塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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劉麟

沐浴を終えた宗嗣は徠河と樟崋を連れて露茜宮へと戻った。

 

宗嗣は広い宮の中を樟崋に案内されながら進んでいく。

この露茜宮は暗く重い雰囲気を漂わせているという宗嗣が思い浮かべるような王宮などとは違って非常に開放的だ。

蓬山を含む五山のある黄海の中心は比較的温暖な気候であり、麒麟の住まう蓬山には四季がなく年中温暖で花が咲き乱れているような場所である。

そのため、蓬蘆宮の中の建物は雨露がしのげればそれでよく、簡単に言うなれば柱と屋根と衝立とがあるだけのような四阿のような造りをしている。

 

事実、宗嗣が昨日玉葉と対面した建物もこの露茜宮と同じく屋根と柱だけでできたような開放的な造りの建物だった。

 

そんな奇岩と草木の緑と水面の青を横目に見ながら宗嗣は朝食を食べる場所へと案内された。

 

「遅いな。私はずっと待ってたんだよ?」

 

食堂だと案内されたその衝立で遮られた部屋の向こう側には料理が並べられているがその他にも美しい金色に黒色が混じったようなダークブロンドの髪を腰まで垂らした中学生くらいにみえる少女がいた。

 

「・・・」

 

まさか部屋には料理ではなく美少女が待っているとは思わなかった宗嗣は何も言葉を発することが叶わなかった。

 

「どうしたの?

あなたが昨日帰ってきたばかりの塙麒なんだよね?」

 

少女の問いに対して宗嗣は周囲を見渡して考える。

彼女の隣には宗嗣と同じように隣には茶色い熊の脚と上半身が両手も含めて虎の身体で目は琥珀色の蜥蜴の目をした女怪がいた。

それを見て、何故こんなところにいるのかは分からないが彼女が誰なのかはようやく分かった。

それでも宗嗣は聞いた。

 

「そうだ。

俺は一条宗嗣。胎果だ。

あなたは?」

 

「私は劉麟。

胎果じゃないからあなたみたいな名前は持ってないよ。

宗嗣って呼んだ方がいい?」

 

やはりそうだ。

彼女が劉麟。柳北国の麒麟。

俺とは違って生まれた時からこの蓬山にいる麒麟だ。

確か年は12だったか。

 

「まあ、そうだな。

この蓬蘆宮では皆に塙麒と言われるからな。

出来ればそう呼んでくれると嬉しいな。」

 

「じゃあ、宗嗣。

一緒に朝食を食べよう。

せっかく他にも麒麟がいるんだから別々になんて悲しいことは言わないよね。」

 

まるで断ることを許さないとでもいうかの如く自分の対面の席を引いて宗嗣にそこに座るように勧めてくる。

 

どうやら劉麟は随分と強気な性格のようだ。

麒麟は慈悲深い生き物だと聞いたから劉麟のことを勝手におしとやかな性格だろうと思っていたのだが・・・

まあ、俺も一応麒麟だが慈悲深い生き物とは言えそうにないのだが。

 

宗嗣は劉麟が勧めてきた席に大人しく座った。

劉麟は笑顔を浮かべて自分の席に座った。

 

「私は徠河のことを知ってるけどあなたは私の女怪のことを知らないよね。

ここにいるのが私の女怪の頴枝。」

 

そう言って劉麟は視線で自身の女怪を宗嗣に紹介する。

それに対して宗嗣は軽く礼をした。

 

「さあ、食べましょう。」

 

そう言って劉麟は一人朝食を摂り始めた。

自分がしたいようにするといったその姿勢は清々しくて見ていて気持ちがよかった。

 

宗嗣の前に並べられた料理は肉や魚が一切なかった。

野菜や果物で料理が揃えられていることは宗嗣にとっては非常にありがたかった。

 

確かに、今までも基本的には肉や魚を抜いて食事を摂っていた。

しかし、宗嗣は日本では肉が魚を食べられない自分に対して母親に負担をかけるわけにもいかずに肉などが入った料理も食べていたし、そもそも一年半過ごしてきた黄朱の里では穀物や野菜自体が黄海の荒れた土地では少量だったために自分で公開まで野菜や果物などの採集に行っていたのだ。

 

親に対する配慮も食べ物を取るための苦労も必要ないこの蓬蘆宮の麒麟のための料理は嬉しかった。

 

「ん?どうしたの、宗嗣?」

 

それが顔に出ていたのだろう。

劉麟に不思議がられた。

 

「いや、ここの穀物や野菜、果物だけの料理がありがたいと思って。」

 

「何?宗嗣は肉とか魚も食べてたってこと?」

 

「まあね、偶にね。」

 

「ふーん。おいしいの?」

 

「全然。」

 

「あ、食べ終わったらこの蓬蘆宮の中を案内してあげるから。」

 

「え?あ、ああ。ありがとう?」

 

宗嗣と劉麟は軽く話をしながら朝食を摂った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

宗嗣は朝食を摂り終えると劉麟に連れられてこの蓬蘆宮をぐるりと案内された。

 

蓬蘆宮の扇の要である捨身木も見た。

 

劉麟が俺もあの木に卵果として生っていたんだと言われたが今はただ枝と幹だけの捨身木を見ても全然実感がわかなかった。

 

劉麟に連れまわしされてどこぞの草原へ行ったり水場に行ったりとしたが、初対面だというのに何故こんなにも俺に対して積極的に関わろうとするのかが分からなかった。

 

確かに劉麟の強気な性格もあるのだろう。

しかし、宗嗣はそれだけとは思えなかった。

 

宗嗣は二人の使令も紹介しあってそれも終わってから尋ねた。

 

「何でこんなにも俺に関わろうとするんだ?」

 

「え?だって私たち兄妹みたいなものでしょう?」

 

宗嗣の問いに対する答えは案外簡単に当たり前のように劉麟に答えられた。

 

「それは、どういうことだ?」

 

「だって玉葉様が言ってたよ。

麒麟はみんな同じ蓬山の捨身木から生まれた兄妹なんだって。

宗嗣みたいな胎果の麒麟には親がいてそれ以外の麒麟は親なんていないけど麒麟はみんな兄妹なんだって。」

 

「それで、初対面なのにそんなに積極的だったのか?」

 

普通異母兄弟、異父兄弟だったりで初対面だと兄妹だとしてもどうして他人に思えてしまうはずだ。

それを劉麟は俺達には特に同じ血が流れているわけでもないのに俺のことを最初から家族のように思っているというのだ。

 

「そうだよ。

だって、宗嗣は六太と同じように麒麟の気配である金の光がはっきりと見えるんだから。」

 

六太というのはどうやら延麒のことのようだ。

前に一度女仙の誰かが蓬山に延麒が遊びに来たのだと言っていたのを覚えている。

 

「麒麟の気配?

俺には何も見えないけど。」

 

「それも六太が峯麒に言ってたな。

力が解放されていなかったら見えないんだって。」

 

麒麟の気配か・・・

俺が麒麟であるということは理解している。

しかし、実感できないのだ。

もしかしたら実感したくないのかもしれないが、とにかく俺自身が麒麟であるという実感が全くない。

 

「劉麟は王を選ぶことについてどう思っているんだ?」

 

不意に聞きたくなって宗嗣は尋ねてみた。

 

「どうってどんな人が私の王様になるのか不安だね。」

 

「王にその後の人生を決められるのは嫌じゃないか?」

 

「ん?よく分からないな。王様を選んだら後は王様を助ければいいんだよね。」

 

・・・やはり俺が胎果だからだろうか。

蓬山で育った麒麟は王を選んで尽くすことが当たり前なのだろう。

・・・延麒や泰麒、峯麒は分かるだろうか。

 

一度それを問うてみたい。

 

「あっ!宗嗣、そろそろ昼食の時間だよ。」

 

劉麟はそういうが恐らくここは露茜宮まで少し遠いような気がする。

そう思ってそれを劉麟に言おうとしたら、劉麟はいつの間にか麒麟の姿に転変していた。

さっきまで来ていた衣服は地面に落ちており、初めて見たその姿はビールの麒麟というよりも鹿のような感じに近かった。

 

「宗嗣?早く行くよ?」

 

いつの間にか麒麟に転変していた劉麟に驚いていた宗嗣だったが劉麟は容赦なく宗嗣をせかす。

 

「はあ、分かった。爍繃。」

 

宗嗣が呼びかけると大きな獅子のような姿をした爍繃が宗嗣の影から出てきた。

 

宗嗣はそのまま爍繃に跨ると劉麟はその麒麟の姿で駆け出し、それを爍繃は追った。

 

二人の女怪はそれに追従する。

 

やはり、蓬山育ちの麒麟と蓬莱育ちの麒麟は違うのだろうかと宗嗣は爍繃にの背に跨りながら思いっていたが、この宗嗣と劉麟のありようは傍から見ればまるでお転婆な妹にいいようにされるもののそれを許容する兄といったように見えたことだろう。

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