IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第二十二話 ~機械仕掛けの呪い~

六月の終わりにはIS学園の一大イベント、学年別トーナメント戦が行われる。今年はより実戦的な模擬戦闘を行うため二人一組という特別ルールはあるが、そのトーナメントが持つ意味は変わることが無い。三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果を確認する為に企業や国の注目度は大きい。いつもは観客がまばらなアリーナも、この日ばかりは空きが無いほど混雑していた。そしてそのアリーナの更衣室には世界でたった二人しかいない男のIS操縦者が揃っている。

 

「しかし随分人が多いな……」

 

「企業や国のスカウトも多く来てるからね。二年生も腕の良い人は声がかかるし、先に目をつけておこうって考えてるんだろうね」

 

一夏とシャルルが揃って天井に設置されているモニターに目をやる。その中には大勢の観客が今か今かと待っている様子が大写しになっていた。

 

「今日はセシリアたちも出れないからな。あの二人の分まで頑張ろうぜ、シャルル」

 

「うん、分かってるよ」

 

「統夜も頑張ろうな……ってどうかしたか?」

 

「……ん?ああ、悪い。聞いてなかった」

 

「統夜、大丈夫?この間から様子がおかしいけど」

 

「ああ、大丈夫。気にしないでくれ」

 

「そう……何かあったら僕たちにも言ってね」

 

「ありがとうな、シャルル」

 

返事を返す統夜だったが声に張りは無く、誰が聞いても生返事だと思う声音だった。一夏とシャルルは顔を突き合わせて統夜に聞こえないよう、こそこそと喋る。

 

「ねえ一夏、統夜どうしちゃったの?」

 

「それが分からないんだ。一週間前くらいからよくぼーっとしてて。箒達に聞いても知らないって言うし」

 

「心配事でもあるのかな?」

 

「言ってくれりゃいいのにな」

 

「……人には言えない事だってあるよ」

 

二人はちらりと統夜に目を向ける。俯いて何かを呟く統夜はどう見ても大丈夫ではなかった。その時、ファンファーレの音と共にモニターの様子が変化する。

 

「おっ、組み合わせ発表か」

 

「統夜、見ないとダメだよ」

 

「ああ。分かってる」

 

一人離れていた統夜も一夏達に寄ってきてモニターに目をやる。ドラムロールの音と共に映像が変化していく。数秒後、モニターには対戦表がでかでかと映し出されていた。それを見て三人の目が大きく見開かれる。

 

「これって……」

 

「……偶然にしては出来過ぎな気もするな」

 

「いいじゃねえか。待つ手間が省けたぜ」

 

シャルルと一夏の隣に浮かんでいる名前、それはラウラ・ボーデヴィッヒと篠ノ之 箒のペアだった。

 

「でも一夏、ボーデヴィッヒさんは強敵だよ。恐らく今の一年生の中で一番強いと思う」

 

「大丈夫だろ。俺も特訓してきたし、シャルルもいるからな!」

 

「二人とも、頑張れよ」

 

「統夜も頑張ってね」

 

「俺の出番は相当先みたいだからな。今は二人の応援に回るぜ」

 

統夜と簪の名前は一夏達の位置とはかけ離れていた。その時、圧縮空気の音と共に更衣室の扉が開く。入ってきたのはISスーツ姿の簪だった。

 

「迎えに、来た……」

 

「ああ、行こうか」

 

「統夜、俺たちも行くぜ。また後でな!」

 

「一夏達も頑張れよ」

 

一夏とシャルルも試合の為に更衣室から出ていった。統夜と簪は二人と別の出口から出て、整備室へと向かう。試合を行う前に整備室で打鉄弐式の最後の調整を行う予定だ。幸い、統夜達の出番はまだまだ先なので時間はたっぷりある。

 

「統夜……聞いて欲しい事がある」

 

「何を?」

 

「このトーナメントが終わったら……あの人と話してみる」

 

「簪……」

 

「ISも完成した……統夜の言ってた通りだったとしたら、少しだけ……話してみたい」

 

「その方がいいよ。俺も手伝える事があったら手伝うからさ」

 

「うん……」

 

話している間に整備室の前にたどり着いた二人。二人が入ると同時に、遠くの何処かで戦いの鐘が鳴った。

 

 

 

「へぇ、シャルルのISってあんな装備があったのか」

 

「……あれは“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”。盾殺しとも呼ばれている……第二世代最高峰の攻撃力を誇る、武器」

 

一夏達の試合は途中から一方的な展開となっていた。当初は一夏対ラウラ、シャルル対箒で競り合っていたが途中で箒が脱落。ラウラも手刀とワイヤーブレードを使って奮戦するが、流石に二対一はどうしようもなかった。ラウラの切り札であるAICも集中力を要するので二人同時には展開出来ず、不利な展開が続いている。今はシャルルがラウラを壁際に縫い付け、必殺の一撃を見舞った所だった。

 

「このまま決められるかな?」

 

「それは、分からない……油断大敵」

 

モニターの中でシャルルがラウラに連続で攻撃を加える。重い一撃が何度も何度もラウラの小さい体に突き刺さっていく。そんな中、ラウラの目が妖しく光ると、身に纏ったISに変化が起こった。

 

「……!!」

 

「な、何だあれ……」

 

ラウラのISが変化してゆく。黒い粘土の様な物に覆われてグネグネと変化していくラウラのIS。蠢きが終わった時そこにあったのは先程までの面影など全く無い、黒い全身装甲(フルスキン)の何かだった。統夜と簪が呆然とモニターを見ているといきなり画面の中の一夏が先程までISだったモノに対して突撃する。

 

「一夏、やめろっ!!」

 

統夜の制止が届くはずも無く一夏は突っ込む。しかし一瞬の内に反撃をされ、すぐに後退した。白式はエネルギーが限界だったのだろう、淡い光と共に装甲部分が消えていく。だが一夏はそれにも構わず咆哮を止めなかった。

 

≪それが……それがどうしたあぁぁぁ!!!≫

 

生身のまま突撃しようとする一夏を箒と鈴が引き止める。止まらない一夏だったが、箒が一夏の顔を張り飛ばしてようやく落ち着いた。三人で会話しているようだが、統夜達の所には届かない。

 

「あれは……」

 

「……VT(ヴァルキリー・トレース)システム。過去の大会優勝者の動きを……模倣する物。でも、条約で開発と研究が……禁止されている」

 

「じゃあ何でボーデヴィッヒさんのISにそれがあるんだ!?」

 

「落ち着いて、統夜。多分……ドイツの軍が付けた。目的は分からないけど……」

 

統夜と簪が話している時、整備室内に警報が流れる。

 

≪非常事態発令!トーナメントは中止。繰り返す、トーナメントは中止!来賓及び生徒全員は退避、教師部隊は速やかに……≫

 

「ほら、大丈夫。先生達が……何とかしてくれる」

 

「……俺たちも退避した方がいいかな」

 

「ううん、ここにいた方がいいと……思う。安全だし、何かあったら私も……行かなきゃいけないと思うから」

 

簪は今や完全な専用機を持っている日本の代表候補生である。命令が下った時には、代表候補生として対処しなければならない。その時、モニターの中で動きがあった。何と一夏は退避せず、シャルルからエネルギーをもらっていた。そして再びISを展開。しかしその装甲は右腕しかなく、武器はかろうじて展開出来ている状態だった。

 

「何やってんだ、早く逃げろよ!!」

 

展開が終わった一夏は敵と相対する。そして、雪片弐型の刀身が収束され、細い日本刀の様な形になった。そしてゆっくりと歩を進める。決着は一瞬だった。

 

「一夏……」

 

敵が振り下ろしてきた刀を雪片で弾き、そのまま返す刀で斬撃を叩き込む。見事に決まった袈裟斬りは相手の体の中心線を捉え、閉じ込められていたラウラが姿を見せた。柔らかな笑みを画面の中で浮かべる一夏を見ながら、統夜が呟く。

 

「何考えてるんだよ、あいつ。死ぬかもしれなかったんだぞ?」

 

「……私にも分からない。教師部隊に……任せれば良かったと思う」

 

「……まあ、怪我してないからいいか」

 

安堵の息を吐く統夜と簪。モニターの中の喧騒は静まり、整備室もしばし静寂に支配される。一夏達の活躍によって、見事事態は収束した──かに見えた。

 

 

 

だが悪夢は終わっていなかった。

 

本来であればそれはもう動く事が無く、操る人間が存在しない以上沈黙を保つだけだった。

 

だがしかし、表面上は全く動かなくても水面下では新たな動きの為に着々と準備が進んでいた。

 

 

 

 

Damege Level──D

 

Pilot Condition──Error

 

Energy Bypass──Connect

 

Structure Adjust──All green

 

 

 

ARMA Program──Start up

 


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