塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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塙麒

鄭楽が爍繃に対して塙麒なのかどうかを訪ねているが肝心の爍繃は麒麟であることは分かるが塙麒かどうかは分からないと答えているが、宗嗣はそんなのは頭に入ってこない。

 

俺が麒麟。

訳が分からない。

しかし、証拠はそろっている。

争い事が嫌いなこと。

血に対して異常なほどに身体が弱いこと。

肉や魚を食べることが出来ないこと。

 

なぜここまでそろっていたのに今まで俺も鄭楽も気付かなかったのか。

いや、それはわかる。

 

俺が胎果だとしても日本からやってきた山客だからだ。

麒麟の象徴ともいえる金の髪を持たず赤の髪であったためだ。

 

そもそも俺も鄭楽もそんな大それたような存在などではないと二人とも思っていたのだ。

 

しかし、今回の爍繃を僕、爍繃曰く使令とやらにするという麒麟にしか出来ないまさに人外であることの証をみんなの前でやって見せたのだ。

 

自分でも未だに信じられない。

妖魔を従えたという化け物染みた行為もだけどそれと合わせて俺が麒麟であるということもだ。

 

そう言えばみんなはと思って周囲を見渡した。

遠く離れた場所に宗嗣の天幕と同じような天幕が集まって張られているのが見て取れる。

恐らくは爍繃を怖がってここには近づきたくはなかったのだろう。

 

まあ、鄭楽はどうして俺の天幕まで来て更にはさっきまで殺しあっていた妖魔と話し合っているのかは訳が分からないが。

 

まあ、取り敢えず、

 

「鄭楽、邵珀たちは俺のことをどう思っていると思う?」

 

「まあ、そうだな。

取り敢えず普通の人間ではないことは分かっただろうな。

お前が肉が食えないだのなんだのを知っているのは今のところ俺だけだからな。邵珀たちがお前のことを麒麟だとは思っていないだろう。

それこそさっきお前が言ってたが麒麟は金の髪が特徴なんだ。

お前の赤い髪を見て麒麟だと思うやつはいまいよ。」

 

それもそうか。

 

「で、どうする?

みんなに自分は麒麟なんだって言うか?」

 

麒麟か・・・俺は本当に麒麟なんだろうか。

 

「なあ、鄭楽。俺は本当に麒麟なのか?」

 

「そうだな。ほとんど間違いないだろうな。」

 

そうか。でもまあ、

 

「俺が麒麟だとは俺自身も納得していないんだ。邵珀たちに話す必要はないだろう。

それこそ蓬山に付けばわかることだろうからな。」

 

「それもそうだな。じゃあ、そういうことで。

ところで、爍繃よ。お前さんもう少しどうにかならないか?

その大きな図体じゃみんなに近づけやしないし他の昇山者のにも注目されちまうんだが。」

 

「そうか。では、主の影に隠れていよう。

それではな。主よ、何かあったらまた呼ぶがいい。」

 

そう言って鄭楽と話を付けた爍繃は俺の影に消えていった。

 

「そういえば鄭楽、俺が麒麟かもしれないというのにあまり変わらないんだな。

特に爍繃と普通に話しているし。」

 

「ん?そりゃあ、あれだ。

そもそもお前はお前なわけでどうせ生まれた時から麒麟なわけだろ?

俺の知っている宗嗣には変わりない。

それに爍繃はそんなお前の僕だ。

特に怖がる必要もないな。」

 

はあ、・・・まったく。まあ、それでこそ鄭楽なのだが。

 

宗嗣と鄭楽は二人でみんなの天幕が集まっているところへと向かった。

 

邵珀たちにはとりあえず宗嗣は山客で胎果であり他の人たちとは違うのだというようなことを言った。

この赤い髪のおかげかみんなには麒麟ではないかと疑われるようなことはなかった。

 

さあ、まだ城郭を出発してから一週間も経っていない。

最短でもまだ一週間以上はある。

 

俺の出生の件もある。

蓬山へと急ごう。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

とある見張り以外のみんなが寝静まったころ宗嗣は一人起きて天幕の集まりから少し離れた場所へと散歩した。

 

今日でもう三分の二ほどは進んだ。

あと一週間もすれば目標の蓬山へと辿り着くことだろう。

 

ここまでの道のりは特に問題なく進んだ。

それは恐らくはサン猊がこの集団の中にいたからだろう。

爍繃は一度宗嗣の影の中に入ってからというもの出てくることもなく話しかけてくることもなかったが爍繃のおかげで妖魔や妖獣と出会う回数は劇的に減った。

それに、今までは宗嗣の危険察知といったその並外れた直感を頼りに進んでいたのだが、宗嗣が危険だと感じる回数すらも減ったのだ。

 

そういえば、この世界に来てから俺の直感は鋭敏になったが、これはやはり俺が麒麟という獣だからだろうか。

 

まあ、そういうわけで宗嗣と爍繃のおかげで爍繃に出会って以降は何事もなく進んできた。

恐らく残りの道中も何事もなく蓬山まで辿り着けることだろう。

 

問題は・・・

 

「俺自身のことだな・・・」

 

鄭楽と爍繃曰く俺は麒麟なのだという。

本当にそうだとすれば蓬山に着けば他の麒麟の例に漏れず蓬山に住まうことになるのだろう。

鄭楽とも黄朱の里のみんなとも離れて過ごすということだ。

 

それに、麒麟は王を選ばなければならない。

王を選んだ麒麟はその王が道を失ったときには失道の病にかかり死ぬことになる。

俺はそんな縛りのある生活を送りたいとは思わない。

俺がこの世界に来て許容できたのは鄭楽から日本に帰ることが叶わないと言われたこともあるがこの異世界が既に完成されたといってもいだろう日本よりも面白いと思ったからだ。

黄朱のみんなと一緒にいるのが面白いと思ったからだ。

 

それが、いきなりお前は麒麟なんだと言われて・・・

恐らく俺が麒麟だとすれば日本に帰る手立ても見つかるかもしれない。しかし、その代わりに自らの王という存在に縛られることになるのだろう。

 

未だ宗嗣は自分が麒麟なのだと信じられない。

麒麟だとして並の麒麟として生きていきたいとは思えない。

 

「はあ、どうすれば・・・」

 

蓬山に着けば分かることだ。

だが、俺が麒麟なのだとしたら俺は蓬山にとどまることになる。

 

「随分と悩んでいるようだね。」

 

いつの間に後ろにいたのか宗嗣は後ろから突然声をかけられた。

素早く腰に帯びた剣の柄を握りながら後ろを振り返ると同時に距離をとった。

 

その人物は顔以外の全身を草臥れた外套を身に纏った青年だった。

宗嗣はその顔には見覚えがあった。

爍繃に出会う前に見た黄海を一人でいた人物だ。

 

「お前は誰だ?」

 

宗嗣は柄に手をやったまま警戒しながら青年に問うた。

しかし、青年は悲しそうな顔を宗嗣に向けてきた。

 

「塙麒。あなたには剣は似合わない。

その手を離しなさい。」

 

宗嗣は驚いた。

 

一体どういうことだ。俺のことを麒麟だと思っているのは鄭楽だけのはずだ。

 

「そう驚く必要はない。

私は更夜。まあ、犬狼真君といった方が分かりやすいかな。」

 

「犬狼、真君!

し、失礼いたしました。」

 

犬狼真君とは黄海を往く者の安全を守る伝説の仙だ。

黄海で暮らす黄朱の民にとっては神にも等しい存在だ。

そして、それは短い期間といえど黄朱の民として過ごしてきた宗嗣とっても同じだ。

 

「よしてくれ、構わない。

突然現れた私が悪いのだ。」

 

「はあ。しかし、なぜ犬狼真君がこちらに?」

 

「あなたを蓬山に連れていくためさ、塙麒。」

 

その言葉に心臓が鼓動した。

 

「なぜ?そもそも俺は麒麟とは限らないじゃないですか。」

 

お前は麒麟なのだと言われたのだ。たったの一週間ほどでその混乱が収まるわけがない。

宗嗣は声を荒げながら犬狼真君に問うた。

 

「あなたはもう分かっているはずだ。

それでも自分が麒麟である証拠が欲しいのであればそれを示そう。

・・・失礼するよ。」

 

そう言って犬狼真君は宗嗣に少しずつ近づいてくる。

そして、すぐそこまで近寄った彼は宗嗣の額を触れた。

 

「ッ!?」

 

額を触られた宗嗣は落ち着かないような、不安なような、そして酷く嫌な感じがした。

宗嗣は自分の額に触れてほしくなくて彼の手を払いのけた。

 

「・・・あ。す、すみません。」

 

「いや、構わない。

私はあなたが嫌がると分かっていて触れたんだ。

・・・これがあなたが麒麟である証拠だ。

額を触れてみるといい。そこに少し盛り上がったところがある。

そこに角があるんだ。」

 

言われたとおりに額に触れてみると彼の言う通り少し盛り上がっていた。

角。

確かに麒麟には一角だか二角だかは知らないが角が生えているの知っている。

その角が俺に生えている。

 

・・・俺は人間ではなく麒麟だったんだ。

 

やっと分かった、というよりも気付かされた。

自分が麒麟であるということを。

 

宗嗣は深呼吸をする。

 

王を選ぶ麒麟としての覚悟など未だに出来ていない。

しかし、宗嗣は蓬山へと行かなければならないことは分かった。

 

「そういうわけで、塙麒。

あなたを蓬山へと連れていきたい。

付いて来てくれるかな?」

 

「いいえ。行きません。

俺が麒麟であるということは分かりました。

しかし、俺は剛氏として蓬山へと行きたい。

爍繃もいるので大丈夫です。

その後は麒麟として蓬山にとどまりましょう。

だからこれくらいは許してほしい。」

 

宗嗣は犬狼真君に謝り、そして礼を言った。

 

「いろいろとありがとうございました。」

 

「・・・そうか。

分かった。しょうがない。

ならば塙麒、気を付けて。」

 

そう言って犬狼真君は去っていった。

 

そして、宗嗣も天幕の方へと戻った。

少しだが不安がとれたような表情をしていた。

 

そして、それから一週間も経たぬうちに宗嗣と鄭楽、昇山者たちは蓬山は甫渡宮に辿り着いた。

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