「ん?天幕・・・?」
宗嗣は目を覚ますといつの間にか天幕の中にいた。
どうしてこんなところにいるんだ?
蓬山へと向かっていたはずなんだが。
それに確か妖魔が、俺たちに、襲い掛かって・・・
「起きたか、宗嗣。」
「鄭楽。」
宗嗣たちに襲い掛かってきた妖魔に関して思い出し始めた頃に鄭楽がこの天幕に入ってきた。
鄭楽が今ここにいることに安堵しながら宗嗣は意識を失う前までのことを必死に思い出す。
俺たちを妖魔サン猊が突然襲い掛かってきた。
そして、その時に俺を残して鄭楽を含む剛氏の三人がサン猊の相手をして、その間に俺と昇山者のみんなで逃げたのだが、あの時サン猊によるものと思われるとてつもない攻撃の余波を感じた。
鄭楽は今ここにいるが、恐らくほかに二人は・・・
それに、サン猊は俺たちに追いついて、列からはなれた一人の女性が襲われそうになって、それで俺はあのサン猊と対峙して・・・
「鄭楽、その・・・どうなったんだ?」
「・・・俺以外の剛氏は死んだ。」
「・・・それはどういう?」
「あの妖魔の吐く火炎によって一瞬で焼滅した。」
それには少し覚えがある。
サン猊から逃げている途中でいきなり鄭楽たちがいたところが突然太陽が現れたかのように明るくなってそのすぐ後に暑い熱気をはらんだ風が明るくなった方から吹いてきたのを思い出した。
どうやら、鄭楽の話を聞く限り二人の剛氏はあの時にサン猊によって殺されたのだそうだ。
「そのあとあの妖魔は俺を無視してお前たちの方へと向かっていった。
俺が火炎に動揺しているその間にいつの間にかいなくなっていたよ。」
「そして、お前たちと合流した時にはお前が何故かあの妖魔と睨みあっていたというところだ。」
これで全部話したとでもいうように鄭楽は宗嗣に向って次はお前だとでもいうかのような表情を見せた。
「・・・はっきり言って、よく分からない。
とにかく俺は襲われそうになった彼女を守ろうとどうにかしようと思ったんだ。
それでその彼女のところに無我夢中で向かって・・・
思い出したんだよ。
俺が海辺で倒れたあの時、赤虎に襲われていたはずが意識を失う前にこの金の腕輪が光ったのを。
それで、今回もこの腕輪が頼りになるかもと思って意識してみたらあんな・・・輝く盾がいつの間にか表れていたんだ。」
俺はあの時のことを思い返しながら話す。
あの時は本当に驚いた。
この世界は今までいた日本がある世界などとは麒麟とか妖魔とか妖獣とか違うところがいっぱいあるけれどもまさか魔法染みたことも起こり得るとは思いもしなかった。
「金の腕輪か・・・
お前を拾って初めて見た時から水分と高そうな装飾品だなと思っていたが、そうか。
各国には不思議な力を持つ宝重が存在すると聞いていたがまさかそれではないだろうな?
いや、それはないか。」
「鄭楽、何を知っているんだ?
もったい付けないで話してくれよ。」
「うーん。そう言われてもな。
王の宝なんて平民にはよく知らないことだろうにただでさえ俺は黄朱の民、剛氏なんだ。
いくらそこらの黄朱の民なんかよりも物知りなのは確かだろうけど流石に詳しくは知らないな。」
「・・・そうか。」
「まあ、一つ言えることがあるとすれば・・・
この世界には仙をも切れる冬器があるように不思議な宝物があるということだ。」
まあ、取り敢えず金の腕輪についてはいいか。
これ以上考えても何も分からないものだということだ。
「それでだ。
宗嗣、サン猊の件どういうことだ?」
いきなり鄭楽がサン猊の件について尋ねてきたが・・・
「分からない。」
「は?」
「・・・あの時、ただみんなを守ろうと俺に注意を向けさせるのに必死で。
一体どうなったんだ?
あの後はいきなり意識を失ってあまり覚えていないんだ。」
「どうなったんだって・・・
はあ、天幕を出れば分かる。
俺だってよく分からないんだ。」
鄭楽が俺に外に出るようにと進めるが、どういうことなのだろうか。
まあ、取り敢えず外に出よう。
そして、宗嗣が天幕の外に出て見たのは先程まで睨みあっていたことまでは覚えているサン猊だった。
いや、
「爍繃、か?」
思い出した。
あの時、俺は爍繃と睨みあってそして、根負けした爍繃を自らの僕としたのだ。
そう、それは思い出した。
でも、僕って何なんだ?
それが分からない。
『はい、主よ。何か用か。』
天幕の外で猫のように丸まって寝ていたとも思われる爍繃は突然宗嗣に向って話しかけてきた。
「しゃ、しゃべれるのか?」
『はい。』
しゃべることにも驚いたが・・・まあ、とにかくいろんなことに驚く。
まさかあの妖魔が俺の忠実な僕となっているとは考えもしなかった。
恐る恐る爍繃に近づいてビロードのようなきれいな赤色の毛並みに触れる。
現実逃避をするように爍繃の毛並みのいい柔らかな胴にしばらく触れていたがようやく質問できるまでに混乱が収まってきたため宗嗣は爍繃に尋ねた。
「爍繃、俺はお前を僕としたそれは間違いないのだろう。
だが、どういうことだか分からない。
俺は山客だ。
この世界のことはよく分からない。
お前の妖魔でもこの世界の人々は場合によっては従えることが出来るのか?」
さっきからずっと疑問に思ってきたことだ。
この世界には来てから鄭楽にはいろいろなことを聞いた。
この世界には妖魔と妖獣が存在し、妖獣は人が飼いならすことが可能だからこそ猟尸師がいるわけで、逆に妖魔は人には飼いならすことなどできないのだと聞いた。
ならばどうして俺はこの爍繃を従えているというのだ。
『主よ、それはあなたが麒麟だからだ。』
「・・・は?」
『麒麟は折伏した妖魔を使令として自らに従えることが出来る。その代わりに私は主が死んだらその肉を食わせてもらう。
麒麟と使令はそういう関係で成り立っているのだ。』
「ちょっとまて、俺が麒麟だと?麒麟とはあれだろ?蓬山に住まう仁獣のことでこの世界で唯一麒麟だけが金の髪を持っているのだという。
お、俺は胎果みたいだが・・・日本の生まれだ。それに俺の髪色は赤色なんだぞ?」
何かの間違いに違いない。
そう思っている宗嗣にさらに追い打ちをかけるような言葉が聞こえた。
「なるほど、確かに宗嗣が麒麟だとすれば納得できるな。
争うごとがダメなのも、血がダメなのも、肉や魚が食べれないことも。」
鄭楽はそのまま容赦なく話しかけてくる。
「宗嗣。戴国の泰麒はお前と同じように胎果の生まれなのだという。更には、お前と同じように髪は金ではなく黒髪なのだそうだ。
今、この世界において空位の国は今王を探している柳北国とそして麒麟の所在すら知れない巧州国。
つまりは、お前は塙麒というわけか。」