塙麒放浪記(仮)   作:カラミナト

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日常

宗嗣が蓬蘆宮へと入ってから一週間ほど後の柳国の今回の昇山者たちがほとんどが揃ったところで劉麟は蓬蘆宮を出て甫渡宮へと向かい昇山者たちと面会するようになった。

 

今回は宗嗣は関係ないし、わざわざ余計に衆目を浴びてまで鄭楽に合いに行こうとも思わなかったので宗嗣は一人蓬蘆宮の露茜宮にいた。

 

劉麟が甫渡宮へと向かう前までは随分といろんな所に連れまわされて少々疲れていたのだ。

まあ、どうせやることもなくて暇だったし、この奇岩の迷宮ともいえる蓬蘆宮に慣れるにはちょうど良かったので宗嗣は特に文句を言うでもなく劉麟に連れまわされるままになったのだが。

 

昇山者に面会する劉麟は流石はもう三年目とあって随分と慣れた様子であった。

 

宗嗣は食事をするときは最初のあの朝食の時から自分の宮である露茜宮で劉麟と一緒に食事をしているのだ。

劉麟の住まう宮は紫蓮宮といって別の場所なのだが一緒に食事をすることに関しても宗嗣は特に反対というわけではない。

というよりも賛成だと思っている。

露茜宮自体がそうなのだが食事をする場所も酷く開放的で広いのだ。

 

こんなところでは一人で食べようなどとは思わない。

劉麟もだからこそなのか毎度わざわざ露茜宮に現れて今日の昇山者たちのことなどといった雑談をしながら毎日食事をしている。

 

今回の昇山者の中には王はいなかった。

まあ、この結果について宗嗣は劉麟には悪いが少しほっとした。

ただでさえつい最近この蓬蘆宮にやってきたというのに同じ麒麟という仲間ともいえる劉麟が早々にいなくなってしまうのは困るところであった。

 

まあ、理由としては寂しいとかそういうわけでなくて女仙たちの愛情が宗嗣には少し重かったからというのがある。

この蓬蘆宮ではまさに無償の愛に似たようなものを他人である女仙たちに与えられるのだ。

蓬山育ちでまさに深窓の令嬢である劉麟は昔からそうだから違和感も何もないだろうが高校生である宗嗣には他人にそこまでしてもらうのは気が引けているのである。

 

これが一、二年後とかだったらここでの生活にも慣れるだろうからいいだろうけれども、宗嗣は今はまだ相手をしていて自然体でいられる劉麟には残っていて欲しかったのである。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

宗嗣はこの蓬蘆宮の露茜宮に住み始めてから毎朝をズボン状の灰色の袴に白の衫、黒の腰までの長さの袍という動きやすい服装で素振りの鍛錬に充てている。

素振りに使っている木刀は黄海の海辺に倒れていたころから持っているものだ。

意識を失った後に鄭楽が辺りに散らばっていた道具をすべてまとめて黄朱の里に持って行ってくれたおかげで今この露茜宮にはには木刀と貴重品である時計や携帯、更にはここでは使えない日本のお金の入った、しかし物持ちのいい財布だけは持ってきているのだ。

 

まあ、教科書とか制服とかは珍しいものだからと外の巧国の巽まで売りに行ったためない。

その代わりに今、財布には人がこの世界で一年は過ごしていけるだけの金子が入っている。

 

まあ、麒麟であることが分かった今となってはほとんどはした金のようなものだろうけど。

 

というわけで、宗嗣は毎朝木刀を振っていたのがだが、これが女仙たちには非常に評判が悪かった。

 

曰く、麒麟が木製とは言え剣を振るうべきでない。

曰く、麒麟が戦うための鍛錬をする必要はない。

曰く、御身は剣ではなく使令である徠河と爍繃が守ってくれるのだ。

 

などなど、過保護な女仙たちがいろいろと言ってきたが宗嗣は、

 

「これは鍛錬ではなく娯楽であり、運動であり、暇つぶしなのだ。」

 

と強く訴えたことでどうにかしぶしぶ引いてくれた。

事実、宗嗣はこの素振りを単なるスポーツに一環だという風にしか思っていない。

 

今まで黄朱の里では、自分の身を守れるだけ無理を押し通して強くなろうと必死に鄭楽と稽古に励んでいたが、今は自分の身を守ってくれる徠河と爍繃がいるのだ。

自ら血を浴びる必要がなくなったので現在のこの素振りは黄朱の里にいた頃に習慣づいていたからというのと娯楽のためなのだ。

 

宗嗣はこの蓬蘆宮では一人の時は基本的に外の世界の情報を学ぶことに使っている。

例えば宗嗣の世話役である樟崋にこの世界の創世神話から現在までの歴史や日本にはなかった里木や野木といった存在や各国の地理や情勢などを簡単に口頭で教えてもらった。

 

この蓬蘆宮には書物がありはするようなのだがその文字が全く分からなかったから口頭で教えてもらったのだ。

 

ここで気付いたことなのだが、この世界の言語と日本や中国の言語は全くの別物なのだという。

宗嗣がここに漂着したときはここの人間である鄭楽と普通に話すことが出来たのだが、これは宗嗣が麒麟だからこの世界の言葉を翻訳されて理解し、話すことが出来たのだという。

 

しかし、これは聞き話すことに限ったことであり、書くことに関しては適用されなかった。

そのため、宗嗣は樟崋を代表に女仙たちに文字の勉強を見てほしいと頼んだのだ。

今はどうにかこの蓬蘆宮にある書籍類が読めるように努力をしている。

 

劉麟とは昇山者たちがこの蓬山を去ってから一緒に黄海に降りて黄海の散策や妖魔の折伏に行くようになった。

これは宗嗣が爍繃を折伏していたから出来ていたことであり、していなかったら宗嗣は麒麟に転変することも叶わないのだから過保護な女仙たちは決して許してくれなかったように思う。

 

宗嗣と劉麟はピクニック感覚で東西南北の黄海に互いの使令に乗って散策に行った。

 

そこで劉麟もだが宗嗣は新しい妖魔を一匹だけだが折伏した。

 

名前は烈魁。種族はゴウエツという四本角の黒毛の牛だ。

 

爍繃もこの黄海散策で非常に役に立ってくれた。

その活躍は流石は竜生九子のサン猊といったところだろう。

 

そんなこんなで劉麟と過ごした蓬蘆宮での暮らしはあっという間に冬至、昇山者がやってくる季節になった。

 

玉葉様から聞いた限りだと今回は巧国にとって20年以上も待ちに待った昇山だからと柳北国からの昇山者は見送ることになったのだという。

 

まともに王を決める覚悟が出来ないままに冬至は刻一刻と近づいてきた。

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