ、父さんか母さんだと思うけど」
深山は大体一番に入ってるから絶対ない。毎日あいつがお風呂を洗って、お湯も張ってるし。
中から誰かがお風呂から出てきた音がする。それから少し待ったけど、未だに服を着ているのか出てこない。もう流石に着替え終わったと思い、取り敢えずノックをして、中に入った。
そこには、半裸状態の深山が突っ立ってた。
「…………」
「…………み、深山っ!」
な、なんでこんな時間に入ってんの⁉︎ノックしても返事を待たなかったあたしにも非があるけど!
「なあ、早く閉めてくれないか?」
そこでハッとなり慌ててドアを閉めた。
「ごめん!」
夜は遅いけど大きな声はどうにもならない。あたしの身体は周りの熱を全て自分が吸収してしまったかのように火照っていた。それとは正反対に、ドア越しから聞こえる声は至って静かだった。
「いいよ別に。俺も前に似たようなことしたし」
深山の言葉によって林間学校に出発する前の出来事を思い出す。余計に身体が熱くなる。恥ずかしさと焦りでいっぱいになる。
「て、てゆーか。なんでこんな遅くに入ってるの?それに、着替えるの遅くない?」
変な声が出てしまった気がするけど、もうどうにもならない。
「本に熱中してたんだ。着替えるのが遅いのは考え事だよ。……日本の食文化の変化についてな」
よく分からない事を言い始めたと思ったら、深山は洗面所から出てきて、あたしの顔を見た。
「次からはノックしてもちゃんと返事を待てよ。おやすみ」
「え、あ、うん。おやすみ」
深山が部屋に行くの後ろ姿を見ていた。
いつもは「おやすみ」なんて言わないくせになんでこのタイミングで言うの?深山の「おやすみ」は林間学校以来聞いていなかった。というか、その一度以外無かった。
あたしは洗面所に入ってドアを閉め、脱衣を始める。服を洗濯カゴに入れようとすると、お風呂に入るまでの深山が着ていた服が一番上にあった。
「そっか。あたし、男子と同じ家に住んでるんだ」
今まで深山のことは家でも学校でも極力見ないように、存在自体を避けていた。向こうもあたしのことを嫌っているから、家の中でもあんまり顔を合わせたりもしなかった。
だから、今まで実感が無かったんだ。自分の部屋の隣にクラスメイトの男子が生活しているって。
「こんなのって……お風呂から上がってもすぐに寝られない……」
とんだハプニングがあったせいで、目はバッチリ冴えてしまった。お風呂に入って、身体の熱はお湯の所為だと自分を誤魔化すのでやっとだ。
side和人
自室に戻ると俺は、途端に高まる鼓動を抑えられなくなる。
「クソッ!まじでヤバかった!」
あの場は冷静を装うので精一杯だったけど、本当に危なかった!あそこで俺が取り乱してたら気まずくなってた。というか!なんで俺がこんなに恥ずかしがってんだよ!パンツ穿いてたよな!見られて照れるものなんて何も無かったよな!
「別に、半裸を見られるぐらい男なら平気だろ!」
自分に言い聞かせるように強めに右手で心臓あたりを叩く。しかし心はブレーキを知らずに加速し続ける。
「ああもう!」
何に対してムシャクシャしているのかわからない。取り敢えず手にあるバスタオルで雑に濡れた頭を拭く。そのままタオルを顔にまで持ってきて自分の表情を隠す。部屋の中で誰かに見られるわけもないのだが、この赤面を何もしないでおくのは嫌なのだ。
「美竹は顔、真っ赤にしてたな……」
こんな事なら、カップ麺のことなんて考えなければ良かったと後悔を始める。
「なんでこんなにトラブルが起きるんだよ……!」
美竹とは普段あまり顔を合わせない。だから、顔を合わせる時は大抵何かあった時なのだ。
初めてあった時から、俺は美竹の前だと冷静さに欠ける。なんでだろうか。
「この後、本読めないよな。……寝よ」
なかなか寝付けない夜だけど、じっとしているのが一番楽で落ち着いた。
翌日、俺はすっかり忘れていた課題に大慌てで取り組んだ。美竹が昨日夜遅くに風呂に入った理由もよくわかった。
和人「前書きで忙しいって言ってましたけど、大丈夫ですか?」
桶「大丈夫じゃない〜。もうね、撮ってあるアニメが消費できてない」
蘭「別に、春休みあたりにでも見ればよくない?」
桶「その春休みまでが遠く感じるんだよ……。この話だってアニメ見ながら書いてたんだから」
和人「そうやってクオリティに保険をかけるんですね」
桶「うぐっ!」
蘭「今のリアクションは図星って事だね」
桶「そうだよ(便乗)!だって現代文……いや、日本語自体苦手だし!」
和人&蘭「「うわぁ。開き直ってるよ」」
桶「……二人とも、私を虐めないで。もっと恥ずかしい思いをする話を書いてもいいの?」
和人「それは嫌です!」
蘭「やめて!それだけはほんとに!」
桶「そこまで拒否られるのもなんだかなぁ、ですよ」