IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第九話 ~授業と決意とクラス代表~

クラス代表決定戦が行われた翌日の帰りのHR(ホームルーム)、とうとうクラス代表が発表される時が来た。

 

(まあ一夏は負けたし、俺が戦ったのはただの時間稼ぎだしな……)

 

机に頬杖をつきながら窓の外を眺めていると、不意に教室の前の扉が開いて真耶が飛び込んできた。

 

「はい、それではクラス代表を発表しますね」

 

(どうせオルコットさんだろ……)

 

「一年一組のクラス代表は織斑 一夏君に決まりました!あ、一繋がりでいいですねー」

 

「「……は?」」

 

真耶の声を聞いて一夏と統夜が同時に声を上げた。ぼうっとしている統夜に対して、当事者である一夏の反応は早かった。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!何で俺が!?それに俺、負けたんですよ!?」

 

「それはですね──」

 

「私が辞退したからですわ!!」

 

真耶の言葉を遮って誰かが大声を上げる。統夜の目には背後にババーンという文字を浮かび上がらせながら、勢い良く席を立つセシリア・オルコットが映っていた。教室中が静まる中、セシリアは一人声を張る。

 

「あの後私も反省いたしまして。いくら私が国家代表候補生とはいえ大人気なかったのも事実。そこで私はクラス代表を辞退しまして一夏さんに譲ったという訳ですわ!!」

 

 

「セシリア、分かってる~」

 

「やっぱり男の子がいるんだから立てないとね!」

 

女子連中は勝手なことばかり言うが当の本人からすればたまったものではないだろう。事態を見守っていた統夜だったが、焦った顔つきで一夏が統夜の方に振り向く。

 

(統夜、助けてくれ!!)

 

(無理だ。オルコットさんの言っている事は正論、しかもここまでクラスの皆に言ったらもう取り返しはつかない!)

 

(そ、そんな!!)

 

(まあ、頑張れ)

 

(まじかよおおおっ!!)

 

以上、統夜と一夏によるアイコンタクトの結果である。その間約一秒、これぞ男の友情のなせる技だろう。

 

「それでは皆さん、今日はこれでおしまいです。気をつけて帰ってくださいね~」

 

真耶が締めの言葉を発すると生徒達は鞄を手に取り、喋ったりしながら帰路に着く。

 

「統夜。俺、どうすればいいんだ……」

 

足取り重く、片手に鞄を持った一夏が統夜に近づいてくる。統夜も自分の鞄を手にとって教室の出口へと歩き始めた。

 

「ま、まあ頑張れよ。クラスの皆に負けない様にすればいいんじゃないのか?」

 

「まあそれもそうか。そうだ、これ返しとくぜ」

 

そう言って手渡されたのは一夏に預けた統夜のUSBだった。受け取った統夜は自分のポケットへとしまい込む。

 

「ホント悪いな統夜、ここまでしてもらったのに負けちまって」

 

「それはもういいって言っただろ?それにクラス代表にはなれたんだ。結果オーライだろ」

 

「そうか、よし決めたぜ!次に戦う時は絶対に勝つ!!」

 

「頑張れよ。そう言えば一ヶ月後にクラス代表のトーナメント戦があったな。そこで勝てる様に頑張ってみたらどうだ?」

 

「あれ?統夜、何でそんな事知ってんだ?」

 

「一夏、年間のスケジュールくらい目を通しておけよ……」

 

雑談をしながら寮へと向かう一夏と統夜。そして先に統夜の部屋に到着する。

 

「統夜はこれからどうすんだ?」

 

「まあ一応明日の準備と、あとは色々かな」

 

「そっか。俺、本格的に箒にISの事教えてもらう事にしたからさ。統夜も気が向いたら来てくれよ」

 

「あ、ああ。分かった」

 

「じゃあな」

 

そう言って一夏が自分の部屋に向かって再び歩き出す。統夜が鍵を開けて部屋に入り込むと、誰もいなかった。簪は恐らくいつもの通りISの作製をしているのだろう。自分の鞄をベッドの脇に置いて、統夜は身をベッドの上に投げ出した。スプリングがギシギシと音を立てて弾む。

 

(戦い、か……)

 

統夜は天井を見つめながら昨日の事を考える。確かにあの時、力を入れすぎたとはいえ戦闘自体はこなす事が出来た。ただ問題は、

 

「やっぱり……ここには来ない方が良かったのかもしれない」

 

一人呟く統夜。昨日セシリアのスナイパーライフルを握り潰した感触、それがまだ右手の平に残っていた。顔の前で何度も閉じては開き、閉じては開きを繰り返す。

 

(あれがもし、人だったら……)

 

どうなるかは想像に難くない。その考えをぶんぶんと頭を振って追い出す統夜。

 

(大丈夫だ!もうボロを出さなければいい話だろ!!)

 

できる限り戦闘には近づきたくない、しかしここにいる限り訓練という名の戦闘が毎日続く。統夜はこれからの事を考えて大きくため息をついた。

 

「はぁ……」

 

ふと自分の胸元に右手をやる。そこにあったのは先端に黒い三つ巴を象ったアクセサリーがついているネックレスだった。ベッドに横になりながら指でそのネックレスを弄ぶ。

 

「もう二度と……」

 

何かを決意するかの様に低い声で呟くと統夜は一気にベッドから体を起こす。制服のまま明日の弁当の準備をするため、部屋に備え付けられている冷蔵庫からいくつかの食材を取り出すと、部屋を出て調理室へと向かった。

 

 

 

一夏がクラス代表に決定してから約三週間が過ぎた。その間にも一夏は箒と一緒に行う特訓でゆっくりと着実に実力をつけていった。統夜はそれを眺めているだけで一切参加しなかったが。今日はグラウンドでISを使った実習を行っている。何列かに並んだ一組の面々の前に、ジャージ姿の千冬が生徒に講義していた。

 

「これからISの飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコットは前に出ろ」

 

千冬の言葉に従って素早く一夏とセシリアが列から外れて前に出る。セシリアは前に出て耳に手を当てるとすぐにISを展開し終えるが、一夏はセシリアのISに目を奪われていて微動だにしない。

 

「早くしろ、熟練のIS操縦者は展開に一秒とかからんぞ」

 

「は、はい!!」

 

千冬に急かされて右手のガントレットに左手を添えて目を瞑りながら集中する。約一秒後、ガントレットから光の粒子が出て一夏の体めがけて収束していく。そして光が収まると、一夏の体は白いISに包まれていた。

 

「よし、飛べ!!」

 

「はい!!」

 

千冬の言葉を受けてセシリアはすぐさま地面を蹴って空に飛翔すり。それを地上で見ているだけの一夏に千冬が怒声を浴びせかけた。

 

「織斑、貴様も早く行かんか!!」

 

「は、はい!──うわああっ!?」

 

千冬に怒鳴られて緊張した事が原因か、ただ単に飛ぶのが上手くないのか。一夏は地面スレスレを危なげに低空飛行しながら空へと飛んでいった。

 

(ただ空を飛んでいるのは綺麗なんだけどな……)

 

統夜は空を飛んでいる一夏達を見ながらそんな事を考える。人の姿を維持したまま大空を飛んでいる二人はとても美しかった。生徒全員も統夜と似たような事を考えているのか、全員が一夏とセシリアを見上げている。

 

(あれ?)

 

しかし生徒の列から飛び出す人影が統夜の目に入る。その人物は地上で空にいる二人を眺めている真耶の耳に掛かっているインカムをあっという間に奪い取ると、大声で一夏に通信を送り始めた。

 

「いい加減にしろ一夏!さっさと降りてこい!!」

 

その人物は箒だった。隣ではインカムを奪われた真耶がおろおろしている。慌てて統夜は人の列から飛び出して、箒を止めにかかった。

 

「ちょ、ちょっと篠ノ之さん。何やってるの!?」

 

「ええい、止めるな紫雲!あの女、一夏と──」

 

「紫雲の言う通りだ、馬鹿者」

 

低い声と共に箒の頭めがけて出席簿が振り下ろされる。箒はインカムを手から落としてうずくまってしまった。素早く統夜は地面に落ちる前に、インカムを右手で掴んで真耶に手渡す。

 

「山田先生、はいどうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

真耶は左手で受け取ると自分の耳に付ける。統夜と真耶の隣では、上空にいる一夏達に千冬が通信を送っていた。

 

「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ」

 

上空の二人が停止、そしてセシリアだけが弾丸の様に地上めがけて落下する。地上ギリギリの所で体勢を立て直したセシリアは、そのまま地面を滑るように移動ながら見事地上に着陸した。

 

「次は織斑だ、やれ」

 

空に一人残っていた一夏がセシリアと同じ様に地上めがけて飛ぶ。しかしセシリアと違い、地上ギリギリになってもスピードを落とすことは無かった。その結果、見事一夏は隕石の如く地上に突撃する。もうもうと土煙が立ち込める中、統夜は急いで一夏が落下した場所に向かった。

 

「おい一夏!大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫……」

 

一夏は自分で作ったクレーターの中心部に蹲っていた。ISの方は落下した時に解除されたのか、一夏は生身の状態で土まみれの顔を統夜に向けている。その様子を見てほっと一息つく統夜の横を、二人の少女が駆け抜けて行く。

 

「一夏、大丈夫か!?」

 

「一夏さん、お怪我はございませんか?」

 

「あ、ああ。大丈夫」

 

それぞれが一夏に話しかけているがその光景を見て、統夜の頭には一つの疑問が浮かんできた。

 

(オルコットさん、何かあったのか?)

 

明らかに前の態度とは違う。そのあからさまな変化に箒や一夏はもちろん、統夜も不思議に思っていた。まあ一夏はあの性格なのであまり気にしてはいないようだったが。ふと統夜がクレーターの中心に目を向けると、二人の少女が言い争いを始めている。

 

「ふん、ISを装着していれば怪我などしない。そんな心配をする必要はないだろう」

 

「あら、人を心配するのは当然の事ですわよ。篠ノ之さんは配慮が足りないのでは?」

 

「ぬぬぬ……」

 

「むむむ……」

 

とうとう一夏そっちのけで睨み合いを始めた二人。一夏は地面に座り込んだまま何をしていいのか分からず、統夜も一夏と同じ心境だったので穴の縁で見ているだけだった。

 

「何がしたいのだ、貴様らは」

 

「ふぎゃっ!!」

 

「っ!!」

 

いつの間にか千冬が箒達の隣に移動し、出席簿を二人の頭に振り下ろしていた。あまりの痛みに二人揃って頭を抱えて蹲る。

 

「全く……織斑はさっさと立ち上がれ」

 

「は、はいっ!!」

 

声自体は普通なのに、千冬の声には得体の知れない強制力があった。バネじかけのおもちゃの様に飛び上がって立ち上がる一夏。それを見届けると千冬は穴から抜け出して生徒の列の前に移動する。統夜は自分のもといた場所に戻っていたが、一夏達3人は放置状態である。

 

「さて、オルコットが見せてくれた様にISの空中機動は既存の航空機とは一線を画している。諸君もこれから操縦する事になる物だ。オルコットを手本にして励む様に」

 

「「「はい!」」」

 

(サラッと一夏は除外ですか……)

 

ちなみに一夏達はまだ穴の底にいた。流石に放置はまずいと感じたのか、真耶が穴の底に降りていく。最後とばかりに千冬が穴の底めがけて声を投げかける。

 

「織斑、穴は昼休みに塞いでおけ。それでは一旦解散、各自着替えて教室に戻るように」

 

千冬の号令に従って生徒がわらわらと移動を始める。統夜が穴に目を向けると、丁度一夏達と真耶が上がって来るところだった。

 

「おい一夏、本当に大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫」

 

「紫雲も意外と心配性なのだな、ISをつけていて怪我をするわけ無いだろう」

 

「あら、先程も言いましたが何事にも絶対はありませんわ。紫雲さんの心配も最もではありません事?」

 

「ふ、二人とも!急いで着替えて教室に戻った方がいいだろ、ほら一夏も行くぞ!!」

 

再び睨み合いが勃発しそうな二人を急いで統夜が諌める。千冬の制裁をくらいたくないのか、箒とセシリアは二人揃って更衣室に向かった。統夜も一夏と一緒に歩きながら男子用の更衣室へと向かう。今日もIS学園は平常運転である。

 

 

 

 

「それでは、織斑君のクラス代表就任を祝って!かんぱーい!!」

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

「かんぱーい……」

 

クラスの女子が揃って元気な声でグラスを掲げる。当の本人である一夏は覇気の無い声でそれに続いた。

 

「いやーしかしうちのクラスに二人も男子が来てくれて、ほんと良かったねー」

 

先程乾杯の音頭を取った女子生徒がテーブルの食事に手をつける。日課の授業も終わった一年一組の生徒達は、一夏がクラス代表に就任した事を寮の食堂で祝っていた。貸切のため他の生徒もいない中、一夏を中心に女子達が騒いでいる。

 

(……)

 

もう一人の男子生徒である統夜は部屋の隅で椅子に座りながら、一人でジュースを飲んでいた。元々そんなに騒がしい事は好きではないため、椅子に座りながらのんびりとしていると人の輪から誰かが出てきて統夜の隣に座る。

 

「統夜、どうしたんだ?気分でも悪いのか?」

 

「いや、ただこういう雰囲気が苦手なだけだ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

そう言いつつ、一夏もコップを傾けて喉を潤す。食堂の中心では話題の中心人物を放っておいて、女子達が騒いでいるが統夜達はマイペースで会話を続ける。

 

「それよりもお前もこんな所にいていいのか?今日はお前が主賓だろ」

 

「いや、まだ何かクラス代表になったのが納得いかなくてさ」

 

「それはこの間言っただろ?むしろお前は健闘したんだ。それに言い方が悪くなるけど、オルコットさん以外だったら一組の生徒達の実力はどんぐりの背比べだろ。だから正直言って誰が選ばれたって実力的には対して差は無い、折角選ばれたんだから頑張れよ」

 

「そっか、ありがとうな統夜」

 

「気にするなよ」

 

二人が話していると、再び人の輪の中から人が出てくる。その人物はコップ片手に統夜達のテーブルに近づいてきた。

 

「お二人共、どうかしたのですか?」

 

「いや、別に。ただ統夜と話してただけだよ」

 

その人物はセシリア・オルコットだった。一夏の隣に座る形で同じテーブルに座る。

 

「セシリアもどうしたんだ?」

 

「ちょっと空気に酔ってしまいまして。こちらで少々休憩を、と思いまして」

 

「あのー、オルコットさん。少しいいかな」

 

そこで統夜がおずおずと二人の会話に割って入る。セシリアも積極的に統夜から話しかけられるとは思っていなかったのか。少し意表を突かれたと言った表情で応じる。

 

「はい、何ですの?」

 

「まずは、ごめん」

 

「え?ど、どうなさいましたの??」

 

「クラス代表を決める時に、色々と言いすぎた。ごめん」

 

「ああ、あの時の事ですか。それは全く構いません。それよりも私も謝らなければ、と思っていた所ですので」

 

「え?」

 

今度は統夜が惚けた声を出す。統夜とセシリアに挟まれている形で座っている一夏は、会話を静かに聞いていた。

 

「私もあの時は言い過ぎましたわ。それに紫雲さんの仰る事も、もっともだったので」

 

「仰る事って……あの言葉の事?」

 

「ええ、そしてあの問いに対する私の答えをここで言わせてもらいますわ」

 

そう言ってセシリアがすぅ、と大きく息を吸う。統夜もどんな答えが帰ってくるのか、と身構える。

 

「私の力は“誇り”ですわ。この力は私が自分自身で勝ち取った物。それ故に私はこの力を私自身が納得出来る事、正しいと思える事の為に使っていきますわ」

 

それらはまだわからないですけど、と尻すぼみになりながらもはっきり言い放つセシリア統夜と一夏はセシリアの答えに聞き入っていた。

 

「……凄いね、オルコットさんは」

 

「紫雲さんもですわ。あの様な言葉は中々言えるものではありませんもの」

 

「いや、あれは人の受け売りだよ」

 

「すげぇなあ、セシリアって」

 

「そ、そうですか?」

 

「でもさ、統夜もその言葉、誰に言われたんだ?やっぱり統夜の姉さんか?」

 

「あら、紫雲さんはお姉さまがいらっしゃるんですか?」

 

「ああ違うよ、あの言葉は──」

 

「はいはーい!ちょっといいですかー!」

 

「へ?」

 

一夏がいきなりの乱入者に惚けた声を上げる。三人が座っているテーブルに近づいてきたのは、左の上腕部に“新聞部”と書かれた腕章をつけている生徒だった。首にはカメラが下げられ、右手にはボイスレコーダーを持っている。

 

「あの、あなた誰ですか?」

 

「ああ、私は新聞部で副部長の黛 薫子って言うんだけど。お三方、ちょっと質問いいかな?」

 

「俺たちなんて取材して、何するんですか?」

 

「おっと、期待のクラス代表君は分かっていないみたいだね。いきなり現れた二人の男子IS操縦者!その片方はいきなりクラス代表に!!キャッチコピーとしては十分過ぎるわ」

 

「はぁ……」

 

統夜は乗り気では無い、と言った口調で返事をする。一夏も統夜と同様、いきなりの事に戸惑っている様で視線を泳がせている。ただ一人、セシリアだけは佇まいを直し、“さあ、かかってきなさい!”とばかりに身構えていたが。

 

「じゃあまずは織斑君に質問しようかな~」

 

「は、はい。何ですか?」

 

ずい、と一夏の顔にボイスレコーダーを近づける薫子。一夏も戸惑いながら何とか応じようとする。

 

「じゃあまず質問。ズバリ、クラス代表になった感想は?」

 

「え、ええっと……さっき統夜にも言ったけど、とにかく頑張ります」

 

「つまんないなぁ~。じゃあさ、この学園でやりたい事とかは?」

 

「まだ特には無いですけど……」

 

「うっわ、つまんない。まあこの辺りは捏造しておけばいいか……」

 

(いや、ダメだろ!?)

 

薫子の漏らした言葉に対して、心の中で突っ込む統夜。薫子は一夏の回答を聞き終えると、何やらポケットから取り出した手帳に書き込んだ。それが終わると今度は統夜に質問の矛先を向けてくる。

 

「さあ、次は紫雲 統夜君に質問!君がこの学園でやりたい事は?」

 

「……俺も特には無いですかね」

 

「もう~つまんないなぁ。二人は折角女の園のIS学園に入学したんだよ?もっとこう、何かあるでしょ!?」

 

「いや、女の園って……」

 

「こう、“俺の女は絶対に守る!!”とか“仲間はやらせねぇ!!”とか」

 

(この人、漫画とか映画の見過ぎじゃないか?)

 

何やら話の内容が脱線しかけてきているが、統夜と薫子は気にせず会話を続ける。先程まで会話していた一夏と、これから会話するはずのセシリアは見事においてけぼりだった。

 

「まあ、ここで過ごす内に何か出てくるかもね。何しろ入学してまだ20日くらいしか経ってないし。それじゃあ次は……時間が無いから捏造しとくね」

 

「な、何ですのこの扱いの差は!?」

 

「……一夏、ちょっと眠いからそろそろ部屋に戻る。じゃあな」

 

「あ、ああ。じゃあな」

 

統夜のいきなりの言葉に戸惑いながらも、一夏は別れの挨拶を交わす。セシリアと薫子が騒いでいる声を背中に受けながら、統夜は一人静かに食堂から出ていった。

 


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