IS インフィニット・ストラトス ~クロガネを宿し者~ 作:Granteed
~IS学園・屋上~
三時間目、四時間目が終わり昼休み。統夜は屋上に出て、携帯電話で話をしていた。その声は沈んでおり、覇気が全くない。話している間にも、指で自分の首にかけられているネックレスを指で弄ぶ統夜。
「ねえ、姉さん。俺、こんな所でやっていける自信ないんだけど・・・」
『前にも説明したでしょう、統夜。そこにいれば当面の安全は確保される。ISの事も勉強できるし一石二鳥じゃない』
「でもISの事は前に姉さんに教えて貰った事がほとんどだし、俺はもうISの整備の知識まで知ってるんだ。授業が退屈で仕方ないんだよ」
『まあ、それはしょうがないわね。復習だと思って諦めなさい』
「しかもこっちには明らかに男を見下した奴までいるし。いくら女尊男卑が定着しつつあると言っても、あからさますぎる」
さっきから統夜は姉のカルヴィナに対して愚痴るばかりであったが、カルヴィナはやんわりと受け止め、年長者としての助言を繰り返し言い続ける。
『それは確かにそうだけど、いっその事統夜がその考えを正してあげればいいんじゃない?』
「冗談じゃない、あんなのと冷静に話せるわけがないだろ。でも男の方は良い奴みたいだ」
『織斑 一夏でしょ?あの千冬の弟の。ちゃんと千冬に言ってくれた?』
「ああ、よろしく言っておいたよ。でもちょっと怖そうな人だったかな」
『ふふ、それは外見だけよ。彼女の内面はとても優しい人間なのだから』
「そうなのか。まあ頑張ってやってみるよ」
『それがいいわね。それに周りが女の子ばかりなんでしょう?統夜にも彼女が出来るかもね』
ふふっ、という笑い声と共にカルヴィナが統夜をからかう。統夜は一瞬で顔を赤くしてしまう。せめてもの抵抗、とばかりに統夜は姉の思い人の名前を出す。
「そっ、そんなのどうでもいいだろ!?姉さんはアル=ヴァンさんとはどうなんだよ!?」
『あら、私とアル=ヴァンは問題ないわよ?むしろ・・・え?変わってくれ?いいわよ』
しばし、声が聞こえなくなる。頭に疑問符を浮かべている統夜だったが、その答えは次の瞬間、聞こえてくる声によってはっきりする。
『統夜、私とカルヴィナは全く問題ない。むしろそっちにいた時より良いくらいだ』
「ア、アル=ヴァンさん!?」
予期しない声の主に、驚愕する統夜。全く、この二人はどこまで仲がいいことやら…と統夜が考えている最中も電話越しの声は止まらない。
『統夜、いい加減呼び捨てでも構わないのだぞ?いや、いっそのこと“
アル=ヴァンが喋る向こう側で姉の「何言っているのよ!」という声が聞こえる。いい加減いつでも惚気けるのは勘弁して欲しい。
「でも、アル=ヴァンさんはまだ俺の正式な
『ふむ、固いな統夜。まあそこが君の良い所でもあるのだが。まあ次そちらに行く時は、私にも義妹
「ちょ、ちょっとアル=ヴァンさんまで何を言い出すんですか!!」
『まあ、思い人を作るのは悪い事ではない。人は守る者のために強くなることが出来る。一人だけの強さでは限界があるからな、統夜も己の強さを磨くと良い』
「……はい、ありがとうございます!!」
統夜はこの人のこういう部分がとても好きだった。姉とは違う方法で自分に道標をくれる。姉とは違う面でとても尊敬出来る人だった。
『それではカルヴィナに変わる。・・・と言う訳よ、統夜。頑張りなさいね』
「ああ、ありがとう。姉さん」
『これだけは覚えておきなさい。何が起こっても、私とアル=ヴァンはあなたの味方よ』
「うん、ありがとう。じゃあね」
最後に別れの言葉を口にして、携帯電話を閉じる統夜。その顔は屋上に入って来た時とは違い、晴れ晴れしていた。
「さて、そろそろ教室に戻るか」
屋上の出入口であるドアに向かう統夜。そろそろ昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る頃であった。
~放課後・
今日一日のすべての授業が終わり、現在は放課後のSHR。教卓では、千冬が一年生に連絡事項を伝えている。
「ああそれと、再来週に出るクラス代表を決めておく。クラス代表者というのは一年間、対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席が主な仕事だ。まあ、クラスの顔、と言い換えてもいいかもしれん。自薦・他薦は問わない。誰か、立候補者はいないか?」
「はい、織斑君がいいと思います!」
「私もそれがいいと思います!」
「えっ、お、俺!?」
いきなり名指しされ、動揺する一夏。千冬は冷静に対処していく。
「ふむ、織斑か。誰か、他に立候補者はいないのか?いないのならば、無投票当選となるが・・・」
「ちょ、ちょっと千冬姉!俺はそんなの」
一夏が言いかけた所に、千冬が出席簿による手痛い一撃を加える。相当痛い様で、机に突っ伏し、悶絶する一夏。
「織斑先生、だこの阿呆。それに推薦された者に拒否権は無い」
千冬がそこまで言うと、机を手のひらで叩きながら立ち上がる人影が一つ。
「(バンッ!)納得できませんわ!!」
「ほう、どういう事だ?」
「その様な選出方法は認められません!!男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!!」
(・・・やっぱりあいつとは仲良く出来そうにない)
統夜が心の中で不満を考えていると、一夏が立ち上がり噛み付く。
「どういう意味だよ!!」
「言葉通りの意味ですが?そもそもクラス代表とは実力でなるもの、つまりそれは私ですわ!!大体、文化としても後進的なこの島国で、暮らさなければいけないこと自体が私にとっては苦痛で」
「イギリスだってマズイ料理で何年覇者だよ。そんなに嫌いならこなければいいじゃねえか」
我慢できなくなったのか、一夏が乱暴な言葉使いで反論する。売り言葉に買い言葉、正に子供の喧嘩の様で、あっという間に口争いはヒートアップする。
「あ、貴方!私の祖国を侮辱しますの!?」
「先に言ったのはどっちだよ」
「・・・決闘ですわ!!」
「おういいぜ。それで、俺はどの位ハンデを付ければいいんだ?」
一夏が言うと、一瞬クラスが静寂に包まれ、次の瞬間、
「「「アハハハハハ!!!」」」
爆笑の渦となった。一夏は訳が分からないといった顔で戸惑う。
「な、何だよ。おかしな事言ったか?」
「織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって大昔の話だよ?」
「今、男と女が戦争したら一週間持たないって言われてるんだよ?」
やっと意味が分かった様で、一夏が少し顔を歪ませている。セシリア嘲笑と侮蔑が入り交じった視線で一夏を見ていた。その言い争いに意外な声が割り込む。
「一夏、そんな顔するなよ。お前の言っている事は間違っちゃいないんだから」
統夜が立ち上がり、クラス全員に宣言するように言い放ち、乱入者により教室が静まる。
しかしセシリアは即座に復活し、統夜にも侮蔑の視線を投げかける。
「あら、それはどういう意味ですの?」
「言った通りの意味だけど?そもそも俺からしたら、あんたらがそんな話題を面白おかしく話せる事に疑問を感じるね」
統夜は内心、一夏の事を“凄い奴”と認識していた。自分の言いたい事ははっきり言う性格、自分の芯を曲げようとしない所。一夏のそういう部分は、統夜が“こうありたい”と思う部分と重なっていた。統夜が言い切ると、何故か千冬が統夜に尋ねる。
「ほう?どういう意味か言ってみろ、紫雲」
「前提条件からこいつらは間違っている。ISが使えるから女は強い?そんな考えはもう通用しない。だってもう例外が目の前に二人もいるじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間、クラス全員が雷に打たれたかのような顔になる。クラスメイトには構わず、統夜は続ける。
「そもそもこの人達の考えはどこかずれている。このIS学園に入ったから浮かれている部分もあるかもしれないが、そもそもISってどんなものだ?」
「……」
統夜の問いに、クラス全員が答えられない。そんな現状に、統夜はため息をついて答えを明かす。
「ISってのは、今は確かにスポーツの部類に入っているかもしれない。でも元々は兵器なんだろ?そんな物騒な物を扱っているのに、少し緊張感が足りないんじゃないのか?」
一夏は驚いた顔をして、セシリアは完全に言い負かされている。二人には構わず統夜は話を続けた。
「ISっていう大きな“力”を扱う俺たちだからこそ、その重要性を誰よりも理解しなきゃいけないんじゃないのか?“力”は使い方次第で自分も、人も傷つける。もっと考えたほうがいいだろ」
「し、しかし!代表候補生であり、専用機も持っている私に勝てるとでも!?」
「一夏、どうだ。やれるか?」
そこで統夜が一夏に話題を振る。一夏の顔は満面の笑みだった。
「ああ、男がそこまで言われて引けるか。ありがとうな、統夜」
「い、いや、いいって」
統夜は、今更自分が言っていた事に赤面する。今の言葉の一部は昔、統夜の姉であるカルヴィナに言われた事でもあった。自分が力とは何かと悩んでいた頃に、私はこう思っていると姉に諭された事を思い出す統夜。最後に千冬が意見をまとめる。
「決まったな。それでは、次の月曜日にオルコットと織斑によるクラス代表決定戦を行う。それでは解散!!」