彼らの青春には確かに夕日があった   作:桶狭間

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新キャラ2人出ます。以上。


4話「林間学校 1日目」

「今日から林間学校だろう?」

 

 突如、美竹さんの声が俺の脳を抉った。取り敢えず俺は呆然としたまま立ち上がり、ゆっくりと自室へ向かった。カバンの中から林間学校のしおりを取り出してみる。そこには確かに本日からの予定と記述してある。

 

「あれ、おかしいな。俺の記憶じゃ来週のはずだったんだけどな」

 

 ま、焦っても仕方がないよな。えっと、集合時間は8時。今、時計の針は7時25分を指していて、ここから学校までは15分かかるから7時40分には出たいから。

 

「よし。焦らないと死ぬな」

 

 先程の「焦っても仕方がない」は撤回しよう。俺は大きめのバッグに荷物を詰め始めた。3泊4日分の着替えと体操服、学校指定ジャージをタンスから出す。

 

「って、このジャージ、なんか小さくね?」

 

 不思議に思い、その畳んであったジャージの左胸を良くみると、そこには『美竹』とあった。どうやら間違えていたようだ。

 

「同じ学校だから仕方ないけど、気づけよ俺」

 

 とにかく、美竹蘭が俺のジャージを持ってると考えて間違いない。あいつが俺の部屋に突撃してきてないってことは、まだ向こうは入れ替わりに気づいてないのか。

 

 自室を出て隣の部屋の扉をノックしようとした。しかし、昨日の件が引っかかっていて、謎の気まずさが心にあった。でも、俺は急がないと遅刻になるため戸惑いを捨てて二回ドアを叩いた。

 

「おい美竹。ジャージがお前のと入れ替わってたんだ。お前の方のジャージの名前を確認してくれないか?」

 

「えっ。わかった。……ほんとだ。入れ替わってる」

 

「やっぱりそうか。なら、今すぐ持ってきてくれないか?」

 

「ち、ちょっと待って。後でもいいでしょ」

 

 と、ドアの向こうから聞こえた。

 

「悪いが、俺は今焦ってるんだ。じゃないと死んじゃうんだ。だから今すぐじゃないと困る」

 

「待って。ほんとに待って」

 

「俺に残された時間は少ないんだ。どうしても出さないんなら、強行突破させてもらう」

 

 要は部屋に入ってやろうか、という意味だ。そもそも、なんでこいつは待って欲しいんだ?俺みたいに準備ができてないのなら今すぐトレースするだろうし。逆に準備が完了していれば待つ理由も無いし。

 

「お願いだから待って!」

 

 どうやらすごい必死だ。だが、俺の方が必死だ!

 

「わかった。なら、入らせてもらうぞ」

 

 俺はドアに手を掛け、開いた。

 

「ちょっと待っ……!」

 

 美竹蘭の言葉は「ちょっと待って」のワンパターンだったが、それもここで途切れた。一体、何が彼女を焦らせていたというのだ。

 

 しかし、とびを完全に開いて、中の状態がわかった。いや、美竹蘭の状態がわかった。

 

 俺は、今の美竹を見て、彼女の父親の忠告を脳内でフラッシュバックさせた。

 

『今は制服に着替えていると思うから、行かない方がいい』

 

 お分かりいただけただろうか。俺の目の前にいるのは、下着姿の美竹蘭だった。彼女は全体的に細いが、出るところは出ていた。

 

「黒……」

 

 ボソッと言ってしまった。俺はこの言葉を言う前に部屋を出ていけば良かった。だが、もう手遅れだった。彼女の平手打が俺の右頬にクリーンヒットするのは、この0.1秒後のことである。

 

 

 

 

 

「全く、酷い目にあった……」

 

 美竹の会心の一撃を食らった後に俺はすぐさま部屋を出てドア越しに「スミマセンでしたぁ!!!!!」と言った。その後、無言でジャージを投げつけられ、対照的に俺は土下座しながらジャージを献上するはめになった。そして、彼女はジャージをバッグにしまって家を後にした。

 

「俺もそろそろ行かないと、本気で遅刻する」

 

 歯ブラシや洗顔などは登校途中のコンビニで買えばいいので、兎に角家を出ることにした。バッグを肩に掛け、靴を履き、玄関を出る。俺は家をスタートラインとして、走り始めた。

 

 

 

 

 

「間に合ったー」

 

 ゴールテープ代わりの校門をくぐったのが7時57分だったので、思わず安堵の溜息をつく。

 

 ほとんどの生徒がバスに乗り込んでいるのを見て、俺も急いでバスのトランクにバッグをぶち込んで、バスに乗車する。

 

 担任がバスの中で点呼をとったらすぐに出発した。

 

 合宿所までには3時間半ほどかかるとしおりに書いてあった。バスの中でのレクリエーションはカラオケ大会だった。モブのA君のメドレーは控え目に言って上手だった。というか、皆の前で歌を歌って、その上うまいとか全然モブじゃないじゃん。クッソ、忌々しい。といっても、彼とは同じ班なのだが。

 

 だが、そんな親友の歌なんざどうでもいい。俺は寝ることにしたのだ。なぜなら先程まで1人町内マラソンをしていたんだからな。

 

 

 

 

 

「おい和人。着いたぞ起きろ」

 

 俺の隣に座っていた男子が肩を揺する。

 

「…………ん、ああ。悪い。いびきかいてたか?」

 

「いや、全然。静かな寝息だったさ。まあ、周りがうるさいってのもあったけど」

 

 この男子の名前は姫柊士郎(ひめらぎ しろう)。A君と同じく班のメンバーである。成績優秀な自称努力家。定期考査学年5位以内をキープしている。それになにより、イケメンだ。オーラが違う。中等部の頃は何度も告白され、それを全て断っていたらしい。クッソ、忌々しい。

 

 いや待てよ。もしかして士郎は……。

 

「なあ士郎、お前は同性愛者なのか?」

 

「寝ぼけてるのか?だとしたら俺の拳で目を覚ましてもいいんだぞ」

 

「ああっ!待て!冗談だ冗談!」

 

「ハア、なんでそんな事を言ったのか知りたくないから、この事は忘れるとする」

 

「さ、サンキュー……」

 

 俺は若干震えながらも士郎に礼を言う。

 

「それより早くバスから出るぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

 約3時間も寝たので、疲れはバッチリとれた。この調子なら怪我も病気もなく、無事に3泊4日を過ごせそうだ。

 

 バスから降りて、入館式やらなんやかんやが済んで、ようやく昼食の時間となった。食事はビュッフェ形式なため、俺と士郎は列に並び、トレーを持ったら箸と皿をその上に置く。流れに乗りながら、栄養を考えながら料理を皿に盛る。

 

「士郎、今更なんだけどさ」

 

「どうした?」

 

「うちの班の女子って誰だ?」

 

「ほ、ほんとに今更だなぁ。まあいいか、後で班で集まるだろうからその時にな」

 

「今教えてくれてもいいだろ」

 

 しかし俺の要望は聞き入れてもらえなかった。

 

 料理を盛り終わり、最後に味噌汁と白米の入ったそれぞれの碗をトレーに乗せ、次に席を探した。同じクラスの男子を探したが、食堂は広くて見つけづらい。

 

「あっ……」

 

「あっ」

 

 俺は偶然、美竹蘭に遭遇したのだ。そこで俺は朝の出来事が脳裏に蘇り、顔を赤くしてしまう。彼女も同様の(だと思われる)理由で、紅潮させる。

 

「あれ?和人と美竹って仲よかったか?」

 

 しまった。隣にいる士郎の存在を忘れていた。俺と美竹は学校では大きな関わりを持っていない。よって、士郎が疑問を抱くのも納得がいく。

 

「い、いや!仲良くねーよ!ただのクラスメイトだ!それ以上でもそれ以下でもない!」

 

「そこまで否定すると逆に怪しいぞ」

 

「なっ!そ、そそそそんな事ねーよ!な、美竹!」

 

「……あ」

 

 あー。なんか嫌な予感しかしねーわ。昨日、こいつの幼馴染と鉢合わせになった時ぐらい面倒くさくなりそうな予感がしますわー。

 

「あんたなんか知らない!」

 

 やっぱりな!そりゃ今朝、あんな大事故起こしたばっかりだもんな!そんなマトモに会話できると俺も思ってなかったよ!

 

 だとしても、だとしてもだ。そんな言い方したら誤解されちゃうんだけど!幸運というか、奇跡的に周りも騒がしかったので、士郎には聞かれていなかった。

 

 美竹蘭は自身で生んだ誤解を解こうとせずに、幼馴染の元へ走っていった。料理を持ったままよく走れたな。

 

 その後、士郎は問い詰めずに何やら見透かしたような目で肩をポンと叩いた。絶対誤解してるな、うん。ともあれ、クラスの男子が集まるテーブルを見つけたため、俺はやっと昼食をありつけたのだ。

 

 

 

 

 

 午後からの時間はあまりないのでドッヂボール大会だった。そこからの時間は相当充実していて、時間はあっという間に過ぎていった。

 

 気づけば時刻は6時を回っており、俺の属するクラスは先に夕食で、その後に入浴というスケジュールだ。

 

 その風呂の時間になった。『間違って女風呂に入る』という現実味のないイベントは現実になるはずもなく、俺はいい湯だなぁ、と露天風呂に浸かっていたものだ。

 

 風呂上がりに俺は自動販売機で飲み物を買った。横のベンチに座って、キンキンに冷えたコーラを喉に通す。すると、別の誰かもジュースを買いに来たようだ。俺は顔を確認しようと思い顔を上げた。

 

「っ!……よ、よう美竹。お前もコーラか?」

 

 そこには色んな意味で、今最も会いたくなかった相手がいたのだ。

 

「何あんた。気安く話しかけないでよね」

 

 俺だってそうしたかったんだけどな。

 

 それにしても、このキッツい言葉を浴びせてくるのが、昼飯の際に恥ずかしがっていた女子と同じとは思えない。だが、これがいつもの調子なので、ちょっと安心してしまう。どうやら、朝の件はもう気にしてないのか?もしくは恥ずかしさよりも怒りが勝ってしまったのか?

 

 ともあれ、俺が話しかけたのは、もう一度ちゃんと謝りたかったので、立ち上がり、腰を曲げた。

 

「悪かったな、朝の事は。俺、今日から林間学校だと思ってなくてさ、色々気が動転してたんだ。本当に反省してるんだ。許してくれ」

 

 俺は深々と頭を下げた。普段ならコイツに頭を下げたくないが、今回に限って俺に100%の非があるためだ。

 

 俺の誠意が伝わったのか、

 

「べ、別にいいけど。その……あたしだって昨日迷惑かけたわけだし」

 

 それはあれか。お前のバンドメンバー御一行と俺が美竹家玄関前で偶然会ったあれか。それよりも、今のは当たりが強くなかったな。いや別に酷い言葉で罵ってほしいとかそういうのではないからな。断じてないからな!

 

 まあ、許してもらえたんだから、昨日の件については俺も文句は言わないでおこう。だが、やはり、美竹が黙り込んでしまった理由は知りたい。

 

「なあ、なんで昨日黙っ」

 

「あたしもう行くから」

 

 俺の言葉は止む無く中断させられた。

 

「……わかった。おやすみ」

 

「うん。おやすみ」

 

 彼女が女子の宿泊する棟へ戻る背中を見送る。それすら見えなくなったところで、俺は再びベンチに座った。

 

「そういえば、初めて『おやすみ』って言ったな」

 

 残りのコーラを飲み干し、俺も部屋に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、そこには同室のメンバーが揃っていた。この部屋には俺を含めて3人。

 

 1人目は俺、深山和人だ。

 2人目が、バスの席で隣だった姫柊士郎。

 そして3人目が、バスの1番前でクラスを沸かしていたA君こと明石(あかし)レイジだ。イニシャルAなので、あながちA君も間違ってない。

 

「そういえば士郎、結局班の女子はわかんなかったぞ」

 

「ああ、そういえばそんな事言ってたな。今日は班行動が無かったからな」

 

「それならしおりを見ればいーんじゃねーの?」

 

 はい、これが今までモブ的存在だったA(明石)だ。クラスのムードメーカーで、俺より断然リア充っぽいポジションだ。

 

 だが、その割には女子からモテたことがないらしい。顔はイケメンな方だが、理由ば別にあった。レイジと士郎は中等部がずっと同じクラスの親友だ。なので、別格のイケメンな士郎が隣にいたら、レイジは明らかに見劣りする。しかし、そんな残念そうな所が男子から親しまれているため、男子共の謎の信頼と人望がある。

 

 と、説明よりも、レイジの言葉に俺は反応をする。

 

「ナイスアイデアだ、レイジ。てか、お前らが教えてくれてもいいだろ?」

 

 そう言いつつも、俺はバッグの中を漁り、しおりを探していた。発見したしおりをパラパラとめくる。

 

「ええーっと。……明石レイジ、姫柊士郎、深山和人」

 

 男子はこの3人。あとは女子が4人。

 

「ーー。ーー。ーー。……み、美竹蘭」

 

 なんでまた。これも、神の悪戯なのか。

 

「美竹って性格が少しキツいよな。そんなクールな一面が男子から人気らしいけど。特にドM体質の奴等から」

 

 ちょっと士郎さん、それ、どこ情報だよ。この学校に変態がそんなにいるの?怖い。

 

「ルックスだけなら校内トップクラスだしな」

 

 おいレイジ。そういう事言うなよ。そんな情報聞くと、明日から意識しちゃうだろ。いや、しないんだけど。

 

「あとは女子からも結構人気があるって噂だ。百合的な意味で」

 

 さっきから、士郎の口からはSMとか百合とかっていう危ない情報しか出てこない件について。

 

「男女別々のファンクラブがあるって噂も聞いたぞ」

 

 なんならレイジの方が危ない情報持ってたよ。やっぱり、この学校怖い。

 

 しかし、ここまで美竹の事を聞くと、いくら嫌いでも一つ気になった事がある。

 

「なあ、美竹って彼氏とかいたりするのか?」

 

 これは俺のちょっとした好奇心だ。他意はないからな。

 

「「…………」」

 

「おい、なんで黙り込むんだ?」

 

 すると彼等はまるで合図をとったかのように一斉に、

 

「「お前は美竹のことが好きなのか?」」

 

「はあ!?なんでそうなるんだよ!」

 

「いや、今の発言はそう言う意味じゃないのか?」

 

「違う!断じて否だ!どつき回すぞ士郎!」

 

「ま、カズなら大丈夫だと思うぜ!」

 

「レイジ、お前も誤解してるだろ!」

 

「でも、士郎と学年1・2のイケメンを争うお前なら告白の隙さえ与えてくれない美竹蘭を落とせると思うぜ!」

 

 もうダメだ。これが日本の高校生の現状です。すぐ勘違いする、漫画に脳を蝕まれてしまったのか。

 

 それより、

 

「『告白の隙さえ与えない』ってなんだ?」

 

「あー、美竹って人気だけど、なんか誰も近づこうとしないんだよ。いや、近づけないのか。幼馴染以外は。だから、あいつはクラスで友達いねーじゃん」

 

「なるほどな」

 

 つまりクールな所でモテてるけど、そのクールさゆえに誰も近づけないってことか。

 

「2人とも、話はそれぐらいにしとけよ。そろそろ就寝時間だぞ」

 

 士郎の言葉で、俺は部屋の電気を消す行動に至った。つーか、士郎はいつのまに寝る準備をしたんだ?

 

 俺はベッドに入った。

 

 ただ、すぐには寝付けなかった。美竹が男女問わず人気があると聞いて、ラブコメ主人公みたいに胸がチクってなることはなかった。が、クラスで孤立していて、休憩時間には他クラスの幼馴染に会いに行く美竹蘭の姿を想像してしまっていた。

 

 そこで俺は睡魔に思考を制圧されたのだった。




和人「珍しく更新が早いですね。前回から1週間も経ってないのに」

桶狭間「GW中にもう1話出せて良かったッス」

蘭「それより、一気に新キャラ2人も出して大丈夫なの?とりあえず今回だけ出して、それ以降は出番なしとかになったりするんじゃないの?」

桶狭間「うぐっ!て、的確な意見ッスね。善処します」

和人「あと、今回長くなかったですか?毎回これぐらいにしないんですか?」

桶狭間「善処します!」
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