塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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蓬蘆宮

宗嗣は女仙たちを連れ立って門を抜けて蓬蘆宮に入った。

爍繃にはすでに宗嗣の中に隠れてもらっていた。

 

「これは・・・」

 

宗嗣が目の当たりのしたのは甫渡宮から門前までは真っすぐな道を延々と歩いてきたが門の先は突然道が分かれていたり、曲がっていたりと奇岩の壁でもってまるで迷路のような道に変わっていた。

 

「ここ蓬蘆宮は麒麟をお守りするために道が入り組んで奇岩の迷路のようになっているのです。」

 

女仙の中でも宗嗣の近くに控えていた者が宗嗣の疑問に答えてくれた。

 

「あなたは?」

 

「私は塙麒のお世話を任された樟崋と申します。」

 

「お世話を任された、とは?」

 

「塙麒が未だ卵果の時からです。」

 

宗嗣が生まれたのは17年も昔のことだ。

しかし、樟崋と名乗った彼女は見た目はせいぜいが宗嗣と同じくらい。

 

なるほど。

仙は不老であると聞いていたものの実感が持てなかったが彼女を見てようやく分かった。

 

宗嗣たちはこの蓬蘆宮の迷路を歩きながら奥へと向かっていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

宗嗣は蓬蘆宮の中を案内されて今、先程見た甫渡宮よりも大きな建物の中にいる。

その中の扉のない開放的で美しいため池を横目に見られる部屋の中にて宗嗣は隣に徠河を連れて玉葉と対面している。

 

「遅ればせながら自己紹介をしましょう。

俺の名前は一条宗嗣です。

塙麒と呼ぶのは、ちょっと・・・」

 

会ってからずっと女怪にも玉葉にも塙麒と呼ばれて何だか自分のことでないようで嫌だったのだ。

確かに俺は鄭楽と犬狼真君の言っていたように巧国の麒麟なのだろうけれども出来れば名前で言ってほしい。

 

 

「すぐになれる故、塙麒と呼ばせてくりゃれ。」

 

・・・まあ、いいか。

何故塙麒と呼びたいのかは分からないが。

 

「さて、何から話したものかのう。

そうだ。塙麒の話からお聞きしたいの。

塙麒は私と会った時から自らが麒麟であると分かったおったようだ。

泰麒と峯麒もここに帰ってきてようやく麒麟であると分かっておったが、塙麒も同じなのではないかえ?」

 

なるほど。

取り敢えず俺と同じ胎果の麒麟が他にもいるようだがその二人ともが蓬山で己が麒麟であると知ったという。

俺が最初から知っていたのを疑問に思っていたのだろう。

 

「それに関しては俺の師である鄭楽と犬狼真君から教えてもらいました。」

 

玉葉の顔に少しだけ驚きの表情が見受けられた。

 

「なるほどの。真君が・・・」

 

「まあ、それを知るきっかけとなったのはつい最近爍繃を使令としてからなのですが。」

 

「先程現れていた塙麒の使令かえ?

蝕に流された麒麟が15年以上も経って使令を連れて蓬山に帰ってきたのはほんに驚きであった。

まこと長い間蓬莱で過ごされていたから麒麟の性を失ってしまっているやもしれぬと心配していたがサン猊を使令としたのじゃ。

無用な心配事であった。」

 

聞く限り推測だが俺と同じ胎果の麒麟である泰麒や峯麒の場合で何か苦労でもあったんだろうと思われた。

 

「それで鄭楽というのは先程塙麒が話しておった男性のことかえ?」

 

「はい。

黄朱の民であり剛氏であり、俺の師でもあります。」

 

そこで宗嗣は黄海の海辺に漂着してからのことを玉葉に話した。

海辺で妖獣赤虎に出会ったこと。

意識を失った後に鄭楽に救われたこと。

黄朱の民として過ごしてきたこと。

鄭楽に剣術を教わったこと。

見習いの剛氏として昇山者と蓬山へ向かったこと。

その道中爍繃と対峙したこと。

そして、自分自身が麒麟であると思い知らされたこと。

 

宗嗣はすべてを話した。

 

「塙麒は随分と苦労なさった様子。

まこと御無事でよかった。

しかし、麒麟である塙麒が剣術を学ばれるとは・・・」

 

「まあ、その時は自分自身のことを知らなかったので。

それに蓬莱でも剣道という娯楽的な稽古をしていたので。」

 

宗嗣は蓬莱のことも軽く話した。

 

「それで、これのことなんですが。」

 

言って宗嗣は右手首にはめてある金の腕輪を玉葉に示した。

これによって宗嗣は二度も命を救われたのだ。

蓬山に着いてからはこのことについて聞きたかったのだ。

 

「それは、巧州国の宝重、霊馴綜。

簡単に言うと霊力を操り相手の霊力を封じたり、霊力をもって身を守ったりすることが出来る。」

 

聞けばやはりとんでもないものだった。

施された彫刻からただものじゃないとは思っていたがまさか国宝級の代物だったとは。

 

「それは塙麒をこの蓬山へお連れする際に徠河がそなたに送ったもの。

役に立って何より。」

 

宗嗣は振り返って隣の徠河を見た。

 

宗嗣は自分の身がこの女怪によって守られていたのだと実感した。

 

「さて、塙麒自身のことを話そうかえ。

そなたは卵果であることから分かるように蝕によって流されたは知っておるな?」

 

「はい。」

 

それは軽くだが鄭楽に聞いた。

この世界には気流の乱れる台風とは違って空間が乱れる蝕というものが起こるのだと。

そして、その蝕によってこちらからは卵果が流されたり、あちらからは人が海客や山客として流れ着くのだと聞いた。

 

玉葉の話によれば俺はそもそも卵果の状態で孵ることなく五年以上を過ごしていたらしい。

はっきり言って俺が果実として木に生っていたといわれても全く実感はないが、とにかく普通は十月で孵るのが五年経っても孵らなかったのだと言われて驚いた。

 

それについて宗嗣は玉葉に理由を答えたが玉葉でさえも分からないとのことであった。

 

「それで延麒の協力で塙麒を蓬莱にいらっしゃるのが分かり、廉麟の協力でこの蓬山へとお連れしようとしたのだ。

しかし、それは失敗に終わってしまった。

塙麒がそこな徠河の手を振り払ったがために。」

 

「っ!それは。」

 

覚えがある。

俺がこの世界に来る前に何の変哲もない俺の住む街で起こったあの怪現象を。

突然声が聞こえて俺の腕を鱗でおおわれた女の手が掴んだのだ。

俺はそれが恐ろしくて振り払った。

 

「それが原因で黄海に流されたと?」

 

「恐らくは。」

 

宗嗣は隣にいる徠河に向き直った。

 

「すまない、徠河。

あれはお前の腕だったんだな。

振り払ったりなどしてすまなかった。」

 

「いえ、私は塙麒が近くにいることだけで十分です。」

 

徠河は宗嗣の謝罪に特に気にした風もなく返した。

 

「さて、塙麒はこの蓬山までやってきて疲れていらっしゃる。

樟崋。塙麒を露茜宮へお連れおし。」

 

玉葉は近くにいた樟崋を呼び出してそう言った。

宗嗣は玉葉の方を向いた。

 

「そこな女仙が塙麒を蓬山での住まいへとお連れ致す。

ついていきなされ。」

 

「なるほど、そういうことですか。

それでは失礼します。」

 

宗嗣は玉葉に軽く会釈して席を去った。

 

「では、塙麒。露茜宮までお連れします。」

 

宗嗣は建物を出て再び奇岩の迷路を樟崋について歩んでいった。

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