塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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折伏 下

サン猊から逃れた宗嗣たちは休むことなくずっと走り続けた。

流石に全力疾走も出来なくてみんなのペースが落ち始めた頃にそれは現れた。

 

先程まで宗嗣たちがいた方向にまるで太陽でも上ったのだろうかというほどの光が現れた。

昇山者のみんなは宗嗣を含めて呆然とその場に立ち尽くしてその光を見ていた。

そして、しばらくして宗嗣たちのもとへ冷え込み始めたこの季節には似つかわしくない暑い熱波が届いた。

 

昇山者たちにはそれで十分だった。

 

「う、うわぁぁぁあ!」

「やつが、奴が来る!」

「早く!急いで逃げないと!」

「お、おい!見習い剛氏!何とかしろ!」

 

昇山者たちをパニックが襲った。しかし、このままでは逃げ切れるものも逃げ切れない。

もしかしたら鄭楽はもうだけかもしれないという不安に駆られながらも宗嗣はどうにかしてみんなをまとめようとした。

 

「落ち着け!こんな状況では逃げ切れるものも逃げ切れられなくなってしまうぞ!」

 

宗嗣の叱咤がきいたのか昇山者たちは押し黙った。

 

「このまま全力疾走していても体力がなくなってしまう。

まず、体力のあるものはないものの荷物をもってやれ!それですぐに出発する。急げッ!」

 

こうして全員はすぐに準備を整えて早歩きで進みだした。

 

しかし、

 

「と、止まれ。」

 

宗嗣は危険だと察した方の茂みを見た。

同じように昇山者のみんなもその方向をゆっくりと振り向く。

それはすぐにやってきた。

サン猊だ。

 

「グルゥゥゥゥ・・・」

 

静かに唸りながらゆっくりとやってくるサン猊は異様に恐ろしくなった。

しかし、恐怖に負けて逃げ出してしまったらおしまいだ。

 

妖魔だって獣だ。

獣に背を向ければその瞬間に襲われるだろう。

そのことをみんな本能で察したのだろう。

畏怖の存在が目の前にいるというのに全員金縛りにあったかのように動かなかった。

 

しかし、緊張の糸はすぐに切れてしまった。

 

「い、いやあぁぁぁぁっ!!」

 

一人の女性が列からはみ出して大声を上げながら走り去ってしまったのだ。

 

それに反応してすぐに彼女を獲物として負い始めるサン猊。

 

「クソっ!待てっ!待つんだ!」

 

宗嗣は何も考えずに追われている彼女を助けるために駆け出した。

 

クソっ!どうすればいいんだ!俺が出来ることはせいぜいが自分の身を身代わりにすることだけだ。

それじゃあ、昇山者のみんなを野放しにしてしまって結局解決にはならない!

それに、こいつがここにやってきたってことは鄭楽は・・・

 

嫌な予感が脳裏をよぎるが今はそんな場合ではないとその考えを振り払う。

 

どうすればいいのか。

そう悩んでいると宗嗣の目に光が入ってきて眩しくて瞬間目を閉じてしまう。

一体なんだと思って光の下を見ればそこには宗嗣がこの世界にやってきてからずっと身に着けている金の腕輪があった。

 

そこでふと思い出す。

 

・・・そう言えば、赤虎に襲われて意識を失う直前もこの腕輪が光ったような・・・

 

まさかありえないだろうと逡巡しつつの今はそんな小さなことを考えている暇はないと頭を振るう。

 

宗嗣は列から去った彼女と鋭利な不気味に輝くサン猊の振るう大爪の間に入った。

 

「思い過ごしでなければ俺たちを守れっ!」

 

宗嗣はそう言って腕輪をはめている右手首をサン猊にかざした。

 

すると、宗嗣のはめていた金の腕輪はそれを中心にして球状に輝きを放ちだしてその輝きがサン猊の大爪をはじいた。

 

そうか、やはりこの腕輪があの時守ってくれたのか・・・

宗嗣は自分の思い過ごしではなかったことに安堵しながらもサン猊をギラリと睨んだ。

 

恐らくはこの球状の輝く盾はあと幾許の間は残っているだろう。

しかし、こいつを放って自分だけ殻に閉じこもるなどと言う真似はしたくない。

 

「絶対に皆のところへは行かせない!」

 

宗嗣は歯を噛みしめながらサン猊を睨む。同じようにサン猊も宗嗣を睨み返してくる。

一人と一体の睨み合いが始まった。

 

「お、おい。宗嗣!何してるんだ!?」

 

鄭楽の声だ。よかった。無事だったんだな。

でも、今はこいつから目を離すことなどできない。

俺が目を離せばこいつはこの輝く盾諸共に俺を叩き潰すだろう。

そして、俺が倒れればみんなも・・・ってそうか鄭楽がいるんだったら、

 

「鄭楽、他のみんなもつれて先に行ってくれ。俺の後ろの人もこの中から出ることが出来るはずだ。

大丈夫だ。俺はしばらくこいつをここに留めておく。」

 

「駄目だ。俺はここで待つ。」

 

「な、にを言ってるんだ!早く行け!」

 

「グオォォォォォオ!!」

 

「クッソっ!はやく、行けッ!」

 

駄目だ。こいつ威圧が強くなった。

もう昼になる頃だな。

確か鄭楽に聞いたことがある。

 

昼に生気は死気に転じ妖魔に力を与えるのだとかなんとか。

まさに今俺がこいつに押されているのはそのせいなのだろう。

 

押し負けつつあるのを感じる。

しかし、宗嗣にはどうしようもない。

どうにか挽回できないかと考えるも何も浮かばない。

 

その時、視線の端を何かがよぎった。

鄭楽だ。

 

「グアァァァァ!?」

 

鄭楽が持つ剣が光に反射する。

鄭楽のおかげかサン猊からの威圧が弱まる。

 

何をしているんだ!鄭楽の奴は!

しかし、これはチャンスだ!

 

「いい加減にしろ!」

 

無意識に右手を天にかざした。

 

ー従え!

 

右掌が熱く熱を持ち始め、力が流れ込んでくるのを感じる。

 

「俺に従え!!」

 

脳裏に複雑な文字が、音が聞こえる気がする。

 

「下れ!」

 

無意識にその言葉を発した。

 

「爍シャク繃ホウ!」

 

その言葉を発した後に、宗嗣は力が抜けたようにその場に倒れ伏した。

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