塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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女怪

「ここが、蓬山。」

 

宗嗣と鄭楽、昇山者一行はようやく目的地である蓬山の甫渡宮へとやってきていた。

鄭楽を除く一行は皆一様に周囲の景色に心を奪われていた。

 

令巽門の城塞を出発してから三週間ほどで蓬山へと辿り着いた。

 

甫渡宮の周囲にあるのは聳え立つ奇岩の岩壁。

その岩は多少ながらも緑に覆われており、辺りの岩と土だらけの風景を青い空と共に彩っている。

 

この神秘的な場所はなるほど神獣である麒麟の生まれ育つ場所だと納得した。

 

俺もここの生まれなんだよな・・・

そして、これから俺が暮らすことになるだろう場所か。

 

それに合わせて自分が麒麟であるということ忘れてボーっと周囲を見渡していた宗嗣は感慨深い気持ちになった。

 

「鄭楽殿、ありがとうございました。

そして、宗嗣殿。

あなたのおかげでここまで来れたようなものです。

本当にありがとうございました。」

 

邵珀は爍繃がいるであろう宗嗣の足元の影を見ながら宗嗣と鄭楽に感謝の意を示した。

邵珀の後ろには誰一人欠けることなくここまで辿り着いた昇山者たちが同じように拱手の礼をした。

 

昇山者はそれではと言ってしばらくここに滞在するための天幕を甫渡宮前の広場に建てるために去っていった。

 

「さて、宗嗣。

一応俺たち剛氏はこれで仕事は一端終わりだ。

復路も邵珀たちに道案内兼護衛を頼まれるだろうけど、問題はお前だ。」

 

そうだ。

鄭楽は俺が麒麟であることを知っている。

 

しかし、

 

「まあ、麒麟の住まう蓬蘆宮ってところまで行くんだろうけど・・・

流石に一人で蓬蘆宮に続く門まで行くのは怪しまれるし何か嫌だ。」

 

そんなことをしてみろ。

注目を浴びながら昇山者が行くことのできない方に衆目を浴びながら歩いていくというのは、授業中に居眠りして起きた時に反射で机を蹴ってしまって静かな教室内にガタンという音を響かせた時のような感覚を味わうことになるに違いない。

 

そんな居心地の悪そうなことは決してしたくない。

 

「ハハッ!

それもそうか。じゃあ、どうするんだ?」

 

「・・・そうだな。

いっそ何の手立てもなかったら鄭楽と一緒に黄朱の里へ・・・」

 

宗嗣が鄭楽と話している途中に突然周囲がざわざわと騒がしくなった。

どうやら昇山者の視線を辿ると蓬蘆宮に繋がる門の方を見ているようだ。

 

まだそう集まっていないというのにわざわざ劉麟が進香のためにやってきたのだろうか?

 

そう思いながら宗嗣は蓬蘆宮の方を見据えると何やら面妖な姿をした妖が昇山者の人々の間を縫うようにしてやってきていた。

その姿はパッと見た感じ何かの獣の脚に蜥蜴や龍といった爍繃に似た尾を持ち、羽毛に覆われた上半身に背には鷹だろうか茶色と白の混じった翼が折りたたまれている。両腕も何やら鱗のようなものでおおわれているようだ。

 

一体何なのか。

妖魔にしては何かが違うような・・・

 

そこに横から鄭楽の声が聞こえた。

 

「女怪だ。

前にも少し話したことがあるだろう。麒麟の乳母のような存在だ。」

 

なるほど。

ということは劉麟の女怪ということだろうか。何かを探すように人目をはばからずにキョロキョロと見渡している。

 

門の方からまた新しく人が現れてきた。

恐らくはあれが蓬山に住まう女仙なのだろう。

 

ん?

女怪がこっちを見ている?

というか、こっちに来た!

 

「あ、あれはお前のお迎えか。

良かったな、心配事がなくなったぞ。」

 

勢いよくこちらに駆けてくる女怪を見ながらのんきに話しかけてくる鄭楽を宗嗣は睨みつけるが飄々としている。

 

「塙麒!」

 

叫び、手を広げながらこちらにやってくる異様な好意を向けてくる女怪に少し不安に思ったのか宗嗣の影に隠れていたはずの爍繃までもが出てきてしまう。

周囲はもう混乱状態だ。

 

まあ、妖魔がいないはずの蓬山のしかも人の集まる場所にいきなり妖魔が現れたのだ。

そりゃあ驚くだろう。

 

そういうように集中する人の目など関係ないとばかりに宗嗣に抱き着いてくる女怪に対してその異様な容姿と羽毛に覆われた豊満な胸の存在に動揺しながらも周囲の様子を観察して現実逃避をする。

 

しかし、衆目を浴びながらこの混沌とした状況下で人外の器量良しに抱き着かれているというのに宗嗣にとっては何故か安心感があった。

まるで実家の自分の部屋でくつろいでいるかのような。

思わず無意識に塙麒と連呼する女怪の背中に軽く腕を回していた。

 

「ハッ!ちょ、ちょっと待て!

お前は何なんだ?」

 

そこで宗嗣は周囲のこのいろいろな感情をはらんだ視線に気付いて照れ隠しに目の前の女怪に誰何した。

 

「なんと。赤麒とはほんに珍しい。

この美しい赤色の鬣をみるのは何百年ぶりかのう。

よくぞ戻ってきた・・・塙麒。」

 

その声は女怪のやってきた方から聞こえてきた。

見れば近くには宗嗣を囲むようにして女仙たちがそこにいた。

 

「あなたは?」

 

「これは、そなたの女怪の白徠河という。

そして、私は玉葉。碧霞玄君・玉葉という。」

 

碧霞玄君というのは蓬山に住まう女仙たちの長であり、この蓬山、黄海いや、世界中において知らぬ者はいないほどの上位の人物だ。

それを聞いた周囲の昇山者たちが一斉に地に跪いた。隣にいた鄭楽も同様だ。

それに対して宗嗣はみんなと同じように跪こうとしたもののさっきからずっと正面ではなく横から抱き着いてくる女怪徠河がいるため動きようがない。

宗嗣は異様な容姿を持つ徠河に対して忌避感が全くと言っていいほどになかった。

 

「玉葉・・・様?

あの、これは一体?」

 

ここら一帯は異様な空気に満ちていた。

まあ、碧霞玄君・玉葉がこんなところに姿を現すこと自体が稀なことなのだ。それに女怪や妖魔、多くの女仙といったものが目の前に現れるという異常事態なのだ。

 

しかし、宗嗣と鄭楽だけは他の者たちとは違って落ち着いていた。

まさかここまでとは思わなかったが女仙による出迎えは多少は予想していたのだ。

 

「蓬山に戻ってきた塙麒の出迎えじゃ。

塙麒を蓬盧宮へお招きしようぞ。

まあ、まさか昇山者とともにやってくるとは思わなかったがの。」

 

玉葉の"塙麒"の一言で平伏していた昇山者たちが小さいが周囲に聞こえるくらいの大きさで騒ぎ始める。

恐らくは何年も行方不明だった塙麒の帰還という点で騒いでいるのだろう。

 

それに、蓬盧宮か・・・

いきなり俺を麒麟の住まう中枢へと招くとは。

 

「俺が麒麟であるという確認はしなくていいのだろうか。

もうすでに俺が麒麟であると確定しているようだ。」

 

「問題はありはせんぞ。

そこな徠河がそなたを塙麒と認めていることこそがそなたが塙麒であるという証ゆえな。」

 

まあ、分かっていたが、流石は女怪と言うべきか。

流石にこんなに簡単に俺が麒麟であると知られるとは思わなかった。

 

「それにまあ、何と立派な使令を得ていること。

塙麒の帰還共々お喜び申し上げる。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

玉葉は爍繃の方を見ながら言う。

そして、先程からニコニコと喜びを一切隠しもしない女仙たち戸惑いながらも宗嗣は玉葉にお礼を言う。

 

「しかし塙麒よ、その身なりは如何なることか?

仁の神獣たる麒麟には似つかわしくない代物をお持ちのようだ。」

 

恐らく腰に帯びていた剣のことを言っているのだろう。

確かに仁獣である麒麟は争い事が嫌いで王宮にある麒麟の住まいには護衛ですら剣の持ち込みを禁じているのだという。

宗嗣は帯びていた剣を外し、鞘ごと左手に持ってから話す。

 

「俺はこの蓬山に剛氏として来ました。

そういうことです。」

 

護衛も兼ねる剛氏としてここまでやってきたのだと。つまりは、言外に黄朱の里より来たのだと答えた。

 

「・・・なるほど。そなたが剣を持つ理由はようく分かった。

しかし、これより先の場所にそれは似つかわしくない。」

 

それもそうだな。

これから俺が行く蓬盧宮は麒麟が住まう場所。

刀剣の持ち込みは叶うまい。

この真剣は置いていこう。

 

「鄭楽。」

 

宗嗣は横で跪く鄭楽に腰を下ろして声をかけた。

周りの女仙が騒ぐが宗嗣はそれを無視する。

 

「鄭楽、今まで世話になった。」

 

「ああ。じゃあな、宗嗣。」

 

宗嗣はもうこうなることは分かっていから鄭楽と簡単な挨拶を交わして、左手に持っている剣を渡し、地面に置いていた自分の荷物を持ってから立ち上がった。

 

「塙麒を蓬蘆宮までご案内する。」

 

玉葉はそう言って宗嗣の前に立って歩き始めた。

宗嗣はそれに続いて歩き始める。

他の女仙たちもそれに追従するように宗嗣を囲むようにしてついてくる。

 

いよいよ宗嗣は麒麟として蓬蘆宮に入る。

 

彼らの後ろにはざわざわと大きな声で騒ぎ始めていた。

彼らの中の話題はもちろん、

 

塙麒の帰還

 

についてだ。

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