ヤクザとマフィアと探偵のニセコイ物語   作:七草空斗

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前回投稿からちまちま書いていたらほぼ二年



第12話 リョコウ

曜日は金曜から土曜、平日から休日に変わり二度寝には絶好な機会。

 

「起きろー」

 

そんな朝にも関わらず平日と同じように起こしに来る者が1名

 

「休日にまで早起きする義理はないね」

布団を深く被り二度寝の準備を済ませる

 

「今日に限ってはあるんだよ!」

 

布団を剥がされカーテンを開けられ日差しが差し込みたまらず起きる。仕方なく目を開け時間を確認すると時刻は6:45分を回ったところ

重い瞼を開け戸を開く

 

「で、朝っぱらから二度寝気分の俺を起こしてまでする事ってなんだよ」

 

大きな欠伸をしながら広間に出ていく

 

「今日は林間学校だろ、遅刻しないように早く支度して行こうぜ」

 

 

「うぇ?林間学校って何?」

 

まったく聞き覚えの無い単語に素で聞き返すと楽があきれたようにこちらを振り返る

 

「とりあえず支度しろ。一泊二日だから着替えと洗面道具と財布、あとは・・・携帯とかあれば大丈夫だろ」

 

「りょーかぁい」

 

あくびを押し殺しながらとりあえず道具を用意し身支度をしてから楽と家を出る

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に着くと皆、旅行ということもあって大きな荷物を抱えワイワイガヤガヤと雑談を楽しんでいる

キョーコ先生がバスの前でメガホンを使い全体に指示を出し、キョーコ先生の指示の後皆が荷物を持ち5,6人のグループを作りバスに乗っていく

学活の時間はほとんど眠気に負け、この旅行の存在すら知らなかった奴がグループを知ってる訳もなく現在置いてけぼりを食らってる。楽に聞こうとしたが桐崎さんと話している様子、邪魔するのも何なので他の人に聞くことに。ふらふらっと探していると鶫を発見

 

「おーい鶫」

 

「む、どうした冴島徹」

 

俺の声に気付き鶫が此方に振り向く

 

「俺って何処の班だっけ?ど忘れしちゃって」

 

ハハッっと苦笑いして鶫に聞いてみる

 

「貴様なら私と一緒の班だろう。早く集合してバスに乗るぞ」

 

「お、そうだったかラッキー。んじゃ一緒に行くか」

 

丁度鶫と班が一緒だったらしく二人で一緒に集合先に向かう

集合先に向かうと俺ら以外の班員が揃ってたらしくすぐにバスに乗り込む

 

俺のバスの座席は後ろから二番目の右窓側。隣には集が座っている。俺のすぐ後ろにはるりちゃん、小野寺さん、楽、桐埼さん、鶫の順で座席に付く

 

「なぁなぁ、集さんよ」

 

「お?何だぁテツ」

 

「あれ仕組んだのお前だろ、というかお前以外いるわけないよなぁ」

 

後ろの五人を指差しながら集に聞く。まぁ聞くまでも無いだろうけど

 

「どうだ?俺のセッティングしたあの座席は」

 

まぁ予想通りの回答が返ってくる。真顔で集を見て、左手をすっと差し出す

 

「やっぱお前サイコーだな」

 

集も左手を握り返し、ニカッと笑い互いに硬く握手をする

 

 

 

(楽にとっては)前途多難なバスの旅が始まる。俺はというとのんびりと集と他愛もない会話をし楽の困った顔を楽しんでいる。楽の困り顔を楽しんで眺めていたが数回目のカーブの時に眠気には勝てずに瞳閉じてしまい、次に目が覚めた時にはすでに林間学校の舞台であるキャンプ場に到着していた

 

「いやぁ、よく寝たわ」

 

朝に訴えていた眠気は一気に消え、気分良くバスから降りる。バスから降りるとキョーコ先生が班行動でカレーを作れとの指示

それを聞いた楽はホテルのレストランを纏めてる総料理長さながらに周りに指示を出している。俺もその周りに漏れずカレー味付けを任命されている

 

玉ねぎが金色になってきた頃に楽の悲鳴が聞こえてくるが俺は現在カレーの味を決める重要な役割を担っている。なのでスルーする方向性で、楽には申し訳ないがあちらで対処してもらう事にしよう

玉ねぎが金色になったので同時並行で茹でていたほかの具材の元へ投入し市販のルーを入れ混ぜ、弱火でコトコトと、とろみが出るまで煮込む。程なくしてカレー完成

カレー完食からのキョーコ先生の指示を受け部屋まで移動。え、カレーの味?俺が作ったからザ・普通に決まってる

とりあえず部屋まで到着。バッとふすまを開けるとよくある和室が二部屋ありかなり広めに設計されている

 

「おー、思ってたよりでけえな」

 

「その上、ふすま越しとはいえ女子と同じ部屋で寝られるなんて!」

 

確かに高校生にもなって女子と同じ部屋で寝るなんてうちの学校くらいだな。にしても集、泣くほどか?

 

「ところで舞子君はベランダと廊下どっちで寝るの?」

 

「あれ?部屋で寝ちゃダメ!?」

 

「日頃の行いって奴だな」

 

「冴島くんもベランダと廊下どっちで寝るの?」

 

「うぇ、俺も?」

 

「冗談よ」

 

フフッと微笑みながらるりちゃんが俺をからかってくる

 

 

ワイヤワイヤとやっていると集による提案で罰ゲーム付きトランプが始まる。途中罰ゲームを決める過程で集が際どい所を攻めすぎてるりちゃんにボコボコにされる

 

「初恋のエピソードを語るとか」

 

「まぁ、それくらいなら」

 

何回目かの集の立案にるりちゃんのGOサインが出る、その代償に集が顔を真っ赤に腫らしながらも罰ゲームが決まる

 

「それじゃあ、ゲームスタート」

 

 

 

 

とババ抜きが何巡かしチラホラと上がった人が出てくる中、あがれなかった3名で最後のビリを決める壮絶な戦いに

 

手持ち

俺 1枚 3

楽 3枚

千棘 1枚

 

俺と桐埼さんがラスト一枚、楽がババ確で俺の引く番に

 

「さぁテツ、早く俺の手札を取るんだ」

 

楽が手札を俺の前にかざし、カードを引く催促をしてくる

 

「……お前ババは左だな」

 

楽の目をじっと見つめ楽に問い掛ける

 

「……根拠は?」

 

楽はスっと視線を落とし何かを確認する仕草をとる

 

「さっきから手札の中で動いてないカードが有る。しかもさっきからあるカードをチラチラ確認してる」

 

「な!?マジでか?」

 

驚くと共にカードをシャッフルしようとする楽だが、シャッフルさせるよりも一瞬早くカードを掴む

 

「嘘だよ。だがマヌケは見つかったな」

 

楽が確認しなかった方のカードを取り確認する、3のカード

対になったカード、その2枚を捨てる

 

「じゃ、桐崎さん、あとは頑張ってね」

 

ニコッと微笑み、湯呑みを取りに部屋の端に歩いてく

湯呑みを取ると、廊下の方からドタドタと足音が聞こえる。音に反応し廊下の方を見るや否や引き戸が開く

 

「こらーーーー!!集合時間はとっくに過ぎてるぞ!!」

 

キョーコ先生が鬼の形相で飛び込んで来る。時計を確認すると既に10分以上の遅刻

 

「うわ、やべもうこんな時間か」

 

「おい、急ごうぜ」

 

 

 

集合時間を大幅に遅れキョーコ先生に叱られた、それはもうこっぴどく

時間は進んで入浴時間直前へ

 

「なぁ楽、この温泉まんじゅうって貰ってもいいか?」

 

机の上に置いてある、まんじゅうを開封しながら楽に要求する

 

「ん?あぁいいぞ、ってもう食ってんじゃねぇか!」

 

らふならひひってひふおおおって(楽なら良いって言うと思って)

 

口の中にまんじゅうを目いっぱい詰め込みながら自分のまんじゅうを開封する

 

「まだ食うのかよ!」

 

楽と絡んでいると集が着替えとタオルを持って此方に向かって来る

 

「二人とも、風呂行こうぜ」

 

「おう、すぐ行く。テツも早く行こうぜ」

 

おふ、すういふ|(おう、すぐいく)

 

軽く返事をし、新しいまんじゅうを口に詰め込む

 

分かった、と軽く返事をし集と共に大浴場へとむかう楽

 

十数分の後、着替えを持ち俺も大浴場へとむかう

 

着替えを持ち廊下を歩いていると眼前には不敵に笑う見覚えがある白人男性

 

「あれ、クロードさん?」

 

「ん?あぁこれは冴島さんのお坊ちゃん。お久しぶりです」

 

浴衣姿ながらきっちりとしたお辞儀を返してくる

 

「いや、そんなかしこまらないでくださいよ。そんな事よりその格好ってどうしたんですか?」

 

「あぁ…たまたまお嬢たちと旅行先が被ったみたいでして。私自身も少し驚いていて」

 

少し言葉に詰まり、何か動揺した様子をみせるクロードさん

 

「あ、そうなんですね。もしかして今からお風呂ですか?」

 

「え?いや、もう上がった所で今から部屋に帰る所で」

 

「へぇ、そうなんですね。……じゃあ、自分もお風呂に入ってきますね」

 

「それでは」っとクロードさんにニコッと微笑み男湯ののれんをくぐる。一見していつもと変わりないような素振りを見せているクロードさんだか先程から少し様子がおかしい。…念には念を入れておく

 

「あ、そうだ。一つ」

 

くるっと反転して

 

「もし楽に何かあったらうちの事務所としても、やることやらせて頂きますから。そのつもりでお願いしますね」

 

「…あぁ」

 

「それじゃあお風呂行ってきますね」

 

クロードさんの返答を聞き、ニコッと笑い脱衣所へと向かう

 

 

 

___________________

 

 

 

少年特有のあどけない笑顔を残しあの少年(冴島徹)はのれんの奥に消えていく。冴島徹。前々から気にはしていたが、もう少し警戒しておくべきかもしれない。いくらボスが認めた人間だと言ってもあの冴島遼介(・・・・・・)の息子。、あれは、あの目は確かにこちら側|(裏社会)の人間だ。ただの少年だと思って油断していたが、お嬢に何かあってからでは遅いのだ、一条のせがれと共に常時警戒しておくべきだな

まぁいいどうせ奴も一条のせがれも二人とも今日で社会的に死を迎えるのだからな・・・

 

「フハハッハハハ!!!」

 

マッサージチェアに座り高笑いをする白人男性

____________________

 

 

クロードさんが言ってた旅行ってのはたぶん嘘だろう。いつもの態度と様子が違ったし、すぐにここから立ち去りたそうなしぐさを見せていたしで。何で嘘を吐いたのかはよくわかんないけど。まぁ、楽と桐崎さん(の秘密)に何かあったら上に報告するだけだし、別にいいか。まぁ何かあっても最悪うちの親父に投げればなんとかなるっしょ

 

 

そんな楽観的な思考の中のれんをくぐり脱衣場に入る。風呂に入ろうと服を縫でいるとふと違和感に気付く。籠に誰の洋服も入っていない。しかも風呂場からは物音がせず風呂場全体で人の気配が感じられない。俺の前には楽や集が風呂に向かってたはず、それなのに誰の洋服もないのはちょっとおかしい

 

「あれ今来たのか?」

 

服を脱ぎながら風呂場のほうを眺めてると不意に後ろから声をかけられる

振り向くと先に風呂に向かっていたはずの楽が後ろから声をかけてこちらに歩み寄って来る

 

「あぁちょうど来たところ。楽さ、お前って俺より先に行ってるって話じゃなかったっけか?」

 

集と一緒に大浴場に向かっていたはずの楽、普通なら俺よりも早く浴場にいるはずなんだが

 

「あぁそうだったんだけど、浴場に向かってる途中でフロントの人に呼ばれてて。まぁ何事もなかったから戻って来たんだ」

 

「フーン、そうだったんだ。お疲れだったな」

 

「まったくだ。それより他の奴が居ないけど皆上がったのか?」

 

楽も同じような違和感を感じたらしく俺に質問してくる

 

「さぁ?俺も今来たばっかだし」

 

「あ、そうだったな。皆もう上がったのかなぁ?」

 

誰も居ない状況に不信感を持ちつつも風呂に入る準備を始める楽。浴場に誰も居ないのは明らかに変だが、楽の言うように全員が俺らとすれ違う前に帰った可能性もある

 

「俺の考えすぎか」

 

そういうことだって偶にはある。そう俺に自己暗示をかけ風呂に入る準備をする

 

ガラガラと扉が開く音と共に楽が景色に対して歓声を上げる

 

「スゲーな、こんな景色初めてみたぜ」

 

 

俺も腰にタオルを巻き、楽に続き風呂の扉を開く。扉の先には露天風呂が広がり周りには大自然が広がっている。空を見上げれば満天の星空。おもわずその場に立ち尽くし星空を見上げてしまう

 

「スゲー・・・」

 

誰もが言えるような軒並みな感想でもう少し何かいい言葉でも思いつかないかと考えたが、この光景を見ているとほかに感想が思いつかない。

本当はもっとこの景色を眺めていたい所だが入浴時間が決まっているためそろそろ体を洗い始める。楽は楽で先に湯に浸かっているようで気持ちそうに体の力を抜いている。俺も頭と体を手短に洗い、湯にゆっくりと浸かる

 

「あ“あ”あ“ぁ”ぁ“^〜」

 

日頃の疲れが溜まった体に熱めのお湯が染み渡りおっさんのような声が出る。温泉の気持ちよさについ頭のてっぺんまでお湯を被ってしまう、まぁ幸いこの湯には楽と俺しかいないので周りの人の迷惑になる事は無いのでゆっくりと潜水を続ける

 

何秒が経った頃だろうか気持ちよく潜水をしているといきなりドボン!と水面が揺れ水しぶきが上がる

突然の出来事に水中から身体を起こす

 

「どうした!?」

 

すぐさま顔に張り付いている水滴を拭い現状を把握しようとする。が

 

「み、見るなぁ〜〜!!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえた直後、そこそこの重量がある何かが俺の眉間を襲う

 

「いってぇ!」

 

一瞬、視界を奪われ平衡感覚を失いお湯へドボンする

何が起こったのかイマイチ理解できずに少しパニックに近い状況になっている。少し距離を置きもう一度浮上する

もう一発眉間に飛んでくるのを警戒しながら狙撃してきた奴の面を拝んでやr・・・u????

「・・・え?おま、え?」

 

聞き覚えがある声の正体。そして俺を狙撃しただろう輩が分かり、それと同時になぜそいつがここに居るのか理解できない

だって目の前には・・・

 

「なんで鶫がここに居るんだよ」

 

俺の目がおかしくなったのか?それとも鶫は実は男だったのか?

この状況の情報量が多過ぎて理解が追いつかない、え?待って、本当になんで男湯に鶫がいるんだよ

 

「それはこっちのセリフだ冴島徹!貴様と一条楽はなぜ女湯に居るんだ(・・・・・・・・・)

 

・・・女湯?何を言ってるんだ。俺はちゃんと暖簾を見て…見て…

 

「あぁ。そういう事かぁ・・・、なるほどなるほど」

 

さっきからの色々な違和感の理由がここに来て合致した、何か違和感のあるクロードさん、誰も居ない大浴場、遅れてくる楽、そして今ここに鶫がいる。全てあの大幹部がした事だったのなら合致がいく

 

「何をほざいている!少しは骨のある奴だと思ってたがそういう奴だったとは!」

 

手に持っている石鹸を再び振りかぶる鶫

 

「ちょ、おい待て。これはトラップだ、早まるなぁ!お前のところのクロードが関わってるんだよ!」

 

クロードという単語にピクっと反応し、振り上げた右腕をそのまま停止させる

 

「クロード様が?何をほざくかと思えば!」

 

「事実だ!さっきもこの暖簾の前で見かけたんだよ。男湯の掛かったここの入り口で!」

 

「何?」

 

互いに互いをにらみ合っていると入口からガラガラと開く音とワイワイと女子の話し声が聞こえてくる

 

「なっ!?もう来たのか」

 

露天風呂特有の蒸気ではっきりとは見えていないがちらほらと入口に人が入ってくる姿が見える

入口を眺めどうしようかと考えているとバシャバシャと湯の中を歩き鶫が俺の前まで向かってくる

 

「一旦私の後ろに隠れろ冴島徹」

 

「お、おうサンキューな」

 

スッと俺の前に立ち隠れるように指示する鶫に一応礼を言い背中に隠れる

 

「貴様の言葉をすべて信じたわけじゃない。後でしっかり理由を聞かせてもらうぞ」

 

「おう、分かった。後で懇切丁寧しっかりと聞かせてやるよ」

 

鶫の後ろから出ていけそうな探す。入口の反対に大きめな岩場や草などはあるが風呂場からできるような場所は見当たらない

 

「冴島徹あそこからは出れないのか?」

 

「ん?おおぉ。でかした鶫」

 

二ッと笑い鶫のさした場所を見据える。そこには関係者通用口と書かれている

 

「でもどうやって誰にも見られずにあそこまで行く?」

 

「私が注意を引き付けておく、その隙にあそこから抜け出してくれ」

 

「分かった。その前に一旦あそこの岩場に移動しておく」

 

いま俺がいる場所だと出口から距離があるため鶫の協力のもと岩場の近くまで向かう

移動中さっと周りの状況を確認するとまだ数人ほどしか入っていないようで入口付近で固まっている

 

「それじゃ頼んだぜ」

 

腰にタオルを巻いて脱出のため鶫と一旦別れ岩場にスタンバイする

 

「あー!見て見てあそこ!タヌキがいる!」

 

あとは鶫の行動待ちでスタンバイしていたのだが、いきなり桐埼さんの大声が聞こえてくる

 

これは合図なのか?でも鶫からは桐埼さんが何か指示を出すとは言っていなかったし

一瞬行こうか考えたが少し考えその場でジッとする

 

その数秒後ガラガラっと戸が開きざわざわと人が入ってくる気配がしてくる

 

「あっ、ぶねぇ・・・」   

 

口元を抑え床に這いつくばり息をひそめる。今出て行ったら一発アウトだった。周りではクラスメイト達であろう会話がざわざわと聞こえてくる

 

人が増え難易度が上がり岩場から一切身動きが取れない

 

「大丈夫か冴島徹」

 

岩場の向こうで鶫の声が聞こえる

 

「あぁ。鶫、今そっちはどんな感じだ?」

 

「残念ながらクラスメイト全員と教子先生が入ってきてる」

 

あぁ詰んだな。そう思考がよぎるなか鶫が続ける

 

「いったん人が引くまで待つしかなさそうだ」

 

そういいながら湯気が立っているお湯が汲んである桶を渡してくる

 

「お湯?」

 

「そこに居たら風邪をひくだろう。これで少しは体をあっためろ。あと」

 

お湯を含んだ大きめなタオルを一緒に渡される

 

「これって・・・」

 

・・・多分だけど鶫の使ってたタオルだよな

 

「それがあれば少しはあったかいだろう」

 

鶫のやさしさを受けて惚れそう、イケメン

 

「ありがとうな。俺のためにわざわざ」

 

「貴様のためではない、この件にクロード様がかかわっているという真意を確かめるためだ」

 

鶫はツンとしたトーンで返してくる

 

「理由はどうであれお礼は言わないと。本当にありがとうな鶫」

 

「いや、れ「そ!そんなことより鶫の初恋の人ってどんな人なのかしら!!」

 

俺の言葉の後に何か続けようとしていた鶫だったが、桐埼さんに話題を振られ他の女子たちから質問攻めにあっている様子

 

 

鶫に汲んでもらったお湯を冷えてきた体にかけながら脱出のチャンスをうかがう。春も終わりかけ徐々に暖かくなってきたとはいえ、さすがに夜になると冷えこんでくる。

そういえば一緒にこの風呂に入ってきた楽は大丈夫だろうか、鶫に会った後から姿が見れてないから少し心配だ

 

楽の心配をしてるとドボーン!!ザバーン!!と激しく動き回る音が聞こえてくる。岩場まで水しぶきが飛んでいるあたりかなり激しく動いたみたいだ

 

激しく水しぶきが上がった後の風呂場はやや落ち着きを戻しのんびりとした雰囲気がただよう。ぬるくなったお湯を体にかけ、晩春の夜の寒さを体に受けながら風呂場にいる人が一人ひとりと上がって行くのを待つ

 

 

 

もう手元のお湯も冷め、寒さに耐えこちらにちゃぷちゃぷした音がこちらによって来る

 

「もう全員風呂場からは出て行った、今なら出られる」

 

視線を上げると入口のほうを向いてる鶫が立ってる

 

「お、おおう。わわっかかった」

 

カラカラに絞ったタオルを腰にまき、震えながら関係者通用口に向かっていく

 

プルプルと震えていると背後からバッとバスタオルがかけられ、反射的に振り向こうとするとがっちりと顔をホールドされる

 

「振り向くな変態!あとこれ!お前の着替えだ。こんな寒い中濡れて帰ったら風邪をひく」

 

「いてててて、あ、あ、りがとうつぐみぃぃ。イタイイタイ」

 

腹部に刺すように着替え渡された着替えを受け取りアイアンクローから逃げるように関係者通用口前に向かう

 

「ちゃんとお礼言ってなかったよな、ありがとうな」

 

そういえばちゃんとお礼を言ってないと気づき、歩きながら話しかけるも俺の足音とお湯の出る音以外に何も聞こえずパッと後ろを振り返る

 

「な、おい!大丈夫か!?」

 

振り返り、床に視線を落とすと鶫が頭を押さえ苦しそうに呻いている

関係者通用口から急いで戻り鶫のもとへ駆け寄る

 

「大丈夫だ、少しふらついただけだ」

 

真っ赤な顔をし、明らかな強がりを言う鶫は前に手を出して制止を促す

 

「こんな時に強がり言うなよ。お前明らかにのぼせてるだろ」

 

ちょっと待ってろ、と被せてもらったバスタオルを鶫に掛け、近くにあった桶に冷水を汲んで手持ちのタオルを冷水につけて持っていく

 

のぼせた鶫は意識が朦朧としてるなかフラフラとこちらに歩いてこようとする

 

「あんまり無理して歩き回るなよ。一旦横になれ」

 

歩いてくる鶫の肩を抑え仰向けに寝かせ、濡らしたタオルを頸動脈付近にあてがう

無理に歩こうとしていた鶫も寝かせると無理に起きようとはせず、目元に手の甲を当ててジッとしている

 

「・・・すまない」

 

辺りをチラチラと確認して他に人が入ってこないか見ているとポツリと鶫がつぶやく

 

「ん、大丈夫か?」

 

鶫に視線を落とし首元のタオルを冷水に漬けまた首元に戻す

 

「あぁ・・・。私のことはもういい、早くここから出て行ったほうがいい」

 

閉じていた眼をうっすらとこちらに向けつぶやく

 

「バカ言え、体調が悪いお前を置いてそそくさ出ていけるような薄情者じゃねえんだよ俺は」

 

それに俺が無事に出れるようにずっと助けてくれたんだ、これくらいしないと申し訳がない

お互いに急に無口になってしまい、ちょろちょろとお湯の流れる音のみが聞こえてくる

 

「そういえば、なんで女湯(ここ)俺が居たのか説明しなきゃな」

 

沈黙に耐えられなくなり、なぜこんな状況になってしまったのか、ぽつりぽつりと独り言のように順を追って話していく

なぜ俺が周りよりも遅く風呂に入りに来たのか、その後クロードさんと男湯の暖簾がかかったこの風呂場前でばったり出会った事、カウンターにかかってきた無言電話に対応してた楽と脱衣所でたまたま合流してから今に至るまでの事を鶫は遮ることなく静かに聞いてくれていた

 

「百歩譲って俺と楽がわざとに女湯に侵入したとしても集が居ないのはありえないだろ?」

 

まぁ集なら「男湯から覗くあの背徳感とスリルがいいんじゃないか」とか力説する可能性もあるけど

 

全部一通り話し、首元のタオルをまた冷やして首元にあてがう

 

「ざっとここまでが俺がここにいる説明。質問意見反論は体調良くなってからな?」

 

一方的に話す感じになったが鶫はコクッと頷くだけで静かにしている

また沈黙が、今度は特に話すこともなく静かな時間が流れる

 

「もう大丈夫だ、面倒をかけてすまないな冴島徹」

 

額に当てていた手をおろし、スッと上半身を起こす

顔を見ると先ほどより顔色がよくなっているように見える

 

「面倒だなんて思ってねぇよ」

 

立ち上がろうとしていた鶫をお姫様抱っこでもちあげる

 

「とりあえず脱衣所までは連れて行くよ、脱衣所に着いたら少し水のんで横になっとけよ」

 

少し抵抗しようともがいてたが、やはりまだのぼせていて力が出ないのか鶫が抵抗をあきらめる

 

「本当にすまない・・・」

 

「謝んなよ、本当なら謝るのは俺のほうなんだし」

 

「・・・そうだな。ありがとう、と言ったほうがいいか」

 

「そうそう、こういう時は感謝してもらった方がこっちは嬉しいの」

 

ペタペタと足音を立てながら大浴場から脱衣場へ移動する。脱衣所で鶫を下ろし、備え付けのウォーターサーバーから水を汲み鶫に飲ませる

 

「ふぅ・・・。本当に助かった、後は一人でなんとかできる」

 

水を飲み落ち着いたのか火照っていた顔は少し落ち着いたように見える

 

「OK、もし体調が悪くなったらすぐ誰か呼べよ?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

鶫は下を向きながらではあったが、落ち着いた表情が見えたのでそのまま脱衣所を後に

脱衣所から大浴場に出て関係者通用口に入る。関係者通用口で鶫からもらった服に着替え静かに誰にも見つからないように自室前まで向かう

 

浴場から出たあとは何事もなかったかのように自室まで歩いていく

自室の障子を開けると中では各々くつろいでいるが楽と桐崎さんの姿が見えない。奥の部屋では小野寺さんが寝ている鶫のことをうちわで扇いでいる

 

集がこちらに気づいて、こっちにこいと手をクイクイっと招いてくる

 

「お、徹どこ行ってたんだよ~。すぐ来るって言ってたのに全然来なかったしさ」

 

「わるいわるい、ちょっと親父から電話が来ててさ。それより楽たちは戻ってないのか?」

 

部屋をチラチラと見渡すがやはり見えない二人のことを聞く

 

「あぁ、なんか二人ともどっか行っちゃたみたいでさ。ま、すぐ戻ってくるでしょ」

 

「フーン。ま、確かにそうだな」

 

楽のことを聞いても特に変な話が出てこない当たり楽もちゃんと逃げれたみたいだな

 

「そんなことよりよ!!明日のあの(・・)イベント楽しみだよなぁ!」

 

「あのイベント?」

 

あのイベントといわれてもこの旅行の存在すら知らn(ry

集の横に腰掛けてそのイベントやらの話を聞く

 

「なんだ知らなかったのか?肝試しだよ肝試し」

 

「肝試し?まぁこういう泊りの旅行だとよくある行事だよな?」

 

俺も小学校の時、学年全員でやったなぁ

そんな事をボヘェっと思い出してると集は「それだけじゃないんだよなぁ」といつもに増してニヤニヤする

 

「それが今回のは普通の肝試しとは一味違うんだぜ?男女が分かれてくじを引いてペアを作る」

 

「おう、女子とペアになれるんならうれしいわな」

 

「それだけじゃないぜ、なんとペアになった男女とは必ず手を繋がないといけない!!」

 

「へぇ面白そうじゃん」

 

やっぱりこの学校は思春期真っ只中の高校生に配慮してるのかしてないのか、男女合同な物が多い気がする

 

「だろ!いやぁ明日が楽しみだな!」

 

軽く「そうだな」と相槌を打ち、ニコニコしている集の横から腰を上げ鶫の寝ている布団の横に移動する

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、問題はない。ただのぼせてしまっただけだ」

 

目元に濡れタオルを被りながらも声色はいたって普通そうだ

 

「そうか」

 

「鶫さん、温泉初めてだったみたいでのぼせちゃったみたいなの」

 

横で団扇を仰ぎながら小野寺さんが教えてくれる

 

「なるほど、初めての温泉だし浮かれるのもしゃーないな」

 

うんうんとわざとらしく首を振り小野寺さんたちと軽く「旅行ってテンション上がっちゃうもんな~」なんて話す

鶫をのぼせさせた張本人ではあるが自己防衛のため『初めての温泉で浮かれてのぼせちゃった鶫』という像を作り上げていく

そんな可哀そうな男の姿に鶫はジトーっとこちらを睨んでいたような気がするが見なかったことにしよう

 

 

「そんな鶫君にいいものをあげよう」

 

そんな雑談の中、某青狸の効果音をマネながら先ほど買ったスポドリを鶫に渡す

 

「本当は風呂上がりの一杯に飲もうと思ったんだけどな。麗しの女性がこうも弱っているんじゃ見過ごせないからね」

 

そんな気が利く男ムーブを偽装しながら自己防衛に必死なクソ男が一匹。ご機嫌取りに必死である

 

スポドリを渡すときに「ごめん」と口パクでフォローを入れる俺に鶫は変わらずジト目でこちらを見る

 

そんなエアやり取りを周りに悟られないようにやっていると楽と桐崎さんが部屋へと戻ってくる

 

「おう、楽どこ行ってたんだよ」

 

「ちょっとあってな」

 

今まで行方をくらませていた楽に集が絡むも楽は力なく集のことを躱す

そしてこちらを見る楽と当事者にしかわからないアイコンタクトを取りお互いの社会的地位の保守の成功を確認しあう

 

そんなことをしていると廊下からはキョーコ先生の緩い点呼が聞こえてくる

 

「・・・ふすま開けたら殺すからね」

 

襖を隔てて準備された男女それぞれの敷布団に皆包まると、るりちゃんの怖い一言が男子(主に集)に向けて発せられる

 

「大丈夫だって~!開けない開けない!」

 

対して集もへらへらと言葉では否定する

 

「とーぜん開けるよな?」

 

この男は躊躇という言葉が無いのかクギを刺された直後にも関わらず襖を開けるチャレンジにかかる

 

「俺は疲れたから寝る」

 

「俺は自分の聖域(サンクチュアリ)に帰る」

 

同伴者(道ずれ)に使用した楽に一瞥され、俺も廊下という安全圏に逃げ込む

 

その後チラッと見た男子部屋には誰も存在を確認されることがなかったのは別の話





あ、次回はそんなに長くならないように気を付けます
投稿日に関してはできるだけ早く出せるように努力します
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