初めだからね。仕方ないね。
ある日の事、秘書艦である電が執務室で書類や手紙を片付けるだけの簡単なお仕事をしている司令官から「茶ぁ淹れて来てくれ」と頼まれて、お茶を淹れて執務室を訪れていた。
「司令官さん、お茶を淹れてきました」
コンコンと木製の厚い扉を叩く音が長い廊下に小さく響く。
普段であれば間を置かず、すぐに返事が返ってくる筈だがどうも今日はそれが無い。
聞こえてなかったのかな? と思い、再び扉を叩く。
が、やはり部屋の中から返事の声は無い。
一応確認の為と、少々躊躇いつつもゆっくりと扉を開ける。
「司令官さん…?あれ?」
すると、先程まで窓際にある机で仕事をしていた筈の人物の姿が見えない。
机の上を見ると、空気を入れ替える為に開けてある窓から吹き込む風で書類が飛ばない様、錘がおいてある。
しかし、恐らく居なくなる前に書いていたであろう書類は、錘の代わりに置いてあった万年筆だけでは重さが足りなかったのか万年筆共々床に落ちてしまっている。
そのままにするのは気が引けたので、とりあえず手に持っているお茶と急須を載せてあるお盆を机に置き、屈んで万年筆と書類を拾い、机の元あった場所であろう所に戻す。
ちなみに、書類の内容は少し目を通してみた限りでは、今月の家計簿的な物だったような気がした。それで先程は頭を抱えて悩んでいたのか。
再度部屋の中を見回してみると片方の壁は殆ど棚で埋まっている。棚の中身は7割近くが本で、後は4個の船の模型だった。恐らく企画段階で作られ、不要になった物を司令官が譲り受けてきたのだろう。
司令官の私物であろう本に混じって、最近では戦闘や演習、遠征等の報告書や始末書も増えて来ている。
今まで少しずつとは言え、この量の紙を全て捌くのは大変そうだと電は思った。
机の方に視線を戻すと、今度目に付いたのは司令官用の作りの良さそうな(実際良いのだろう)椅子に興味を引かれた。
普段の自分達では座る事は無いであろう、
「……ちょっとだけ…です」
そんな思いから「座ってみたい」という願望に抗えず、少しだけ座ってみる事にした。
もふぅ。そんな間の抜けた音が聞こえた。
このまま何も考えずに座っていたらもしかすると知らない内に寝てしまうかも知れない。そんな事があればもしこの場に誰かが入ってきたら大目玉を食らってしまう。それはあまり好ましくない。
…が、やはり「高そうな椅子」の誘惑には勝てなかった為、立ち上がる気にはならなかった。
普段電は秘書艦として司令官の傍に立っているか、自室で待機しているかのどちらかだが、ここから見渡す執務室はいつもとは違った風に見えた。
そんな中で、ふと机の上を見ると一冊だけ開いたまま置かれている本が目に入った。
書類が所狭しと積まれている机の上でひとつだけ違った雰囲気をした本を手に取り、開いている項を閉じない様に表紙を見る。
そこには大きく、【日記 (一)志熊】と書かれていた。