IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~   作:Granteed

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第二十四話 ~鉄の咆哮~

「きゃあっ!!!」

 

「先生、大丈夫ですか!?」

 

楯無が声をかけるがその間にも敵が迫ってくる。直刀を突きの要領で向けてくる敵を、槍を使って受け流す。現在残っている自軍の戦力は楯無ただ一人。周囲にはISを強制解除された教師部隊の面々が気絶していた。

 

「全くもうっ、何なのよあなたは!!!」

 

愚痴りながら距離を取りつつ、ガトリングによる斉射。敵はその銃撃を空中に逃れる事で回避しながら、下腕部に装備している銃器で攻撃してきた。互いの銃弾が着弾して両者の間に赤い花火があがる。戦況は両者互角だった。

 

(く、マズイわ……)

 

しかし、徐々に楯無の方が押され始めた。何しろ相手はただ攻撃するだけで良いのだが、対照的に楯無は教師たちを守りながらの戦闘を強いられていた。周囲への被害が大きい威力の高い攻撃はどうしてもためらってしまう。

 

(……やるしかないかしらね)

 

自分が使える最大級の攻撃、“ミストルテインの槍”。しかしそれを使う事は自分にとって諸刃の剣であった。全てのナノマシンを攻撃に使用する為、その時楯無は完全に無防備となる。だが使わなければ敗北は必死、そう考えた楯無は槍を構える。敵は遠距離から射撃に徹しているため距離は十分。

 

「行くわよ……」

 

楯無の声に伴い、体中のナノマシンが右手に集まっていく。異変を察知したのか敵が勢い良く楯無に接近してくるが、一手遅かった。

 

「喰らいなさいっ!!」

 

敵が接近してきたと同時に、カウンター気味に技を放つ楯無。しかし黙ってやられるような敵ではなく、直刀を防御がない楯無の右肩に突き立てる。絶対防御を突き抜けて刀が突き刺さり、楯無の白い肌から鮮血が飛び散った。

 

「ぐっ、“ミストルテインの槍”発動!!」

 

敵の左腕に刺さっていた槍から、激しい大爆発が巻き起こる。その爆発は敵の左腕を吹き飛ばし、その余波で楯無も大きく後方に飛ばされた。

 

「やった……のかしら?」

 

地面を滑りながら吹き飛ばされる楯無。爆発の中心にいるはずの敵に目を向けると、粉塵の中で蠢く一つの影が見えた。

 

「……ふぅ、冗談じゃないわね」

 

敵は左腕を吹き飛ばされながらも、ゆっくりとした足取りで楯無に接近していた。元々左腕があった場所からは火花が飛び散り、持っていた直刀を右手に持ち替え楯無に突き立てるべく近づいてくる。

 

「これで終わりかしらね……」

 

目の前に浮かぶディスプレイに自分のISの状態が映し出されている。戦えるコンディションでないことは明らかで、体を動かす事も不可能だった。先程の爆発の影響か、体に全く力が入らない。一歩、また一歩と近づいてくる敵を見て、楯無は悟った。

 

(ああ、もうここで……私は……)

 

そして楯無の所まで到達した敵。楯無の目の前で右手に持っている直刀を天高く上げた。目を瞑ると、楯無の頭に浮かぶのは未練。

 

(最後に簪ちゃんと仲直りしたかったなあ……こんなお姉ちゃんでこめんね……)

 

そして、敵の凶刃が降りおろされた。

 

「……?」

 

しかし、いつまで経っても体に痛みは無い。体に刃が食い込む感覚も、装甲に亀裂が走る音すら無い。ただ聞こえてくるのは鉄と鉄が擦れ合う様な、甲高い耳障りな音だけである。目を瞑っていた楯無が疑問に思い目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「あ、あなたは……」

 

そこにはいつの間にか、逆手持ちした太刀で楯無への凶刃を防いでいる鬼がいた。

 

『……無事か?』

 

ラインバレルから発せられる声は、無機質な機械音声(マシンボイス)だった。その質問に、楯無が苦悶の表情を浮かべながら答える。

 

「先生方は気絶しているだけよ。私は大丈夫……」

 

≪そうか……≫

 

「でもあなた、何で私達を助けてくれるの?」

 

≪……≫

 

ラインバレルはその質問には答えず、沈黙する。そこにもう一機、水色のISが楯無の元へ物凄いスピードで近づいた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「簪ちゃん……」

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!!!」

 

ISを装備した簪は姉に駆け寄った。ラインバレルが敵を抑えている間に楯無と簪は後退、ISを解除された教師部隊の面々も意識を取り戻しアリーナから退避していく。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 

「ええ、大丈夫よ……でも待って、あいつを──」

 

「もう大丈夫、お姉ちゃん」

 

敵をラインバレルに任せきりにする訳にはいかないので再び立ち上がろうとする楯無を、簪が止める。先程の必死の形相はどこにいったのやら、今は心のそこから安心しきっている表情を浮かべていた。

 

「……簪ちゃん?」

 

「大丈夫……あの人なら、大丈夫だから……」

 

「え?」

 

楯無が呆けた声を出すが簪は取り合わず、視線はラインバレルに向いたまま固定されている。その視線の先では何かに弾かれる様に動き出した二機の機動兵器があった。

 

≪……≫

 

鍔迫り合いを止め、距離を取った敵。残っている右腕に装備された銃器を発射し、ラインバレルを狙っていく。

 

≪舐めるな≫

 

対するラインバレルは太刀を収納しつつ無言でアリーナを駆け回り、銃弾を回避。無駄な攻撃は喰らう気はないとばかりに、高速で飛び回るラインバレルに銃撃はかすりもしなかった。十秒程、無言の戦闘が続く。攻撃する側と回避する側。しかし、いきなり攻撃する側が驚くべき行動に出る。

 

「「っ!!」」

 

何と、敵はアリーナの端に逃れていた更識姉妹に銃口を向けた。楯無は回避など不可能な状態であり、簪も姉の体を支えているが故に回避行動は取れない。そのまま銃声と共にばらまかれた弾丸が二人を襲う。しかし、姉妹に銃弾は届かなかった。

 

「あ、あなた……」

 

二人の前にラインバレルが立ちはだかり、銃弾を全て受けきっていた。両腕を体の前で交差させ、防御の体勢を取るラインバレル。その装甲にいくつか小さい傷か付いているものの、すぐに修復されていく。銃撃が止むと、ラインバレルは太刀を両腕に持ち、敵に対して無機質な声を上げる。

 

≪お前……≫

 

その無機質な声にも感情が乗っているのが分かる程ラインバレルは怒っていた。加速して、敵の懐に潜り込むラインバレル。しかしそこで信じられない事が起こった。

 

≪何だと!?≫

 

敵が残された右腕を上げるとその(てのひら)から何かが展開される。その何かに触った途端、ラインバレルは完全に動きを止められてしまった。

 

「まさか、あれは……」

 

「……AIC」

 

敵はラインバレルが停止している隙を突いて、下腕部に装備している銃器から連続で銃弾を放った。一発、二発と至近距離で放つ弾丸は、少ないながらも確実にラインバレルにダメージを与えていく。

 

≪くそっ!!≫

 

ラインバレルは叫ぶと、いきなり敵の目の前から消失した。次の瞬間、簪達の目の前に出現する。息が若干荒くなっているが、そんなことに構っている状況では無かった。

 

「なんて事……あの状態でもAICが使用出来るなんて……」

 

≪……やるしかないか≫

 

楯無の呟きに続く様にラインバレルが小声で言い放つ。両手の太刀を構え直し、敵に向かって突進する。しかし再びAICの網に捕まるラインバレル、そして敵が銃口を向けた時にそれは起こった。AICに捕まっていたはずのラインバレルが消失したのである。

 

「な、何……あの動き……」

 

声を漏らす楯無、その目に敵は写ってはいるがラインバレルは写っていなかった。

 

『ウオオオオッ!!』

 

ラインバレルは現在消えては出現し、消えては出現しを繰り返していた。先程一回だけ見せた、消失してから出現する移動法。それを連続で使用し、敵を翻弄している。敵の目の前に現れたと思ったら背後に、背後にいると思ったら側面に。出現するたびに両手に持った太刀を振るい、斬撃を幾度も敵に加える。敵はラインバレルを捉えきれずに、ただただ直刀を闇雲に振り回すことしか出来なかった。そしてラインバレルが少し離れた敵の正面に出現する。既に敵はダメージにより、碌に動けもしなかった。

 

≪……終わりだ≫

 

ラインバレルが両手の太刀を構え直し、一気に接近する。敵はもう満足に動けない中、ラインバレルの太刀が閃く。一瞬の内に両手の太刀を振るったラインバレルはそのまま敵の後方へと駆け抜ける。敵は全く動かず、ただ立っているだけ。

 

≪……≫

 

ゆっくりと太刀を下腕部に付いている鞘に収納する。キンッと音をたてて太刀をしまった時、敵の四肢に一筋の線が入りその線に沿って敵の四肢が切断された。音を立てて崩れ落ちる敵を見て、楯無と簪が喜びの声を上げる。

 

「や、やった……」

 

「……終わったわね」

 

残心の姿勢を取っていたラインバレルだったが、ゆっくりと二人の元に歩み寄ろうとする。しかし三度、敵に変化が起きる。

 

「ラ、ラインバレル!!」

 

≪ッ!!≫

 

警告の色を含んだ簪の声により、敵の方を振り返るラインバレル。地面に横たわった敵は内部から白い光を放っていた。慌てて楯無が対象の状態を調べると一気に顔が青ざめる。

 

「いけない、そいつ自爆する気よ!!」

 

「に、逃げて!!」

 

≪……≫

 

簪の声には従わず、一気に敵の元に向かうラインバレル。倒れている敵の前まで行くと、ラインバレルの右手が光を放ち始めた。数瞬、敵を見ていたラインバレルだがある一点めがけて右手を振り下ろす。そして右手が輝きを増した瞬間、上空で爆発が起こった。

 

「な、何が……」

 

呆然としている姉妹。先程まで敵だったモノは輝きを無くし、地面に倒れ込んでいた。そんな中、いきなり簪に秘匿回線(プライベート・チャネル)が入る。

 

≪簪、聞こえる?聞こえたら楯無さんに気づかれない様に返事をして≫

 

いきなり統夜の声が聞こえたことで驚く簪だが、素直に従い小声で会話を続ける。

 

「う、うん。聞こえる」

 

≪楯無さんを医務室に連れていった後、寮の裏手に来て欲しい≫

 

「え?そ、それってどういう──」

 

簪が疑問に思って質問するより早くラインバレルは消失した。後に残されたのは楯無と簪のみ。呆然とする姉妹だが、楯無が口を開く。

 

「あの、その、簪ちゃん?」

 

「な、何?」

 

「お姉ちゃん、そろそろ限界なのよ。後の始末、頼んでいいかしら?」

 

「う、うんっ!!」

 

簪は笑顔で返事をする。姉に頼られた、その事実がとても嬉しくて。

 

「そう、じゃあ、後は……お願いね……」

 

そう言い残すと、楯無はゆっくりと意識を失っていった。そんな姉を見て、簪は行動を開始する。

 

「せ、先生。直ちにストレッチャーを一つ、アリーナにお願いします。それと──」

 

てきぱきと通信で指示を出す簪。その姿は傍目から見ると理想の姉に近しい姿であった。

 


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